報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「美し過ぎるガイノイド」

2016-02-23 21:13:53 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月24日09:00.天候:晴 東京都墨田区菊川・敷島エージェンシー 3号機のシンディ、敷島孝夫、初音ミク]
(通常版三人称です)

 ピンポーン♪
〔5階です。下に参ります〕

 シンディは敷島と共にマンスリーマンションを出て、事務所へと出社した。
 その間、敷島から今日の予定を聞く。
「それじゃ、今日はミクに同行して護衛を頼む」
「了解。今日はミクの予定を入力して……」
 エレベーターを降りて、事務所内へと入る人間1人とロイド1機。
 するとそこへ……。
「たかお社長!シンディさん!」
 パタパタとやってくるミク。
 手には今朝の新聞を持っている。
「おう!ミク、おはよう。どうした?」
「この新聞のコラムに、シンディさん達のことが書いてあるんですよ」
 ミクがいそいそと新聞を開いて、コラムを指さした。
 エメラルドグリーンの爪がキラッと光る。
「なに?確認させてくれ」
「ここです」
「あー、確かに私のことが書いてあるねー」
 シンディは屈むようにして、新聞を覗き込んだ。
 金髪が垂れたので、右手で髪をかき上げる仕草をする。
 コラムの内容はここ最近、バージョン・シリーズの不具合が多発していること、それによって多大な迷惑を被っているものの、それの尻拭いを行うマルチタイプ達が美し過ぎると巷で評判になっているというものだった。
「何を今さら……。マルチタイプの存在については、前々から認知されていただろうが」
 敷島は呆れた様子になった。
「バージョン1000の件があってから、シンディさん達、注目されてますよ?」
 と、ミク。
「この前なんかも、テレビ大東京に出演させてもらった時に、向こうのプロデューサーさんから、『シンディさんはテレビに出ないのか?』って聞いてましたから」
「私は用途外だからムリだね」
 シンディは首を横に振った。
「ところが、既に紙面的にはそうもいかなくなっているようです」
 今度はKAITOがやってくる。
 敷島エージェンシーでは、唯一の成人男性ボーカロイドである。
「紙面的には?」
「これは今日発売の週刊誌“ザ・チューズデー”ですが、既にここにシンディさんとエミリーさんが……」
「ああっ!いつの間に!?」
 そこにはシロクロ写真ながら、バージョン4.0を担ぎ出すシンディとエミリーの姿があった。
 ご丁寧にもエミリーの場合、スリットの深いロングスカートの隙間から覗いたビキニショーツの“パンチラ”まで写っている。
「シンディ、少し隠しておいた方がいいかなぁ……?」
 敷島は困ったような顔をした。
「何か、ゴメン……。社長がそうしろというのなら、しばらく私、倉庫の中に隠れてるけど?」
「あの、社長」
 そこへ事務作業ロイドの一海が話し掛けて来た。
 元はメイドロボット(メイドロイド)だが、用途変更で事務作業ロイドになっている。
 その為、メイド服ではなく、事務服を着ている。
「何だ?」
「週刊“ニュース野郎”さんから電話です。シンディさんの特集をしたいと……」
「いや、だから、シンディは表に出さないって」
「ですよねぇ……。じゃあ、お断わりの返事をしておきます」
「ああ、そうしてくれ」
 一海は保留にしている電話機の前に戻った。
 KAITOは、
「ですが社長、事態は深刻です。ボクもこの前、夕刊紙の取材を受けましたが、記者さんがしきりにシンディさんの方を気にしてましたから」
 と、深刻そうな顔をして言った。
「この件も平賀先生に聞いてみるか」
 敷島は溜め息をついた。
「いちいち平賀博士に聞かないとダメなの?」
「平賀先生がエミリーをどうするかにもよるだろう?俺が勝手にゴーサイン出して、シンディはそれで良くても、エミリーはダメかもしれない。そうなると、先生に迷惑が掛かる」
「なるほどね」
「俺はしばらく、社長室にこもることになりそうだ」
「……後でコーヒー持って行くね」
 シンディもまた小さく溜め息をついた。
「ミクの出発まで、まだ少し時間あるし」
「あ、あの!わたし、1人でも大丈夫ですよ。来月からは新しいマネージャーさんも付いてくれるようになりますし」
「ミク、社長が心配しているのは、ボーカロイドだってン十億円する代物なのよ?昔、危うくリンが“誘拐”されたことがあるって知ってるでしょ?」
「そ、それは……」
 ボーカロイドがとても高価であることを知った強盗団に、鏡音リンが連れ去られそうになったことがある。
 その時は見事、敷島と鏡音レンとで強盗団を追い詰め、リンを取り返し、犯人達も警察に突き出すことに成功した。
 しかし、リンは人間ではなかった為に、強盗団の罪状は『未成年者略取誘拐』の罪ではなかった。
 最初は窃盗罪での立件だったが、敷島達が追い詰めた際、強盗の1人が激しく抵抗し、それがレンの目(カメラ)を通してメモリー(映像)として記録されていたため、それが証拠になって強盗罪での立件が可能ということになった。
「ボーカロイドはその用途から、武力を一切持たないロイドでもあるんだからね。だから、武力を持つ私が護衛についてるわけよ」
「その辺、バージョンが代行してくれればシンディさんも楽なんでしょうが……」
 と、KAITOの言葉をシンディが完結させる。
「……余計な仕事が増えるのがオチだろうね。とにかくミク、社長にコーヒー入れたら、すぐに出発するよ」
「それには及びません」
「!?」
 今度はプロデューサーの井辺がやってきた。
「初音さんは私が同行します」
「いいの?MEGAbyteは?」
「MEGAbyteは途中まで、初音さんと一緒に私の車で向かいます」
「そう」
「……で、シンディさんには1つお願いがあるのですが」
「なに?」
 井辺は眉を潜めて、茶封筒を取り出した。
「これを……」
 シンディが受け取ると、そこに入っていたのは札束!
 もちろん、野口先生でも樋口先生でもなく、ちゃんと諭吉先生だ。
 100万円くらいある。
 だが、よく見ると、何だか落書きが全ての紙幣にされていた。
 会社の住所が書いてあったり、電話番号が書いてあったり……。
「何これ?どうしたの?」
「萌のイタズラです!金庫の中に入り込んで、何をやっているのかと思えば!」
「エヘヘヘ……」
「はあっ!?あんた、何やってんの!?」
 井辺の背中から、ばつの悪そうな顔をして、妖精型ロイドの萌が顔を出した。
「いやあ、名刺代わりに万券出したら、インパクトになるかなぁって……」
「大昔の成り金じゃないんですよ!今後は絶対にやめてくださいね!」
 いつもはクールな井辺も、さすがに憤慨した様子だった。
「この会社の金庫も、三重ロックの電気錠にしたら?」
「しかしそうなると、いざとなった場合、開けられなくなる恐れが……」
「その時は私が全力でこじ開けるよ」
「まあ、シンディさんがそう仰るのでしたら、検討させて頂きます。……おっと、それでシンディさんにお願いというのはですね……」
「ええ。このお札を銀行に行って換えて来てくれってことね」
「何しろ大金ですので、強盗に襲われた場合、大変です。シンディさんなら、人間の強盗は平気だと思いますので……」
「まあ、マシンガン食らっても私は平気だけどね」
「萌も責任取って、シンディさんに同行してください」
「えーっ!?」
「指示に従わない場合、しばらく瓶の中に入って頂くことになりますが?」
「シンディ、レッツ・ゴー!」
 萌は羽音を立てて、事務所の出入口に向かった。
「あいつは……!」
「申し訳ありませんが、引き受けて頂けないでしょうか?社長の命令ではありませんが……」
「ああ、いいよ。一っ走り行ってくるよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「ついでにエンジンオイルも、その金で買ってきていい?」
「どうぞ」
 ロイドが使用するオイルは、自動車のエンジンオイルと共用である。

 シンディと萌は事務所を出て、まずは最寄りの銀行に向かった。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする