[6月25日08:30.天候:雨 某県霧生市 新日蓮宗大本山・大山寺 大講堂]
何やら外が騒がしかったので、私は仮眠室から警備室に戻った。
するとそこに、屈強なGIジョーのリアルと思うくらいの軍人がいたので驚いた。
「初めてまして。私は在日駐留米軍のジョージ・F・ロックウェルと申します。以後、お見知り置きを」
「東京から来た探偵の愛原学です。よろしくどうぞ」
私とジョージは握手を交わした。
「ちょっと!大変だよ!」
そこへ高野氏も戻ってくる。
「あ……なに?もう救助が来たの?」
高野氏もジョージを見て驚いた様子だった。
「……すまない。実は期待通りのことが、今はできない状態なんだ」
と、ジョージはうな垂れて答えた。
「どういうことだ?」
「ここに来たのが私1人だけというのが答えだよ。どうやら私の部隊は全滅してしまったようだ。だからその……状況的には、キミ達とほぼ変わらないということだ。申し訳無い」
「何だそりゃ!?アメリカ軍の癖に弱いのか!?」
「せっかく助かると思ったのに!」
高橋と高野氏が不満の声を上げる。
「まあまあ、2人とも。落ち着きなさい」
さすがそこは年の功。
増田氏が2人をなだめる。
「ジョージ伍長」
「何でしょうか、御老体?」
「おいおい。私は増田だと名乗ったぞ。ちゃんと名前で呼ばんかい」
「失礼。増田さん」
「アメリカ軍では、ここに私らが立て籠もっていることを知っていましたか?」
「……恐らく知らないと思います。私がここに来たのも偶然でした。たまたま他の部隊の無線が入って来たのでここへ駆け付けてみたのですが、もう彼らも全滅してしまったようです」
「ふむ……。では、私らがここにいると伝えて救助を求めれば、救助に来てくれますかな?」
「恐らく、ヘリの1機くらいは飛ばしてもらえるかと。ただ、ここは電波状況が悪いようです。私も手持ちの無線で何度も救助を求めたのですが、応答がありませんでした」
「では上空に合図を出せば、いかがでしょうか?」
「合図、と言いますと?」
「それなら俺、発煙筒を何本か拾って来たぞ」
高橋は背負っていたリュックの中から発煙筒を5〜6本取り出した。
「……あいにくだが、これだけでは難しいな」
「何だと?」
「天候が悪いのが不幸だ。この天候では、上空にいるヘリに伝わりにくいだろう」
「くそっ!」
「全部焚いてもダメですか?」
と、私が聞いた。
「明かりだけだと難しい。もっとこう、大きな音が出るものがいい」
「やっぱ信号弾とか打ち上げ花火とかがあれば……」
「! そうだ」
増田氏が何か思いついたようだ。
「増田さん、何かいいアイディアが?」
「幸いなことに、ここは山寺だ。大昔は麓の町に対して、鐘の音で持って、人々に時を告げていたのだ」
「そうか!お寺の鐘か!」
「寺の鐘ならいくつかあったが、あれ鳴らして聞こえるのか?」
「大本堂の屋根には、更に大きな鐘がある。あまりにも大きいので、機械で鳴らす仕掛けになっている。実際鳴らしてみると、霞台地区まで聞こえたそうだ」
「なるほど。これを鳴らせば……」
ジョージも頷いた。
「この状況でお寺の鐘が鳴るとは思えませんから、不思議に思ったヘリが低空へ降りて来てくれるかもしれません。その時、発煙筒を焚いて合図すれば、生存者がいることに気づいて着陸してくれるでしょう」
「おおっ!」
しかし高野氏は否定的だった。
「でも、ヘリのエンジン音って結構大きいんでしょ?いくら遠くまで聞こえる鐘の音だって言っても、空高く飛んでるヘリコプターまで聞こえるの?」
「やってみなきゃ分からんだろう?」
高橋が高野氏を睨みつけるような顔をした。
「或いは、安全な場所で待機している別の部隊が聞きつけて、駆け付けてくれるかもしれませんよ」
と、ジョージ。
「ほら!」
「高橋君。まずは、やれることをやってみよう」
「分かりました。先生」
「ということは、ますます大本堂の鍵を探さなくてはならないな。まだ探索していない壱之坊と弐之坊を探してみよう」
「はい!」
「……それで高野さん、何か大変なものを発見したようだが、何でしたかの?」
「あ、そうそう。このメモを見て!2階の事務所で見つけたの」
高野氏はメモ書きを見せた。
事務員が電話を受けた際に、書いたメモらしい。
そこには、『ご主管、ひなん、一の坊』と書かれていた。
「おおっ!では、正しく御主管は一之坊に避難されておるのだな!御無事で良かった……」
ホッと息をつく増田氏。
「増田さん、向こうに電話は繋がらないんですか?もし繋がるようでしたら、そこに電話してもらって、これから私達が助けに行きますからと伝えてもらえますか?」
「う、うむ。そうだな」
増田氏は警備室内の電話を取った。
「一之坊の受付……」
何度が鳴らしているが出ないようだ。
「ならば、向こうの事務室……」
一之坊もなかなか広い坊舎らしい。
片っ端から増田氏が掛けているが、なかなか出ないらしい。
たまに出たと思っても、受話器の向こうからゾンビの呻き声が聞こえるだけだった。
電話が鳴ったので、近くにいたゾンビが電話機を叩き落したか何かしたのだろう。
「……ん?」
「どうしました?」
「いや……3階の廊下……。恐らくゾンビが電話を取ったと思うのだが……」
「それは無いな」
と、高橋は即行否定した。
「いや……微かにだが、御題目を唱える声が聞こえる」
「何ですと!?」
私は電話を変わった。
確かに電話の向こうから、ゾンビの呻き声に交じって、『南無妙法蓮華経』と聞こえて来た。
「ゾンビが御経を唱えるわけないですもんね」
「御主管がきっと、唱題を上げておられるに違いない!」
「……か、もしくは他のお坊さんかもしれないね」
と、高野氏。
「それでもいい!少なくとも、まだ生存者がいることに変わりは無いってことだから!早く行こう!」
「はい!」
「……あっ、ちょっと待った!」
高野氏が手を挙げた。
「何だ?」
「警備のお爺さんを1人残して行く気?さっきもゾンビの集団がやってきたんでしょう?誰かがここに残って、お爺さんを守ってあげた方がいいと思うよ」
「別に、大丈夫だがな。上には電子ロックのドアがあるし、ここも内鍵が掛けられる。ゾンビ程度なら何人束になっても、ここに辿り着けるとは思えんが……」
「俺達が出て行ってから、エントランスのシャッターを閉めたらどうだ?」
「それが、どうやら故障しているらしく、閉められないんだよ」
「ええっ?!」
「しょうがないことだがな」
「じゃあ、やっぱり誰かがここに残らないと」
「言い出しっぺのお前が残れよ」
と、高橋。
「ってか、そのつもりで言ったんだろ?ああ?」
「冗談!是非とも浅井主管にインタビューをしたいのよ!私は一緒に行くよ!」
「愛原さん、あなたが決めてはもらえんかの?」
と、増田氏が言った。
「私が……ですか?」
「うむ。もちろん、全員連れて行くというのならそれも良し」
「先生、俺は行きたいです。というか、一之坊の場所は知っています。その近くまで行ってたんで」
「私は浅井主管救出を間近で取材したいし、それに、銃だって使えるよ。いざとなったら、空手も2段だしね」
「段持ちのくせに、ゾンビに囲まれて先生に助けられた足手まといが何言ってんだっ!」
するとジョージが溜め息をついた。
「しょうがない。ならば、私がここに残ろう」
「ジョージ伍長!」
「見たところ、この部屋にも通信手段はありそうだ。この部屋の設備で、何とかならないか試してみる価値はあると思われる」
「大講堂の屋上にアンテナはあったよ。だけど、何か壊れてそうだったけど……」
「確かに、調子が悪いので、業者を呼んで見てもらおうという話はあったのだが……」
「ならばやはり私が。こう見えても軍人だから、アンテナの修理くらいは任せておいてくれ」
「じゃ、決まりだね」
「ブンヤ。遅れを取ったり、先生に迷惑を掛けたりしたら撃ち殺すぞ」
「そっくり返すからね、マサ君?」
「……!!」
高野氏は高橋の挑発を交わして、むしろからかうように言った。
まるで生意気な弟に対して、冗談で返すお姉さんのようだ。
「じゃ、早いとこ行こう」
「ああ、ちょっと待ってください。もしかしたら、道中危険かもしれないので……」
ジョージが自分の荷物の中から、何だか色々な物を取り出した。
「手榴弾と電撃グレネード、それと閃光弾もあります。持って行ってください」
「そんな危険じゃないと信じたいが……」
私は苦笑いして、軍事用のそれを受け取った。
だが、受け取っておいて正解だったことを後に痛感させられる。
何やら外が騒がしかったので、私は仮眠室から警備室に戻った。
するとそこに、屈強なGIジョーのリアルと思うくらいの軍人がいたので驚いた。
「初めてまして。私は在日駐留米軍のジョージ・F・ロックウェルと申します。以後、お見知り置きを」
「東京から来た探偵の愛原学です。よろしくどうぞ」
私とジョージは握手を交わした。
「ちょっと!大変だよ!」
そこへ高野氏も戻ってくる。
「あ……なに?もう救助が来たの?」
高野氏もジョージを見て驚いた様子だった。
「……すまない。実は期待通りのことが、今はできない状態なんだ」
と、ジョージはうな垂れて答えた。
「どういうことだ?」
「ここに来たのが私1人だけというのが答えだよ。どうやら私の部隊は全滅してしまったようだ。だからその……状況的には、キミ達とほぼ変わらないということだ。申し訳無い」
「何だそりゃ!?アメリカ軍の癖に弱いのか!?」
「せっかく助かると思ったのに!」
高橋と高野氏が不満の声を上げる。
「まあまあ、2人とも。落ち着きなさい」
さすがそこは年の功。
増田氏が2人をなだめる。
「ジョージ伍長」
「何でしょうか、御老体?」
「おいおい。私は増田だと名乗ったぞ。ちゃんと名前で呼ばんかい」
「失礼。増田さん」
「アメリカ軍では、ここに私らが立て籠もっていることを知っていましたか?」
「……恐らく知らないと思います。私がここに来たのも偶然でした。たまたま他の部隊の無線が入って来たのでここへ駆け付けてみたのですが、もう彼らも全滅してしまったようです」
「ふむ……。では、私らがここにいると伝えて救助を求めれば、救助に来てくれますかな?」
「恐らく、ヘリの1機くらいは飛ばしてもらえるかと。ただ、ここは電波状況が悪いようです。私も手持ちの無線で何度も救助を求めたのですが、応答がありませんでした」
「では上空に合図を出せば、いかがでしょうか?」
「合図、と言いますと?」
「それなら俺、発煙筒を何本か拾って来たぞ」
高橋は背負っていたリュックの中から発煙筒を5〜6本取り出した。
「……あいにくだが、これだけでは難しいな」
「何だと?」
「天候が悪いのが不幸だ。この天候では、上空にいるヘリに伝わりにくいだろう」
「くそっ!」
「全部焚いてもダメですか?」
と、私が聞いた。
「明かりだけだと難しい。もっとこう、大きな音が出るものがいい」
「やっぱ信号弾とか打ち上げ花火とかがあれば……」
「! そうだ」
増田氏が何か思いついたようだ。
「増田さん、何かいいアイディアが?」
「幸いなことに、ここは山寺だ。大昔は麓の町に対して、鐘の音で持って、人々に時を告げていたのだ」
「そうか!お寺の鐘か!」
「寺の鐘ならいくつかあったが、あれ鳴らして聞こえるのか?」
「大本堂の屋根には、更に大きな鐘がある。あまりにも大きいので、機械で鳴らす仕掛けになっている。実際鳴らしてみると、霞台地区まで聞こえたそうだ」
「なるほど。これを鳴らせば……」
ジョージも頷いた。
「この状況でお寺の鐘が鳴るとは思えませんから、不思議に思ったヘリが低空へ降りて来てくれるかもしれません。その時、発煙筒を焚いて合図すれば、生存者がいることに気づいて着陸してくれるでしょう」
「おおっ!」
しかし高野氏は否定的だった。
「でも、ヘリのエンジン音って結構大きいんでしょ?いくら遠くまで聞こえる鐘の音だって言っても、空高く飛んでるヘリコプターまで聞こえるの?」
「やってみなきゃ分からんだろう?」
高橋が高野氏を睨みつけるような顔をした。
「或いは、安全な場所で待機している別の部隊が聞きつけて、駆け付けてくれるかもしれませんよ」
と、ジョージ。
「ほら!」
「高橋君。まずは、やれることをやってみよう」
「分かりました。先生」
「ということは、ますます大本堂の鍵を探さなくてはならないな。まだ探索していない壱之坊と弐之坊を探してみよう」
「はい!」
「……それで高野さん、何か大変なものを発見したようだが、何でしたかの?」
「あ、そうそう。このメモを見て!2階の事務所で見つけたの」
高野氏はメモ書きを見せた。
事務員が電話を受けた際に、書いたメモらしい。
そこには、『ご主管、ひなん、一の坊』と書かれていた。
「おおっ!では、正しく御主管は一之坊に避難されておるのだな!御無事で良かった……」
ホッと息をつく増田氏。
「増田さん、向こうに電話は繋がらないんですか?もし繋がるようでしたら、そこに電話してもらって、これから私達が助けに行きますからと伝えてもらえますか?」
「う、うむ。そうだな」
増田氏は警備室内の電話を取った。
「一之坊の受付……」
何度が鳴らしているが出ないようだ。
「ならば、向こうの事務室……」
一之坊もなかなか広い坊舎らしい。
片っ端から増田氏が掛けているが、なかなか出ないらしい。
たまに出たと思っても、受話器の向こうからゾンビの呻き声が聞こえるだけだった。
電話が鳴ったので、近くにいたゾンビが電話機を叩き落したか何かしたのだろう。
「……ん?」
「どうしました?」
「いや……3階の廊下……。恐らくゾンビが電話を取ったと思うのだが……」
「それは無いな」
と、高橋は即行否定した。
「いや……微かにだが、御題目を唱える声が聞こえる」
「何ですと!?」
私は電話を変わった。
確かに電話の向こうから、ゾンビの呻き声に交じって、『南無妙法蓮華経』と聞こえて来た。
「ゾンビが御経を唱えるわけないですもんね」
「御主管がきっと、唱題を上げておられるに違いない!」
「……か、もしくは他のお坊さんかもしれないね」
と、高野氏。
「それでもいい!少なくとも、まだ生存者がいることに変わりは無いってことだから!早く行こう!」
「はい!」
「……あっ、ちょっと待った!」
高野氏が手を挙げた。
「何だ?」
「警備のお爺さんを1人残して行く気?さっきもゾンビの集団がやってきたんでしょう?誰かがここに残って、お爺さんを守ってあげた方がいいと思うよ」
「別に、大丈夫だがな。上には電子ロックのドアがあるし、ここも内鍵が掛けられる。ゾンビ程度なら何人束になっても、ここに辿り着けるとは思えんが……」
「俺達が出て行ってから、エントランスのシャッターを閉めたらどうだ?」
「それが、どうやら故障しているらしく、閉められないんだよ」
「ええっ?!」
「しょうがないことだがな」
「じゃあ、やっぱり誰かがここに残らないと」
「言い出しっぺのお前が残れよ」
と、高橋。
「ってか、そのつもりで言ったんだろ?ああ?」
「冗談!是非とも浅井主管にインタビューをしたいのよ!私は一緒に行くよ!」
「愛原さん、あなたが決めてはもらえんかの?」
と、増田氏が言った。
「私が……ですか?」
「うむ。もちろん、全員連れて行くというのならそれも良し」
「先生、俺は行きたいです。というか、一之坊の場所は知っています。その近くまで行ってたんで」
「私は浅井主管救出を間近で取材したいし、それに、銃だって使えるよ。いざとなったら、空手も2段だしね」
「段持ちのくせに、ゾンビに囲まれて先生に助けられた足手まといが何言ってんだっ!」
するとジョージが溜め息をついた。
「しょうがない。ならば、私がここに残ろう」
「ジョージ伍長!」
「見たところ、この部屋にも通信手段はありそうだ。この部屋の設備で、何とかならないか試してみる価値はあると思われる」
「大講堂の屋上にアンテナはあったよ。だけど、何か壊れてそうだったけど……」
「確かに、調子が悪いので、業者を呼んで見てもらおうという話はあったのだが……」
「ならばやはり私が。こう見えても軍人だから、アンテナの修理くらいは任せておいてくれ」
「じゃ、決まりだね」
「ブンヤ。遅れを取ったり、先生に迷惑を掛けたりしたら撃ち殺すぞ」
「そっくり返すからね、マサ君?」
「……!!」
高野氏は高橋の挑発を交わして、むしろからかうように言った。
まるで生意気な弟に対して、冗談で返すお姉さんのようだ。
「じゃ、早いとこ行こう」
「ああ、ちょっと待ってください。もしかしたら、道中危険かもしれないので……」
ジョージが自分の荷物の中から、何だか色々な物を取り出した。
「手榴弾と電撃グレネード、それと閃光弾もあります。持って行ってください」
「そんな危険じゃないと信じたいが……」
私は苦笑いして、軍事用のそれを受け取った。
だが、受け取っておいて正解だったことを後に痛感させられる。