報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第4章 「記憶」 8

2016-07-22 21:12:36 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月28日03:00.天候:不明 アンブレラコーポレーション・ジャパン 霧生開発センター]

 私は警備室をあとにすると、4階の女子トイレへと向かうことにした。
 あのマニュアルを見る限りでは、私はリサ・トレヴァーこと、“トイレの花子さん”には勝てないだろう。
 高橋も高野氏もいなくなってしまった。
 ここから脱出することは、もう無理なのかもしれない。
 私も、この研究所内を徘徊する魔物達の糧にならなくてはならないのかもしれない。
 ここまで来ておいて、それは無いよと思う。
 だが、状況は状況だ。
 はっきり言って、私は追い詰められている。
 だが、このまま座して死を待つよりは、せめて彼らに一太刀浴びせてやりたい気がした。
 彼らが、どれだけの時を生きるのかは分からない。
 だが長い年月を掛けて尚、私という人間が目の前に現れたという記憶を刻みつけてやろうではないか。
 それが高橋と高野氏への、せめてもの追善供養ともなる。

 私はエレベーターを1階に呼び戻した。
 するとまた、モニタにクイズが表示された。
 これに答えないと、エレベーターには乗れない。
 ハズレてもエレベーターには乗れるが、化け物襲撃の罰ゲームが待っている。

『東京駅八重洲南口〜富士宮・大石寺間を運行するバス会社は次のうち、どれ?』
『1:富士急平和観光 2:富士急静岡バス 3:富士急シティバス 4:富士急山梨バス 5:富士急湘南バス 6:フジエクスプレス』

「は!?えーと……富士宮市って静岡県だよなぁ……。いや、1は貸切観光バス専門だろ?えー……ってことは、山梨とか湘南は無いだろ。えー……」
 私は2を押した。
 静岡県だから、それだという直感だ。

 ピンポーン♪
 ガラガラガラガラ………。

「あ、当たった……」
 私はエレベーターに乗り込み、4階のボタンを押した。
 そして、荷物兼用の大きなエレベーターの大きなドアが閉まる。
 が、何故か動かない。
「あれ!?」
 私はちゃんとボタンを押した。
 ドアもちゃんと閉まった。
 なのに、何故か動かない。
「あ、あれ!?おーい!」
 私は開けるボタンを押したが、ドアが開かなかった。
「う、ウソだろ……!?」
 私がエレベーター閉じ込めによるゲームオーバーを覚悟した時だった。
 ガクン!と大きく揺れて、エレベーターが動き出した。
 良かった。やっと動いた。
 だが、何かおかしい。
 昇っている感じがしない。
 階数表示が何故か、無いはずの地下階を表示している。
 どういうことなんだ!?
 所内の見取り図では、地下1階から下なんて無いはずなのに!
 当然、エレベーターのボタンにも地下1階から下は無い。
 それなのに、エレベーターはまるで最初からそれがあるかのように、地下へ下りて行った。

 そして、到着する。
「!?」
 エレベーターを降りると、そこは素掘りの空間があった。
 たまにコンクリートが吹き付けてあるくらい。
 まるで、トンネル工事の現場かと思うような雰囲気だった。
 照明は薄暗く、工事現場にあるような仮設の照明器具が素掘りの壁に掛けてあるだけ。
 ここは一体……?
 私はマシンガンを構え、ゆっくりと警戒しながら進んだ。
 私は明らかに、ここに呼ばれている。
 もちろん、それが誰なのかは容易に想像が付く。
 “トイレの花子さん”が動き出したのだ。
「はっ!?」
 角を曲がると、人影を見つけた。
 それは、あのタイラントだった。
 タイラントが私に背を向けてしゃがんでいる。
 そしてその傍らには……。
「高橋君!?」
 高橋が仰向けに倒れていた。
 当然ながらタイラントが私に気づいて立ち上がり、土気色の顔からニィッと歯を見せてニヤついた。
「た、高橋を返せ!!」
 私はマシンガンを構えた。
 だが、タイラントは全く怯むことなく、私にゆっくりと向かって来た。
「くそっ!」
 タイラントに向けて発砲する。
 まるで昔の足踏み式ミシンのような、タタタタッという音が銃口から発せられる。
 これが通常の人間なら蜂の巣間違い無しだろう。
 美味しい蜂蜜は取れないが。
 しかしタイラントは、まるで子供から小粒の砂利を投げられているだけかのように平然としていた。
 効いていない!?
 そして、ついに私は弾を撃ち尽くしてしまった。
 それを確認するとタイラントは、また私に背を向けて、今度は少し速めに高橋の所へ向かった。
 そして彼を抱え起こすと、ヒョイと持ち上げ、目の前の鉄扉を開けた。
 ただの鉄扉ではない。
「お、おい!まさか、それは!?」
 焼却炉であった!
 タイラントは焼却炉の中に高橋を放り込むと、一気に扉を閉め、焼却炉のスイッチをONにした。
「わあああああああああっ!!」
 私は急いで高橋を助ける為に、焼却炉へ走った。
 だが、
「!!!」
 タイラントが左手で、そんな私を弾いた。
「わああっ!」
 凄い衝撃だ。
 私は軽く飛ばされ、地面に叩き付けられた。

 もう……これまでか………。
 タイラントが………ゆっくりと近づいて来る音が聞こえて来る……。
 私もまた、ヤツに捕まって、焼却炉に投げ込まれてしまうのだろうか……?
 それともまた違う、別の処刑をされるのか………。
「ん!?」
 その時、仰向けになり、焦点の合わない目をしている私の視界が上半分ほど遮られた。
「くすくすくす……」
 そして、頭上から聞こえて来る女の子の声……。
 私の視界の上半分は、彼女のスカートの中だった。
 僅かに白いショーツが見えている。
 彼女が少し下がって、私の顔を覗き込んできた。
 彼女の顔には、白い仮面が着けられていた。
 目の部分に2つの細長い穴が付いているだけの仮面。
 何てこった……。
 私はタイラントとリサ・トレヴァーに、捕まってしまった。
 もう、死ぬしかないのか……。
 薄れ行く意識の中、私の頭の中にこんな会話が聞こえて来た。

「どうしますか、お嬢様?私がこのまま始末しましょうか?」
「………から。あなたは…………して……………それから、……………して」
「かしこまりました………」
コメント (5)
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