[2月26日20:45.天候:晴 JR上野駅・低いホーム 3号機のシンディ&敷島孝夫]
〔「13番線、お下がりください。20時50分、当駅始発の高崎線普通列車、籠原行きが長い15両編成で参ります。黄色い線まで、お下がりください」〕
下り方向から行き止まりのホームに向かって、E231系電車が入線してくる。
眩いHIDヘッドランプを照らしてやってくるのを見たシンディは、
敷島:「対抗しなくていいから!」
シンディ:「はーい」(自分もまた両目をハイビームに光らせた)
〔「業務連絡、13番857M、準備できましたら、ドア操作願います」〕
入線してきた中距離電車、グリーン車の座席は既に下り方向に向けられていた。
停車してしばらくすると、駅員の業務放送があり、それでドアが開く。
〔「前の方に続いてご乗車ください。20時50分発、高崎線普通列車、籠原行きです」〕
5号車に乗り込んだ2人、2階席へ行く。
敷島:「シンディ、寝ちゃったら起こしてくれよ」
シンディ:「ええ」
敷島:「アリス、何か言ってた?」
シンディ:「いえ、別に。お坊ちゃんのお世話で忙しいんじゃない?」
敷島:「トニーか。まあ、そうだな」
シンディ:「二海も頑張ってると思うけど……」
二海とは平賀がトニーの誕生を祝って製造したメイドロイドである。
一海や七海と同じ“海組”とされ、かつてのメイドの仕事の1つであったベビーシッターに特化した機能を持つ。
メイドロイドにはマルチタイプやバージョン5.0のように、同型機を兄弟・姉妹とする概念が無い。
敷島:「二海がいなかったら、大変なことになってたなぁ……」
シンディ:「週末は私がいるからいいけどね」
メイドロイドにもメンテの時間は必要であり、この間はシンディが二海の仕事を引き継ぐ。
マルチタイプはその名の通り、何でもできるから、メイドロイドの仕事もできる。
平賀夫妻の2人の子供もまだ幼いが、こちらはエミリーが面倒を見ることはなかった。
アリスと違い、平賀奈津子は仕事を休むことができたし、実家の援助にも期待できたからである。
20時50分。13番線ホームに、発車メロディが鳴り響く。(https://www.youtube.com/watch?v=AhMK940sSZk)
井沢八郎の“あゝ上野駅”である。
シンディ:「ミクが聴いたら、歌い出しそうね」
敷島:「ああ、そうだな」
電車は旅愁漂う発車メロディの後、ドアを閉めてゆっくりと発車した。
〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は高崎線、普通電車、籠原行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。……次は、尾久です〕
シンディ:「『メインバッテリーが20%以下になりました。サブバッテリーに切り替えます。サブ残量、98%……』」
敷島:「メインが1日持たないって、どういうことだ?」
シンディ:「バッテリーパックが古くなったかなぁ……」
敷島:「バッテリーも新しいものに変えた方がいいかもな。アルエットみたいに燃料電池にしてもらうか?あれなら2〜3日持つぞ?」
シンディ:「アルとは体内の構造がそもそも違うからダメだと思うよ」
敷島:「バージョンシリーズの燃料は、ガスだしなぁ……」
シンディ:「歩くガスボンベだから嫌よ」
敷島:「……だな。マリオとルイージだって、何気に燃料電池だぞ?」
因みに発電に使用するガスは、しっかりタクシー会社御用達のガススタンドで手に入れているという。
タクシーの燃料もLPガスであるため。
アルエットはCNGガスである。
バージョン4.0以前の型式は本当に燃料がガスであるため、背中にガスボンベを背負ったようなデザインになっている。
シンディ:「LPガスじゃ大したパワーは出ないと思ってたけど、そうでもないみたいね」
敷島:「そことはアリスも、考えて作ったんだろう」
[同日21:30.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区桜木町・敷島の賃貸マンション シンディ、敷島、アリス]
敷島:「ただいまァ」
シンディ:「只今、帰りました」
アリス:「おそーい!特急で帰って来なさいよ」
敷島:「アホか!大宮までなら、上野駅を先に出発した電車が先に到着するんだ。それより、来週の件なんだけど……」
アリス:「先にお風呂に入って来てからにして。トニーにインフルエンザが移ったら大変でしょ!」
敷島:「俺は感染者か!」
シンディ:「まあまあ、社長。ウィルスには潜伏期間があります。万が一、感染しているにも関わらず、まだ発症していないだけかもしれません。健康保菌者ってヤツですね」
敷島:「む、そうか……」
アリス:「シンディの言う通りよ。症状が出ていなくても、他人に感染させることはできるんだから」
敷島:「まあ、可能性も無くは無いが……。(何気に俺、感染者扱いされてねぇ?)まあいや。とにかく、着替えてくる」
夫婦がそんなやり取りをしている間、
シンディ:「二海、ご苦労さん。あとは私が引き継ぐ」
二海:「シンディさん。トニーお坊ちゃまは、寝入られたところです」
シンディ:「了解。じゃあ、あとは充電していいよ。明日からメンテだったね」
二海:「はい。よろしくお願いします」
二海はシンディに引き継ぐと、自分は納戸(サービスルーム)に向かった。
このマンションの間取りは2LDK+Sである。
日本語では納戸と呼ばれる3畳ほどの広さのサービスルームが、ロイドの控室として使われている。
シンディ:「お坊ちゃま、こんばんはー」
シンディはベビーベッドで眠るトニーに微笑んだ。
もし仮にトニーが成長した時、回顧で、『自分が幼い頃、胸の大きいメイドロボ2機に面倒見てもらった』とでも言うかもしれない。
[同日22:00.同場所 シンディ]
敷島:「シンディ、お前も体洗ってこいよ」
シンディ:「いいんですか?」
アリス:「接待の時、タバコの煙とか浴びたでしょ?臭いとかついてるわよ」
シンディ:「も、申し訳ありません!」
シンディらロイドの短所として、嗅覚が無いことである。
味覚も無いが、料理は全てデータ通りに作る為、ハズレは無い。
シンディはバスルームに入ると、着ていたコスチュームを脱いでシャワーを浴びた。
基本的にお湯は使わず、水である。
アリス:「服は洗っておくから、別なの着なさい」
シンディ:「ありがとうございます」
シャワーで汚れを落とした後、アリスにそう言われた。
別の服といっても、同じデザインの服である。
アリス:「ぷっ……」(アリス、思い出し笑いをする)
シンディ:「どうかなさいましたか?」
アリス:「あなたのメモリーを見たんだけど、バージョン4.0の対応で面白いのがあったね。あなたがシャワー使っているのを見て、思い出しちゃった」
シンディ:キュルキュルキュルキュルキュル……。(アリスの言わんとしていることと、自分のメモリーの中で最適な物を探している)「ああ!もしかして、4.0がガソリンスタンドの洗車機で自分の体を洗ってたヤツですか?」
アリス:「そう!それ」
シンディ:「ガソリンスタンドから、『ロボットが洗車機で自分の体を洗っていて困る』という知らせがあったので、駆け付けてみたら、シャワーのつもりで使っていましたね。『シンディ様モ、御一緒ニドウデスカ?』なんていけしゃあしゃあと言ってきました。『営業妨害だからやめろ!』と注意したんですが、『金ナラ払ウ!』ってな始末で」
アリス:「万引き犯が捕まった後に言うセリフじゃないんだから……」
シンディ:「バッテリーの蓋開けて、『ここも洗いな!』ってショートさせましたけどね」
アリス:「あなたもやることエグいねぇ……」
シンディ:「人間に迷惑を掛ける奴らに、情けは必要ありません」
アリス:「分かったわ。トニーのことは、あとは私に任せなさい」
シンディ:「よろしいのですか?」
アリス:「母親として息子の面倒を見るのは当然よ。あなたも充電していなさい。メインバッテリーが切れたんでしょう?」
シンディ:「はい。……アリスお嬢様も、御立派になられましたね」
シンディとアリスとは、アリスが子供の頃からの付き合いである。
ウィリーにその才能を見出されたアリスは児童養護施設から引き取られ、後継者として育てられた。
その頃からシンディとは付き合いがある。
もっとも、当時のシンディは前期型のテロリズムロイドで、既に主のウィリーを守る為と称していくつもの治安機関(主に地方警察)を壊滅させていた。
アリス:「あなたも変わった。目つきが優しくなったよ」
シンディ:「私は人間ではありません。そのようなことがあるのでしょうか?」
アリス:「後期型だから、かもね」
もっとも、後期型といっても、前期型の予備機として用意されていただけで、特に外観上……どころか内部の違いがあるわけではない。
シンディ:「では、お言葉に甘えて、充電させて頂きます」
アリス:「うん」
シンディ:「何かありましたら、いつでもお呼びください」
シンディは既に二海が充電している納戸に向かった。
尚、深夜電力での充電になるので、実際は23時以降に自動で充電されるように設定されている。
こうして、少しでも維持費を安くしようとしているわけである。
〔「13番線、お下がりください。20時50分、当駅始発の高崎線普通列車、籠原行きが長い15両編成で参ります。黄色い線まで、お下がりください」〕
下り方向から行き止まりのホームに向かって、E231系電車が入線してくる。
眩いHIDヘッドランプを照らしてやってくるのを見たシンディは、
敷島:「対抗しなくていいから!」
シンディ:「はーい」(自分もまた両目をハイビームに光らせた)
〔「業務連絡、13番857M、準備できましたら、ドア操作願います」〕
入線してきた中距離電車、グリーン車の座席は既に下り方向に向けられていた。
停車してしばらくすると、駅員の業務放送があり、それでドアが開く。
〔「前の方に続いてご乗車ください。20時50分発、高崎線普通列車、籠原行きです」〕
5号車に乗り込んだ2人、2階席へ行く。
敷島:「シンディ、寝ちゃったら起こしてくれよ」
シンディ:「ええ」
敷島:「アリス、何か言ってた?」
シンディ:「いえ、別に。お坊ちゃんのお世話で忙しいんじゃない?」
敷島:「トニーか。まあ、そうだな」
シンディ:「二海も頑張ってると思うけど……」
二海とは平賀がトニーの誕生を祝って製造したメイドロイドである。
一海や七海と同じ“海組”とされ、かつてのメイドの仕事の1つであったベビーシッターに特化した機能を持つ。
メイドロイドにはマルチタイプやバージョン5.0のように、同型機を兄弟・姉妹とする概念が無い。
敷島:「二海がいなかったら、大変なことになってたなぁ……」
シンディ:「週末は私がいるからいいけどね」
メイドロイドにもメンテの時間は必要であり、この間はシンディが二海の仕事を引き継ぐ。
マルチタイプはその名の通り、何でもできるから、メイドロイドの仕事もできる。
平賀夫妻の2人の子供もまだ幼いが、こちらはエミリーが面倒を見ることはなかった。
アリスと違い、平賀奈津子は仕事を休むことができたし、実家の援助にも期待できたからである。
20時50分。13番線ホームに、発車メロディが鳴り響く。(https://www.youtube.com/watch?v=AhMK940sSZk)
井沢八郎の“あゝ上野駅”である。
シンディ:「ミクが聴いたら、歌い出しそうね」
敷島:「ああ、そうだな」
電車は旅愁漂う発車メロディの後、ドアを閉めてゆっくりと発車した。
〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は高崎線、普通電車、籠原行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。……次は、尾久です〕
シンディ:「『メインバッテリーが20%以下になりました。サブバッテリーに切り替えます。サブ残量、98%……』」
敷島:「メインが1日持たないって、どういうことだ?」
シンディ:「バッテリーパックが古くなったかなぁ……」
敷島:「バッテリーも新しいものに変えた方がいいかもな。アルエットみたいに燃料電池にしてもらうか?あれなら2〜3日持つぞ?」
シンディ:「アルとは体内の構造がそもそも違うからダメだと思うよ」
敷島:「バージョンシリーズの燃料は、ガスだしなぁ……」
シンディ:「歩くガスボンベだから嫌よ」
敷島:「……だな。マリオとルイージだって、何気に燃料電池だぞ?」
因みに発電に使用するガスは、しっかりタクシー会社御用達のガススタンドで手に入れているという。
タクシーの燃料もLPガスであるため。
アルエットはCNGガスである。
バージョン4.0以前の型式は本当に燃料がガスであるため、背中にガスボンベを背負ったようなデザインになっている。
シンディ:「LPガスじゃ大したパワーは出ないと思ってたけど、そうでもないみたいね」
敷島:「そことはアリスも、考えて作ったんだろう」
[同日21:30.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区桜木町・敷島の賃貸マンション シンディ、敷島、アリス]
敷島:「ただいまァ」
シンディ:「只今、帰りました」
アリス:「おそーい!特急で帰って来なさいよ」
敷島:「アホか!大宮までなら、上野駅を先に出発した電車が先に到着するんだ。それより、来週の件なんだけど……」
アリス:「先にお風呂に入って来てからにして。トニーにインフルエンザが移ったら大変でしょ!」
敷島:「俺は感染者か!」
シンディ:「まあまあ、社長。ウィルスには潜伏期間があります。万が一、感染しているにも関わらず、まだ発症していないだけかもしれません。健康保菌者ってヤツですね」
敷島:「む、そうか……」
アリス:「シンディの言う通りよ。症状が出ていなくても、他人に感染させることはできるんだから」
敷島:「まあ、可能性も無くは無いが……。(何気に俺、感染者扱いされてねぇ?)まあいや。とにかく、着替えてくる」
夫婦がそんなやり取りをしている間、
シンディ:「二海、ご苦労さん。あとは私が引き継ぐ」
二海:「シンディさん。トニーお坊ちゃまは、寝入られたところです」
シンディ:「了解。じゃあ、あとは充電していいよ。明日からメンテだったね」
二海:「はい。よろしくお願いします」
二海はシンディに引き継ぐと、自分は納戸(サービスルーム)に向かった。
このマンションの間取りは2LDK+Sである。
日本語では納戸と呼ばれる3畳ほどの広さのサービスルームが、ロイドの控室として使われている。
シンディ:「お坊ちゃま、こんばんはー」
シンディはベビーベッドで眠るトニーに微笑んだ。
もし仮にトニーが成長した時、回顧で、『自分が幼い頃、胸の大きいメイドロボ2機に面倒見てもらった』とでも言うかもしれない。
[同日22:00.同場所 シンディ]
敷島:「シンディ、お前も体洗ってこいよ」
シンディ:「いいんですか?」
アリス:「接待の時、タバコの煙とか浴びたでしょ?臭いとかついてるわよ」
シンディ:「も、申し訳ありません!」
シンディらロイドの短所として、嗅覚が無いことである。
味覚も無いが、料理は全てデータ通りに作る為、ハズレは無い。
シンディはバスルームに入ると、着ていたコスチュームを脱いでシャワーを浴びた。
基本的にお湯は使わず、水である。
アリス:「服は洗っておくから、別なの着なさい」
シンディ:「ありがとうございます」
シャワーで汚れを落とした後、アリスにそう言われた。
別の服といっても、同じデザインの服である。
アリス:「ぷっ……」(アリス、思い出し笑いをする)
シンディ:「どうかなさいましたか?」
アリス:「あなたのメモリーを見たんだけど、バージョン4.0の対応で面白いのがあったね。あなたがシャワー使っているのを見て、思い出しちゃった」
シンディ:キュルキュルキュルキュルキュル……。(アリスの言わんとしていることと、自分のメモリーの中で最適な物を探している)「ああ!もしかして、4.0がガソリンスタンドの洗車機で自分の体を洗ってたヤツですか?」
アリス:「そう!それ」
シンディ:「ガソリンスタンドから、『ロボットが洗車機で自分の体を洗っていて困る』という知らせがあったので、駆け付けてみたら、シャワーのつもりで使っていましたね。『シンディ様モ、御一緒ニドウデスカ?』なんていけしゃあしゃあと言ってきました。『営業妨害だからやめろ!』と注意したんですが、『金ナラ払ウ!』ってな始末で」
アリス:「万引き犯が捕まった後に言うセリフじゃないんだから……」
シンディ:「バッテリーの蓋開けて、『ここも洗いな!』ってショートさせましたけどね」
アリス:「あなたもやることエグいねぇ……」
シンディ:「人間に迷惑を掛ける奴らに、情けは必要ありません」
アリス:「分かったわ。トニーのことは、あとは私に任せなさい」
シンディ:「よろしいのですか?」
アリス:「母親として息子の面倒を見るのは当然よ。あなたも充電していなさい。メインバッテリーが切れたんでしょう?」
シンディ:「はい。……アリスお嬢様も、御立派になられましたね」
シンディとアリスとは、アリスが子供の頃からの付き合いである。
ウィリーにその才能を見出されたアリスは児童養護施設から引き取られ、後継者として育てられた。
その頃からシンディとは付き合いがある。
もっとも、当時のシンディは前期型のテロリズムロイドで、既に主のウィリーを守る為と称していくつもの治安機関(主に地方警察)を壊滅させていた。
アリス:「あなたも変わった。目つきが優しくなったよ」
シンディ:「私は人間ではありません。そのようなことがあるのでしょうか?」
アリス:「後期型だから、かもね」
もっとも、後期型といっても、前期型の予備機として用意されていただけで、特に外観上……どころか内部の違いがあるわけではない。
シンディ:「では、お言葉に甘えて、充電させて頂きます」
アリス:「うん」
シンディ:「何かありましたら、いつでもお呼びください」
シンディは既に二海が充電している納戸に向かった。
尚、深夜電力での充電になるので、実際は23時以降に自動で充電されるように設定されている。
こうして、少しでも維持費を安くしようとしているわけである。