報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第4章 「記憶」 final

2016-07-25 20:55:13 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月28日06:40.天候:晴 アンブレラコーポレーション・ジャパン 霧生開発センター]

 ついに丸腰のまま対峙することになったタイラントとリサ・トレヴァー。
 しかし、彼女らは私をすぐに殺そうとせず、何故か私を質問攻めにしてきた。
 そして、
「あなたは今、殺されると思っている?」
「……殺されそうだけど、でも、なるべくなら死にたくないよ」
 すると彼女は、両手を自分の白い仮面に添えた。
 自分から仮面を取り外そうとしているようだ。
「ウガ……!」
 するとタイラントがそれを止めるかのように、身を乗り出し、リサ・トレヴァーに手を伸ばした。
「いいの!……放っといて」
「…………」
 やはりこのタイラントはリサの言う事を聞くようだ。
 タイラントはリサに言われて、手を引っ込めた。
「あなたは私の顔を見てみたい?」

 1:見てみたい。
 2:見たくない。
 3:どちらでもない。

「……違うな」

 4:キミに任せる。

「キミに任せるよ」
 少し投槍だったか。
 もしかして、機嫌を損ねてしまったかも。
 だが、彼女は手を止めて、しばらく何か考えているようだった。
「あのノートは見てくれた?」

 1:見た。
 2:見てない。
 3:何のノート?

「医務室にあったノートだね。見たよ」
「私が化け物だってことは知ってるね?」
「……何とも答えようが無いな。見た目だけ見ると、キミはまだ『不思議ちゃん』の領域から出てないよ」
「私はもうオバさんなの。だけど、体はこの通り。化け物でしょ?」
「それなら、やっぱり顔を見せてもらってからということになるかな。少なくとも、服から出ている手足だけ見れば、中学生か高校生くらいの女の子って感じだけど?」
 そう。
 それはとても艶やかな10代の少女だ。
 とても、私より年上とは思えない。
「この町で何が起きたか、知ってる?」
「パニックホラー映画みたいになってるね。ゾンビやその他の化け物が町中を闊歩し、俺達生きている人間に食らい付く」
「その犯人が私達だとしたら?」
「何だって?」
「日記を見てたら、分かるでしょ?私の名前……リサ・トレヴァーは本名じゃないの。本名は私も覚えていない。多分、記憶を消されたんだと思う。だけど、このリサ・トレヴァーという名前の人……本物がどういう運命を辿ったのかは私も聞いてる。幸い、ここの研究所の人達は優しかったから、アメリカの本物のリサ・トレヴァーよりは幸せだったんだと思う」
 そんなことは無いな。
 こんな無機質な研究所に何十年も閉じ込められて、幸せだとは思えない。
 但し、あくまでも実験動物的な扱いをされたアメリカのリサ・トレヴァーと比べれば、まだ少しだけ人間扱いしてくれたというだけのことだ。

 真相はこうだ。
 アンブレラコーポレーション・ジャパンが、既に経営破たんしたアメリカの本体で作られていたクリーチャーやゾンビウィルスを隠し持っていることが国にばれてしまった。
 何でも、そういったバイオテロ対策を行う世界機関が存在して、そこのエージェントが突き止めたらしい。
 もちろんアンブレラもそれに気づき、急いで証拠隠滅を図ろうとした。
 霧生電鉄の駅員が書いた日記にあった貨物電車の運行も、それによるものであった。
 その為、こっちのリサもタイラントも処分されることとなった。
 因みにタイラントがリサの言う事を聞くのは、何もそういう設定をされたからではない。
 リサよりも実験体として虐げられていたタイラントを、リサが慰めていたからである。
 アメリカのものよりも知性が付いていたタイラントは、リサを逃がそうと、実験施設で大暴れ。
 その際に、保管されていたウィルスが漏れてしまった。
 研究員達は急いで隔離を行ったが、既にウィルスに感染した害虫や害獣達が街中に行ってしまった。
 リサ達は研究員達がほぼ全滅したことを知ると、あえて脱出ではなく、ここに留まることにした。
 その理由は……。

「私は……私もだけど、そこのタイラントも死にたくなかったんだよ。あなたは私達に殺されると思ってるだろうけど、私達もそんな思いをしたの……」
 すると、頭の中に男の声が響いて来た。
 それは呻き声や唸り声しか上げられないタイラントが発しているようだった。
「私の能力の1つだ。まだ、ここの研究員達は気づいていなかったがな。……彼女は私と違い、元々普通の人間だった。大量の且つ何種類ものウィルスを投与され、不老不死の化け物になっても尚、殺されれば死ぬのだ。哀れだと思わんかね?」
「かわいそうだと思う。だけど、俺の仲間まで殺して欲しくはなかったな。俺達はキミ達を殺しにきたわけじゃない。ただ単に、この町から出たかっただけなんだ」
「…………」
「キミが元は普通の人間だということは、あのノートを見て知ってるよ。キミのご家族は?いくらキミの実際の年齢が私より上だとしても、まだ御両親とかは生きてらっしゃるんだろう?」
「……記憶が無い。どうせ生きていない」
「記憶が無いからって、どうしてそう言い切れるんだ?」
 リサは割れた窓に視線をやって言った。
「あいつらは、いつもそうしてきた。さらわれて来た人間の女の子は、私だけではなかった」
「ええっ?」
「皆、実験体にされた。そして……皆、死んだ。化け物になっても尚、生き残ったのは私だけ……。リサ・トレヴァーという名前を付けられたのも、それが理由だよ」
「で、でも……」
「私、昔聞いたことがある。実験体をただ1人さらってくるのではなく、少なくとも一家心中に見せかけて殺すだとか、通り魔の犯行にさせるだとかね……。東京でも昔、一家全員が殺された事件があったんだって?」
「あったかな、それ……」
「あれもこのアンブレラのしわざだから」
「な、なに……!?」
「だから、私の両親も死んでるはず」
「まだ分からないよ。俺が探してやる!」
「……?」
「俺はこう見えても、東京で探偵やってるんだ。ほら!」
 私はそう言って、名刺を差し出した。
「この町に来たのだって、探偵としての仕事の依頼を受けて来たんだ。行方不明人の探し出しだって、探偵の仕事さ。俺がやってやる。例え死んでいたとしても、お墓くらいあるだろ?それを探してやる!だから、俺と一緒に来い!一緒にこの町を脱出しよう」
「……ありがとう。でも、私はこの町からは出られない」
「どうしてだ……?」
「この町の人達を大勢殺してしまった。私は生きている価値が無い」
「そもそも、そんな危険なウィルスを隠し持っていたアンブレラが悪いんだ!」
 すると突然、タイラントが動き出した。
「な、何だ!?」
「!?」
 突然の動きに、リサも慌てた様子でタイラントを見る。
 タイラントは、先ほど研究員を投げ落とした窓に駆け寄っていた。
「何があった?」
「あの野郎!まだ生きておった!しぶとい人間め!」
「ええーっ!?」
 そして次の瞬間、けたたましい警報が所内に鳴り響いた。

〔「当館自爆プログラムの起動を確認。在館者にあっては速やかなる避難を勧告。このプログラムを停止させることはできません。繰り返します。……」〕

「じ、自爆!?」
 すると、タイラントも窓を破って外に飛び出して行った!
「あなたは、ここから逃げて」
「キミも逃げるんだ!」
 リサは首を横に振った。
 そして、仮面を取り去る。
「こんな化け物は、生き残る価値が無いから。私はここで化け物としての人生を終わらせるの。あなたはいい人みたいだから、助けてあげる。タイラントが5階の出入口を開けておいたから、それで外に出られるはずだよ」
「!」
 私は……私はどうすればいい?
 この研究所は、あとどれくらいで、どのくらいの規模の爆発を行うか分からない。
 早く逃げないと、私も巻き込まれてしまう。
 しかし、このコはあまりにも不憫でならない。
 なるべくなら連れて行ってあげたい。
 だけど、彼女は行きたがらない。

 一体、どうすれば……!?
コメント
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