報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第3章 「叫喚」 11

2016-07-13 20:18:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日11:15.天候:曇 新日蓮宗大本山・興雲山大山寺 救護所]

 大講堂を守っていた増田氏がハンターに殺された。
 悲しんでいる暇は無く、その後はジョージが救護所で重傷を負っているようだった。
 私達はすぐに救護所に向かった。
「もう!いい加減にしてよ!」
 現場に向かう間にも、ハンターが私達に襲い掛かって来た。
 既に私達には強い武器があるので、今さら怯む必要は無いのだが、それにしてもウザいくらいだ。
「もしかして先生、そこら辺の草引っこ抜いたりすると、ハンターが出て来るんじゃないですか?」
「やめてくれ!別のホラーだ!」
 そんなこんなで救護所に到着する。
 救護所の周りには、ハンターの死体がいくつも転がっていた。
 更にマシンガンの薬莢が転がっている所を見ると、どうやらジョージが応戦した後らしい。
 確か、彼はAUGマシンガンを持っていた。
 私達は薄暗い救護所に入った。
「ジョージ伍長!ジョージ伍長!いないのか!?」
 私が日本語で叫ぶ中、高野氏が英語で呼び掛ける。
 どうやら、彼女は英語も話せるらしい。
「ううう……。こ、ここだ……!」
 奥から声がした。
 呻き声もしたが、ゾンビのそれとは違う。
 私達が声がした方に向かうと、ベッドの上に血だらけのジョージが横になっていた。
「や、やぁ……みんな……」
「ジョージ!これは一体、何があった!?」
「油断した……。まさか……あ、あんなに……ハンターが……脱走していた……とは………」
 すると、高野氏が溜め息をついた。
「ジョージ。あなたが米軍の伍長というのはウソね。本当はUSS……いえ、UBCSの隊員なんじゃない?」
「!」
「UBCS?何だ、それは?」
 私が初めて聞く英語の組織名に目を丸くした。
 高野氏は答えた。
「正式名称は、“Umbrella Biohazard Countermeasure Service”。日本語にすれば、『アンブレラ バイオハザード対策部隊』といったところかな。アンブレラ社がアメリカ資本の製薬企業だってことは周知の通り。だけど、アメリカの本社には、表向きに創設した子会社の警備会社USS(Umbrella Security Service)だけでは対応できない、非正規部隊を創設したの。それがUBCS。日本の営業所のある町がこんな状態になって、アメリカ本体から派遣されたってことでしょう?」
「……そこまで……知ってい……のなら……もう、否定は……できないな……。私は……UBCSの者だ……」
「やっぱり!」
「それじゃ、ここに来たのは……!?」
「部隊が……バラバラになった……のは事実だ………。仲間が……いないかと……期待したが……このザマだ………」
「そんな!」
「だが……まだ、望みはある……。隣の部屋に……仲間が……眠って……いる。彼が……信号弾を……持ってい……から………持って………合図を……するんだ……。あ……あの、ヘリポートで………。か……ゲホッゲホッ!」
「もういい!ジョージ、喋るな!」
「……へ……ヘリポート……周辺の………安全を……確保………。すれば……何も知らない………ヘリがきっと………。頑張れ………」
「ジョージ!」
「ジョージ、しっかりして!!」
「くそっ!死ぬのはまだだ!」
 だが、ジョージは事切れてしまった。
「ちくしょう……!また生存者が死んだ……!」
「先生……。俺、隣の部屋から信号弾を持って来ます」
 高橋は隣の救護室に行った。
 それは背中に背負って運ぶタイプのもの。
 高橋が背中に背負って運ぶことにした。

 救護所なだけあって、中は救急スプレーなども置かれていた。
 それで傷の手当を行う。
「何これ?“抗ウィルス材”?」
 ジョージの服のポケットや荷物を調べていた高野氏。
 軍人なだけに弾薬の予備などが多かったが、その中に医療キットもあった。
 普通の応急手当に使うものの他に、白いカプセルが入っていた。
 説明書は英語で書かれていたが、もちろん高野はそれを翻訳できた(※)。
「ちょっ……これ……!」
「何だい?」
「もしかしたらこの異変、やっぱりアンブレラの仕業かもしれないよ!」
「何だって!?」
「この薬は抗ウィルス剤だって」
「抗ウィルス剤?インフルエンザか何か?」
「インフルエンザがまともな病気に見えるくらい、この町には奇病が蔓延していたってこと!」
「た、確かに、霞台団地駅の駅員の日記にも、似たようなことが書いていたような……?」
「このカプセルは、一時的にその進行を抑える薬なんですって」
「な、なに?」
「やっぱりゾンビ達からの攻撃を受けると、私達もゾンビになる病気に感染するみたい。だけど、この軍人さん達はアンブレラ側の人間だから、そんなことは百も承知だったわけだね。攻撃を受けてもいいように、この薬を渡されてたみたい」
「マジか!じゃあ、俺達は飲んどいた方がいいんだな?」
「そうだね。どれだけ効くか分からないけど……」
「これは特効薬じゃないのか?」
「違うみたい。但し書きで、書かれてる。『これはあくまで一時的に進行を止める薬であるから、定期的に服用しなければならない。もちろん効用中は、ゾンビ化の恐れは無い。尚、特効薬においては研究所にて鋭意開発中である』」
「開発中って……無いんかい!」
「先生、とにかく飲んでおきましょう。こういう薬って、症状が出始めたら効かなかったりするんでしょう?」
「そ、そうか!」
 私は救護所の外に出て、近くにある自動販売機からミネラルウォーターのペットボトルを3本購入した。
 こんな事態になっても、停電しないから助かる。
 恐らく送電関係においては、無人になっても自動でシステムが稼働しているからだろう。
 それでカプセルを飲み込む。
 当然だが、何も起こらない。
 だけど、これでゾンビ化を少しでも避けることができるのなら、それはそれで安心感があった。
 すると高橋は他にも救護室を回って、
「やっぱり奴ら、持ってましたよ」
 既に事切れているUBCSの隊員達から、抗ウィルス剤を持って来た。
「よし。いつ脱出できるか分からないから、もらって行くぞ」
「はい」
 私達は救護所をあとにすると、大本堂へと向かった。

「……増田さん、ジョージ。俺達は何としてでも生き残るぞ」
 脱出叶わず、死んでしまった生存者達に、私はつぶやくように言った。

(※高野が大講堂に残る選択をした場合、高野はゾンビ化して増田を食い殺し、高橋に射殺される為、抗ウィルス剤の説明書を和訳することができず、服用できなくなる。その為、後に高橋にゾンビ化の症状が現れてしまい、バッドエンドとなる)
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“私立探偵 愛原学” 第3章 「叫喚」 10

2016-07-13 12:22:16 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日10:30.天候:曇 大山寺壱之坊→大講堂]

 何とか壱之坊の3階で大本堂の鍵を手に入れた私達は、大講堂に戻ろうとした。
 だがそこへ、その大講堂の警備室で留守番している増田氏から無線が入った。
{「あー、こちら警備室。今、無線取れるかな?」}
「はい、愛原です。大丈夫です」
{「まずは、そちらの状況を聞かせてもらえるかな?」}
「大本堂の鍵は手に入りましたが、残念ながら浅井主管は化け物になっておりました。それで仕方なく……」
{「そうか……。何とも、おいたわしいことだ。だが、キミ達が無事で何よりだ」}
「それで爺さん、何の用だ?」
{「おー、そうだ。もし途中で、あの軍人さんを見つけたら、大講堂に戻ってくるように伝えてくれんかの?」}
「は?それ何?増田さん放ったからしにして出て行ったってこと?」
 高野氏が応答した。
{「まだ大講堂にいるかもしれん化け物を退治してくると言って出た後、今度は周辺にいる化け物も掃討してくると出て行ったきりなのだ。あの軍人さんのことだから、そう簡単にやられると思えんのだが……」}
「まさかあいつ、1人で逃げたのか!?」
 と、高橋。
「ちょっと待てよ。この無線は、ジョージも持ってるんだろう?今のやり取りを聞いてないのか?」
{「軍人さんには、無線機とは別に巡回用のPHSを持たせたのだが、全く応答が無いのだ。境内のカメラにも映っておらんしな。もし何だったら、ついでに捜してくれんかな?」}
「分かりました」
 無線を切って私達は壱之坊をあとにした。
「全く。世話を掛けさせる軍人だ!」
 高橋は憤慨している様子だった。
「まあまあ。良かれと思って、やってくれたわけだし……」

 そこから大講堂まで行くのに、少し無双しなければならなかった。
「もう!ここにもハンターがわらわらと!」
 ゾンビの姿は無く、代わりに首なし死体が転がっていた。
 境内に残っていたゾンビ達は、ハンターに殺されたらしい。
 幸い弾薬は、途中の駐車場に止まっていたトラックの中に積み込まれていたのを頂戴した。
「何だ、このトラックは?」
「知りませんが、俺がここを最初に探索していた時から止まっていたんです」
 と、高橋。
 因みに、中には誰も乗っていなかった。
「? トラックの下に何かあるね」
 高野氏がトラックの下に隠すように置かれているものを引っ張り出した。
 それは畳まれた1枚の布。
 広げてみると、
「これはアンブレラのロゴマークだ!」
「これ、ここに張られてたんじゃないですか?」
 トラックの荷台は幌になっている。
 その幌の上から、この布を張ると、まるで軍隊のトラックのようになる。
「何でそれが下にあったんだ?」
「わざと隠していたみたいだね。……もしかしたら、ジョージがここに来たのも、このトラックが止まっていたからだったりして」
「ええっ?でも、このアンブレラのマークは何なんだろう?米軍と何か関係が?」
「……もしかしたら、ジョージは米軍兵じゃないのかもしれないね。ま、所々に転がってる特殊部隊の奴等もそうだけど……」
「じゃあ何?」
「ジョージを見つけて、問い質してみるしか無さそうだね」
 と、そこへ、また無線が入った。
{「あー、私だ。軍人さんは見つかったかね?」}
「いや、まだです。てことは、まだ戻ってない?」
{「うむ。それでだな、ちょっと緊急で私は警備室を出る」}
「は!?それはどういう……?」
{「うむ……。まさか、ここまで時間が掛かるとは思わなくてな、インシュリンを持ってこなくてはならんのだ」}
「インシュリン?」
{「私は糖尿の持病があってな。時々、インシュリンを打たなくてはならんのだ。そのストックが無くなってしまった。軍人さんが戻って来たら行こうかと思っていたのだが……、どうにも間に合いそうに無い」}
「それは大講堂の中にあるんですか?」
{「いや。境内の東側に、私らの詰め所があるんだが、そこのロッカーの中だ」}
「あ、あの、増田さん!まだ境内は危険だ!私達が取って来るから、中にいて……。あれ?」
 無線が切れてしまった。
「愛原さん?これって……」
「まずいな。確かに今はゾンビも殆どいない状態だが、代わりにハンターが増えている。危険なことに変わりはない!」
「早く行きましょう!今なら、まだ大講堂からそんなに遠くまで離れていないはずだよ!」
「そうだなっ!」
 私達は大講堂へ急いで向かった。

「キィィィィッ!」
「どけや、テメーラっ!!」
 途中でハンター達が飛び掛かってきたが、高橋が率先して彼らを撃ち殺した。
 普通のハンドガンなら5〜6発は撃たないと死なないハンターも、マグナムであれば2〜3発で倒すことができた。
 そして大講堂の前まで来た時、そこにもハンターが一匹いた!
 やはり、この辺も安全な場所ではなかったのだ。
「増田さん!!」
 高橋がハンターを倒してくれてる間、私はそいつの傍に倒れてる死体を見つけた。
 恰好からして、それは増田に他ならなかった。
 首を跳ね飛ばされ、死んでいた。
「増田さん!くそぉぉぉぉっ!!」
「ひどい……!お爺さんまで……」
「先生!ハンターはブッ殺しておきました!」
「私達が戻るのが、もう少し早ければ……!」
「……先生。あの軍人野郎を捜して、ぶっ飛ばしてやりましょう。元はと言えば、あいつが大講堂を離れるからこうなったんです」
 と、高橋が言った。
「ブッ飛ばすかどうかはともかくとして、本当にどこに行ったの?」
 と、そこへケータイの着信音が鳴った。
「誰のだ!?」
「……増田さんのポケットの中から聞こえるよ」
「そうか!」
 私は増田氏のズボンのポケットから、警備巡回用のPHSを取り出した。
「も、もしもし!?」
 それで出てみる。
{「わ、私です……!ジョージです……!」}
「ジョージ伍長!?一体、どうしたんです!?」
{「あ……そ、その声は……愛原さんか……」}
「何だか苦しそうだけど、一体何が?……ってか、今どこに!?」
{「救護所だ。ハンターの群れに襲われて……今、救護所にいる……!」}
「分かった!救護所だな!今、そっちに向かうから!」
 私はPHSを切った。
「ジョージ伍長は救護所にいるそうだ。どこだ?」
 高橋が境内案内図を見た。
「……やはり、ここからそんなに遠くは無いみたいですね。ここから南東の方向です」
「よし、急ぐぞ!」
「はい!」

 私達は救護所に向かった。
 増田氏が亡くなってしまって、悲しく無いわけではない。
 だが、今度はジョージ伍長が瀕死の状態であることを考えると、駆け付けないわけにはいかなかった。

 いつの間にか雨は止んでいたが、今度は町の名前の通り、霧というか、もやのようなのが境内を覆いつつあった。
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“私立探偵 愛原学” 第3章 「叫喚」 9

2016-07-13 10:12:48 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日09:45.天候:雨 新日蓮宗大本山・興雲山大山寺 壱之坊]

 苦しそうに南無妙法蓮華経を唱える声がした大集会所に到着した私達。
 だが、そこで待ち受けていたのは、この大山寺の住職ではなく、全く未知の化け物。
 恐らくは……かつて、大山寺の住職だったモノというべきか。

 http://kouryakutsushin.com/biorev-wiki/index.php?plugin=attach&refer=%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC&openfile=scagdead.png
(ちょっとリンク先の画像は小さいのだが、イメージ的にはこんな感じ)

「何だこいつは!?」
「タァァァスケェテクレェェェェッ!」
 向かって右側の人間だった頃の名残りを残す部分は喋れるようで、何だか助けを求めている。
「バカか!せっかく先生が助けに来てやったというのに、こんな化け物になりやがって!」
 高橋は向かって左側の、まるでパックンフラワーみたいな大きな口に牙の生えた部分にマグナムを撃ち込んだ。
「浅井御主管!助けに来ましたよ!?」
「ナンミョォォォォ……ゲホッゲホッ!ホォォォォォレェェェェェン……ゲホッゲホッ!……」
「ダメだよ、愛原さん!きっともう彼は正気じゃないって!」
 この化け物と化した御主管は、メタボ体型でありながら、動きは早い。
 まるで、あの“赤鬼”くらいだろうか。
「あのパックンフラワーに捕まるな!あれで丸のみにされてしまう!」
 私達は後退し、遠くから化け物の体やパックンフラワーのような大きな口に向かって撃つが、ほとんど効いてなさそうだ。
 今までのゾンビもそうだったのだが、どうしてああなった!?
「イィィィィデスカァァァァァァッ!?」
「よくなーい!!」
「ミィィィィィィテェェェェェェェゴラァァンナサァァァァァァァァイ!!」
「何をだ!?」
「ドォォォォォォデショオオオオオオオオッ!?」
「何がだ!?」
「アァアア……!」
 と、そこへ1人のゾンビがトイレのドアをブチ破って私達の前に現れた。
「どけっ!邪魔だっ!」
「空気読みなさいよ!」
 そのゾンビは高橋と高野氏に蹴りを入れられた後、
「ダイサァァァァァクゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
 そのゾンビは大きな口に丸のみにされ、バリボリと鈍い音を立てて食われてしまった。
「先生!このままでは埒が明きません!」
「逃げるのか!?だが、防火シャッターが閉まって、脱出は……!」
「ジョージからもらった爆弾を使いましょう!銃は効かなくても、爆弾なら効くかもしれません!」
「よ、よし!試してみよう!」
 トイレの中には複数のゾンビがいたようだが、化け物はそれらを全て食べている。
 おかげで私達は少し時間稼ぎができたのだが……。
 もしかして今まで3階に、隠れているゾンビ以外全くゾンビがいなかったのは、あの浅井主管の化け物が食べてしまったからなのだろうか。
 私は手榴弾を取り出した。
 よく映画などで、安全ピンを抜くとすぐに爆発するような描写があるが、あれは間違いで、本来は安全ピンを抜いた後に、レバーを握らなければならない。
 要は、消火器と使い方は一緒。
 レバーを握ることで、中の火薬が化学反応を起こし、爆発に至るのである。
「ソォォカンブカァァァァァァイ!ダイカンドォォォォォォォォ!!」
「こっちに来たよ!?」
 どうやらあの化け物は早食いのようだ。
 食事を終えた化け物は、まだ足りないのか、今度は再び私達を食らわんとやってきた。
「これでも食らえ!」
 私は安全ピンを抜き、レバーを握って化け物に投げつけた。
「あっ、ヤベッ!?」
 私はパックンフラワーの部分に投げたつもりなのだが、人間の部分に当たってしまい、そこで爆発した。
「いいですよ、先生!効いてます!」
「グォォォォ……ッ!」
 化け物はピヨッてフラついた。
「いや、でも、まだ無事な人間の部分が……!」
「愛原さん!もしかしてあの化け物、残っている人間の部分が弱点なんじゃない!?」
 と、高野氏。
「ええっ!?」
「その女の言う通りです!先生、もう一発ヤッちゃってください!」
「あ、でも……手榴弾は今の一発しか無いんだ。あとは閃光弾と電撃グレネード……」
「電撃グレネードを食らわせてください!」
「わ、分かった!」
「コォォォォセェェェェェェンルゥフゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
 ダダダダっと走って来る化け物。
 私は電撃グレネードを取り出し、スイッチを入れてそいつに投げつけた。
「!!!」
 青白い稲光のようなものが放たれたと思うと、化け物は感電して動けなくなった。
「食らいやがれ!!」
 高橋はリロードしたばかりのパイソンを化け物の人間だった名残の部分に撃ち込んだ。
 続いて、高野氏もショットガンを援護射撃する。

 そして……。

「グオオオオオッ!!」
 大きな口から血反吐が噴水のように噴き出され、
「ス、全テガ……終ワッタ……!ヤット……死ネルノダ……!コレデ……私ハァァァァァァッ!!」
「浅井主管!?」
「先生、離れて!」
 化け物が倒れると、それまでの無理なメタボ体型が祟ったのか、ボンッと破裂した。
 死体はほぼ血の海と肉片だけになり、かつて高僧だったとは思えない状態であった。
「浅井主管……」
 何だか哀れになってきた。
 と、そこへ、
「ねぇ、愛原さん。あれ……」
 高野氏が血の海の中に光る物を見つけた。
 さすがに化け物の血の海の中に入って行く度胸は無かったので、清掃用具入れの中からゴミ拾い用のトングを持って来て、それで拾ってみた。

 

「鍵だ!」
「きっと、それが大本堂の鍵ですよ、先生」
「てことは、やっぱりこれが浅井主管……」
「坊さんであっても、このザマです。やっぱり、自分の生きたいように生きるのがベストってことですよ」
 高橋がドヤ顔で言った。
「うーむ……」
「せっかくだからさ、浅井主管が隠れていた部屋を調べてみようよ」
「そうだな」
 私達は大集会所を調べてみることにした。

 化け物が隠れていたくらいだから、室内は無残に荒らされていた。
 一応その中に、もう1つ鍵を見つけた。
 今度の鍵は小さいが、見たことのある鍵だ。
「これはエレベーター・キーだ。階段から脱出はできないけど、これでエレベーターを起動させれば、それで1階に下りれるはず」
「さすがです、先生!」
 高野氏は新聞記者らしく、手持ちのデジカメで写真を撮っていた。
 また、室内にはメモ書きも散乱していた。
 恐らく、生前の浅井主管が書いたと思われるメモだ。
『例えこの体、化け物に乗っ取られようとも』
 とか、
『障魔からは逃れられないのか。御題目さえ上げ続けてさえいれば、障魔もきっと……』
 更には、
『この部屋には他に避難者がいるようだ。私のすぐ近くに。だが、姿が全く見えない。これはどういうことだろう?常に私のすぐ右側にいる』
 などと書かれていた。
「も、もしかして、浅井主管……自分の体が化け物になっていることに気づいていなかった!?」
「確かに主管の右側には、あのパックンフラワーがいましたが……」
「こういうことってあるんだろうか?」
「でも、『化け物に乗っ取られようとも』と書かれていたから、最後には気づいたのかもしれないね」
 高野氏はそれらのメモも回収した。
「とにかく、鍵も手に入れたことだし、早いとこ大講堂に戻りましょう」
「そうだな」

 私達は大集会所を出ると、1基だけのエレベーターに向かった。
 予想通り、インジゲータ―やボタンのある基盤の一番下に起動キーを差し込む鍵穴があり、そこに鍵を差して回すと、エレベーターを動かすことができた。
 エレベーターの中には何もおらず、それで1階に降りる。
 それを降りるが、すぐゾンビが待ち構えているということもなかった。
 というか、この壱之坊自体に、もうゾンビの気配すら無いのだが。

 壱之坊を出ようとした時、大講堂に残っている増田氏から無線通信が入った。
 その通信内容とは……。
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