報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第3章 「叫喚」 7

2016-07-11 19:35:52 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日08:30.天候:雨 某県霧生市 新日蓮宗大本山・大山寺 大講堂]

 何やら外が騒がしかったので、私は仮眠室から警備室に戻った。
 するとそこに、屈強なGIジョーのリアルと思うくらいの軍人がいたので驚いた。
「初めてまして。私は在日駐留米軍のジョージ・F・ロックウェルと申します。以後、お見知り置きを」
「東京から来た探偵の愛原学です。よろしくどうぞ」
 私とジョージは握手を交わした。
「ちょっと!大変だよ!」
 そこへ高野氏も戻ってくる。
「あ……なに?もう救助が来たの?」
 高野氏もジョージを見て驚いた様子だった。
「……すまない。実は期待通りのことが、今はできない状態なんだ」
 と、ジョージはうな垂れて答えた。
「どういうことだ?」
「ここに来たのが私1人だけというのが答えだよ。どうやら私の部隊は全滅してしまったようだ。だからその……状況的には、キミ達とほぼ変わらないということだ。申し訳無い」
「何だそりゃ!?アメリカ軍の癖に弱いのか!?」
「せっかく助かると思ったのに!」
 高橋と高野氏が不満の声を上げる。
「まあまあ、2人とも。落ち着きなさい」
 さすがそこは年の功。
 増田氏が2人をなだめる。
「ジョージ伍長」
「何でしょうか、御老体?」
「おいおい。私は増田だと名乗ったぞ。ちゃんと名前で呼ばんかい」
「失礼。増田さん」
「アメリカ軍では、ここに私らが立て籠もっていることを知っていましたか?」
「……恐らく知らないと思います。私がここに来たのも偶然でした。たまたま他の部隊の無線が入って来たのでここへ駆け付けてみたのですが、もう彼らも全滅してしまったようです」
「ふむ……。では、私らがここにいると伝えて救助を求めれば、救助に来てくれますかな?」
「恐らく、ヘリの1機くらいは飛ばしてもらえるかと。ただ、ここは電波状況が悪いようです。私も手持ちの無線で何度も救助を求めたのですが、応答がありませんでした」
「では上空に合図を出せば、いかがでしょうか?」
「合図、と言いますと?」
「それなら俺、発煙筒を何本か拾って来たぞ」
 高橋は背負っていたリュックの中から発煙筒を5〜6本取り出した。
「……あいにくだが、これだけでは難しいな」
「何だと?」
「天候が悪いのが不幸だ。この天候では、上空にいるヘリに伝わりにくいだろう」
「くそっ!」
「全部焚いてもダメですか?」
 と、私が聞いた。
「明かりだけだと難しい。もっとこう、大きな音が出るものがいい」
「やっぱ信号弾とか打ち上げ花火とかがあれば……」
「! そうだ」
 増田氏が何か思いついたようだ。
「増田さん、何かいいアイディアが?」
「幸いなことに、ここは山寺だ。大昔は麓の町に対して、鐘の音で持って、人々に時を告げていたのだ」
「そうか!お寺の鐘か!」
「寺の鐘ならいくつかあったが、あれ鳴らして聞こえるのか?」
「大本堂の屋根には、更に大きな鐘がある。あまりにも大きいので、機械で鳴らす仕掛けになっている。実際鳴らしてみると、霞台地区まで聞こえたそうだ」
「なるほど。これを鳴らせば……」
 ジョージも頷いた。
「この状況でお寺の鐘が鳴るとは思えませんから、不思議に思ったヘリが低空へ降りて来てくれるかもしれません。その時、発煙筒を焚いて合図すれば、生存者がいることに気づいて着陸してくれるでしょう」
「おおっ!」
 しかし高野氏は否定的だった。
「でも、ヘリのエンジン音って結構大きいんでしょ?いくら遠くまで聞こえる鐘の音だって言っても、空高く飛んでるヘリコプターまで聞こえるの?」
「やってみなきゃ分からんだろう?」
 高橋が高野氏を睨みつけるような顔をした。
「或いは、安全な場所で待機している別の部隊が聞きつけて、駆け付けてくれるかもしれませんよ」
 と、ジョージ。
「ほら!」
「高橋君。まずは、やれることをやってみよう」
「分かりました。先生」
「ということは、ますます大本堂の鍵を探さなくてはならないな。まだ探索していない壱之坊と弐之坊を探してみよう」
「はい!」
「……それで高野さん、何か大変なものを発見したようだが、何でしたかの?」
「あ、そうそう。このメモを見て!2階の事務所で見つけたの」
 高野氏はメモ書きを見せた。
 事務員が電話を受けた際に、書いたメモらしい。
 そこには、『ご主管、ひなん、一の坊』と書かれていた。
「おおっ!では、正しく御主管は一之坊に避難されておるのだな!御無事で良かった……」
 ホッと息をつく増田氏。
「増田さん、向こうに電話は繋がらないんですか?もし繋がるようでしたら、そこに電話してもらって、これから私達が助けに行きますからと伝えてもらえますか?」
「う、うむ。そうだな」
 増田氏は警備室内の電話を取った。
「一之坊の受付……」
 何度が鳴らしているが出ないようだ。
「ならば、向こうの事務室……」
 一之坊もなかなか広い坊舎らしい。
 片っ端から増田氏が掛けているが、なかなか出ないらしい。
 たまに出たと思っても、受話器の向こうからゾンビの呻き声が聞こえるだけだった。
 電話が鳴ったので、近くにいたゾンビが電話機を叩き落したか何かしたのだろう。
「……ん?」
「どうしました?」
「いや……3階の廊下……。恐らくゾンビが電話を取ったと思うのだが……」
「それは無いな」
 と、高橋は即行否定した。
「いや……微かにだが、御題目を唱える声が聞こえる」
「何ですと!?」
 私は電話を変わった。
 確かに電話の向こうから、ゾンビの呻き声に交じって、『南無妙法蓮華経』と聞こえて来た。
「ゾンビが御経を唱えるわけないですもんね」
「御主管がきっと、唱題を上げておられるに違いない!」
「……か、もしくは他のお坊さんかもしれないね」
 と、高野氏。
「それでもいい!少なくとも、まだ生存者がいることに変わりは無いってことだから!早く行こう!」
「はい!」
「……あっ、ちょっと待った!」
 高野氏が手を挙げた。
「何だ?」
「警備のお爺さんを1人残して行く気?さっきもゾンビの集団がやってきたんでしょう?誰かがここに残って、お爺さんを守ってあげた方がいいと思うよ」
「別に、大丈夫だがな。上には電子ロックのドアがあるし、ここも内鍵が掛けられる。ゾンビ程度なら何人束になっても、ここに辿り着けるとは思えんが……」
「俺達が出て行ってから、エントランスのシャッターを閉めたらどうだ?」
「それが、どうやら故障しているらしく、閉められないんだよ」
「ええっ?!」
「しょうがないことだがな」
「じゃあ、やっぱり誰かがここに残らないと」
「言い出しっぺのお前が残れよ」
 と、高橋。
「ってか、そのつもりで言ったんだろ?ああ?」
「冗談!是非とも浅井主管にインタビューをしたいのよ!私は一緒に行くよ!」
「愛原さん、あなたが決めてはもらえんかの?」
 と、増田氏が言った。
「私が……ですか?」
「うむ。もちろん、全員連れて行くというのならそれも良し」
「先生、俺は行きたいです。というか、一之坊の場所は知っています。その近くまで行ってたんで」
「私は浅井主管救出を間近で取材したいし、それに、銃だって使えるよ。いざとなったら、空手も2段だしね」
「段持ちのくせに、ゾンビに囲まれて先生に助けられた足手まといが何言ってんだっ!」
 するとジョージが溜め息をついた。
「しょうがない。ならば、私がここに残ろう」
「ジョージ伍長!」
「見たところ、この部屋にも通信手段はありそうだ。この部屋の設備で、何とかならないか試してみる価値はあると思われる」
「大講堂の屋上にアンテナはあったよ。だけど、何か壊れてそうだったけど……」
「確かに、調子が悪いので、業者を呼んで見てもらおうという話はあったのだが……」
「ならばやはり私が。こう見えても軍人だから、アンテナの修理くらいは任せておいてくれ」
「じゃ、決まりだね」
「ブンヤ。遅れを取ったり、先生に迷惑を掛けたりしたら撃ち殺すぞ」
「そっくり返すからね、マサ君?」
「……!!」
 高野氏は高橋の挑発を交わして、むしろからかうように言った。
 まるで生意気な弟に対して、冗談で返すお姉さんのようだ。
「じゃ、早いとこ行こう」
「ああ、ちょっと待ってください。もしかしたら、道中危険かもしれないので……」
 ジョージが自分の荷物の中から、何だか色々な物を取り出した。
「手榴弾と電撃グレネード、それと閃光弾もあります。持って行ってください」
「そんな危険じゃないと信じたいが……」
 私は苦笑いして、軍事用のそれを受け取った。

 だが、受け取っておいて正解だったことを後に痛感させられる。
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“私立探偵 愛原学” 第3章 「叫喚」 6

2016-07-11 14:06:45 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日08:00.天候:雨 某県霧生市 新日蓮宗大本山・大山寺 大講堂]
(愛原が仮眠に入っている為、この話に限り、三人称で行います)

 愛原が仮眠室で仮眠している間、高橋は警備室の椅子に座って、モニタを見ていた。
 警備室のモニタには、境内のあちこちに仕掛けられた監視カメラの映像が映っている。
 心なしか、境内に侵入してくるゾンビの数が増えたような気がする。
 彼らには知性というものが無いはずだが、生存者がここにいると分かるのだろうか?
 寺の警備員では唯一の生き残りである増田は、大講堂内を探索している高野の動きを追っている。
「うむ……。やはり、この建物にもゾンビはおったか……」
 大講堂は5階建てで、上の階には避難者がゾンビ化したものが彷徨っていたようだ。
 しかし高野は手持ちの銃器で、それを倒して行く。
「頼もしいお嬢さんだ」
「フン……」
 感心する増田に対し、高橋は鼻を鳴らすだけだった。
 と!
「あっ!?」
「どうした!?」
 増田が何かを見つけた。
 中央にある一際大きなモニタに、増田は大講堂エントランスホールの映像を映した。
「うおっ!?」
 ついにゾンビ達の群れがここを嗅ぎ付けたようである。
 エントランスのガラス戸をブチ破って、続々と侵入してきた。
「これはいかん!いいか?ここを出てはならんぞ。ここのことは奴等も分からんはず。ここに生存者はいないと思わせて、出て行ってもらうのを待つしかない」
「そんなこと言ってる場合じゃない!ゾンビぐらいなら、俺が蜂の巣にしてやるさ!」
「し、しかし……!」
「ここは俺に任せろ!」
「1人で戦う気か!?それはムチャだ!ざっと見ただけで、10人はいるぞ!?愛原さんを起こして、あとは高野さんも呼んでだな……!」
「いい!先生はお疲れだし、あの女も必要無い」
 高橋はマグナム銃であるLホークとコルトパイソンを手にして警備室を飛び出した。
 一見して、どちらもハンドガンである。
 だが、日本の警察官が持つそれと違い、とても威力の強いものである。
 いずれも、高橋が単独で探索中に手に入れたものであった。
 階段を駆け登って、電子ロックのドアを開ける。
「オオオ……!」
「アアア……!」
「ゥウウウッ……!」
 エントランスホールに出ると、高橋の姿を見つけたゾンビの集団が呻き声を上げて向かってきた。
「死にさらせ!化け物ども!!」
 大きな銃声音を響かせて、高橋はゾンビの体を撃ち抜く。
 取り囲まれる恐れがあったので、2階へ上がる吹き抜けの階段を上がり、上から発砲した。
 それでも、なかなか倒れないゾンビに対しては、消火器を吹き掛けた。
 ゾンビ化して黒目が無くなったように見えても、視覚はあるらしい。
 消火器の粉が目に入ったりすれば、当然見えなくなる。
「ァオオオッ!」
「ウウウウッ!」
 視覚を失ったゾンビ達はパニックになって暴れ出したが、結果的には固まって行動している為に、ほぼ同士討ちのような状態になった。
「こいつら、共食いもするのか!?」
 ついにはゾンビ達が噛み付きあったり、引っ掛け合ったりした。
「チャンス!」
 高橋は狙い撃ちとばかりに、その乱闘状態になっているゾンビ達を屠ることに成功した。

「フンっ!どうだ?俺の手に掛かれば、こんなもんだ」
 高橋はニヤリと笑って、まだ余裕のあるマグナムの弾をリロードした。
「んっ?」
 その時、大講堂の外から、また誰か来るのが分かった。
 ゾンビとかハンターαではないようだが……。
「……よく分からんな。ちょっと隠れて、様子を見るか」
 高橋は1階の受付カウンターの裏に隠れた。

 大講堂に入って来たのは1人の男。
 見ると、境内のあちこちで死んでいる特殊部隊の男達と似たような恰好をしていた。
(外人か?)
 顔立ちは白人のように見えた。
(何で外人の兵隊がここにいるんだ?)
 その外国人兵士らしき男はエントランスホールを見渡した。
 ゾンビ達の死体の群れに驚いているようだ。
 そして、英語で何か呼び掛けた。
 だが高橋は、英語が分からない。
(ここは日本なんだから、日本語で喋れよな!)
 と思ったが、すると今度は、
「誰か、いないのか!?私はβチームのジョージだ!」
 と、流暢な日本語で呼び掛けて来た。
(βチーム?やっぱり、どこかの軍隊か?)
 高橋が出て行こうかどうか迷っていた時だった。

 ガッシャーン!

「!?」
「ァオオオオッ!」
 高橋が隠れていた受付のすぐ後ろにある窓ガラスがブチ破られ、そこからゾンビが1人侵入してきた。
「うわっ!?放せ!!」
 高橋が銃を構える前に、ゾンビに組み付かれてしまう。
「くそっ!」
「!」
 外国人兵士と思しき男は、もちろんそれに気づいた。
 そして、
「頭を伏せろ!」
 と、高橋に言って、手持ちのマシンガンを放った。
「ギャアッ!」
 文字通り、ゾンビは蜂の巣にされて倒れた。
「大丈夫か?ケガは無いか?」
「あ、ああ……」
 高橋はそれだけ答えるのがやっとだった。
「このゾンビの死体は、キミがやったのか?」
「あ、ああ……」
「……見事な腕前だ。だが、隠れる時も油断してはいかん」
「…………」
「どこか落ち着ける所があったら、教えてくれないか?」
「……こっちだ」
 高橋はようやく立ち上がって、警備室の方へ向かった。

 警備室に戻る。
 まだ愛原は起きておらず、増田しかいなかった。
「私は在日駐留米軍のジョージ・F・ロックウェル伍長だ。霧生シティの惨状を見かね、市民の救出に当たることを目的として派遣された部隊の1人だ」
「米軍か!」
「ですがジョージ伍長、日本の自衛隊より先に活動するということなどあり得るのですか?」
「それはどういう意味ですか、御老体?」
「日本の自衛隊が活動している様子が見受けられないのに、米軍が先に活動するとは、これ如何に?と思ったのですが……」
「あー……その……自衛隊は今、市街地で活動している。米軍はあくまでも後方支援として、郊外の方を担当することになったのだ」
「そうなのか」
 高橋は一応納得したようだったが、増田は半信半疑だった。
(しかし米軍であっても、このような恰好をしておるだろうか?)
「それで、早速俺達を救助してくれるのか?」
「あー、実はそのことなんだが……」

 ジョージの口から語られた衝撃の言葉とは?
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“私立探偵 愛原学” 第3章 「叫喚」 5

2016-07-11 12:12:54 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日07:30.天候:雨 某県霧生市 興雲山大山寺]

 私は境内の宿坊で、1人の生存者を保護した。
 名前を高野芽衣子という。
 赤いパンツスーツを着ており、身体能力が高いことから、私は最初、女性刑事なのかと思った。
 しかし本人が持っていた名刺には、地元の新聞社の名前が書かれており、そこの記者だという。
「助かりましたよ。手持ちの拳銃の弾が切れちゃって、さすがに焦りました」
 そぼ降る雨の中、大講堂に向かう私は、同行する高野氏からそのような話を聞いた。
「どうしてこのお寺に?」
「町に起こった異変の原因を取材していたら、ここに当たったもので」
「は!?このお寺に原因が!?」
「いや、多分このお寺そのものが原因ってわけじゃないと思うんです。ただ、このお寺自体がカムフラージュに使われてるんじゃないかと……」
「カムフラージュだって!?」
「バウッ!」
「ワゥッ!!」
 その時、茂みの中からゾンビ犬が現れた。
 私はすぐにショットガンで応戦する。
「このコ達も、異変が起きる前は普通のワンちゃんだったと思うんです」
「そりゃそうでしょう。人間にしてもそうです。だけど一体、どうしてこうなった?」
「それを突き止めたいんですよ」

 私達は大講堂に戻った。
 そして、地下1階の警備室に戻る。
「さすがは愛原さんだ。生存者を救出するとは……」
 増田氏は感心したように言った。
「いえ。増田さんが発見してくれたおかげです」
 と、私が言った。
「本当に助かりました。ありがとうございます」
 と、高野氏も言う。
「何の何の。生存者が1人でも多いに越したことは無いからな」
「1度、高橋君を呼び戻しましょう」
 私は高橋に無線を送った。
「あー、高橋君。生存者を1人救出した。ちょっと一旦、戻って来てくれ」
{「分かりました。こっちも色々と発見しましたので」}
 と、高橋から応答があった。
「今の高橋さんって方も、愛原さんの事務所の方?」
「ええ。自分の助手です」
「何か、明智小五郎と小林少年みたいですね」
「はははは(笑)。まあ、探偵団というほどの人数ではないですけどね」

 しばらくして高橋が戻ってきた。
「おぉ、ご苦労さんだった。今、コーヒーを湧かしてるから、少し休むといい」
 増田氏がコーヒーメーカーから、高橋の分を入れながら言った。
「さすが先生です。生存者を救出するとは。さすがは名探偵です」
「いや、探偵は関係無いって。あ、この人は霧生新聞の記者の高野芽衣子さん」
「高野です。よろしく」
「高橋正義だが……。なに、先生に寄り添ってる?先生から離れろ」
「いや、そんなつもりじゃないと思うぞ。ゾンビに囲まれて、危うい所だったんだから」
「そうでしょうか。俺の推理では、記者というのは嘘で、実はサツか公安のように見えるんですが」
「あいにくとハズレ。私は間違い無く、新聞記者だよ」
「でも、武道の心得はあるんですね」
 と、私が聞いた。
「まあ、空手は黒帯ですけど」
「ああ、やっぱり。銃の腕前も?」
「本物を撃ったのは昨日今日が初めてですけど、昔、射撃にハマってたことがあったんで」
「なるほど……。で、高橋君の方はどうだった?」
 私が高橋に首尾を聞いた。
 高橋は増田氏に入れてもらったコーヒーカップを手にしながら答えた。
「俺は寺の南側を探索してきましたが、浅井の坊さんを見つけることはできませんでした」
「そうかぁ……。こりゃやっぱり、お寺の外へ避難されたのかな?」
「そんなことは無いと思うが……」
 と、増田氏。
「ただ、全部の建物に入ったわけじゃないんですよ」
「何だ、そうか」
 ま、探索中に私に呼び戻しを食らったのだから当たり前か。
「南側には、謎の特殊部隊の死体がゴロゴロあったもんですから、弾はかなりありました」
「おおっ!」
「私、これをもらうわ」
 と、高野氏はショットガンを手にした。
 私が持っている猟銃ではなく、ちゃんとした軍事用と思われるものだ。
「頼もしい限りで」
 微笑む私。
「しかし、この女の言うことにも一理あります。先生も、もう少し強い武器を持たれた方がいいかもしれません」
「何で?」
「南側には、あの緑の化け物もいたんですよ」
「マジか!?」
「それって、大人のゴリラくらいの大きさで、全身を緑色の鱗に覆われたヤツ?」
「そうだ」
「やっぱり……!」
 黒いショートカットの高野氏だが、一瞬、前髪で右目が隠れる。
「あの化け物について、何か知ってるんですか?」
「ええ。あれはアンブレラが開発した“ハンターα”というヤツよ」
「アンブレラ!?あの、世界的な製薬企業の!?」
「これのことかな?」
 増田氏は警備室内にある救急箱を持って来た。
 その中には風邪薬や、私達もお世話になった救急スプレーなどもあったのだが、そこに白と赤のロゴマークが入っていた。
 これは開いた傘を上から見た図をイラスト化したものだという。
「日本にもアンブレラ・ジャパンという現地法人があって、営業所もこの町にあるんです」
「へえ……」
 同じく増田氏も続ける。
「この町におけるアンブレラさんの貢献度は大きい。それまでは何の産業も無かった町だったのだが、当時の市長がその工場と研究所の誘致に成功してな、それを機に飛躍的に発展した町なんだ。この大山寺にも、多額の寄進をしてくれておる」
「そうだったんですか」
「ねぇ、増田さん」
「何かな?」
「このお寺に、そのアンブレラの寄進で建った堂宇があるよね?」
「うむ」
「その堂宇が何か、教えてくれない?」
「3つある。1つは大本堂」
「えっ、大本堂!?」
「元々は本当にただの蔵だったのだが、老朽化していたところをアンブレラさんが多額の御布施を出してくれて、建て直したのがあの建物だということだ」
「あと2つは?」
「寺の南側にある坊舎、壱之坊と弐之坊だ」
「高橋君?」
「あ、いえ。すいませんが、そこまでは行ってないです」
「よし。今度は壱之坊と弐之坊を探してみよう」
「はい」
「少し休んでから行かれた方が良い。私も、御主管の行動について、詳しく調査してみることにするからな」
「はい」
「この隣の部屋が仮眠室になっておる。横になって休んでも構わん」
「じゃあ、そうするか。高橋君、先に休んでて」
「いえ。先生の方がお疲れです。先生が先に休んでてください」
「若いな、高橋君は……」
「いえ、そんなことはありません」
「あ、それとも、高野さんが先に休みます?」
「私も調査を続けたいと思います。灯台下暗しってヤツで、私はむしろこの大講堂も調べたいんです」
「この大講堂自体は安全なんですか?」
「そうとは限らんな。実はこの大講堂は一時避難所になっていたのだが、そこから寺の外に避難した数が合わなかったのだ。もしかすると、合わない数の分はゾンビになっておるかもしれん」
「ですってよ、高野さん?」
「今は武器もあるから大丈夫ですよ」
 高野はウィンクした。
「あまり無理はしないでくださいよ」
「分かってますって」
「私のカードキーとマスターキーを貸しましょう」
 私はそれらを高野氏に渡した。
「高橋君は高野さんに同行して……」
「あ、いえ。私1人で大丈夫です」
「ええっ!?」
「あなたは先生と、ここを守ってて」
「……俺に指図する気か!」
「まあまあ、高橋君」
「それじゃ、行ってきます」
「うむ。気をつけてな。私も一応、カメラで見てることにしよう」
 高野氏は銃を手にすると、警備室を出て行った。
「けっ、ゾンビにでも食われりゃいいんだ」
「高橋君!w」
「先生はどうぞお休みになっててください」
「ああ。じゃ、そうさせてもらうよ。何かあったらすぐ起こしてくれよ」
「分かりました」

 私は警備室のすぐ隣にある仮眠室に入った。
 室内は真っ暗で、一瞬化け物が潜んでるんではないかと思うほどだが、そんなことは無かった。
 2段ベッドが2つ置かれていたので、私は奥にある2段ベッドの下段に寝ることにした。
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