報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第3章 「叫喚」 final

2016-07-16 21:08:32 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日12:30.天候:曇 新日蓮宗大本山・興雲山大山寺 大本堂]

 私達は重厚な門扉の横の通用口から、大本堂の中庭に入った。
 空にはどんよりとした雲が広がっており、真昼のはずなのに、月明かりの夜よりも却って不気味だ。
 異変前は多くの信者達が行き交ったであろう正門から大本堂までの石畳も、今では誰もいない。
 ゾンビもいないし、ハンターもいなかった。
 だけど、これだけは言える。
 さっきのヤモリだかカメレオンだかの化け物(後に分かったことだが、アメリカでも似たような個体があったらしく、そこでは“リッカー”と呼ばれていたそうだ)が逃げ込んでいるだけに、恐らく奴らが待ち構えているだろうと……。
 私は浅井主管の死体の中から出て来た鍵を手に、それを同じく重厚な鉄扉の鍵穴に差し込んだ。
 案の定、それは開いた。
「ここまで来たら、もう後には引けないぞ。準備はいいか?」
「OKです!」
「私も。……いざ、地獄の間へ」
 鉄扉を開けると、まだ大本堂の空間ではなかった。
 更に奥に、また別の頑丈な扉があった。
 寺宝を保管している蔵とはいえ、随分と厳重なものだ。
 もう1つのドアは鍵が掛かっていなかった。
 そーっと開けてみる。
「わぁ……!」
 広さは体育館より一回りや二回り大きいくらい。
 まるで劇場のような座席がずらっと並んでいて、それが正面を向いている。
 ステージの上には固く閉ざされた鉄製の鎧戸があった。
 恐らく、あの中に寺宝とやらが保管されているのだろう。
 入口には『今度の御開帳日』とか書かれていたので、信者から拝観料でも取って、特別公開しているのだろうか。
 照明が点いていた為に、中の様子が手に取って分かった。
「……おっと!思わず見とれたが、恐らく反対側の非常口に出るドアはあそこだな」
 私はステージの両脇にあるドアを指さした。
 実際に非常口誘導灯が点いていることから、外に出られるようになっているはずだ。
「先生、急ぎましょう」
 高橋が先走ろうとする。
「ま、待てっ!」
 私はそんな高橋の腕を掴んで制止した。
 何だか、嫌な予感がしたのだ。
「!!!」
 その時、高橋が駆け出そうとした先に、あの触手のようなものが床に突き刺さった。
 もし私が制止しなかったら、高橋は頭から体を突き刺されていたかもしれない。
「やっぱり出たね!」
 高野氏がライフルではなく、ショットガンを天井に向けた。
 天井には、あのトイレで会った化け物が張り付いていて、触手のような長い舌を出していた。
 それがバッと床に飛び降りて来る。
「やっぱり出たか!」
 高野氏はその化け物に向かって発砲する。
「また出たぞ!」
 すると、それに呼応するかのように、通気口からその化け物が5〜6匹は出て来た。
「多いぞ!?」
 私はジョージの形見であるマシンガンを構えて、引き金を引いた。
「おわっと!?」
 勢い良く連射されるマシンガン。
 思わず反動で仰け反りそうになり、且つマシンガンを落とすところだった。
「シャァァァァァッ!!」
 私は天井や壁に張り付いていたそいつらにマシンガンの弾を当てて、床に落とした。
 だが、床に落ちたら落ちたで、ピョンピョンとカエルのように跳ねてこちらに向かってくる。
「うわぁっ!!」
「高橋君!?」
 高橋がそのうちの一匹に飛び掛かられた。
「何やってんの!!」
 高野氏がショットガンで高橋に飛び付いたヤツに弾丸を撃ち込む。
 幸い高橋は舌で串刺しにされることなく、化け物を屠ることに成功した。
「高橋君!急いで先に行くんだ!」
「先生!?」
「先にヘリポートに行って、信号弾を撃て!」
「で、でも、先生!」
「ボサッとしてないで、さっさと行って!」
 高野氏も叱咤するように高橋に叫ぶ。
 幸いこの化け物もまた、そんなに速く移動できないようである(※メディアによって違う。実写映画“バイオハザード・アポカリプス”では、目にも留まらぬ速さで移動する描写がある。ゲーム版ではゾンビよりやや速い程度)。
「わ、分かりました!」
 その時、私は化け物達を見てふと思った。
「高橋君!ジグザグに行けっ!」
「は!?」
 私も後から追う。
 座席の間の通路を真っ直ぐ行くのではなく、折りたたまれた座面の間も通ってジグザグに移動するのである。
 気づいたのだが、あの化け物はカメレオンのような舌を持っている。
 それって確か、真っ直ぐにしか伸ばせないはずだ。
 案の定、ジグザグに走る私達に対し、化け物は舌攻撃ができなくなった。
 斜めや横に舌を出せればいいのだろうが、口の向きに対して真っ直ぐに舌を伸ばすしかできない為、横方向にジグザグに動く私達に対して舌攻撃ができないのである。
「シャァァァァッ!」
 だが、こちらの化け物も少しの知性はあるのだろうか?
 舌を伸ばして攻撃できないと分かるや、ジャンプして私達の前に先回りして来やがった!
「先生!」
「ヤモリの化け物のくせに、ピョンピョン飛びやがって!」
 後になって分かったことだが、この化け物達は元々はゾンビで、それがこの化け物に変化したものらしい。
 それでも一匹ずつ倒して行きながら、ついに私達はステージ横の扉の前までやってくることができた……と、思いきや!?
「逃ガサナァァァァァイ!」
 ドアの上の通気口の金網をブチ破って、ある者が出て来た。
「で、で、出たーっ!」
 私はびっくりして尻もちを付くほどだった。
「よ、よ……妖怪“逆さ女”だーっ!」
 そう言ったのは、その化け物は人間の女の面影を残し、そしてまるで浅井主管のような喋り方だが、喋ることができたからだ。
 体の色は後ろから追ってくる化け物達が土気色なのに対して、“赤鬼”ほどではないが、赤く紅潮した色だった。
 私が何故か頭に浮かんだその化け物の名前を“逆さ女”にしたのは、正しく通気口からぶら下がって逆さまになっている様からだった。
 どうやらこの女の化け物、ここの化け物達のボスらしい。
 現れると、一気に私達を取り巻いた。
 取り巻いただけで、攻撃してこなくなった。
 だが、取り囲まれたことで、退路を断たれてしまった。
 しかも、ある程度の距離を取っている。
 何故か?
「うわっ!?」
 大ボスもまた、口から長い触手のような舌を出してくるのだが、その長さがハンパ無かった。
 取り巻きの化け物達が5メートルくらいだとするならば、この女ボスは20メートルくらい伸ばしてきやがる!
 私は咄嗟に、頭の中に選択肢が浮かんだ。

 1:ボスに向かってマシンガンを連射する。
 2:取り巻きの化け物を排除する。
 3:ボスの下を潜り抜ける。
 4:何もしない。

「わあああああっ!」
「先生!?」
 私は何を思ったか、咄嗟にボスに向かって走り出した。
 スルスルスルと伸ばした舌を収納するボス。
 そして今度は私に向かって舌を伸ばそうとするが、
「あれ!?」
 私はボスの下を潜り抜けることに成功した。
 ボスはどうやら背後の気配を全く感じることができないらしく、まるで私が消えたかのような錯覚になったらしい。
「オ前ダァァァァァァッ!!」
 私のことは諦めたのか、
「きゃああああっ!?」
 今度は高野氏に長い舌を伸ばした。
 右足首を絡め取られ、逆さ吊りにされる高野氏。
 スカートならめくれてたのに。ちっ!
「放せ!!」
 私は背後から“逆さ女”に向かってマシンガンを連射した。
 だが、確かに血は飛び散るものの、あまり効いていなさそうだった。
「ココカァァァァァッ!?」
 それでようやく私が背後にいたことに気づいたらしい。
 高野氏だと用済みとばかりに、ポイッと放り投げてしまった。
「高橋君!キャッチしろ!!」
「は、はい!」
 高橋は軽い身のこなしで椅子の上に飛び上がった後、取り巻きの化け物の一匹の背中に着地して高野氏をキャッチした。
「シャァァァァァッ!」
「グワァァァァァ!!」
 取り巻きの化け物達は高橋達に襲い掛かったが、何ぶん近過ぎて舌が出せない状態。
「どけや、コラァッ!!」
 高橋は高野氏を降ろすと、手持ちのコルトパイソンで“逆さ女”の頭を撃ち抜いた。
 体は頑丈だった“逆さ女”も、他の化け物達と同じく、頭を撃ち抜かれれば弱かった。
 通気口からぶら下がっていたのが床に落ち、どうやら絶命したようだ。
 残る取り巻きの化け物達が襲って来るかと思いきや、まるで蜘蛛の子を散らすかのように右往左往している。
 まさか自分達のボスがやられるとは思わず、パニックになっているのだろう。
「今のうちだ!」
 私達は裏口へ通じるドアへ飛び込んだ。

 すぐに大本堂の外へ飛び出す。
 ヘリポートは目と鼻の先にあった。
「高橋君!早く信号弾を撃つんだ!」
「分かりました!」
 高橋は背中に背負った信号弾をヘリポートの上に降ろすと、信号弾の打ち上げを行った。
「離れて!」
 信号弾が空高く飛び上がる。
 これで果たして、ヘリが来てくれるかどうか……?
「ヘリだ!ヘリの音がするよ!」
 高野氏が叫ぶ。
「おおっ!?」
 すると、確かにこちらに向かってくるヘリコプターがいた。
「やったやった!助かったぞ!」
 一応、高橋が発煙筒を一本使う。
「おーい!こっちだ!こっちーっ!」
 そして、上空のヘリコプターに向かって発煙筒を振った。

 ……ヘリコプターはUBCSのものだったらしい。
 既に生存者を何人か乗せていた。
「おい、あそこ!あそこにも生存者がいるぞ!」
「本当か?ゾンビじゃないよな?」
「大丈夫だろう。さっきの信号弾といい、今、発煙筒が焚かれてることといい、ゾンビにそんなことができるわけないから、ちゃんと生きてる人間だと思われる」
「よし、ならば降下!」
 パイロットはヘリを降下させた。
 と、その時だった!
「ウウウウウッ!」
「ワアアアアアッ!」
「わあっ!?な、何をする!?」
 生存者達がパイロットと副操縦士に襲い掛かった。
「大変だ!生存者達がゾンビ化しやがった!」
「く、くそっ!は、放せっ!やめろぉっ!!」

 ヘリポートから上空を見上げていた私達は、ヘリコプターの様子がおかしいことに気づいた。
「お、おい!何か、ヘリがフラついてないか!?」
「本当ですね?別に、強い風が吹いてるわけでもないのに……」
「ってか、逃げよう!あれ、墜落するパターン!!」
「なにいっ!?」
 高野氏の言う通りだった。
 私達は急いでヘリポートから離れた。
 と、同時にヘリコプターが物凄い勢いで、ヘリポートに激突し、そして、爆発・炎上した。

 そ……そんな……。ひどいよ……。やっと……助かると思ったのに……。
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