報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第2章 「異界」 5

2016-07-04 21:07:23 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日03:00.天候:不明 某県霧生市・霧生電鉄霞台団地駅 関係者専用エリア]

 私は、高橋がピッキングして開錠した休憩室のドアを開けた。
 念の為、入ると同時に私は銃を構えて、急なゾンビの襲来に備える。
 だが、休憩室内にはゾンビはいなかった。
「ほら、高橋君。ゾンビなどいないじゃないか」
 後から入って来た高橋はドアを閉め、後からゾンビが入ってこないように鍵を掛けた。
「ですが、油断は禁物です。先ほどのロッカールームのように、そこのロッカーからまたいきなり飛び出して来るかもしれません」
「う……そうか。じゃ、ちょっとだけ確認をば……」
 私はロッカーに近づいた。
 と、その前に、だ。
「阿部さんって人は?ここにいるはずじゃ?」
「ゾンビにすらなっていないとは……」
「あ、あの……」
「!?」
「誰だ!?」
 ソファの裏から声がした。
 ソファは壁にベタッとくっついてはおらず、壁との間に隙間があった。
 そこから、ニュッと手が出て来る。
 その手は腐ってなどいない、きれいな手だった。
 恐る恐るといった感じで出て来たのは、高木巡査長と同じくらいの年恰好の男。
 ソファの陰に隠れられるくらいだから、小柄な体型だ。
「あなたが阿部さんですか?」
「は、はい。阿部です。あ、あの……あなた達は……?」
「東京から来た探偵の愛原と申します」
「助手の高橋です」
「どうして、東京の探偵さんが?それに、その武器は……」
「この町へは仕事で来たんです。そしたら、こんな大惨事に巻き込まれてしまって……。ま、このショットガンやハンドガンは拾い物だったり貰い物だったりするんですが……」
「これくらいの装備をしてても、油断したら殺される。そんな状況だ」
「警察は……?」
「市街地ではどうなのか知りませんが、少なくともこの霞台近辺の警察は全滅してしまったようです」
「ええっ!?」
「警察ではなく、一民間の探偵がここに辿り着いてしまったのが、何よりの証拠です」
「そ、そんな……。この駅で、他に生き残りは……?」
「駅事務室にあなたが書き残したように、やっぱりあなた1人だけのようです」
「皆……死んでしまいましたか……」
「悲しむのは後だ。うかうかしてたら、俺達までゾンビのエサになってしまう。早いとこ、ここから脱出するんだ」
「脱出の手段があるんですか!?」
「ええ。ただ、それにはあなたの協力が必要です」
「協力?」
「あなたは電車を運転できますか?」
「そ、そりゃあ……運転士ですから。……ま、まさか、電車で脱出しろと?」
「そのまさかです」
「冗談でしょう!?あんな状態で、普通に運行なんかできませんよ」
「ですが、それ以外の脱出手段が思いつかないんですよ。今頃、駅の外は私達を追ったゾンビ集団が殺到しているでしょうし。トンネルの中を電車で進む他無いと思っています」
「幸い、この駅に電車が止まっている。アンタにそれを運転してもらいんだよ」
「この駅に?」
「知らないんですか?トンネルに瓦礫が流れ込んで来て、それに先頭車がぶつかった状態で止まってますけどね、後ろは無事な車両なんですよ。連結を切り離せば、大丈夫かと。阿部さん、連結を切り離すことはできますか?」
「ええ。よく折り返しで、増解結を行うので」
「ちょっと来てみてください。プロの運転士から見て、本当に電車が出せるかどうか」
「どこへ行くつもりなんです?」
「大山寺駅ですよ」
「大山寺?」
「ええ。駅前の交番にファックスが届いてましてね。大山寺の裏手にヘリポートがあるそうで、そこに警察や自衛隊のヘリを離着陸させるんだそうです。要はそこまで電車で行きたいんですよ。トンネルの中を歩いて行くのは危険だと思うので」
「確かに。この駅の駅員も、変な虫に刺されて、それで……」
「何か、でっかい蜘蛛が現れたらしいですね」
「ああ。聞いたんですか?」
「駅員さんの日記帳にそう書いてありましたよ。結局その人もゾンビになってしまったようですが……」
「そうなんです。トンネルの中は危険ですね。私は逃げる最中に、ドーベルマンくらいの大きさのゴキブリを見ましたから」
「ど、ドーベルマンサイズのゴキブリ?!」
「ええ」
「こりゃ、ますますトンネルの中を歩いて行くわけにはいかないな。阿部さん、何とか電車を動かせるようにお願いします」
「分かりました」

 私と高橋は阿部運転士を連れて、ホームに向かった。
 阿部運転士は元々この駅の駅員だったそうで、それでこの駅のことについては熟知していた。
 このバックヤードから、直接ホームに行く通路があり、それで向かった。
 一応、阿部運転士にも予備のハンドガンを渡そうとしたのだが、頑なに断られた。
「私にはこんなもの扱えない!」
 と。
 そりゃ、私だって成り行きでいつの間にかショットガンまで使うようになってしまったが、そんなこと言ってたらゾンビに食われてしまう。
 しょうがないので、私と高橋で彼の護衛に当たることにした。
「こっちです!」
 阿部運転士は通路奥にある鉄扉の内鍵を開けた。
「よし」
 私と高橋はドアを開けた。
 すると!
「ウオオオオッ!」
「ゥアアアアッ!」
「オオオオオ!」
 ゾンビが3体、待ち伏せしていたかのように私達に襲い掛かって来た。
 姿からして、生前は職員だったか?
「わああああっ!う、内海さん!堀川さん!島村助役!やめてください!!」
「阿部さん、下がって!」
 どうやら本当に、職員のゾンビらしい。
 私と高橋は、職員ゾンビに銃弾を撃ち込んだ。
「ゥアアア……ッ!」
 バタッと最後のゾンビがうつ伏せに倒れ、血だまりを作る。
「ざっとこんなもんだ」
 高橋はハンドガンのマガジンを交換した。
「大丈夫ですか、阿部さん!?」
 私は腰を抜かしている阿部運転士を抱え起こした。
「皆……何でこんなことに……!」
「泣くのはせめて大山寺に着いてからにしろ!そこで坊さんに葬式でもしてもらいやいいだろ!」
 高橋が苛立った様子で、阿部運転士に怒鳴りつけた。
「高橋君!やめろ!」
 私は高橋に強く注意した。
 あのレストランの時の私達も、同じようなものだ。
「ですが、高橋君の言うことも一理あります。まずは、ここから脱出しましょう」
「うう……」
 私達は阿部運転士を支えるようにしながら、ドアの外に出た。
 ドアの外は正にホームになっていた。
 確かに、地下鉄のホームとかにも、『関係者以外立ち入り禁止』みたいなドアがあるが、こういうことだったのか。
「阿部さん、あの電車です!」
 私達は件の電車に向かって走った。
 幸いホームには、他にゾンビはいない。
 手前側2両は相変わらず車内灯が点いており、運転士が運転すれば電車が出せそうだった。
「先生、ちょっと待ってください!」
「なにっ!?」
 先頭を走っていた高橋が、何か異常に気づいたようだ。
 高橋が手持ちのハンドガンを、電車の上に向ける。
「!?」
 電車の屋根の上に、何かいる?
 その『何か』もまた私達に気づいたようだ。
 それはゾンビでもなければ、“赤鬼”でもない。

 電車の屋根の上から、ピョンと跳ねてホームの上に降り立ったそいつは……。
コメント (3)
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