報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 第3章 「叫喚」 12

2016-07-14 22:57:36 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日12:00.天候:曇 新日蓮宗大本山 興雲山大山寺 大本堂]

 せっかく仲間になったと思ったジョージがハンター無双に失敗し、死んでしまった。
 私達は同じくハンターに殺された増田さんも含め、彼らの死を無駄にしないよう、何としてでもここから生きて脱出することを誓い合った。
 武器や弾薬は、救護所内やその周辺に倒れているUBCS隊員から頂戴した。
 特に私は、手持ちの猟銃だけでは不安な為、ジョージの形見であるAUGマシンガンを持った。
 イスラムの武装過激派のメンバーがこれを振りかざしている映像は見たことがあるが、本物を持ったのは初めてだ。
 尚、このマシンガンとアサルトライフルはほぼ同義である。
 また、高野氏はどこから拾って来たのか、M40A3という狙撃用ライフルまで持って来た。
「……なあ、高橋君」
「何でしょうか、先生?」
 高橋は相変わらずハンドガンに拘りがあるようで、Lホークとコルトパイソンにマグナム弾をリロードしていた。
「俺達、上手くここから脱出できても、日常に戻れると思うか?」
「えーっと……」
 高橋が答えに窮した。
 いつもならスッパリ答える彼が、答えを迷っている。
 すると高野氏が、同じく拾って来たライフル弾をリロードしていた。
「帰ったら、どこかの軍隊からスカウトが来たりしてね。米軍かもしれないし、イスラム国かもしれないよ?……おっと、女はイスラム系過激派には入れないか」
 高野氏は自虐的に笑った。
「あいつらにとって、女性は『仲間』ではなく、慰みモノだけの『戦利品』だもんね」
「南米の極左テロ組織なら、女も活躍してるって話だぞ?」
「ゴメーン!私、共産主義には興味無いの」
 高橋の真顔な指摘に、冗談っぽい笑顔で返す高野氏だった。
 多くの人が死んでいるというのに、不謹慎じゃないかって?
 後になってみると、そうかもしれない。
 だけどここまで多くの人が死んでしまって、尚且つ化け物が闊歩しているような環境にいると、感覚がズレてしまうのかもしれないな。
「じゃあ、準備ができたら行こう。作戦は大本堂を突っ切って、裏口からヘリポートに出る。そしてそこから高橋君が背負っている信号弾を使い、近くを飛んでいるヘリコプターを呼ぶんだ」
「OK!」
「了解です、先生!」
 私達は鉄製の門扉を乗り越え、更に重厚な木製の門扉の横にある通用口を開錠しようとした。
「あっ、ちょっと待った!」
 と、そこへ高野氏が制止した。
「っ!何だよっ!?」
 高橋が苛立ったように高野氏を睨みつける。
「まあまあ、高橋君。どうしたの、高野さん?忘れ物?」
「……ちょっとトイレ」
「だーっ!」
 ズッコケる高橋。
「これこれ」
 高野氏は自分の荷物の中から、チラッとナプキンの入ったポーチを見せた。
「ああ……。それならしょうがないよ、高橋君」
「女なんか放っときましょうっ!」
「いいから!そんなに慌てて行く必要なんか無い!」
 そうなのだ。
 この大本堂周辺には、ゾンビの姿もハンターの姿も無かった。
 これは一体、どういうことだろう?
 つい私はゾンビの群れかハンターの群れがいて、どちらかの無双を強いられるのかと思ったのだが……。
 辺りは静まり返っていて、まるで廃寺にいるかのようだ。
 私達は大本堂西隣にあるという公衆トイレまで行ってみた。
 公衆トイレと言っても、そんなに古めかしいものではない。
 男子トイレを覗いてみたが、便器も洗面台も今風のセンサー式だった。
 で、ここにもゾンビやハンターの気配は無かった。
「……大丈夫みたいだな」
「ちょっと行ってくるから、ここで待っててよ?シている間、無防備になるんだから、何かあったら助けてよ?」
「分かった分かった」
 さっきまで女傑とか女戦士とかいう言葉がピッタリ似合いそうな高野氏も、この時ばかりは不安そうな顔をした。
 高野氏がトイレに行くと、何だか私も尿意を催してきた。
「高橋君。俺も行ってくる。キミは?」
「……俺はさっき、救護所のトイレに行ってきましたんで」
「マジで?いつの間に?キミは要領がいいなー。まあ、いいや。ちょっと行ってくる」
「先生の身に何か起こらないよう、護衛します」
「いいからいいから。女性と違って男の小は早いんだから、高野さんを見ててあげて」
「はあ……」
 私は女性トイレとは反対側の男性トイレに入った。
 高橋は女性用と男性用とで別れる所の、ちょど境目の所に立ってLホークを構えていた。
 高橋にとっては、オートのLホークの方が使いやすいらしい。
 私は奥の小便器の前に立って用を足していた。
 しばらくすると、私の右肩をトントン叩く者がいる。
 高橋だろうか?
「何だよ、高橋君?俺は大丈夫だから、高野さんを見ててって言っただろう?」
 しかし、それが右腕を掴む。
「何だよ、人が用足してる時に……」
 私が変な顔をして右を向いた。
「?」
 私の肩を掴んでいるのは、手ではなかった。
 何か、細長い赤いロープのような……?
「んん?」
 私はズボンのチャックを上げた後、そのロープの上を見た。
「……!!」
 そして、しばらく硬直する。
 赤いロープを垂らしていたのは……いや、正確に言えば赤いロープではないな。
 それは赤い触手……いや、違う。舌だ!
「先生、まだですかー?」
 高橋がヒョイとトイレの中を覗く。
「あわわわわわわ!」
 私は慌てて天井を指さした。
 そこにいたのは、天井の梁にしがみついて、何メートルもの細長い舌を持った化け物!
「な、何だ、テメェ!?」
 高橋はその化け物にマグナムを放った。

 ガッシャーン!

「うわっ!?」
 その化け物は高橋から1〜2発ほど食らうと、トイレの天窓をブチ破って逃げた。
「た、高橋君!逃げたぞ!?」
「待ちやがれ、化け物!!」
 高橋はトイレの外に飛び出した。
 私も急いで後を追う!……おっと!その前に手を洗わないと……。
 その後で外に出ると、高橋が、
「先生、大変です!今の化け物、大本堂に入って行きました!」
「何いっ!?大講堂は鍵が掛かってて入れないはずだろう!?」
「それがあいつ、壁をヤモリのようにスルスル登って、通気口から中に入って行ったんです!」
「なるほど!どこかで見たことがあると思ったら、ヤモリの化け物か!」
「……でも、ヤモリって長い舌を持ってましたっけ?」
「……あ。そうだな……」
「カメレオンみたいでしたね」
「それにしては、擬態とかしなかったな……。何なんだろう?やっぱり正体はヤモリで、化け物になった時に舌が長くなったとか?」
「カメレオンで、化け物になった時に擬態の能力を失ったとも考えられます」
 鉄道トンネルで遭遇した蜘蛛の化け物。
 元々は網を張る蜘蛛だったと思われるが、巨大化した際にその能力は失われたとされる。
「おいおいおい。そんなのが大本堂の中にいるってのか?」
「やっぱり素直に、行かせてくれないようです」
「どうやら、そのようだな」

 私は女子トイレにも、そのヤモリだかカメレオンだかの化け物が出ないか警戒していたが、幸い高野氏は何事も無かったかのように出て来た。
 高野氏に今の化け物について説明してみたが、彼女の知識の中にそれは無かった。
「とにかく、大本堂の中にはそういう化け物が潜んでいる恐れが十分あるから、気をつけて行こう」
 私は2人に注意を促すと、今度こそ一緒に大本堂の門扉へと向かった。
コメント (3)
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