報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「横移動」

2020-02-01 23:19:21 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月28日11:20.天候:雨 埼玉県戸田市 JR戸田公園駅]

〔この先、電車が揺れることがあります。お立ちのお客様は、お近くの吊り革、手すりにお掴まりください〕

 稲生とマリアは下りの埼京線に乗っていた。
 鈴木や稲生の母親の佳子からもたらされた情報からして、急いで家に帰った方が良いという判断をした為だ。

〔まもなく戸田公園、戸田公園。お出口は、右側です〕
〔The next station is Toda-koen.JA18.The doors on the right side will open.〕

 電車が中間駅の戸田公園駅に到着する。
 戸田競艇などの最寄り駅で、戸田市内では唯一快速が止まる駅である。
 どうして電車が大きく揺れるのかというと、ホームが副線にある為、ポイントを通過するからである。
 本線は通過線であるが、そこを走る電車は通勤快速か回送電車くらい。
 かつては埼京線を特急が走る計画があったらしく、それ用に設置したものだという(計画段階で埼京線は川越線ではなく、高崎線と相互乗り入れする予定だったらしい)。

〔とだこうえん~、戸田公園~。ご乗車、ありがとうございます〕

 そもそも戸田市内には用の無い魔道士達。
 このまま発車を待つはずであった。
 だが、稲生は目ざとく……もとい、耳ざとく乗務員室から賑やかに聞こえる列車無線の声を聞いた(この2人は最後尾の10号車に乗っている)。

〔「お客様にお知らせ致します。先ほど武蔵浦和駅にて、人身事故が発生したとの情報が入りました。この為、この電車、当駅にてしばらく運転を見合わせます。お急ぎのところ、大変申し訳ございません。運転再開見込みについては、まだ立っておりません。繰り返し、お客様にお知らせ致します。……」〕

 車掌がマイクで放送する。
 その後ろで、旅客指令からの放送が混じっていた。
 ざわつく車内。

 稲生:「マジか……!」

 武蔵浦和駅には埼京線と武蔵野線が通っているが、この電車が止まったということは、埼京線で流血の惨が起きたらしい。

 マリア:「事故か?」
 稲生:「そうです。武蔵浦和駅で、この路線の電車が人をはねました」
 マリア:「マジか……」

〔「……運転再開見込みについては、まだ立っておりません。情報が入り次第、順次お伝えして参ります。お急ぎのところ、大変申し訳ございません」〕

 稲生:「こりゃダメだ。別の路線に移動しましょう」
 マリア:「別の路線?他に電車が走ってるの?」
 稲生:「他に電車が走っている所までバスで移動するんです」

 稲生はマリアの手を取ってホームに降りた。
 そして、改札口に向かった。

[同日同時刻 天候:雨 埼玉県さいたま市南区 JR武蔵浦和駅・埼京線ホーム]

 探偵:「Damn it!何でよりに寄って俺の電車に飛び込んで来るんだ!!」

 探偵はフロントガラスにひびが入り、血糊のついた車体を見ながら自殺者を罵った。

 探偵:「このままでは確実に奴らを逃してしまう!」

 探偵は窓を開けると、そこからホームに飛び降りた(電車は先頭車と2両目だけホームに掛かっていた)。

 駅員:「お客さん、危ないよ!」

 だが、探偵の真似をして他の乗客達も窓から飛び降りた。
 その安全確認もしなければならなくなったので、埼京線の復旧はますますズレ込むこととなる。

[同日11:35.天候:雨 JR戸田公園駅東口→国際興業バス蕨55系統車内]

 戸田公園駅を出て東口のバス停でバスを待っていると、折り返しの路線バスがやってきた。
 バスが発着する駅前にしては狭い場所で、お世辞にもロータリーとは言えない場所だった。
 バス停の前は広くなっていたが、それでもバスの横は車が1台しか通れない。

 稲生:「これで蕨駅まで行って、そこから京浜東北線に乗りましょう」
 マリア:「さすが勇太。よくこんなエスケープルート知ってるね?」
 稲生:「こういう鉄道路線では、必ず駅前からどこかの鉄道路線に繋がるバス路線があるんです。この駅だって快速停車駅ですから、京浜東北線のどこかの駅に行く路線くらいあるだろうと思いましたが、当たりましたね」

 2人は1番後ろの座席に座った。

 稲生:「横に移動する分、少し時間を取られますが、いつ復旧するか分からない電車の運転再開を待つよりかはマシかと」
 マリア:「確かに……」

 そんなことを話していると発車の時刻になり、バスにエンジンが掛かった。
 そして、電車のドアチャイムみたいな音が鳴って中扉が閉まった。

〔発車致します。ご注意ください〕

 そしてバスは、駅前の狭い道を発車した。
 だからなのか、バスのサイズは中型である。

〔♪♪♪♪。毎度、国際興業バスをご利用くださいまして、ありがとうございます。このバスは東部浄水場、中央プール入口経由、蕨駅西口行きです。途中お降りの方は、お近くのボタンを押してお知らせください。次は戸田公園駅入口、戸田公園駅入口でございます。……〕

 稲生:「そんなに長い路線ではないので、お昼前には着きますよ」
 マリア:「早いとこ師匠に報告しないと……」

 携帯用に野球のボールくらいの水晶玉を持っているマリアだが、まだイリーナからの応答は無いという。

 マリア:「こんな時間になってもグースカ寝てやがって……」
 稲生:「お伽話に出てくる魔女が、平気で夜も活動しているのは昼間によく寝ているということですかね?」
 マリア:「その魔女は大抵婆さんでしょ?歳を取り過ぎて、時間の感覚が分からなくなってるだけだよ」
 稲生:「そんな認知症みたいな認識でいいんですか?時間の感覚が分からなくなってる時点で、もう末期じゃ?」
 マリア:「“ヘンゼルとグレーテル”に出てくるBBAは、間違いなく末期症状だと思う」
 稲生:「人食いの時点で既に違うと思います」

 グリム童話の話で盛り上がる魔道士見習いと若い魔女。
 相変わらず降りしきる雨の中、バスは規則正しくワイパーを動かして東へ向かった。
コメント
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