[6月15日09:00.天候:曇 敷島エージェンシー 敷島孝夫&井辺翔太]
敷島はさいたま市に住んでいるが、事務所の近くにマンスリーマンションを借りて、そこで単身赴任をしている。
アリスからは浮気防止の為、シンディを送り込んで監視させている。
「おはよーっす」
「おはようございます」
敷島が出勤してくると、既に事務室に井辺と一海がいた。
「井辺君、平日は何かあるのか?」
「今日は……特段無いですね。いつもの通り、MEGAbyteの売り込みに向かうだけです」
「昨日、一昨日の土日、休み無かったんだから、代休取ってもいいんだよ」
「社長も働いているのに、私だけ休むわけには参りませんよ」
「いや、俺の場合は別の仕事が入ってただけだから……。今日もなんだけどね」
「その、社長の『もう1つのお仕事』に関わると思われるメールが昨夜入ってまして……」
「え?なに?」
「これなんですが……」
敷島は井辺が指し示したPCの画面を覗き込んだ。
「“ショーン”?何だこれ?映画かドラマの制作会社からのメールか?」
「いえ、違うと思います。フツーに、テロ組織からのメールかと」
「何でそんなもんが井辺君のPCに来るんだ?」
「分かりません。ただ、私の名刺にはそのアドレスが記載されてはいますが……。プロデューサーとして、色々な人に名刺をお配りしたので……」
「8号機だけじゃないって、どういうこと?」
シンディも右手を腰にやりながら眉を潜めた。
「3号機のアタシならここにいるけど?」
「いや、1号機(のエミリー)と3号機のお前はいいんだ。額面通りに読めば十条の爺さん、7号機のレイチェルとやらを再稼働させてるみたいだな」
画面をスクロールさせると、7号機のレイチェルの言葉が出て来る。
「レイチェルが……動いてる?」
シンディは左手を口にやって、信じられないという顔をした。
「7号機まで製造されていることが確認されているから、このレイチェルとやらはお前の同型・姉妹機でいいんだな?」
「そのはずだけど……」
人間であれば顔面蒼白といった感じなのだろうか。
下位のロボット達から鬼のように恐れられるシンディが、そんな顔をするとは……。
「“ショーン”とやらは、7号機のレイチェルの仲間らしいな。全く意味が分からん」
「どうしますか、社長?」
「8号機が逃げたとされる千葉県の警察署を見に行こうと思っていたけども、まずは警視庁に行ってみることにする。このメールについて、情報提供してあげよう。地方県警は頼りないが、警視庁なら大丈夫だろう。多分」
「あの鷲田警視と村中課長って一体……?」
「“相棒”の特命係みたいなもんだよ。でも、ちゃんとした地位のある、テロ対策の部署だけどね。じゃあ、ちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「私も営業回りをしてこようと思います」
「井辺君は休んでても大丈夫だよ。ミク達は自分でスケジュール管理ができるし、MEGAbyteの3人も今日のところは調整でもいいし」
「いえ。私はこう見えても、体力には自信がありますので」
「そうかい?まあ、無理しないようにね」
「ドクター平賀もひ弱な理系のように見えて、結構体力があるよね?」
「生まれつきなんだか知らないが、意外と筋肉質だよ、あの人は……。七海の海水耐久実験の時の映像、確かにまだ20代だったとはいえ、筋肉質な上半身が映っていたよ」
そんなことを話しながら、敷島とシンディは事務所を出て行った。
今のシンディは、敷島の秘書兼護衛である。
[同日11:00.敷島エージェンシー 初音ミク&一海]
「ただいま帰りましたぁ」
「お帰りなさい、ミクちゃん」
ミクが仕事から帰って来た。
「新しいCDジャケの撮影だったんだよね?」
事務用ロイドの一海が出迎える。
「はい。カバー曲ですが、またCDを出せて嬉しいです」
「そうね」
ちょこんと椅子に座るミク。
そこへインターホンが鳴った。
「あら、どちら様かしら?」
一海がインターホンの受話器を取った。
「はい、敷島エージェンシーです」
モニタに映し出されたのは、黒っぽいスーツを着た男。
前髪で隠れて顔はよく見えないが、眼鏡は掛けているのが分かる。
{「プロデューサーの井辺翔太さんにお会いしたいのですが……」}
「どちら様ですか?当社ではお約束の無い方とは基本的に……」
{「敷島社長も御不在ですね?」}
「はい。そうですが……」
{「それではお伝えください。私の名はキール・ブルー。『十条博士より、井辺プロデューサーにヘッドハントが掛かった』と」}
「えっ?ええーっ!?」
一海が驚いてフリーズしかける。
ミクが急いで窓に駆け寄った。
開けると突然、
「きゃっ!」
光線銃のようなものを放たれた。
ミクは持ち前の素早さで避けたが、特徴的な長いツインテールの右側に当たった。
「ミク先輩、どうしました!?」
奥からMEGAbyteの3人がやってくる。
「!?」
未夢が窓の外に目をやると、黒い車が走り去って行ったのが分かった。
「ミク先輩!」
「わ、わたしは大丈夫……」
Lilyがミクに手を貸して起こす。
「……って、自慢のツインテールが焦げてるじゃないですか!」
「ど、どうしよう……!これから……テレビに出ないといけないのに……!」
[同日同時間帯 警視庁庁舎内、いわゆる特命係みたいな所 敷島孝夫、シンディ、鷲田警視、村中課長]
「はあ、何だって!?事務所にキールが!?」
{「ミクちゃんを狙って撃って来たんです!何か……光線銃みたいなものを……!」}
敷島は一海から電話を受けていた。
「そ、それで、ミクは!?」
{「ツインテールの右側が焦げてしまって、アリス博士には連絡したんですけど、新しい髪を用意しないといけないので、テレビ出演は……どうしましょう?」}
「確かその時間、ルカが空いてたな?ルカを代わりに行かせよう。それと、懇意にしている週刊誌の記者さんにも伝えておくんだ。ミクには申し訳無いが、テロの卑劣さを世間に更に訴えるんだ」
{「は、はい」}
「あのクソ野郎……!ミクに何てことを……!」
シンディは右手に拳を作った。
キールには自分が攻撃されたことと、オーナーであるアリスに軽傷を負わせたという恨みもある。
姉のエミリーが好きな男だというのは知っているが、さすがに会ったら容赦はできないなと思っていたが……。
「敷島社長、ちょっと事務所にお邪魔してもよろしいですかな?」
「えっ?」
「その事務所のインターホン、録画機能が付いていますな?それと、ビルのエントランスと周辺にカメラが設置されていれば、それも解析させて頂きましょう。車のナンバーから、何か割り出せるかもしれませんからな」
と、鷲田警視が言った。
「分かりました」
敷島は椅子から立ち上がった。
敷島はさいたま市に住んでいるが、事務所の近くにマンスリーマンションを借りて、そこで単身赴任をしている。
アリスからは浮気防止の為、シンディを送り込んで監視させている。
「おはよーっす」
「おはようございます」
敷島が出勤してくると、既に事務室に井辺と一海がいた。
「井辺君、平日は何かあるのか?」
「今日は……特段無いですね。いつもの通り、MEGAbyteの売り込みに向かうだけです」
「昨日、一昨日の土日、休み無かったんだから、代休取ってもいいんだよ」
「社長も働いているのに、私だけ休むわけには参りませんよ」
「いや、俺の場合は別の仕事が入ってただけだから……。今日もなんだけどね」
「その、社長の『もう1つのお仕事』に関わると思われるメールが昨夜入ってまして……」
「え?なに?」
「これなんですが……」
敷島は井辺が指し示したPCの画面を覗き込んだ。
「“ショーン”?何だこれ?映画かドラマの制作会社からのメールか?」
「いえ、違うと思います。フツーに、テロ組織からのメールかと」
「何でそんなもんが井辺君のPCに来るんだ?」
「分かりません。ただ、私の名刺にはそのアドレスが記載されてはいますが……。プロデューサーとして、色々な人に名刺をお配りしたので……」
「8号機だけじゃないって、どういうこと?」
シンディも右手を腰にやりながら眉を潜めた。
「3号機のアタシならここにいるけど?」
「いや、1号機(のエミリー)と3号機のお前はいいんだ。額面通りに読めば十条の爺さん、7号機のレイチェルとやらを再稼働させてるみたいだな」
画面をスクロールさせると、7号機のレイチェルの言葉が出て来る。
「レイチェルが……動いてる?」
シンディは左手を口にやって、信じられないという顔をした。
「7号機まで製造されていることが確認されているから、このレイチェルとやらはお前の同型・姉妹機でいいんだな?」
「そのはずだけど……」
人間であれば顔面蒼白といった感じなのだろうか。
下位のロボット達から鬼のように恐れられるシンディが、そんな顔をするとは……。
「“ショーン”とやらは、7号機のレイチェルの仲間らしいな。全く意味が分からん」
「どうしますか、社長?」
「8号機が逃げたとされる千葉県の警察署を見に行こうと思っていたけども、まずは警視庁に行ってみることにする。このメールについて、情報提供してあげよう。地方県警は頼りないが、警視庁なら大丈夫だろう。多分」
「あの鷲田警視と村中課長って一体……?」
「“相棒”の特命係みたいなもんだよ。でも、ちゃんとした地位のある、テロ対策の部署だけどね。じゃあ、ちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「私も営業回りをしてこようと思います」
「井辺君は休んでても大丈夫だよ。ミク達は自分でスケジュール管理ができるし、MEGAbyteの3人も今日のところは調整でもいいし」
「いえ。私はこう見えても、体力には自信がありますので」
「そうかい?まあ、無理しないようにね」
「ドクター平賀もひ弱な理系のように見えて、結構体力があるよね?」
「生まれつきなんだか知らないが、意外と筋肉質だよ、あの人は……。七海の海水耐久実験の時の映像、確かにまだ20代だったとはいえ、筋肉質な上半身が映っていたよ」
そんなことを話しながら、敷島とシンディは事務所を出て行った。
今のシンディは、敷島の秘書兼護衛である。
[同日11:00.敷島エージェンシー 初音ミク&一海]
「ただいま帰りましたぁ」
「お帰りなさい、ミクちゃん」
ミクが仕事から帰って来た。
「新しいCDジャケの撮影だったんだよね?」
事務用ロイドの一海が出迎える。
「はい。カバー曲ですが、またCDを出せて嬉しいです」
「そうね」
ちょこんと椅子に座るミク。
そこへインターホンが鳴った。
「あら、どちら様かしら?」
一海がインターホンの受話器を取った。
「はい、敷島エージェンシーです」
モニタに映し出されたのは、黒っぽいスーツを着た男。
前髪で隠れて顔はよく見えないが、眼鏡は掛けているのが分かる。
{「プロデューサーの井辺翔太さんにお会いしたいのですが……」}
「どちら様ですか?当社ではお約束の無い方とは基本的に……」
{「敷島社長も御不在ですね?」}
「はい。そうですが……」
{「それではお伝えください。私の名はキール・ブルー。『十条博士より、井辺プロデューサーにヘッドハントが掛かった』と」}
「えっ?ええーっ!?」
一海が驚いてフリーズしかける。
ミクが急いで窓に駆け寄った。
開けると突然、
「きゃっ!」
光線銃のようなものを放たれた。
ミクは持ち前の素早さで避けたが、特徴的な長いツインテールの右側に当たった。
「ミク先輩、どうしました!?」
奥からMEGAbyteの3人がやってくる。
「!?」
未夢が窓の外に目をやると、黒い車が走り去って行ったのが分かった。
「ミク先輩!」
「わ、わたしは大丈夫……」
Lilyがミクに手を貸して起こす。
「……って、自慢のツインテールが焦げてるじゃないですか!」
「ど、どうしよう……!これから……テレビに出ないといけないのに……!」
[同日同時間帯 警視庁庁舎内、いわゆる特命係みたいな所 敷島孝夫、シンディ、鷲田警視、村中課長]
「はあ、何だって!?事務所にキールが!?」
{「ミクちゃんを狙って撃って来たんです!何か……光線銃みたいなものを……!」}
敷島は一海から電話を受けていた。
「そ、それで、ミクは!?」
{「ツインテールの右側が焦げてしまって、アリス博士には連絡したんですけど、新しい髪を用意しないといけないので、テレビ出演は……どうしましょう?」}
「確かその時間、ルカが空いてたな?ルカを代わりに行かせよう。それと、懇意にしている週刊誌の記者さんにも伝えておくんだ。ミクには申し訳無いが、テロの卑劣さを世間に更に訴えるんだ」
{「は、はい」}
「あのクソ野郎……!ミクに何てことを……!」
シンディは右手に拳を作った。
キールには自分が攻撃されたことと、オーナーであるアリスに軽傷を負わせたという恨みもある。
姉のエミリーが好きな男だというのは知っているが、さすがに会ったら容赦はできないなと思っていたが……。
「敷島社長、ちょっと事務所にお邪魔してもよろしいですかな?」
「えっ?」
「その事務所のインターホン、録画機能が付いていますな?それと、ビルのエントランスと周辺にカメラが設置されていれば、それも解析させて頂きましょう。車のナンバーから、何か割り出せるかもしれませんからな」
と、鷲田警視が言った。
「分かりました」
敷島は椅子から立ち上がった。