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報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「マリアンナを追う者」

2020-02-06 19:50:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月28日19:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生家の前に1台のタクシーが止まる。
 さすがにもう交通規制は行われていないようだ。

 イリーナ:「カードで」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 最近はもうクレカでタクシー料金が払えるのは当たり前である。
 ただ、埼玉県では東京都よりもまだ現金・チケット払いが主流のようだ。
 イリーナが慣れた手つきで暗証番号のボタンを押している中、稲生は土産を持って先にタクシーから降りた。
 今現在はマリアが1人で留守番をしていることになっているが、あくまでも謹慎としての意味合いである。

 稲生:「マリアさんに、これ教えてなかったなぁ……」

 稲生は手持ちのカードでセコムを解除した。
 稲生家には今や機械警備が導入されている。
 基本的には無人となる際や、在宅であっても外部からの侵入を防ぐ為、任意で窓や玄関のドアの防犯センサーを稼働させるタイプである。
 住人に渡されるセキュリティカードで解除できる。

 稲生:「マリアさん、ただいまです」

 稲生が玄関の鍵を開けると、中からマリアが悪い顔色で出てきた。
 さすがにもうTシャツ・短パンに着替えている。

 マリア:「師匠は?」
 イリーナ:「今、タクシー料金を払ってます。これ、お土産の夕食です。……食べれますか?」
 マリア:「うん。大丈夫」

 ファミレスのテイクアウトメニュー。

 イリーナ:「まだ御両親は帰ってないのね」
 稲生:「父からメールがあって、今夜は病院に止まるそうです」
 イリーナ:「申し訳無いことしちゃったねぇ……」
 稲生:「いえ、僕の方こそ、機械警備のことを話しておけば良かったです」

 稲生は玄関に取り付けられた非常ボタンを指さした。
 これを押せば警備会社に自動で通報が行き、警備員が駆け付けてくるのはもちろん、警備会社から警察にも通報されるという仕組みだ。
 探偵のスコット・ノーマンは既に門扉を勝手に開けて玄関まで来ているので、不法侵入で訴えるのが正解だったのである(警備員もよく使う施設管理権)。

 イリーナ:「とにかく、今日はこれでも食べて寝てな。夜は勇太君の部屋に行ってもいいから」
 稲生:「え……」
 マリア:「はい、そうします」

 マリアは稲生を見た。

 稲生:「あの探偵のこと、どれくらいで分かりますか?」
 イリーナ:「ベイカーさんの動き次第だよ。ベイカーさんは顔が広いから、すぐ世界探偵協会のことなんか調べられるさ」
 稲生:「なるほど……」

 あまり食事も喉を通らなかった稲生やイリーナとは対照的に、マリアは結構ペロリと夕食を平らげた。

[同日02:00.天候:晴 稲生家1F客間]

 イリーナは客間に1人でいた。
 部屋の照明は点いていないが、まるで電気スタンドを点灯しているかのような明るさである。
 マリアはいない。
 本当に稲生の部屋に行ってしまった。
 時折真上にある稲生の部屋から物音がすることから、2人同じベッドで寝ているのであろう。
 婚前交渉はダンテ一門の掟では禁止していない、自由恋愛の行動の1つとされている。
 無論、所属する魔女達の状況からして、あえて禁止にする必要が無いだけなのだが。
 キリスト教のカトリックでは禁止されていることから、それを奨励している魔道士の一門は『狩るべき魔女の団体』とされる。

 部屋が明るいのは、イリーナが水晶玉を使っているからだ。

 イリーナ:「……それは本当の話なんですか、先輩?」
 ベイカー:「間違いない。あの探偵のクライアントは、マリアンナの母親だ。あんた、処分してなかったのか?」
 イリーナ:「あ、あの時は、“魔の者”から逃げるので精一杯だったし、まさか日本にいるとは思わないじゃないですか。それに、役所には死亡届を出しましたから」
 ベイカー:「最後の行動が余計だったようだ。何しろ肝心の死体が見つかっておらんのだからな。当然だ。死んだはずのマリアンナは今、日本のサイタマにいるのだから」
 イリーナ:「しかし、どうしてまたバレてしまったのでしょう?」
 ベイカー:「ナディアに口止めをしなかったのか?あいつの人間の夫、FacebookやTwitterをやっておる」
 イリーナ:「そうですねぇ……って、ええ?」
 ベイカー:「この前、あんた達、ウラジオストクに行っただろ?そこでナディア達に会ったんだろう?で、ついでにウラジオストクの観光もしたんだろう?」
 イリーナ:「そ、そうです」
 ベイカー:「そうです、じゃない!ナディアの夫がその様子を嬉々としてFacebookやTwitterにアップしたもんだから、それで発覚した可能性が高い。彼がアップした写真、マリアンナもバッチリ写ってたからな」
 イリーナ:「なのに、どうしてピンポイントで日本に来たのでしょう?ウラジオストクに行くのならまだしも……」
 ベイカー:「そりゃ日本人が同行していて、『ついに従弟達が日本に帰ります』なんて書いてたら、そりゃ日本を捜すだろう」
 イリーナ:「そ、それもそうですね……。マズったなぁ……で、でも、その探偵はマリアが殺しましたから、大丈夫ですよね?」
 ベイカー:「死んだ場所がピンポイントで稲生勇太の家で、しかも依頼した探偵が魔法で殺されたことが分かれば、ピンポイントでそこに行くわい」
 イリーナ:「うあー……。マリア、お尻ペンペン30回の刑じゃ軽かったかなぁ……?」
 ベイカー:「弟子の不始末は師匠の責任!私があんたにお尻ペンペン30回したいくらいよ!」

 魔道士の世界は日本の伝統芸能の世界並みに、先輩・後輩の上下関係が厳しいのである。
 特に創始者ダンテの直弟子達(1期生)の中では。
 いや、魔女……つまり女の世界なわけだから、宝塚音楽学校やその歌劇団並みの上下関係と言えば良いか。

 イリーナ:「か……!か……!!」

 今度はイリーナの顔色が悪くなる番だった。

 イリーナ:「ど、どうしたものでしょうか、大先輩?」
 ベイカー:「まず、この事件を知る関係者を近づけさせないこと。弟子達については、あなたが責任を持ちなさい。それと、要は稲生勇太君の両親ね。……そうね。海外旅行でもプレゼントして、1週間は家から避難させることね。その家を離れるのはいつ?」
 イリーナ:「日本時間31日の夜です」
 ベイカー:「それでは遅い。もっと早く脱出するか、或いは……」
 イリーナ:「?」

 やはり、そこは魔女なのだろう。
 思いっきりサイコパシーなことをベイカーは言って来た。
 そして、

 イリーナ:「その手がありましたか!」

 と、大きく手を叩いたイリーナもまた魔女だったのである。
 それは、

 ベイカー:「マリアンナの母親とて所詮は人間。必ず渡日する際には航空機を利用する。その航空機を特定して、墜落させれば良い

 というもの。

 イリーナ:「そのくらいなら大先輩のお手を煩わせることもありません。私が始末してみせますわ」

 その時浮かべたイリーナの笑顔は、正にサイコパスに満ち溢れた魔女の笑顔であったことだろう。
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“大魔道師の弟子” 「人を呪わば穴二つ」

2020-02-06 14:56:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月28日18:00.埼玉県さいたま市中央区新都心 ロイヤルホストさいたま新都心店]

 イリーナ:「何だか珍しいわね。勇太君とこうして2人で食事をするなんて」
 稲生:「あ、はい……」
 イリーナ:「あ、遠慮しなくていいからね。魔道師の世界は、先生が弟子の衣食住の面倒を看るのは当然なんだから」
 稲生:「ありがとうございます」

 とはいうものの、やはり稲生は食が進まなかった。
 イリーナとて今回は大食というわけではなく、むしろワインの方が多い。

 イリーナ:「今回のことで、勇太君のお家には迷惑を掛けてしまったわね。まさか、マリアがあんな行動をするなんて……」
 稲生:「マリアさんは悪くない……です。悪いのは、あの探偵ですよ」

 コードネーム『愛原学』、本名スコット・ノーマンは本当に世界探偵協会イギリス支部に所属する小さな探偵事務所の個人経営者だったらしい。
 但し、欧米の支部にあっては、民間業者なのを良いことに政府関係者からも秘密裏の仕事を請け負うことがあるらしく、背景(スコットのクライアントは誰だったのか、など)はまだ分かっていない。
 何しろ、カルロス・ゴーンの国外逃亡にも関わったかもしれないとされる世界探偵協会。
 その存在はイルミナティ並みに侮りがたいものとなっている。

 イリーナ:「どう思う?私は……勇太君も知ってる通り、都合の悪い輩を魔法で何人も殺したりはしてるよ。もちろんマリアも、魔道師としてビッグになっていくに当たって、どうしても血のやり取りをしなきゃいけない場面に遭遇するでしょう。それは覚悟しておくように、予め言ったわよね?」
 稲生:「はい。それは聞いています」

 そしてそれは稲生自身も、いずれそうなるということだ。
 何年先か何十年先かは分からないが。

 稲生:「でもまさか、マリアさんがザキを使えるとは……」
 イリーナ:「魔導書の中には書いてあるのよ。呪殺魔法の1つとしてね。で、その中でもかなり危険な即死魔法よ。最大のメリットは『人を呪わば穴一つ』なんだけど」
 稲生:「ん?『穴二つ』では?」
 イリーナ:「『一つ』でいいのよ、この魔法」

 要は他人を呪う場合、それは自分にも返って来るから、墓穴は相手の分だけでなく、自分の分も用意しとけよという意味なのだが、どうやらマリアが使用した魔法はそんなデメリットは無いらしい。
 往々にして呪殺魔法は、失敗すると自分に跳ね返って来るなんて危険性を持っているものだが、要はそれは無いと。

 稲生:「凄いですね。本当に『ザキ』だ」
 イリーナ:「勇太君の知ってる『ザキ』とやらがどんなものなのかは知らないけれど、こっちの魔法はかなり高度なのよ。普通、ローマスター(Low Master 一人前になりたて。階級章は緑で、マリアはブレザーに着けている)には使えないはずなんだけど……」
 稲生:「お仕置きの時、泣いて弁明してたみたいですけど……」

 魔法使いの世界では、師匠から習っていない魔法を弟子が独学で習得して使用するのは禁止されている。
 車で言えば、自動車学校で教習車を無断で借りて練習するようなものだ(知識として覚えるのはOK)。
 イリーナは鞭を出して、マリアの尻を何度も引っ叩いた。

[同日16:00.天候:晴 稲生家1F客間]

 イリーナ:「お気に入りのスカートが敗れるといけないから、それは脱ぎなさい」
 マリア:「はい……」

 マリアはスカートを脱いだ。
 さすがに警察からの事情聴取があったので、Tシャツ・短パンからは着替えていた。

 イリーナ:「本当はショーツも脱いでもらうんだけど、今回はしょうがないわ。アソコから変な物出して、床を汚してしまっては更に稲生家の皆さんに申し訳ない」
 マリア:「はい……」
 イリーナ:「両手を頭に、足は踏ん張って!」
 マリア:「……っ!」

 その後、イリーナのマリアに対する教育的指導が始まった。

 マリア:「まさか本当に……使えるとは……思わなかったんです……」

 マリアは泣きながら弁明した。
 もちろん、この場から稲生家の面々は遠ざけられた。

 イリーナ:「しばらくそこで反省してなさい!」
 マリア:「グスッ……グスッ……ック……!」

 マリアは腫れた尻を当然下にできないので、うつ伏せでベッドに横たわることとなった。
 幸い、黒いサニタリーショーツが破けることは無かったが。

[同日19:00.天候:晴 ロイヤルホストさいたま新都心店]

 稲生:「僕は……マリアさんのことが好きです。それは今でも変わらないです」
 イリーナ:「そう。ありがとう」
 稲生:「それにしても、あの探偵は一体何だったんでしょう?」
 イリーナ:「もちろん私が調べるわ。探偵はマリアに直で用があった。探偵がそうだということは、探偵にそれを依頼したクライアントがいるということ。それが誰なのか……」
 稲生:「イギリス国内の誰かってことですよね?」
 イリーナ:「幸いルーシーを通して、大先輩のベイカーさんも動いてくれるみたいだから、すぐに分かるでしょう」
 稲生:「だといいですけど……。マリアさんの人間時代の関係者ですかね?」
 イリーナ:「そうかもしれないわね。マリアが繰り広げた復讐劇の中には生き残りもいる。私はそいつらの記憶は消したつもりだけど、人間の脳ってまだまだ分からないことだらけだから、何かの拍子に記憶が戻った者がいてもおかしくはない。その中に今度はマリアを恨んで追い掛ける奴が出てきたとしても、けしてそれはおかしいことではないの」

 さすがにイリーナとしても、その生き残りを生命的に始末まではしなかったらしい。

 稲生:「! そういえば、マリアさんの人間だった頃の友達に、アンジェラって人がいたらしいですけど……」
 イリーナ:「ああ、それは違うわね。そのコも死んでるから」
 稲生:「あ、そうですか……」
 イリーナ:「あのコが普通の人間だった頃、1番仲良くしてくれたこともあって、今でも時々夢に見るらしいんだけど……」
 稲生:「そうですか……」
 イリーナ:「あ、デザート何か頼みましょうか。さすがにあんなことがあって、重い食事はできなかったけど、甘い物は別腹でしょう?」
 稲生:「あ、はい。そうですね」
 イリーナ:「ついでに食後のコーヒーもお願い」
 稲生:「ドリンクバーから持ってきます」

 稲生は店員を呼んで適当にデザートを注文した後、席を立ってドリンクバーに向かった。
 その間イリーナは水晶玉を取り出して、どこかと交信した。
 尚、この場に稲生の両親がいなかったのは、家の玄関に変死体があったことでショックを受けた稲生佳子が倒れて病院に運ばれ、父親の宗一郎が付き添っているからである。
 イリーナが申し訳ないと思ったのは、要はその部分で迷惑を掛けたということなのである。
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