報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「とりま、東京へ」

2016-07-30 21:32:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月21日09:15.天候:晴 白馬八方バスターミナル→アルピコ交通バス車内]

 平日の夏、2人の魔道師の姿は村内のバスターミナルにあった。
 冬は雪深いところでスキー客の姿が多く見られるところだが、夏場はそれと比べれば静かなもので、休日には登山客が訪れるくらいだ。

〔「9時15分発、中央道回りのバスタ新宿行きです」〕

 『Highland Express』と車体に書かれた地元の高速バスがやってくる。
 荷物室に大きな荷物を預けると、2人はバスに乗り込んだ。
「3Aと3Bです。……ここですね」
 バスは4列シートタイプであった。
「いいんですか?僕の家に泊まってもいいのに……」
「いや、いいんだ。今回は特に、魔道師の拠点の所にいた方がいい」
 この2人が同行動するのは、新宿まで。
 稲生はそこからJRに乗り換えて、実家の埼玉へ向かうし、マリアは地下鉄に乗り換えてエレーナの所へ向かう。
「そうなんですか」
 そんなことを話しているうちに、バスが出発した。

〔「本日もアルピコ交通をご利用頂き、ありがとうございます。9時15分発、“中央高速バス”、バスタ新宿行きです。次は、白馬町に止まります。白馬町、白馬五竜、信濃大町駅前、安曇野松川、安曇野穂高、安曇野スイス村までお客様をお迎え致します。お客様の下車停留所は、中央道八王子、中央道日野、中央道府中、中央道深大寺、中央道三鷹、終点バスタ新宿の順です。……」〕

「……僕が危険なのは本当なんですか?」
「本当だよ。師匠があれだけ言ってるんだから間違いない。だけど、師匠の話だと、かなり時間的にギリギリになってから危険みたいだな……」
「そうなんですか?」
「死神ってのは本気になれば、かなり前から狙う。しかも、予告付きでね。だけど今のところ、ユウタには何の予告も無いし、今現在狙われてる形跡も無い」
「何か変な夢でも見るのかと思いましたが、そんなこと無かったですねぇ……」
「そういうものだろう。だからユウタ、行かないという選択肢はまだ使えるということだ」
「そうですねぇ……。マリアさんは、その死神に何か心当たりは無いんですか?」
「死神に知り合いはいないなぁ……。強いて言うなら、冥界鉄道の乗務員がいるだろう?」
「ええ」
「あれだって広義の死神みたいなものだ。死んだヤツの魂を列車に乗せるんだから」
「なるほどねぇ……。じゃあ、まかり間違って冥鉄列車に乗ってしまうってことですか?」
「学校から出てるのか?」
「あ、いや、そう言うことでは……」
「じゃあ、それは無い。冥鉄も人間界じゃ、おとなしく線路の上を走ってるよ」
「そうですよね」
 尚、冥鉄にはバス部門もあり、怪談話の中に出て来る幽霊バスは、大抵この冥鉄バス。
「いきなり鎌を振るってくるヤツもいるから、とにかく気をつけて」
「は、はい」

[同日15:00.天候:晴 東京都新宿区・バスタ新宿→新宿駅]

 話が終わると、マリアはローブのフードを被って眠ってしまった。
 昼食は途中の休憩箇所で買って食べた。
 つまり最初の休憩箇所で食べ物を買って、次の休憩箇所でゴミなどは処分するというもの。
 乗り物で移動する時は魔道書を読んでいたマリアだったが、マスターになってからはそんなことも無くなった。
 乗り物にまで魔道書に持ち込む必要が無くなったのかもしれない。
「広いなぁ……」
 集約されたバスタ新宿の中を、荷物を手にして進む。
「マリアさん、安心してください。都営地下鉄の乗り場まで、一緒に行きましょう」
「ああ、ありがとう」
 大勢の利用者が行き交うバスタ新宿と新宿駅。
 鉄ヲタの稲生でも迷いそうな所でもある為、ましてや外国人のマリアには難しい所だろう。

 マリアが乗るのは都営新宿線。
 新宿駅は京王電鉄が管理している新線新宿駅とイコールである。
「乗り場まで分かれば大丈夫だから」
 と、改札口の前で稲生と別れた。
「5番線から乗ってください」
「分かった」
 マリアは改札口を通ると、更に地下へと下りて行った。

[同日16:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 エレーナが住み込みで働いているホテルに到着する。
 元々ドヤ街にあったホテルなだけに、その規模はこぢんまりとしたものだ。
 しかし設備はちゃんとしたビジネスホテルであり、今ではバックパッカーからの利用も多いという。
「こんにちは」
「やあ、いらっしゃい」
 フロントにはホテルのオーナーが立っていた。
「ダンテ一門のマリアンナです」
「はい、マリアンナさん。お待ちしておりましたよ。こちらのシートにご記入を」
 マリアはペンを取ると、英語で自分の名前と所属を書いた。
 このホテルは『協力者』になっており、魔道師にあっては所属と名前を書くだけで良い。
 マリアのように定住地が決まっている者は、そこの連絡先も記入する必要があるが。
「エレーナはいますか?」
「エレーナは“宅急便”の仕事で今日は忙しいみたいですよ。まあ、夜には終わるみたいですから」
「そうですか」
 こぢんまりとしたロビーの片隅には、アップライトピアノが置かれている。
 自動で演奏を奏でているが、マリアには何の曲だか分からない。
 ただ、そのピアノからも魔力を感じたので、見た目は自動演奏機能付きのピアノのようであるが、実際はそうでないのだろう。
「では、5階の501号室です」
「ありがとう」
 マリアはルームキーを受け取ると、エレベーターへ向かった。
 ホテルと併設されるような形で、レストランがある。
 出入口から通りに面したものと、このホテルのロビーから出入りできるものと2つある。
 名前も“マジックスター”というから、ここも魔女絡みであろう。
 エレーナがここを拠点にしてから、魔道師達がよく利用するようになったという。
(夕食はここかな……)
 まだ準備中のレストランだが、デザートの部分に『目玉の飴玉』なんて不思議な文言があったことは内緒だ。
(取りあえずは、稲生が同窓会に出るまでは安全だということだな)
 マリアはエレベーターに乗ってそう思った。

 願わくば、直前でもイリーナの予知夢の内容が変わることだが、とても確率は低いだろう。
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする