[2月28日18:15.天候:晴 東京都内某所・とあるライブハウス 3号機のシンディ、初音ミク、井辺翔太]
初音ミク:「……いつまでも待ってるから♪私だけの王子様ー♪」
今日はミクのソロライブが行われている。
ボーカロイドの中でもトップアイドルを誇るミクは、1曲歌い終わる事に大歓声が沸き起こる。
ただ、ボーカロイドならではの悩みもあった。
それは精密機械の塊であるが故、熱は大敵である。
その為、ダンサブルな曲の後は体の冷却が必要になるので、連続での歌唱ができないというものだった。
とはいうものの、技術開発部門も手をこまねいてるわけではなく、今では連続歌唱は無理でも、いちいち舞台裏に引っ込んで冷却する必要は無く、トークで繋ぐなどして、その間、冷やすということが可能になった。
ミク:「皆さーん、こんばんはー!改めまして、今日はわたしのライブに来て頂いてありがとうございまーす!今日は……」
舞台裏ではライブに付き添っている井辺と、護衛のシンディがいた。
シンディ:「さすがはミクだね。これだけ売れれば十分なんじゃない?」
井辺:「初音さんは社長が最初に手掛けたボーカロイドです。当然ですよ」
シンディの言葉に井辺は大きく頷いた。
井辺:「ボーカロイドの人気は確立されました。証拠に今、色々なメーカーからボーカロイドが生産されています。ですが、うちはベテラン勢として常に先を独走するつもりです」
シンディ:「さすがだね」
[同日19:00.同ライブハウス・バックヤード 上記メンバー]
ミク:「今日はありがとうございましたー!わたし、まだまだこれからも頑張りますから、応援よろしくお願いしまーす!」
ミク、ファンの歓声をあとに舞台裏に戻って来る。
井辺:「お疲れさまでした」
ミク:「ありがとうございます!」
シンディ:「ミク、ご苦労様」
ミク:「シンディさん、ありがとうございます」
井辺:「控室に氷とラジエーターを用意してあります。それでまずは体を冷却してください」
ミク:「はい!」
シンディ:「社長には、ミクはよく頑張ったって伝えておくわ」
ミク:「ありがとうございます!」
シンディがまだドクター・ウィリーのロボットだった頃、ボーカロイドは当然ウィリーの目につき、シンディに潰し命令が出されたことがある。
南里研究所(当時)の既に看板アイドルだったミクを破壊すれば手っ取り早いと判断したシンディは、すぐにミクを襲った。
しかしすぐにエミリーの妨害に遭い、悉く失敗した。
そこで小柄な鏡音リンやレンを誘拐したが、やっぱりエミリーの方が1枚上手だった。
シンディ:「今は私がエミリーの代わりだから。昔の私とは違う」
ミク:「ハイ。『鬼軍曹』ですものね」
シンディ:「え?……いや、そんなことはないよ。『鬼軍曹』は、エミリーだよ。とても、あの姉機にガチバトルで勝てる気がしない」
[同日19:30.都内某所の道路 上記メンバー]
井辺運転の車でライブハウスを出る。
出口には出待ちのファンが集っていて、ミクに応援メッセージを向けたりしていた。
助手席にはシンディがいた。
護衛として同乗しているのだから当然の乗車位置であるが、何故か応援メッセージの中にシンディの名前が書かれたものもあったような気がした。
人間なら『気のせい』扱いできるが、ロイドの宿命で、既に自分のメモリーに録画されている。
で、それを井辺がスルーしない。
井辺:「シンディさんも、人気が出てきましたよ」
シンディ:「私は何もしてないし。私はあくまでボーカロイドの護衛だし」
井辺:「私はプロデューサーとして、シンディさんもプロデュースしたいくらいです」
シンディ:「だから用途外だし、そもそも歌えないし」
ミク:「大丈夫ですよ、シンディさん。弱音ハクさんも歌唱機能テストに不合格にはなったそうですが、それ以外のテストには合格しています」
シンディ:「……知ってるよ。それで、今では女優やってるんだろ?」
ミク:「だいぶ前、ミュージカル“悪ノ娘と召使”で共演させてもらったんですけど、ハクさんの演技凄かったです」
井辺:「ええ。人間の女優さんに負けず劣らずでした」
ミュージカルというと、演技をしながら歌も歌う歌劇であるわけだが、歌を歌えない機種はどうするのかというと、やっぱり歌わない。
歌うのはミクなどのボーカロイドで、弱音ハクなどは他のボーカロイドの歌に合わせて踊るだけであった。
ミク:「またわたし、ミュージカルとかやってみたいです」
井辺:「いいと思います。私もその仕事が取れるように頑張りますし、社長にも伝えておきます」
シンディ:「映画の仕事はどうなの?“初音ミクの消失”も、かなり人気が出たよね?」
井辺:「実は今度、ドラマ出演の話は出ているのですよ」
シンディ:「へえ!」
井辺:「ただ、あまりシンディさんの前では話せない内容なのです」
シンディ:「何で?」
井辺:「実はその……社長が大活躍された“東京決戦”をモチーフにしたストーリーなのです」
シンディ:「あー……」
ドクター・ウィリーが都内の高層ビルに潜伏していることを突き止めた敷島達。
しかし、それを感知したウィリーは迎撃態勢を取る。
それはつまり、シンディもまた中ボスとして立ちはだかることを意味していた。
敷島達にとっては、中ボスどころか大ボス並みの力を持ったシンディ。
しかし既にウィルスの実験台にもされていたシンディの人工知能は既に冒され尽くし、最後には敷島の見ている前で、製作者であるウィリーを手持ちの大型ナイフで惨殺するという暴走に至った。
井辺:「あくまで企画です。あれには公安委員会からの待ったが掛かっているので、多少難しいところです」
シンディ:「だろうねぇ……。あ、そうだ、プロデューサー」
井辺:「何でしょう?」
シンディ:「私、来週、社長に同行して東北まで行くんだけど、プロデューサーはどうするの?」
井辺:「私は通常通りの業務をさせて頂きます。ただ、事務所の移転などもありますので、そちらに立ち会うことになるかと」
シンディ:「サーバーがどうのって言ってる場合じゃないよねぇ……」
井辺:「バージョン4.0以前の機種は全て破壊するべきだった、と私は思っています」
シンディ:「だよねぇ……。よく私も姉さんも、あんな使えない連中使ってたと思うよ」
ミク:「あの、わたしも……」
井辺:「はい?」
ミク:「わたしも、使えなくなったら破壊されますか?」
井辺:「心配要りませんよ。初音さんは十分、人間の役に立っています。現に、ファンの人達に夢を与えているではありませんか」
シンディ:「そうだよ。今ここでミクを廃棄処分になんかしたら、ファンの人達がブチギレてプロデューサー、殺されちゃうよ」
シンディは笑みを浮かべた。
だが、
シンディ:(1度は廃棄処分されただけに、私は何か実感あるなぁ……」
とも思ったのだった。
初音ミク:「……いつまでも待ってるから♪私だけの王子様ー♪」
今日はミクのソロライブが行われている。
ボーカロイドの中でもトップアイドルを誇るミクは、1曲歌い終わる事に大歓声が沸き起こる。
ただ、ボーカロイドならではの悩みもあった。
それは精密機械の塊であるが故、熱は大敵である。
その為、ダンサブルな曲の後は体の冷却が必要になるので、連続での歌唱ができないというものだった。
とはいうものの、技術開発部門も手をこまねいてるわけではなく、今では連続歌唱は無理でも、いちいち舞台裏に引っ込んで冷却する必要は無く、トークで繋ぐなどして、その間、冷やすということが可能になった。
ミク:「皆さーん、こんばんはー!改めまして、今日はわたしのライブに来て頂いてありがとうございまーす!今日は……」
舞台裏ではライブに付き添っている井辺と、護衛のシンディがいた。
シンディ:「さすがはミクだね。これだけ売れれば十分なんじゃない?」
井辺:「初音さんは社長が最初に手掛けたボーカロイドです。当然ですよ」
シンディの言葉に井辺は大きく頷いた。
井辺:「ボーカロイドの人気は確立されました。証拠に今、色々なメーカーからボーカロイドが生産されています。ですが、うちはベテラン勢として常に先を独走するつもりです」
シンディ:「さすがだね」
[同日19:00.同ライブハウス・バックヤード 上記メンバー]
ミク:「今日はありがとうございましたー!わたし、まだまだこれからも頑張りますから、応援よろしくお願いしまーす!」
ミク、ファンの歓声をあとに舞台裏に戻って来る。
井辺:「お疲れさまでした」
ミク:「ありがとうございます!」
シンディ:「ミク、ご苦労様」
ミク:「シンディさん、ありがとうございます」
井辺:「控室に氷とラジエーターを用意してあります。それでまずは体を冷却してください」
ミク:「はい!」
シンディ:「社長には、ミクはよく頑張ったって伝えておくわ」
ミク:「ありがとうございます!」
シンディがまだドクター・ウィリーのロボットだった頃、ボーカロイドは当然ウィリーの目につき、シンディに潰し命令が出されたことがある。
南里研究所(当時)の既に看板アイドルだったミクを破壊すれば手っ取り早いと判断したシンディは、すぐにミクを襲った。
しかしすぐにエミリーの妨害に遭い、悉く失敗した。
そこで小柄な鏡音リンやレンを誘拐したが、やっぱりエミリーの方が1枚上手だった。
シンディ:「今は私がエミリーの代わりだから。昔の私とは違う」
ミク:「ハイ。『鬼軍曹』ですものね」
シンディ:「え?……いや、そんなことはないよ。『鬼軍曹』は、エミリーだよ。とても、あの姉機にガチバトルで勝てる気がしない」
[同日19:30.都内某所の道路 上記メンバー]
井辺運転の車でライブハウスを出る。
出口には出待ちのファンが集っていて、ミクに応援メッセージを向けたりしていた。
助手席にはシンディがいた。
護衛として同乗しているのだから当然の乗車位置であるが、何故か応援メッセージの中にシンディの名前が書かれたものもあったような気がした。
人間なら『気のせい』扱いできるが、ロイドの宿命で、既に自分のメモリーに録画されている。
で、それを井辺がスルーしない。
井辺:「シンディさんも、人気が出てきましたよ」
シンディ:「私は何もしてないし。私はあくまでボーカロイドの護衛だし」
井辺:「私はプロデューサーとして、シンディさんもプロデュースしたいくらいです」
シンディ:「だから用途外だし、そもそも歌えないし」
ミク:「大丈夫ですよ、シンディさん。弱音ハクさんも歌唱機能テストに不合格にはなったそうですが、それ以外のテストには合格しています」
シンディ:「……知ってるよ。それで、今では女優やってるんだろ?」
ミク:「だいぶ前、ミュージカル“悪ノ娘と召使”で共演させてもらったんですけど、ハクさんの演技凄かったです」
井辺:「ええ。人間の女優さんに負けず劣らずでした」
ミュージカルというと、演技をしながら歌も歌う歌劇であるわけだが、歌を歌えない機種はどうするのかというと、やっぱり歌わない。
歌うのはミクなどのボーカロイドで、弱音ハクなどは他のボーカロイドの歌に合わせて踊るだけであった。
ミク:「またわたし、ミュージカルとかやってみたいです」
井辺:「いいと思います。私もその仕事が取れるように頑張りますし、社長にも伝えておきます」
シンディ:「映画の仕事はどうなの?“初音ミクの消失”も、かなり人気が出たよね?」
井辺:「実は今度、ドラマ出演の話は出ているのですよ」
シンディ:「へえ!」
井辺:「ただ、あまりシンディさんの前では話せない内容なのです」
シンディ:「何で?」
井辺:「実はその……社長が大活躍された“東京決戦”をモチーフにしたストーリーなのです」
シンディ:「あー……」
ドクター・ウィリーが都内の高層ビルに潜伏していることを突き止めた敷島達。
しかし、それを感知したウィリーは迎撃態勢を取る。
それはつまり、シンディもまた中ボスとして立ちはだかることを意味していた。
敷島達にとっては、中ボスどころか大ボス並みの力を持ったシンディ。
しかし既にウィルスの実験台にもされていたシンディの人工知能は既に冒され尽くし、最後には敷島の見ている前で、製作者であるウィリーを手持ちの大型ナイフで惨殺するという暴走に至った。
井辺:「あくまで企画です。あれには公安委員会からの待ったが掛かっているので、多少難しいところです」
シンディ:「だろうねぇ……。あ、そうだ、プロデューサー」
井辺:「何でしょう?」
シンディ:「私、来週、社長に同行して東北まで行くんだけど、プロデューサーはどうするの?」
井辺:「私は通常通りの業務をさせて頂きます。ただ、事務所の移転などもありますので、そちらに立ち会うことになるかと」
シンディ:「サーバーがどうのって言ってる場合じゃないよねぇ……」
井辺:「バージョン4.0以前の機種は全て破壊するべきだった、と私は思っています」
シンディ:「だよねぇ……。よく私も姉さんも、あんな使えない連中使ってたと思うよ」
ミク:「あの、わたしも……」
井辺:「はい?」
ミク:「わたしも、使えなくなったら破壊されますか?」
井辺:「心配要りませんよ。初音さんは十分、人間の役に立っています。現に、ファンの人達に夢を与えているではありませんか」
シンディ:「そうだよ。今ここでミクを廃棄処分になんかしたら、ファンの人達がブチギレてプロデューサー、殺されちゃうよ」
シンディは笑みを浮かべた。
だが、
シンディ:(1度は廃棄処分されただけに、私は何か実感あるなぁ……」
とも思ったのだった。