報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「堕ちた執事」

2015-06-20 19:57:50 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月15日09:00.天候:曇 敷島エージェンシー 敷島孝夫&井辺翔太]

 敷島はさいたま市に住んでいるが、事務所の近くにマンスリーマンションを借りて、そこで単身赴任をしている。
 アリスからは浮気防止の為、シンディを送り込んで監視させている。
「おはよーっす」
「おはようございます」
 敷島が出勤してくると、既に事務室に井辺と一海がいた。
「井辺君、平日は何かあるのか?」
「今日は……特段無いですね。いつもの通り、MEGAbyteの売り込みに向かうだけです」
「昨日、一昨日の土日、休み無かったんだから、代休取ってもいいんだよ」
「社長も働いているのに、私だけ休むわけには参りませんよ」
「いや、俺の場合は別の仕事が入ってただけだから……。今日もなんだけどね」
「その、社長の『もう1つのお仕事』に関わると思われるメールが昨夜入ってまして……」
「え?なに?」
「これなんですが……」
 敷島は井辺が指し示したPCの画面を覗き込んだ。
「“ショーン”?何だこれ?映画かドラマの制作会社からのメールか?」
「いえ、違うと思います。フツーに、テロ組織からのメールかと」
「何でそんなもんが井辺君のPCに来るんだ?」
「分かりません。ただ、私の名刺にはそのアドレスが記載されてはいますが……。プロデューサーとして、色々な人に名刺をお配りしたので……」
「8号機だけじゃないって、どういうこと?」
 シンディも右手を腰にやりながら眉を潜めた。
「3号機のアタシならここにいるけど?」
「いや、1号機(のエミリー)と3号機のお前はいいんだ。額面通りに読めば十条の爺さん、7号機のレイチェルとやらを再稼働させてるみたいだな」
 画面をスクロールさせると、7号機のレイチェルの言葉が出て来る。
「レイチェルが……動いてる?」
 シンディは左手を口にやって、信じられないという顔をした。
「7号機まで製造されていることが確認されているから、このレイチェルとやらはお前の同型・姉妹機でいいんだな?」
「そのはずだけど……」
 人間であれば顔面蒼白といった感じなのだろうか。
 下位のロボット達から鬼のように恐れられるシンディが、そんな顔をするとは……。
「“ショーン”とやらは、7号機のレイチェルの仲間らしいな。全く意味が分からん」
「どうしますか、社長?」
「8号機が逃げたとされる千葉県の警察署を見に行こうと思っていたけども、まずは警視庁に行ってみることにする。このメールについて、情報提供してあげよう。地方県警は頼りないが、警視庁なら大丈夫だろう。多分」
「あの鷲田警視と村中課長って一体……?」
「“相棒”の特命係みたいなもんだよ。でも、ちゃんとした地位のある、テロ対策の部署だけどね。じゃあ、ちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「私も営業回りをしてこようと思います」
「井辺君は休んでても大丈夫だよ。ミク達は自分でスケジュール管理ができるし、MEGAbyteの3人も今日のところは調整でもいいし」
「いえ。私はこう見えても、体力には自信がありますので」
「そうかい?まあ、無理しないようにね」
「ドクター平賀もひ弱な理系のように見えて、結構体力があるよね?」
「生まれつきなんだか知らないが、意外と筋肉質だよ、あの人は……。七海の海水耐久実験の時の映像、確かにまだ20代だったとはいえ、筋肉質な上半身が映っていたよ」
 そんなことを話しながら、敷島とシンディは事務所を出て行った。
 今のシンディは、敷島の秘書兼護衛である。

[同日11:00.敷島エージェンシー 初音ミク&一海]

「ただいま帰りましたぁ」
「お帰りなさい、ミクちゃん」
 ミクが仕事から帰って来た。
「新しいCDジャケの撮影だったんだよね?」
 事務用ロイドの一海が出迎える。
「はい。カバー曲ですが、またCDを出せて嬉しいです」
「そうね」
 ちょこんと椅子に座るミク。
 そこへインターホンが鳴った。
「あら、どちら様かしら?」
 一海がインターホンの受話器を取った。
「はい、敷島エージェンシーです」
 モニタに映し出されたのは、黒っぽいスーツを着た男。
 前髪で隠れて顔はよく見えないが、眼鏡は掛けているのが分かる。
{「プロデューサーの井辺翔太さんにお会いしたいのですが……」}
「どちら様ですか?当社ではお約束の無い方とは基本的に……」
{「敷島社長も御不在ですね?」}
「はい。そうですが……」
{「それではお伝えください。私の名はキール・ブルー。『十条博士より、井辺プロデューサーにヘッドハントが掛かった』と」}
「えっ?ええーっ!?」
 一海が驚いてフリーズしかける。
 ミクが急いで窓に駆け寄った。
 開けると突然、
「きゃっ!」
 光線銃のようなものを放たれた。
 ミクは持ち前の素早さで避けたが、特徴的な長いツインテールの右側に当たった。
「ミク先輩、どうしました!?」
 奥からMEGAbyteの3人がやってくる。
「!?」
 未夢が窓の外に目をやると、黒い車が走り去って行ったのが分かった。
「ミク先輩!」
「わ、わたしは大丈夫……」
 Lilyがミクに手を貸して起こす。
「……って、自慢のツインテールが焦げてるじゃないですか!」
「ど、どうしよう……!これから……テレビに出ないといけないのに……!」

[同日同時間帯 警視庁庁舎内、いわゆる特命係みたいな所 敷島孝夫、シンディ、鷲田警視、村中課長]

「はあ、何だって!?事務所にキールが!?」
{「ミクちゃんを狙って撃って来たんです!何か……光線銃みたいなものを……!」}
 敷島は一海から電話を受けていた。
「そ、それで、ミクは!?」
{「ツインテールの右側が焦げてしまって、アリス博士には連絡したんですけど、新しい髪を用意しないといけないので、テレビ出演は……どうしましょう?」}
「確かその時間、ルカが空いてたな?ルカを代わりに行かせよう。それと、懇意にしている週刊誌の記者さんにも伝えておくんだ。ミクには申し訳無いが、テロの卑劣さを世間に更に訴えるんだ」
{「は、はい」}
「あのクソ野郎……!ミクに何てことを……!」
 シンディは右手に拳を作った。
 キールには自分が攻撃されたことと、オーナーであるアリスに軽傷を負わせたという恨みもある。
 姉のエミリーが好きな男だというのは知っているが、さすがに会ったら容赦はできないなと思っていたが……。
「敷島社長、ちょっと事務所にお邪魔してもよろしいですかな?」
「えっ?」
「その事務所のインターホン、録画機能が付いていますな?それと、ビルのエントランスと周辺にカメラが設置されていれば、それも解析させて頂きましょう。車のナンバーから、何か割り出せるかもしれませんからな」
 と、鷲田警視が言った。
「分かりました」
 敷島は椅子から立ち上がった。
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“新アンドロイドマスター” 「で、実際に入り込んだマルチタイプの数は?」

2015-06-20 10:59:27 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月14日19:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区・某ライブハウス 敷島孝夫、井辺翔太、シンディ、結月ゆかり、Lily、未夢]

「ありがとうございましたーっ!」
「ありがとうございました!」
「MEGAbyte、これからもよろしくお願いしまーす!」
 小さいライブハウスだから、集客数もそれなりだった。
 だが、少なくともその少ない観客達は盛り上がってくれたことは明白だった。
 バックに戻るMEGAbyteをスタッフ達や井辺が出迎える。
「ご苦労さまでした。いいステージでした。これからもこの調子で頑張ってください」
「はい!」
 純正ボーカロイドのLilyとゆかりが氷嚢を受け取って体を冷やす中、マルチタイプからの改造機である未夢は氷を使わない。
 その未夢が、
「何か、外が慌ただしいようですが……」
「ええ。社長の『もう1つのお仕事』の関係で、急に忙しくなったようです」
「ええっ!?」
「しかし、あなた達は何も心配することはありません。社長やシンディさんにお任せして、帰る仕度をしてください」
「は、はい」

 その頃、ライブハウスの裏口では……。
{「ええ、今NHKのニュースでも流れています。番組内容を変更してやってるくらいの騒ぎですね」}
 敷島は平賀と連絡を取っていた。
{「警察署の庁舎に、大きな穴が開いています。……あーあ、それで留置場も破壊されたから、婦女暴行連続殺人犯と捕まえたテロリスト達が脱走してまだ捕まっていないらしいですね」}
「だからサツじゃなくて、最初からうちで扱いや良かったんだよ、全く!」
{「だったら財団、もう1度結成しますか?敷島さんの事務所の稼ぎで、設立できるかもです」}
「平賀先生の顔利かして、学界のお偉いさんを顧問に据えてですか?それもいいかもしれませんねぇ……」}
 財団が解散してしまったのは、幹部達のテロ組織に対する癒着と、そもそも最高顧問たる十条自身があれだったからである。
 大風呂敷広げて旗揚げしたはいいが、新設組織なだけに悪の組織が入り込み易かったのだろう。
「そんな簡単に財団が立ち上がるわけないでしょう?カネがあった所で、どうせ……」
 そこへ、シンディの通信が割り込んでくる。
{「そんなことより、待てど暮らせど8号機ちゃんが来ないんだけど、社長の予測合ってるの?」}
「そう?……こっちに来ると思ったんだけどなぁ……」
{「一応、仙台まで飛んで来るかもしれないってことで、こっちでもエミリーに警戒させていますが、まだ来ていませんねー」}
 と、平賀。
「そうですか。しかし、警戒は怠らない方がいいですね」
 敷島は電話を切った。
(財団、再結成ねぇ……。むしろ霞ケ関回り、そっちに重点置いてみるか?積極的な所があるかも……)
「社長!」
 そこへ井辺が出て来た。
「おっ、井辺君?」
「彼女達、帰る仕度をしていますので、私は車を回して来ます」
「おう、お疲れさん。俺は家に戻って、また明日会社に行くよ」
「分かりました。私は彼女達の今後のスケジュースの調整をしますので」
「ああ。まだ主に、こういうライブハウス回りが中心になるのかな?」
「そうですね。東京都心ではなく、周辺の町が多いです」
「まあ、売り出したばかりはそんなもんさ。さいたま市の他には?」
「千葉や神奈川も入っています。あと、都内であっても、調布や八王子とかですね」
「そうか。まあ、仕事があるだけでもいいことだ。おんぶにだっこのようでアレだけども、やっぱりきっかけはミクのライブにバックで出たということだろうからね」
「はい」
「こりゃ、期待が持てるね」
「そうですね」

[同日21:00.同じさいたま市内 敷島宅 敷島孝夫&アリス]

 ニュースで段々と概要が明らかになってきた。
 暴れ出したのは、一緒に船から押収したバージョン・シリーズ。
 それが8号機を助け出すようにして行動したとのことだ。
「バージョン連中なら警察署全壊させた上、周辺地域も焦土にしそうな感じだけども、あくまで8号機の救出が優先だったか」
「バージョン・シリーズも遠隔で操作できるって、ケーサツは知らなかったのかな?」
「知らんね。とにかく明日、現地へ行ってみるよ」
「そう?じゃあ、お土産にぬれ煎餅買ってきてー?」
「銚子電鉄名物の?……って、現地は銚子じゃないし」
「違うの?」
「ニュース、ちゃんと見てろよ。千葉は千葉でも、だいぶ東京に近い方だぞ」
「何でそこに?」
「県警本部に、あんな危ないモン置いとけないし、いざなったら警視庁にすぐ引き渡せるようにする為じゃないか?」
「セコっ!」

[同日同時間帯 敷島エージェンシー 井辺翔太、結月ゆかり、Lily、未夢]

 無事に事務所に帰って来たMEGAbyteの面々。
「お疲れさまでした。バッテリーの交換の後は、体を休めてください」
「はい!」
 ボーカロイド達が奥の部屋に行っている間、井辺は事務室で残務整理。
 一海が事務所に残っていた。
「プロデューサーさん、社長は明日から出社ですか?」
「そのようです。先ほどメールがありまして、ここに顔を出された後、また『もう1つの仕事』の方が入ってるようです」
「本当に大変ですね。早く、社長もボーカロイドのコ達の仕事に専念できるといいですね」
「はい、そう思います」
 PCメールをチェックしていた井辺だったが、変わったメールが届いていた。
 ウィルスメールではない。……はずだが、何が書かれていたのかというと、
『コードネーム“ショーン”へ!8号機だけじゃないからな!』
 と、書かれていた。
「!?」
 そこへ、事務所内に流れるホラーゲーム“バイオハザード アウトブレイク”のオープニングテーマ。
『“ショーン”お前は逃げられない。正義面していても、所詮はテロリストの一味。オレンジスター・シティの悲劇を忘れるな!7号機のレイチェルは、お前を必要としている。今度は日本が舞台だ。お前は……』
「あの!BGMは止めて頂けませんか?」
「ふえ?」
「あ、ごめんなさい」
 井辺がツッコミを入れた先には、リンとレンが携帯音楽プレイヤーにスピーカーを繋いでいた。
「いや〜、こういう演出もアリかなーって」
 と、リンはいたずらっぽく笑った。
「でもプロデューサー、随分と汗かかれてますよ?暑いですか?」
 と、レン。
「あ、いや。変なメールが来ていたので、少し緊張しただけです」
「変なメール?」
「これは明日、社長が来たらお見せします。それまでは封印です」
 井辺はノートPCを閉じた。
「私も帰る仕度をしてきます」
「お疲れさまですー」
 井辺が事務室から出た後で、
「変なメールって何だろーね?」
「テロ組織から、ライブの依頼だったりして」
 2人で顔を見合わせて笑う鏡音姉弟。
 レンの答えが、当たらずも遠からずだった。
コメント (10)
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