[1月26日10:32.天候:晴 JR新千歳空港駅→新千歳空港内 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
稲生達を乗せた快速“エアポート”号は、JR千歳線を走行している。
千歳線の運転系統としての起点は札幌、終点が苫小牧であり、これが本線である。
南千歳と新千歳空港は支線という扱いだが、実際には支線の方が賑わっている感がある。
まあ、本線は本線で特急“北斗”や“すずらん”が走っているので、けして寂しい区間ではないのだが。
南千歳駅を出た快速は、地下線へと入って行く。
JR北海道で唯一の地下トンネルである。
ん?青函トンネル?あれは海底トンネルだ。
「そろそろ先生を起こした方がいいな」
と、マリアが言う。
「そうですね」
稲生は立ち上がった。
イリーナの隣の席は空席のままであった。
自由席はだいぶ混雑しているようだが……。
「先生、先生。そろそろ着きますよ。起きてください」
指定席にはチケットホルダーが付いており、ここにキップを入れておけば、車掌に起こされることなく検札が終わる。
尚、今回は女性の車掌だったので良かったが、マリアのような者でも重宝しただろう。
「んー……?あー、着いたのね」
「今、第一場内信号を通過したところですから、もうすぐですよ」
先頭車にいるわけでもないのに、どうして信号を通過したことが分かるのだろうか?やはり魔道師だからか。
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終着、新千歳空港に到着致します。お出口は、右側です。お降りの際、車内にお忘れ物、落し物の無いようお気を付けください。指定席ご利用のお客様は、チケットホルダーのキップの取り忘れにもお気を付けください。本日もJR北海道をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕
抑揚の無い男声自動放送と比べれば、女性車掌の肉声放送の方が明るい。
そうしているうちに、電車は地下ホームに滑り込んだ。
〔「ご乗車ありがとうございました。終着、新千歳空港、新千歳空港。……」〕
ぞろぞろと乗客が降りて行く。
「それじゃ、アタシらも降りようかねぃ……」
「そうですね」
さすがに乗客が集中して、特にエスカレーター辺りはカオスと化していた。
それでも何とかエスカレーターに乗って、改札口まで行く。
ここでキップは回収されてしまう。
「それじゃ、上に行きますか」
「じゃ、チェック・インまで温泉と行くわけだね」
「そのつもりです」
「レンジャーがいなければいいが……」
「飛行機が欠航になる事態は勘弁ですよ」
「それは私の責任じゃないから」
「そうですけどねぇ……」
取りあえず、駅からターミナルに移動した。
するとそこで、意外な人物と出会う。
「クリスティーナ!」
大きなキャリーバッグを持ったクリスティーナの姿だった。
「マリアンナか。……と」
「やあやあ、クリス。久しぶりだねぃ」
「イリーナ……先生。御無沙汰してます」
「このコはクリスティーナ。あのクレアの弟子で、ジェシカの仲間だったコだよ」
「あの“魔の者”に殺された……?それは大変ご愁傷様でした。僕は稲生勇太。昨年4月、イリーナ先生に弟子入りした者です」
「ああ、“新卒採用”の……」
稲生が挨拶する為に近づくと、その分、クリスティーナは距離を取る。
マリアが稲生に耳打ちした。
「悪い。あいつもまた男嫌いだから、あまり近づかないでやって」
「あ、これは失礼!」
「いや、まあ……」
「それより、その荷物はこれから飛行機に乗るって感じだね。なに?サハリンにでも行くの?」
「はい。本当は明日の定期便に乗るはずだったんですが、急きょ、今日はチャーター便が出るので、それに乗る予定です」
「チャーター便?……ああ!」
イリーナは思い当たる節があった。
「アナスタシア組、サハリン州に大きなツテがあるからね。チャーター便出させるくらいの力はあるか」
「そうなんですか?」
「アナスタシア自身がサハリン出身というのもあるしね」
「へえ……」
「ということは、ここにアナスタシア組がいるということですね」
と、マリア。
「そういうことになるね。ま、邪魔しちゃ悪いから、アタシらは別の場所に移動しようか」
「はい」
クリスティーナと別れ、更にターミナルの奥へと進む。
温泉施設はターミナルの4階にあるが、まずは荷物をコインロッカーに預けようと思った。
「イリーナ先生はロシアのどこ出身なんですか?」
稲生が荷物をコインロッカーに入れながら、何気なく聞いた。
「レニングラード州」
イリーナがポツリと答えた。
「そうですか」
「それ、私も初めて聞きましたけど?」
と、マリア。
「この体の本当の持ち主の出身がね」
「いや、イリーナ先生自身のですよ!」
「教えなーい!因みにこの体の本来の持ち主、イシンバエワさんはペトログラードに住んでたんだって」
「師匠、今はサンクトペテルブルクって名前では?」
「あ、そうだっけ?」
「イギリス人の私が知ってるんですから、師匠が知ってなくてどうするんですか?」
「いやあ、ここ100年くらいレニングラードに行ってなかったから忘れてた」
「ひゃ、100年……」
とはいうものの、日本人の稲生にはサハリンの場所はパッと出ても、レニングラード州サンクトペテルブルク市の場所は全く出て来なかった。
ウィキペディアによれば、ロシアの首都モスクワに次ぐ第2の巨大都市であるらしい。
日本で言うなら東京に対して、京都や大阪みたいなものか。
アナスタシアがイリーナを嫌っているのは、表向きはイリーナの魔道師としての心構えが気に入らないというものだが、マリアから見ればロシア人同士の軋轢に見えるらしい。
(都会人の師匠と片田舎出身のアナスタシア先生の、その差だったりして……)
なんて思うマリアだった。
「稲生君、もしロシアに用事ができて、一緒に行けるようになったらシベリア鉄道に乗せてあげるねー」
「えっ、本当ですか!?」
「“ロシア”号なんかいいかしら?」
「はい、是非!リアル“シベリア超特急”だ!」
「いや、別にSLが走ってるわけじゃないから……」
呆れながらも、荷物をコインロッカーに預けて、温泉施設に向かう3人の魔道師。
尚、例えばアメリカ人の大多数がニューヨークに行ったことも無ければ、場所すら知らないのは珍しいことではないらしい。
それと同じに考えるのであれば、もっと国土の広いロシアの国民がモスクワに行ったことも無ければ、場所すら知らないのも珍しいことではないのかもしれない。
イギリスもかつては世界各地に植民地を持っていたものの、それらを手放した今となっては、国土の狭い島国であることから、マリアの発想は日本人の稲生と似ているのだろう。
稲生達を乗せた快速“エアポート”号は、JR千歳線を走行している。
千歳線の運転系統としての起点は札幌、終点が苫小牧であり、これが本線である。
南千歳と新千歳空港は支線という扱いだが、実際には支線の方が賑わっている感がある。
まあ、本線は本線で特急“北斗”や“すずらん”が走っているので、けして寂しい区間ではないのだが。
南千歳駅を出た快速は、地下線へと入って行く。
JR北海道で唯一の地下トンネルである。
ん?青函トンネル?あれは海底トンネルだ。
「そろそろ先生を起こした方がいいな」
と、マリアが言う。
「そうですね」
稲生は立ち上がった。
イリーナの隣の席は空席のままであった。
自由席はだいぶ混雑しているようだが……。
「先生、先生。そろそろ着きますよ。起きてください」
指定席にはチケットホルダーが付いており、ここにキップを入れておけば、車掌に起こされることなく検札が終わる。
尚、今回は女性の車掌だったので良かったが、マリアのような者でも重宝しただろう。
「んー……?あー、着いたのね」
「今、第一場内信号を通過したところですから、もうすぐですよ」
先頭車にいるわけでもないのに、どうして信号を通過したことが分かるのだろうか?やはり魔道師だからか。
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終着、新千歳空港に到着致します。お出口は、右側です。お降りの際、車内にお忘れ物、落し物の無いようお気を付けください。指定席ご利用のお客様は、チケットホルダーのキップの取り忘れにもお気を付けください。本日もJR北海道をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕
抑揚の無い男声自動放送と比べれば、女性車掌の肉声放送の方が明るい。
そうしているうちに、電車は地下ホームに滑り込んだ。
〔「ご乗車ありがとうございました。終着、新千歳空港、新千歳空港。……」〕
ぞろぞろと乗客が降りて行く。
「それじゃ、アタシらも降りようかねぃ……」
「そうですね」
さすがに乗客が集中して、特にエスカレーター辺りはカオスと化していた。
それでも何とかエスカレーターに乗って、改札口まで行く。
ここでキップは回収されてしまう。
「それじゃ、上に行きますか」
「じゃ、チェック・インまで温泉と行くわけだね」
「そのつもりです」
「レンジャーがいなければいいが……」
「飛行機が欠航になる事態は勘弁ですよ」
「それは私の責任じゃないから」
「そうですけどねぇ……」
取りあえず、駅からターミナルに移動した。
するとそこで、意外な人物と出会う。
「クリスティーナ!」
大きなキャリーバッグを持ったクリスティーナの姿だった。
「マリアンナか。……と」
「やあやあ、クリス。久しぶりだねぃ」
「イリーナ……先生。御無沙汰してます」
「このコはクリスティーナ。あのクレアの弟子で、ジェシカの仲間だったコだよ」
「あの“魔の者”に殺された……?それは大変ご愁傷様でした。僕は稲生勇太。昨年4月、イリーナ先生に弟子入りした者です」
「ああ、“新卒採用”の……」
稲生が挨拶する為に近づくと、その分、クリスティーナは距離を取る。
マリアが稲生に耳打ちした。
「悪い。あいつもまた男嫌いだから、あまり近づかないでやって」
「あ、これは失礼!」
「いや、まあ……」
「それより、その荷物はこれから飛行機に乗るって感じだね。なに?サハリンにでも行くの?」
「はい。本当は明日の定期便に乗るはずだったんですが、急きょ、今日はチャーター便が出るので、それに乗る予定です」
「チャーター便?……ああ!」
イリーナは思い当たる節があった。
「アナスタシア組、サハリン州に大きなツテがあるからね。チャーター便出させるくらいの力はあるか」
「そうなんですか?」
「アナスタシア自身がサハリン出身というのもあるしね」
「へえ……」
「ということは、ここにアナスタシア組がいるということですね」
と、マリア。
「そういうことになるね。ま、邪魔しちゃ悪いから、アタシらは別の場所に移動しようか」
「はい」
クリスティーナと別れ、更にターミナルの奥へと進む。
温泉施設はターミナルの4階にあるが、まずは荷物をコインロッカーに預けようと思った。
「イリーナ先生はロシアのどこ出身なんですか?」
稲生が荷物をコインロッカーに入れながら、何気なく聞いた。
「レニングラード州」
イリーナがポツリと答えた。
「そうですか」
「それ、私も初めて聞きましたけど?」
と、マリア。
「この体の本当の持ち主の出身がね」
「いや、イリーナ先生自身のですよ!」
「教えなーい!因みにこの体の本来の持ち主、イシンバエワさんはペトログラードに住んでたんだって」
「師匠、今はサンクトペテルブルクって名前では?」
「あ、そうだっけ?」
「イギリス人の私が知ってるんですから、師匠が知ってなくてどうするんですか?」
「いやあ、ここ100年くらいレニングラードに行ってなかったから忘れてた」
「ひゃ、100年……」
とはいうものの、日本人の稲生にはサハリンの場所はパッと出ても、レニングラード州サンクトペテルブルク市の場所は全く出て来なかった。
ウィキペディアによれば、ロシアの首都モスクワに次ぐ第2の巨大都市であるらしい。
日本で言うなら東京に対して、京都や大阪みたいなものか。
アナスタシアがイリーナを嫌っているのは、表向きはイリーナの魔道師としての心構えが気に入らないというものだが、マリアから見ればロシア人同士の軋轢に見えるらしい。
(都会人の師匠と片田舎出身のアナスタシア先生の、その差だったりして……)
なんて思うマリアだった。
「稲生君、もしロシアに用事ができて、一緒に行けるようになったらシベリア鉄道に乗せてあげるねー」
「えっ、本当ですか!?」
「“ロシア”号なんかいいかしら?」
「はい、是非!リアル“シベリア超特急”だ!」
「いや、別にSLが走ってるわけじゃないから……」
呆れながらも、荷物をコインロッカーに預けて、温泉施設に向かう3人の魔道師。
尚、例えばアメリカ人の大多数がニューヨークに行ったことも無ければ、場所すら知らないのは珍しいことではないらしい。
それと同じに考えるのであれば、もっと国土の広いロシアの国民がモスクワに行ったことも無ければ、場所すら知らないのも珍しいことではないのかもしれない。
イギリスもかつては世界各地に植民地を持っていたものの、それらを手放した今となっては、国土の狭い島国であることから、マリアの発想は日本人の稲生と似ているのだろう。