報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「大陸の魔道師と島国の魔道師と」

2016-02-12 19:23:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月26日10:32.天候:晴 JR新千歳空港駅→新千歳空港内 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 稲生達を乗せた快速“エアポート”号は、JR千歳線を走行している。
 千歳線の運転系統としての起点は札幌、終点が苫小牧であり、これが本線である。
 南千歳と新千歳空港は支線という扱いだが、実際には支線の方が賑わっている感がある。
 まあ、本線は本線で特急“北斗”や“すずらん”が走っているので、けして寂しい区間ではないのだが。
 南千歳駅を出た快速は、地下線へと入って行く。
 JR北海道で唯一の地下トンネルである。
 ん?青函トンネル?あれは海底トンネルだ。
「そろそろ先生を起こした方がいいな」
 と、マリアが言う。
「そうですね」
 稲生は立ち上がった。
 イリーナの隣の席は空席のままであった。
 自由席はだいぶ混雑しているようだが……。
「先生、先生。そろそろ着きますよ。起きてください」
 指定席にはチケットホルダーが付いており、ここにキップを入れておけば、車掌に起こされることなく検札が終わる。
 尚、今回は女性の車掌だったので良かったが、マリアのような者でも重宝しただろう。
「んー……?あー、着いたのね」
「今、第一場内信号を通過したところですから、もうすぐですよ」
 先頭車にいるわけでもないのに、どうして信号を通過したことが分かるのだろうか?やはり魔道師だからか。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終着、新千歳空港に到着致します。お出口は、右側です。お降りの際、車内にお忘れ物、落し物の無いようお気を付けください。指定席ご利用のお客様は、チケットホルダーのキップの取り忘れにもお気を付けください。本日もJR北海道をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 抑揚の無い男声自動放送と比べれば、女性車掌の肉声放送の方が明るい。
 そうしているうちに、電車は地下ホームに滑り込んだ。

〔「ご乗車ありがとうございました。終着、新千歳空港、新千歳空港。……」〕

 ぞろぞろと乗客が降りて行く。
「それじゃ、アタシらも降りようかねぃ……」
「そうですね」
 さすがに乗客が集中して、特にエスカレーター辺りはカオスと化していた。
 それでも何とかエスカレーターに乗って、改札口まで行く。
 ここでキップは回収されてしまう。
「それじゃ、上に行きますか」
「じゃ、チェック・インまで温泉と行くわけだね」
「そのつもりです」
「レンジャーがいなければいいが……」
「飛行機が欠航になる事態は勘弁ですよ」
「それは私の責任じゃないから」
「そうですけどねぇ……」

 取りあえず、駅からターミナルに移動した。
 するとそこで、意外な人物と出会う。
「クリスティーナ!」
 大きなキャリーバッグを持ったクリスティーナの姿だった。
「マリアンナか。……と」
「やあやあ、クリス。久しぶりだねぃ」
「イリーナ……先生。御無沙汰してます」
「このコはクリスティーナ。あのクレアの弟子で、ジェシカの仲間だったコだよ」
「あの“魔の者”に殺された……?それは大変ご愁傷様でした。僕は稲生勇太。昨年4月、イリーナ先生に弟子入りした者です」
「ああ、“新卒採用”の……」
 稲生が挨拶する為に近づくと、その分、クリスティーナは距離を取る。
 マリアが稲生に耳打ちした。
「悪い。あいつもまた男嫌いだから、あまり近づかないでやって」
「あ、これは失礼!」
「いや、まあ……」
「それより、その荷物はこれから飛行機に乗るって感じだね。なに?サハリンにでも行くの?」
「はい。本当は明日の定期便に乗るはずだったんですが、急きょ、今日はチャーター便が出るので、それに乗る予定です」
「チャーター便?……ああ!」
 イリーナは思い当たる節があった。
「アナスタシア組、サハリン州に大きなツテがあるからね。チャーター便出させるくらいの力はあるか」
「そうなんですか?」
「アナスタシア自身がサハリン出身というのもあるしね」
「へえ……」
「ということは、ここにアナスタシア組がいるということですね」
 と、マリア。
「そういうことになるね。ま、邪魔しちゃ悪いから、アタシらは別の場所に移動しようか」
「はい」

 クリスティーナと別れ、更にターミナルの奥へと進む。
 温泉施設はターミナルの4階にあるが、まずは荷物をコインロッカーに預けようと思った。
「イリーナ先生はロシアのどこ出身なんですか?」
 稲生が荷物をコインロッカーに入れながら、何気なく聞いた。
「レニングラード州」
 イリーナがポツリと答えた。
「そうですか」
「それ、私も初めて聞きましたけど?」
 と、マリア。
「この体の本当の持ち主の出身がね」
「いや、イリーナ先生自身のですよ!」
「教えなーい!因みにこの体の本来の持ち主、イシンバエワさんはペトログラードに住んでたんだって」
「師匠、今はサンクトペテルブルクって名前では?」
「あ、そうだっけ?」
「イギリス人の私が知ってるんですから、師匠が知ってなくてどうするんですか?」
「いやあ、ここ100年くらいレニングラードに行ってなかったから忘れてた」
「ひゃ、100年……」
 とはいうものの、日本人の稲生にはサハリンの場所はパッと出ても、レニングラード州サンクトペテルブルク市の場所は全く出て来なかった。
 ウィキペディアによれば、ロシアの首都モスクワに次ぐ第2の巨大都市であるらしい。
 日本で言うなら東京に対して、京都や大阪みたいなものか。
 アナスタシアがイリーナを嫌っているのは、表向きはイリーナの魔道師としての心構えが気に入らないというものだが、マリアから見ればロシア人同士の軋轢に見えるらしい。
(都会人の師匠と片田舎出身のアナスタシア先生の、その差だったりして……)
 なんて思うマリアだった。
「稲生君、もしロシアに用事ができて、一緒に行けるようになったらシベリア鉄道に乗せてあげるねー」
「えっ、本当ですか!?」
「“ロシア”号なんかいいかしら?」
「はい、是非!リアル“シベリア超特急”だ!」
「いや、別にSLが走ってるわけじゃないから……」
 呆れながらも、荷物をコインロッカーに預けて、温泉施設に向かう3人の魔道師。

 尚、例えばアメリカ人の大多数がニューヨークに行ったことも無ければ、場所すら知らないのは珍しいことではないらしい。
 それと同じに考えるのであれば、もっと国土の広いロシアの国民がモスクワに行ったことも無ければ、場所すら知らないのも珍しいことではないのかもしれない。
 イギリスもかつては世界各地に植民地を持っていたものの、それらを手放した今となっては、国土の狭い島国であることから、マリアの発想は日本人の稲生と似ているのだろう。
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“大魔道師の弟子” 「北海道を過ごす」 2

2016-02-12 14:50:11 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月26日08:00.天候:晴 札幌市中央区・ウォーターマークホテル札幌1F 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 稲生とマリアはホテルのレストランで朝食を取っていた。
 バイキング方式なのだが、2人の魔道師男女はそんなに料理を盛らない。
「昨夜はマリアさんの知り合いと会っていたんですか?」
 向かい合って座り、稲生が話し掛けた。
「ああ。たまたま私と同じ、魔界帰りの魔道師がいてね。色々と話してきた」
「そうでしたか」
「ユウタは、昨夜何をしてた?」
「勤行とネットサーフィンです。ろくに魔道書読んでなくて、すいません」
「いや、別に毎日読む必要のあるものじゃないから。日蓮正宗関係の?」
「まあ、そんなところです。藤谷班長がFacebookで、社員旅行のことなんか書いてましたね」
「Facebookなんかやってるのか……」
 マリアは意外そうな顔をした。
「何か、意外だな」
「会社の公式サイトとリンクしているみたいですね」
「ふーん……。ところで、今日はどうする?」
「ええ。前回と同じように、新千歳空港でゆっくりしたいと思います」
「ああ。あの温泉か……」
「ええ……。いや、多分もうケンショーレンジャーは現れないと思いますが」
「分からんよ。2度あることは3度ある、というし……」
「3度目の正直、とも言います」
「とにかく、今度会ったら冥府に送る!」
「い、いいと思います」
 一瞬、マリアが“魔女”の目つきになったので、稲生は慌てて頷いた。
 と、そこへ、
「おーはよー。(´Д`)」
 イリーナが大欠伸をしながらやってきた。
「おはようございます」
「師匠。朝食は食べ放題ですから、あそこでトレーとお皿を取って……」
「あ、そうなの」
(でも、ちゃんと起きてきたなぁ……)
 と、稲生は思った。

 尚、イリーナは皿の上に料理をかなり盛り、弟子達を唖然とさせたものの、ちゃんと平らげたという。
 高身長に巨乳、巨尻の維持にはそれくらいの食欲も必要ということか。
(イザとなったら、イリーナ先生がケンショーレンジャー潰しをしてくれるさ……)
 と、稲生は思った。
 1000年以上も生きているので、多少のセクハラには動じもしないが、さすがに無断のお触りは断っているもよう。

[同日09:30.天候:晴 ホテル前→JR札幌駅 稲生、マリア、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 

 ホテルの前からタクシーに乗る。
 その通りは2車線ながら西方向への一方通行なので、少し回り道をさせられる形になる。
「札幌駅までお願いします」
「はい、ありがとうございます」
 リアシートにイリーナとマリア、助手席に稲生が座った。
 ダンテ一門はフランクなようで、結構師弟の上下関係に厳しい。
 その中でも1番フランクと思われるイリーナ組でさえ、最低限のビジネスマナーみたいなものはあるらしい。
 タクシーの上座と下座。
 上座は運転席の後ろである。
 次いで助手席後ろ、リアシートの中央、最下座が助手席となる。
 この場合、イリーナが運転席の後ろ、マリアが助手席の後ろとなるのだが、稲生はあえて中央ではなく、助手席に乗っていた。
 これは何も後ろが狭いからという理由ではなく、当時はまだマリアが男嫌いで、稲生にも心を開いていなかった為に、稲生がそこに乗れなかった故の名残りである。
 今ではもう稲生だけなら大丈夫なのだが、そのまま慣例が続いているというわけだ。
 但し、助手席の後ろの方が乗り降りしやすいのは事実で、上位者の中にはそこを希望する者もいる。
 その時はその上位者の希望を聞くことである。
 タクシーは電気自動車ならでのキィーンというモーター音を立てて、雪の降り積もった市街地を進んだ。

〔「……次のニュースです。昨夜未明、札幌市◯◯区××の住宅街の一画で、男性の遺体が発見されました」〕

 タクシーのラジオからニュースが流れて来た。

〔「……警察の調べによりますと、男性は市内で発生している連続強制わいせつ事件の容疑者と思われ、遺体を司法解剖して死因を調べると共に、現場付近の捜査に当たっています」〕

 マリアは俯いていたが、口元は歪ませ、目つきも“魔女”のものになっていた。
(やはり死んだか……。クククク……!)
 とはいうものの、さすがにそこは稲生。
(何か、マリアさんとかが関わってそうな事件だなぁ……)
 と、鋭く気づいたのである。
 だが、
(強制わいせつとレイプってどう違うんだろう?)
 と、トンチカンな疑問を持ったりもした。
 それは、【webで確認!】

[同日09:45.天候:晴 JR札幌駅ホーム 稲生、マリア、イリーナ]

 ターミナル駅に到着した稲生達。
 北海道一賑わう駅で、いずれはここにも新幹線がやってくると思われる駅だ。
 改札口はとっくに自動化されており、稲生達は昨日購入したキップを通してコンコースに入った。
 尚、乗車券と指定席券の区間が一緒なので、1枚にまとめられている。
 ホームに上がってみて、首都圏のターミナル駅よりやかましいのは、ディーゼルカーも多く発着しているからだろう。
 首都圏だと、せいぜい駅構内放送だとか、引っ切り無しに発着する電車の音が賑やかなのだが、それ以上にたまに発着するディーゼル特急が停車していると、物凄くやかましい。
 札幌駅のホームには防雪の為の屋根が掛かっているため、尚更音が籠もりやすいのだ(想像できない人は、東北新幹線のホームを思い浮かべてもらえれば、そんな感じだと分かる。大宮駅でさえ、ホーム全体に屋根が掛かっていることが分かる)。

〔お待たせ致しました。まもなく5番ホームに、9時55分発、新千歳空港行き、快速“エアポート”96号が入線致します。黄色い線の内側まで下がって、お待ちください〕

 3打点チャイムの後、ホームに中年女性の自動放送が流れる。
「今度の電車は札幌始発なので、すぐに乗れると思います」
 と、稲生は言った。
 つまり、折り返し電車で、一旦ドア閉めが無いという意味である。

 

 しばらくして、桑園駅方面から721系6両編成の電車がゆっくり入って来た。

 
(指定席“uシート”車。帯の色が他の自由席車と変えられている)

 ホームに到着すると、女性車掌が指定席車に設けられた車掌室に乗り込んだ。
 JR北海道ではこのように中間に車掌室のある列車では、車掌はそこに乗務し、最後尾の乗務員室は不在になる。
 東北新幹線でも東京駅発車の際は最後尾の乗務員室に車掌がいるが、その後はグリーン車の車掌室でホーム監視をするのと同じだ。
 ドアが開くと、3人は車中の人となった。

 
(指定席“uシート”車内。写真は後期モデル。座席はリクライニングシートが並び、初期モデルの場合は座席の色が違うがスペックは同じ。尚、いずれも頭部のカバーは省略され、レザー生地になっている)

「えー、ここですね」
 真ん中のドアにもデッキがあって、そこから入ってすぐの所に指定された席があった。
 ここでも上座と下座があって、上位者は下位者の前の席に座るのが通例。
 というわけでイリーナも、稲生達の前の席に座った。
「じゃ、着いたら起こしてねー」
「やっぱり」
 イリーナはフードを深く被り、リクライニングシートを倒して仮眠体制に入った。
「あ、先生」
「なぁに?」
「キップはここに……」
 もっとも、キップは稲生が預かっていたが、この車両にはチケットホルダーがある。
 収納したテーブルの上にあって、そこにキップを挟めておけば、あとは車掌が勝手に検札してくれるというもの。
「あー、なるほど」
「そういうことです」
 稲生は大きく頷いて、すぐ後ろの座席に座った。

 自由席は白い蛍光灯の明かりが煌々と輝いているが、指定席は電球色の明かりが照らされている。
 JR北海道でも屈指のドル箱線、ドル箱列車なだけに本数も多く、列車は10分ほど停車して札幌駅を発車した。
 モーターの無いサハ車の為か、車内にはモーター音が聞こえてこなかった。
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“大魔道師の弟子” 「北海道を過ごす」

2016-02-12 10:28:01 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月25日22:00.天候:雪 札幌市中央区・某ファーストフード店 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット&クリスティーナ・サブナ・アダムス]

 閑静な住宅街から市街地に移動した2人の魔女。
 そこで2人はホットコーヒーを飲みながら、デーブル席に向かい合って座った。
 クリスティーナは同じダンテ一門の魔道師であるが、アナスタシア組ではない。
 免許皆伝を受けているので、師事している師匠は今はいない。
 元は“魔の者”に殺されたクレア師に師事していた。
 なので、同じ殺されたジェシカは同じ弟子仲間であった。
 フードを取ると、茶系のロングを2つ結びにしている。
 結んでいるアクセサリーは、魔法具の1つ。
 マリアにはそれが何なのかすぐに分かった。
 マリアもカチューシャに仕込んでいるところがあるが、魔道師は身に着けているアクセサリーに色々と何か仕込んでいることがある。
「……なるほど。マリアンナは魔界からの帰りか」
「“魔の者”はしつこい。まだ私らを狙ってるみたい」
「ポーリン先生みたいに、ド派手にやらないとダメなのかもね」
「あんなハリウッド映画みたいなやり方、うちの師匠には合わんよ」
 マリアは辟易した。
 “魔の者”は時に闇の権力者に憑依することがある。
 アメリカでも名うてのマフィアのボスに憑依して、魔道師を追い詰めようと企てたようだが、それを察知したポーリンとエレーナによって組織ごと潰された。
 40階建ての本部ビルが根元から崩れ落ちるほどで、ボスは最上階から地上に転落死。
 残った幹部達も崩壊中のビル内に取り残されて【お察しください】。
 ただ、その代償としてマシンガンの雨を食らったエレーナは上半身に傷痕を残すことになったし、ポーリンはマフィア残党からしばらく身を隠さなければならなかった。
「だいいち、日本でそれをやったらもうここにいられなくなる」
「まあね。今、“魔の者”はどこに?」
「分からない。もしかしたら、日本にはいないかも……」
「日本にいなかったらいないで、今度は誰をターゲットにしたか心配だねぇ……」
「まだ力の無い新弟子が多くいるから、そこを叩かれたら痛い」
「アナスタシア組が自分とこの組織固めを進めているのはその為?」
「多分」
 マリアは頷いた。
「クリスはどうしてここに?」
「あなた達と同じ理由、かな」
「魔界からの帰り?」
「あなた達はまだアルカディア王国くらいしか出入りしていないだろうけど、魔界には他にもいくつか国があるのは知ってるよね?」
「もちろん」
「そこにはゴエティア系の悪魔がいたりするから、ウチらそっち系の悪魔と契約しているもんで、たまに行くんだ」
「なるほど……。私も師匠も“七つの大罪”系で、それは全てアルカディア国内で完結している(揃っている)から、わざわざ他国に行く必要も無いしな」
「そういうこと」

 店を出ようとした時、
「ああ、そうそう。もう1つ聞いていい?」
 と、クリス。
「なに?」
「ウチら……人間時代、“狼”に食われた女の集まりで、マリアンナが1番ヒドい目に遭ったのに、弟弟子を入れることに賛成したのはどうして?」
「ユウタのこと?別に、最初は賛成だったわけじゃないよ。ただ、師匠の決めたことには逆らえないからね」
「今では好きなんでしょう?マリアンナの人間時代は、似た目に遭った私から見ても目を背けるものだった。普通は好きになれないはずなのに何故だ?」
「よくは分からないけど、ユウタは人間時代に私が1度も会えなかったタイプだ。だから逆に新鮮味があって、私のトラウマに100パー引っ掛からなかったのかもしれない。あと、逆に皆の中で私が1番ヒドい目に遭ったからかな……」
「?」
「あそこまでこっ酷くヤられれば、逆に回復も早いのかもしれない」
 マリアが答えると、クリティーナは変な顔をした。
 その顔には、『何言ってんだコイツ?』と書いてあるように見えた。
「信じなくていいよ。私もよくは分からないから」
「イリーナ先生がオリジナルの魔法を編み出しただとか、あなたはエレーナとも仲がいいから、そっちから何かトラウマを一気に回復させる薬をもらっただとか……」
「いや、無い無い。だから私も不思議なんだ。不思議なことを涼しい顔をして行う魔道師が、逆に自分に不思議がるって変な話だけどな」
 マリアは笑みを浮かべて席を立った。

[同日22:30.天候:雪 同区・ウォーターマークホテル札幌 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 ホテルに戻って自分の客室があるフロアでエレベーターを降りた。
 稲生が泊まっているシングルの部屋の前で立ち止まったが、中から何か物音が聞こえてくることは無かった。
(多分うちの師匠とかそういうことじゃなくて、ユウタ自身に何か特別な力があるんだろうなぁ……)
 と、マリアは思った。
 随分と曖昧だが、多分これを面と向かって言ってもクリスティーナは余計不審がるだろうし、イリーナは目を細めて頷くだけだろうし、稲生は困惑するだけだろう。
 危うく開錠の魔法でドアを開けようとしたが、すぐに気づいて、手持ちのカードキーで部屋のドアを開けた。
「!?」
 ベッドにはイリーナはいなかった。
 その代わり、バスルームからはシャワーの音が聞こえたので、どうやら目を覚ましてシャワーでも浴びているらしい。
 自分のベッドに腰掛けると、イリーナがバスルームから出て来た。
「おー、マリア。戻ってきたかー」
「ええ。クリスティーナがこの町にいたので」
 マリアがしれっと答えたのは、イリーナが全裸にバスタオルを羽織った姿のままだったからだ。
「あー、クレアの弟子のクリスかぁ……」
 夜着は浴衣ではなく、白いタオル素材でできたワンピース型のもの。
 バスタオルを取ってそれに着替えるイリーナ。
「あのコも大変だったね。先生と仲間を一気に2人も亡くしたのに、私達の前では涙1つ流さなかったもんね」
「もちろん後で大泣きしていたと、エレーナが言ってました」
「うんうん。そうだよね。あのコも人間時代、ヒドい目に遭っていたから、尚更クレアやジェシカと気が合っていたのにね」
「睡眠薬を飲まされて、集団レイプですか。さっきもこの町の外れの方で、“仕事”していましたよ」
「あなたも“お手伝い”してきたの?」
「いえ。私は見ていただけです。クリスは勝手に手を出すと怒るので。私が挨拶に来ただけで、睨まれましたから。あいつ、すぐ顔に出るんで、その時顔に『余計な手出しはするな』って書いてましたよ」
「なるほどねぇ……。バスルーム空けたから、あなたも入って寝なさい。ここのホテル、バスルームと洗面台とトイレが別になってるからね。私は先に寝てるから」
「はい。あ、それと師匠」
「なぁに?」
「クリスから、私らの中では私が1番“狼”達に食い尽されたのに、どうしてユウタには心を開くのかと聞かれました。私は分からないながらも、曖昧に答えましたが」
「何か、特別な魔法でも使ったと思われたか。まあ、ユウタ君自身が不思議なコだからねぇ……。マリア自身も、そのタイプに出会うのは初めてでしょう?」
「はい。やはりそこですか」
「まずは興味を持たないと、心って開かないものだから。ユウタ君自身に何か不思議な力を秘めているのは間違いないと思うけど、マリアの場合はそういう難しいものではなく、ただ単に『変わった男だなぁ……』から始まっただけだと思うよ」
「そうですかね」
「ま、別に今すぐ答えを出す必要は無いさ。これから、もっともっと沢山の時を過ごすことになるんだからね」
「はい」

 尚、その「不思議な男」とされた稲生は、部屋でホテルから借りたパソコンに向かい、ネットで法論していたという。
『三大秘法ガー』『大御本尊ガー』『お前はバカだのー』とか、色々……。
 終いには、『あなたのその発言、流血の惨を見ること必至であります!』と、そろそろ稲生も魔道師の資質が出てきた……かどうかは【お察しください】。
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