[6月2日09:00.天候:雨 マリアの屋敷]
イリーナはヨーロッパでの仕事を終え、再びマリアの屋敷に寝泊まりしていた。
そこでイリーナは予知夢を見た。
イリーナの予知夢は、未来の出来事を写した静止画が何枚も出て来るというもの。
それが鮮明であればあるほど、当たる確率が高い。
イリーナは表向きは占い師として活動しているが、そういった夢占いも自分の技術の1つである。
もし政治的な何かが起こるという予知夢であれば、当事者の政治家に売り込みに行ったり、経済的な何かであれば経済界の要人に売り込みに行く。
そうすることで、莫大な報酬を得ているのである。
そういう大きな夢から、弟子に関する予知夢など小さなものまで千差万別であった。
で、今回見た夢というのが……。
イリーナは上半身だけ起こすと、ベッド脇のスタンドに置いた手帳にその内容を記載した。
ロシア語であるが、それを日本語訳するとこうなる。
『どこかの日本の学校らしき場所』
『稲生を含めた7人が何やらミーティングのようなものをしている』
『頭を金髪に染め、薄い色のサングラスにピアスを着けた若い男が何か喋っている』
『黒い服を着た死神が暗闇の木造建築物の中にいる』
『マリアンナと対峙する死神』
『ローブのフードを目深に被った魔女。手にはバスケットを下げている?誰だか不明』
『同じくローブを着てフードを被った魔女の後ろ姿。水晶球の前に座っている?誰だか不明』
「稲生君と関係が?」
イリーナは首を傾げた。
この時点では、どのような接点があるか分からなかった。
[7月10日04:23.天候:曇 マリアの屋敷]
今度はマリアが予知夢を見た。
その予知夢の中に、稲生がいた。
「……!」
マリアは以前、師匠のイリーナから、予知夢と思われた夢を見て目が覚めたら、すぐにその内容を箇条書きでいいから書き出すようにと言われていた。
マリアが見た夢はこれ。
『電車で移動する稲生』
『立食パーティーで談笑する人々。微かに稲生の姿もある』
『会議室のような場所に移動する稲生ら数名の男女』
『立ち上がって自己紹介する若い男』
『夜の学校らしき場所』
『鉄筋コンクリートの建物から木造の建物に移動する稲生ら数名』
「……ユウタに何かあるのか?」
マリアは首を傾げた。
(先月の師匠の予知夢といい、私も一緒に行った方がいいかもしれない)
と、考えた。
[同日08:02.天候:雨 マリアの屋敷]
今日はイリーナも屋敷にいる。
3人で朝食を囲っていた。
稲生は今ではイリーナから与えられた魔道書を読み、それで簡単な魔法の習熟訓練を行っている。
それはあくまでも簡単なもので、最初は知識から積むというのがダンテ流である。
「あの、ユウタ」
マリアが切り出した。
「何ですか?」
「今月行く同窓会なんだけど、私も一緒に行ってはダメかな?」
「えっ、何でですか?」
稲生は目を丸くした。
「あっと……その……。ほら、前に稲生の大学を見学させてもらったことがあっただろう?今度は高校を見てみたくなった」
「まあ、大学は開かれた場所ですからね。うーん……」
稲生は何故か腕組みをして考え込んでしまった。
「ダメなのか?」
「ダメってわけじゃないんですけどぉ……。僕の高校はちょっと変わったところがあって、あまり部外者の立ち入りを喜ばないんですよ」
「そうなのか……」
すると紅茶をズズズと啜ったイリーナがこう言った。
「マリア、ついでにお願いがあるんだけど」
「何ですか?」
「取りあえず、東京まではユウタ君に付いていってあげてくれない?」
「師匠?」
「後でエレーナに連絡しておくけど、ポーリンに頼んでおいた薬がもうすぐ出来上がりそうなの。本当はエレーナにここまで持って来てもらうつもりだったけど、あなたが東京にいるエレーナの所に取りに行ってもいいわけだからね。ついでに稲生君と一緒に行ってきて」
「わ、分かりました!」
マリアは大きく頷いた。
「それじゃ、マリアさんの分のバスのチケットも買ってきませんと」
「あー、そうだね。後でバス代あげるから買ってきて」
「分かりました」
[7月17日18:00.天候:曇 マリアの屋敷]
またまた外国から戻ってきたイリーナと共に、夕食を囲む稲生達。
マリアの屋敷の大食堂は、1度に10数名が囲めるほどの大きなテーブルを備えている。
尚、上座に当たる部分においてさえ、イリーナがそこに座ることはない。
上座のすぐ隣の席に陣取るのみ。
これはイリーナがけしてダンテ一門の中では最上位にいるわけではないことを意味しており、また、そういった最上位の者達の突然の訪問にも対応できるようにする為だった。
夕食の後で食後のコーヒーや紅茶のタイミングになった時、イリーナが深刻な顔をして稲生に言った。
「稲生君。あなたに選択肢を与えるわ。どちらか選んで」
「は?」
「同窓会に本当に行くか行かないか決めて」
1:同窓会に行く。
2:同窓会に行かない。
3:どういう意味なのかと質問する。
「それはどういう意味なのでしょうか?」
「わざわざこんな質問するくらいなんだから分からない?同窓会に行くことで、あなたの身に危険が迫っているのよ?」
「な、何故ですか!?」
「それは分からない。だけど最悪、あなたは死神に取り殺されることになっている」
「は!?え!?」
「魔道師が死神に殺されるなんて、赤っ恥もいい所だわ。魔道師として最良の方法は、正に予知夢を活用してその事態を回避することよ」
「だけど、もし死神に狙われたとしたなら、ここに残っても同じことなんじゃないですか?」
「死神にもいくつかのパターンがあるからね。罠を仕掛けておいて、そこに掛かった者を殺して魂を奪い取るなんてヤツもいるのよ」
「ええ……?」
「分かった。行くなとは言わないわ。だけどね、あなたは向こうに行った後、何か会議のようなものに参加することになるみたい」
「そうなんですか?」
「もしそこで、魔女に関することを話すヤツがいたら気をつけなさい」
「魔女のことを話すヤツ?」
「私の予知夢はね、どこまで展開が進んだら後戻りができないかが分かるようになっているの。もし会議の中で、魔女について話すヤツが来たらすぐに逃げなさい。いや、待って。マリアに連絡して来てもらった方がいいわね」
「師匠、こんなことを言うのも何ですが、私は死神と戦ったことがありません。“魔の者”とは違うんですか?」
「違うっぽいねー。ま、とにかくそういうことだから。行かない方がいいけど、行くなとも言わない。あれだけユウタ君、楽しみにしてたもんね」
「ええ、まあ……」
「人間時代の思い出は大切に、なんて言った私がそれを否定しちゃダメだよね。とにかく、気をつけなさい」
「分かりました」
因みに、出発前日のことである。
イリーナはヨーロッパでの仕事を終え、再びマリアの屋敷に寝泊まりしていた。
そこでイリーナは予知夢を見た。
イリーナの予知夢は、未来の出来事を写した静止画が何枚も出て来るというもの。
それが鮮明であればあるほど、当たる確率が高い。
イリーナは表向きは占い師として活動しているが、そういった夢占いも自分の技術の1つである。
もし政治的な何かが起こるという予知夢であれば、当事者の政治家に売り込みに行ったり、経済的な何かであれば経済界の要人に売り込みに行く。
そうすることで、莫大な報酬を得ているのである。
そういう大きな夢から、弟子に関する予知夢など小さなものまで千差万別であった。
で、今回見た夢というのが……。
イリーナは上半身だけ起こすと、ベッド脇のスタンドに置いた手帳にその内容を記載した。
ロシア語であるが、それを日本語訳するとこうなる。
『どこかの日本の学校らしき場所』
『稲生を含めた7人が何やらミーティングのようなものをしている』
『頭を金髪に染め、薄い色のサングラスにピアスを着けた若い男が何か喋っている』
『黒い服を着た死神が暗闇の木造建築物の中にいる』
『マリアンナと対峙する死神』
『ローブのフードを目深に被った魔女。手にはバスケットを下げている?誰だか不明』
『同じくローブを着てフードを被った魔女の後ろ姿。水晶球の前に座っている?誰だか不明』
「稲生君と関係が?」
イリーナは首を傾げた。
この時点では、どのような接点があるか分からなかった。
[7月10日04:23.天候:曇 マリアの屋敷]
今度はマリアが予知夢を見た。
その予知夢の中に、稲生がいた。
「……!」
マリアは以前、師匠のイリーナから、予知夢と思われた夢を見て目が覚めたら、すぐにその内容を箇条書きでいいから書き出すようにと言われていた。
マリアが見た夢はこれ。
『電車で移動する稲生』
『立食パーティーで談笑する人々。微かに稲生の姿もある』
『会議室のような場所に移動する稲生ら数名の男女』
『立ち上がって自己紹介する若い男』
『夜の学校らしき場所』
『鉄筋コンクリートの建物から木造の建物に移動する稲生ら数名』
「……ユウタに何かあるのか?」
マリアは首を傾げた。
(先月の師匠の予知夢といい、私も一緒に行った方がいいかもしれない)
と、考えた。
[同日08:02.天候:雨 マリアの屋敷]
今日はイリーナも屋敷にいる。
3人で朝食を囲っていた。
稲生は今ではイリーナから与えられた魔道書を読み、それで簡単な魔法の習熟訓練を行っている。
それはあくまでも簡単なもので、最初は知識から積むというのがダンテ流である。
「あの、ユウタ」
マリアが切り出した。
「何ですか?」
「今月行く同窓会なんだけど、私も一緒に行ってはダメかな?」
「えっ、何でですか?」
稲生は目を丸くした。
「あっと……その……。ほら、前に稲生の大学を見学させてもらったことがあっただろう?今度は高校を見てみたくなった」
「まあ、大学は開かれた場所ですからね。うーん……」
稲生は何故か腕組みをして考え込んでしまった。
「ダメなのか?」
「ダメってわけじゃないんですけどぉ……。僕の高校はちょっと変わったところがあって、あまり部外者の立ち入りを喜ばないんですよ」
「そうなのか……」
すると紅茶をズズズと啜ったイリーナがこう言った。
「マリア、ついでにお願いがあるんだけど」
「何ですか?」
「取りあえず、東京まではユウタ君に付いていってあげてくれない?」
「師匠?」
「後でエレーナに連絡しておくけど、ポーリンに頼んでおいた薬がもうすぐ出来上がりそうなの。本当はエレーナにここまで持って来てもらうつもりだったけど、あなたが東京にいるエレーナの所に取りに行ってもいいわけだからね。ついでに稲生君と一緒に行ってきて」
「わ、分かりました!」
マリアは大きく頷いた。
「それじゃ、マリアさんの分のバスのチケットも買ってきませんと」
「あー、そうだね。後でバス代あげるから買ってきて」
「分かりました」
[7月17日18:00.天候:曇 マリアの屋敷]
またまた外国から戻ってきたイリーナと共に、夕食を囲む稲生達。
マリアの屋敷の大食堂は、1度に10数名が囲めるほどの大きなテーブルを備えている。
尚、上座に当たる部分においてさえ、イリーナがそこに座ることはない。
上座のすぐ隣の席に陣取るのみ。
これはイリーナがけしてダンテ一門の中では最上位にいるわけではないことを意味しており、また、そういった最上位の者達の突然の訪問にも対応できるようにする為だった。
夕食の後で食後のコーヒーや紅茶のタイミングになった時、イリーナが深刻な顔をして稲生に言った。
「稲生君。あなたに選択肢を与えるわ。どちらか選んで」
「は?」
「同窓会に本当に行くか行かないか決めて」
1:同窓会に行く。
2:同窓会に行かない。
3:どういう意味なのかと質問する。
「それはどういう意味なのでしょうか?」
「わざわざこんな質問するくらいなんだから分からない?同窓会に行くことで、あなたの身に危険が迫っているのよ?」
「な、何故ですか!?」
「それは分からない。だけど最悪、あなたは死神に取り殺されることになっている」
「は!?え!?」
「魔道師が死神に殺されるなんて、赤っ恥もいい所だわ。魔道師として最良の方法は、正に予知夢を活用してその事態を回避することよ」
「だけど、もし死神に狙われたとしたなら、ここに残っても同じことなんじゃないですか?」
「死神にもいくつかのパターンがあるからね。罠を仕掛けておいて、そこに掛かった者を殺して魂を奪い取るなんてヤツもいるのよ」
「ええ……?」
「分かった。行くなとは言わないわ。だけどね、あなたは向こうに行った後、何か会議のようなものに参加することになるみたい」
「そうなんですか?」
「もしそこで、魔女に関することを話すヤツがいたら気をつけなさい」
「魔女のことを話すヤツ?」
「私の予知夢はね、どこまで展開が進んだら後戻りができないかが分かるようになっているの。もし会議の中で、魔女について話すヤツが来たらすぐに逃げなさい。いや、待って。マリアに連絡して来てもらった方がいいわね」
「師匠、こんなことを言うのも何ですが、私は死神と戦ったことがありません。“魔の者”とは違うんですか?」
「違うっぽいねー。ま、とにかくそういうことだから。行かない方がいいけど、行くなとも言わない。あれだけユウタ君、楽しみにしてたもんね」
「ええ、まあ……」
「人間時代の思い出は大切に、なんて言った私がそれを否定しちゃダメだよね。とにかく、気をつけなさい」
「分かりました」
因みに、出発前日のことである。