報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第2章 「異界」 final

2016-07-06 11:25:05 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日04:00.天候:不明 某県霧生市・霧生電鉄霞台団地駅 プラットホーム]

 私達はついにこの地獄のようなトンネルから脱出する手段を得た。
 電車運転士の生き残りが、この駅に放置されている電車を使って脱出させてくれるという。
 その間、私はスコップを使って、トンネルの出口を塞いでいる土砂を何とか取り除けないか掘っていた。
 意外と土砂は柔らかく、なんかこのまま掘って行けば大丈夫そうな……?
「愛原さん!高橋さん!準備OKです!このまま行けそうです!」
 電車の中から阿部運転士が大声を上げた。
「おおっ!?」
 いつの間にか電車の連結器は切り離されている。
 前方の信号機もポイントを切り替えられたおかげで、『進行』を現示していた。
「先生、早く電車に!何か、蜘蛛共が結構押し寄せている感じです」
「マジか!」
 高橋が最後の一匹を倒すと、トンネルの向こうから何かがやってきた。
「な、何だ!?」
 すると、新手の蜘蛛を連れてやってきたのは、それらの蜘蛛よりもっと巨大な蜘蛛だった。
 これまで相手にした蜘蛛が軽自動車やコンパクトカーくらいの大きさだったのだが、その巨大なクモは大型ダンプカー並みの大きさであった。
「先生!どうやら、あれが蜘蛛のボスのようです!」
「なにぃっ!?」
「どうやら手下が俺達にやられたもんで、やってきたんですよ、多分!」
「何だと!?あれ、ショットガンで倒せるか!?」
「やってみなきゃ分かりませんよ!」
「待て、高橋!」
 高橋はロッカールームで拾った猟銃(ショットガン)を手に、ボス蜘蛛に立ち向かっていった。
「阿部さん、このままこの電車で突撃……って、あれ?」
「む……ムリです……」
 阿部は運転席の下にうずくまってしまった。
「“Gynoid Multitype Cindy”の敷島孝夫は、バスで殺人ロボットに特攻したんですよ!」
「ムリです……ムリです……」
 こりゃダメだ。
 あのボス蜘蛛を倒さないと、阿部運転士は電車を出してはくれないようだ。
 私は自分のショットガンを持って、高橋の応援に行こうと思った。
 だが、事態は更に悪化する。
 その原因は……まあ、私だ。
「ああっ!?」
 トンネル出口を塞いでいた土砂が更に崩され、そこから……。
「アァア……!」
「オォォ……!」
「ウゥウ……ッ!」
 高架線を歩いて来たと思われるゾンビの集団が入ってきてしまった。
 奴らは体が腐敗していることから、線路からホームに這い上がることはできない。
 なのでこの電車を襲うこと自体はできないだろう。
「くそっ!」
 私はボス蜘蛛ではなく、このゾンビ達を対処しなければならなくなった。
 幸い、ホームの上から狙い撃ちすれば良いので、楽と言えば楽だが……。
「食らえ!殺虫スプレー!」
 高橋は殺虫剤をボス蜘蛛に吹き掛けているが、果たして効いているか?
 ……効いてはいるようだが、巨大過ぎる為になかなか倒れてくれない。
 と!

〔ポロロローン♪ まもなく2番線に、電車が参ります。危ないですから、黄色い線の内側までお下がりください〕

「はあ!?」
「なにっ!?」
「!?」
 反対側のホームに、どういうわけだか電車の接近放送が流れた。
 で、私がトンネルの外の方に目をやると、
「ありゃ!?マジで電車が!?高橋君!何か、電車が来るぞ!ホームに上がれ!」
「!!!」
 電車のヘッドライトが近づいて来た。
「な、何だ!?スピード出し過ぎだぞ!」
 阿部運転士も運転席の窓から顔を出していた。
 高橋が1番線ホームに上がるのと、阿部運転士がスピード出し過ぎだという電車が突入してきたのは同時だった。
 一瞬だけ見えたのだが、運転席にいた運転士はゾンビ化していた。
 暴走電車は線路の上を歩いていたゾンビ達や小グモを次々と轢き殺しながら、線路のど真ん中にいたボス蜘蛛に特攻した。
 ボス蜘蛛はスピード出し過ぎの暴走電車から逃げることができず、まともにその攻撃を受け、体液を吐き散らしながら悶え苦しみ、やっと動かなくなった。
「電車TUEEEEEEE!!」
 たまたまホームの上にいた小グモがいたが、それは残った殺虫剤を吹き掛けて殺しておいた。
「阿部さん、これで電車が出せますね!?」
「は、はい!」
 私と高橋は電車に乗り込んだ。
 阿部運転士は運転台のスイッチを操作して、1番前の電車のドアを閉めた。
「A線出発、進行っ!制限、35!」
 阿部運転士がハンドルを操作すると、電車はVVVFインバータの音を響かせてようやく発車した。
「次の電車をお待ちください。……もう来ないけどw」
 私がそう言ったのは、再びコンコースからの階段を下りて来るゾンビ達がいたからだ。
 わらわらとやってきたのだが、どうやらやっと駅の入口がゾンビ達によってブチ破られたらしい。
 だが、もう電車はこの通り出発だ。
 電車は暗闇のトンネルの中を突き進む。
 ヘッドライトの明かりだけでは、何とも心許ない。
 ポイントを渡って、電車はやっと左側の線路に入ることができた。
「制限、解除!進行!」
 電車は更に加速を始める。
 途中で線路の周りに藁みたいなものが散乱していたのだが、これは一体何なのだろうか?
「これで大山寺まで行って、お寺の境内の裏手に向かってヘリコプターで町を脱出だな」
 私は電車の座席に座って、ホッと一息ついた。
「そうですね」
 高橋もその隣に座る。
「先生、これを……。駅の自販機から頂戴してきました」
「おっ、気が利くな」
 私は高橋からペットボトルの水をもらって、一気に半分くらい飲んだ。
「高橋、体の方は大丈夫か?」
「はい。今のところ、痒みも熱っぽさもありません」
「よし」
 とはいえ、今まで化け物達からの攻撃を受けなかったわけではない。
 私は駅で頂戴した救急スプレーなどを使い、更に傷の手当を行った。

 電車は何も無い暗闇のトンネルを突き進む。
コメント (2)
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“私立探偵 愛原学” 「探偵のバイオハザード編」 登場キャラクター紹介

2016-07-06 10:13:52 | 私立探偵 愛原学シリーズ
 物語を始める前に、クリーチャーや登場人物の紹介を致します。

(人間)

 高木巡査長:

 警視庁江東警察署(架空の警察署)刑事課所属の男性警官。年齢は30歳前後。
 江東警察署管内で起きた殺人事件の捜査で、上司と共に霧生市内にいたところを“異変”に巻き込まれる。
 捜査線上に愛原達が食事していたレストランが浮かび上がり、そこに潜入していた時、ゾンビの襲撃を受ける。
 尚、レストラン潜入時は上司が別行動していた為、上司の安否は不明。
 ゾンビの襲撃に立ち往生し掛かっていた愛原と高橋を救出し、共にレストランからの脱出を図る。
 その後、地元警察と合流して郊外の霞台団地へ向かうも、運転していた巡査がゾンビ化し、パトカーが暴走。
 ガソリンスタンドへの激突事故に巻き込まれ、殉職した。

 長谷川駅員:

 霧生電鉄霞台団地駅の男性駅員。
 後述する阿部運転士とは同期らしい。
 霧生電鉄は基本的にワンマン運転なので、専任の車掌はいない。
 駅員が車掌の資格を取って、駅業務の傍らラッシュ時の4両編成に車掌として乗り込んだり、運転士が車掌業務を務めることもある(むしろ地方ではこの業態が多く見られる)。
 阿部とは動機らしい。
 阿部と共に異変の最中、駅構内に立て籠もっていたが、先にゾンビ化。
 完全にゾンビ化する前に阿部に殺され、仮眠室の浴槽に沈められたが、それでも死にきれず、“赤鬼”(クリムゾンヘッド)となって愛原達に襲い掛かる。
 即席火炎放射器(ライターとヘアスプレー)によって焼き払われ、ようやく死亡した。
 生前は日記を書くのが日課であり、ゾンビ化直前まで日記を書いていた。
 その為、愛原達に人間が生きながらゾンビになるまでの過程を知らしめた。

 阿部運転士:

 霧生電鉄の運転士。
 先述した長谷川駅員とは同期らしい。
 元は霞台団地駅の駅員だったため、駅の構造を熟知している。
 職員の中で最後まで生き残ったこともあってか、人間がゾンビ化する兆候を知っていた。
 一緒に立て籠もっていた長谷川駅員がゾンビ化した為、殺害し、仮眠室の浴槽に沈める。
 自身は駅事務室のホワイトボードに書き置きを残して、まだゾンビ達に占拠されていない休憩室に立て籠もる。
 電車運転士というジョブスキルを生かして、駅構内に放置されている電車を動かし、愛原達と共に霞台団地駅を脱出しようとするが……。

(クリーチャー)

 ゾンビ:

 町に起きた“異変”によって生きたままゾンビ化した市民達の成れの果て。
 生きたままゾンビ化するわけだから、いきなりそうなるのではなく、その前に何らかの兆候があるもよう。
 高木巡査長の発言や長谷川駅員の遺した日記によれば、全身に痒みが発生し(生きているのに肉体が腐敗し始めるからか)、また高熱が発生する。
 現在のところ、もうこの症状が発生すればゾンビ化確定らしい。
 ゾンビ化してしまうと、正に映画のゾンビみたいに、ただ食欲だけに駆られ、生きている人間の血肉を求めて彷徨い歩く。
 痛覚などの感覚が失われているのか、ハンドガンの弾を数発撃ち込まないと倒れない。
 尚、頭に上手く撃ち込めば一発で倒れるようだ。
 噛まれたり引っ掛かれたりした者もまたゾンビ化するらしく、その為、町中にゾンビが溢れ返る事態となった。
 愛原や高橋もまたゾンビからの攻撃を受けてしまっているが、今のところ、まだゾンビ化の兆候はどういうわけだか無い。

 ゾンビ犬:

 町の“異変”に巻き込まれた犬。
 愛原達が遭遇したのはドーベルマンなどの大型犬である。
 人間のゾンビと違い、生前の俊敏性は損なわれておらず、そういった意味では人間のゾンビよりも手ごわい。

 カラス:

 町の“異変”に巻き込まれたカラス。
 ゾンビの死肉を啄んでいるうちに自身も感染したが、鳥類にあっては生前の姿形はそのままで、凶暴性と肉食性が増すだけらしい。
 その為、鳥類をゾンビと呼ぶのが適切かどうかは怪しいところ。

 ジャイアント・コックローチ:

 霞台団地駅で後半から登場するゴキブリの化け物。
 これも町の“異変”に巻き込まれて巨大化したものと思われる。
 虫類にあっては、巨大化しただけで、それ以外はそんなに変わらないようである。
 まだ徘徊していた人間のゾンビをエサと認識し、食らい付く。
 その為、後半部にあっては愛原達はほとんどゾンビと交戦することはなかった。
 但し、同じく巨大化した蜘蛛には勝てず、彼らからの捕食対象となっている。
 字数の都合で紹介されていないが、阿部はこのゴキブリと遭遇しており、殺虫剤を吹き掛けてやったら、ちゃんと効いたとのこと。

 ジャイアント・スパイダー:

 ゴキブリと同じく、霞台団地駅の構内に後半部から現れる蜘蛛の化け物。
 トンネル内に潜むクリーチャーの中で、捕食者の頂点に立つ。
 町に異変が発生した当初は、まだ30cmくらいの大きさで臆病な性格だったらしいが、体の大きさを生かしてエサを多く取れるようになったり、町の異変が進むにつれて更に体が大きくなったことから、ついには人間も捕食の対象としてしまう。
 尚、長谷川駅員がゾンビ化した理由に蜘蛛に噛まれたことと日記に記載されていたことから、彼らもまた人間がゾンビ化した理由と同じ理由で巨大化したものと思われる。
 第2章「異界」では、これよりもっと大きな蜘蛛のボスが大ボスとして愛原達の前に立ちはだかる。
 網を張らないことから、愛原は元々網を張らない徘徊型の蜘蛛、アシダカグモが正体ではないかと見ている。
 確かにアシダカグモの好物はゴキブリであるものの、物語に登場する蜘蛛の足はそんなに長くないことから、元々はオニグモやジョロウグモだったものが巨大化したと思われる。
 巨大化するに当たって造網は却って効率が悪くなり、自分で歩いてエサを取る方が効率的であると知った蜘蛛が網を張るのをやめただけだとも考えられる(実際、アシダカグモやタランチュラなどの大型の蜘蛛は網を張らない)。
 尚、巨大化する過程で、まだ造網の習性は残っていたのか、大ボスが潜んでいたと思われるトンネル内には蜘蛛の巣の残骸があちこちに散らばっている(蜘蛛の糸特有のネバネバは無い為、電車が絡め取られることはない。巨大化の過程で、ネバネバが無くなったと思われる)。
 大ボスは小グモに命じて、エサを取らせていたようだ。
 小グモが愛原達にやられているのを知り、ついに巣から出て来て愛原達の所へ向かってくるところで、大ボス戦となる。
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