報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「イリーナ組の敗北」 

2020-02-15 20:01:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月30日15:20.天候:雪 埼玉県さいたま市中央区]

 降りしきる雪の中、稲生とマリアを乗せたタクシーが稲生家に近づく。

 稲生:「あ、すいません。そこの信号、左に曲がってください」
 運転手:「はい、左ですね」

 運転手が左ウィンカーを上げる。
 が、タイミング悪く信号が赤になってしまった。
 タクシーは信号の手前で止まった。

 マリア:「!」

 その時、マリアの水晶玉が赤く鈍く点滅した。

 稲生:「マリアさん!?」

 この水晶玉は近くにいる魔道士からの緊急アラームも受信できる。
 この近くにいる魔道士といったら、1人しかいない。

 運転手:「どうかしましたか?」
 マリア:「Go straight!Don’t turn!」
 運転手:「え?は?」
 稲生:「このまま真っ直ぐ行ってください!」
 運転手:「ま、真っ直ぐですか?!」

 信号が青に変わり、運転手はウィンカーを戻して曲がらなかった。
 本来曲がるはずだった道を見ると、稲生の家が見えるのだが、そこにイリーナがいた。
 イリーナともう1人、見たことの無いデザインのローブを着た魔道士が対峙している。

 運転手:「もうそこがパチンコガーデンですが……」
 稲生:「あ、えーと……」

 稲生はマリアを見たが、マリアは水晶玉に向かってイリーナと交信しようとしているので忙しい。

 稲生:「と、取りあえず北与野駅に向かってください!」
 運転手:「北与野駅ですか!?は、はい!」

 ついにマリア!

 マリア:「Mayday!Mayday!Mayday!This is a class of Irina,Marianna Belphgor Scarlet!Emergency call number 999!」(メーデー!メーデー!メーデー!こちらイリーナ組、マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット!救援要請番号999!」

 と、門内全部に向かって救援要請を行う。

 稲生:「ま、マリアさん!?」

 稲生は一瞬それは大げさではないかと思ったが、そうではないことをすぐに知った。

 マリア:「One more time!Mayday!Mayday!M……」

 ドーン!

 稲生:「うわっ!?」

 後ろからまるで別の車に追突されたかのような衝撃を受けた。
 運転手が急いで急ブレーキを踏む。
 が、それが効かなかった。
 それどころか、車がちょうど運転席と助手席の間で真っ二つにきれいに裂かれていた。
 レーザーカッターで切ったかのように、真っ直ぐきれいに。

 運転手:「わーっ!」

 そのことでブレーキが効かず、コントロールを失った車は対向車線に飛び出してしまい……。

 稲生:「!!!」

 やってきた大型トラックと正面衝突した。

 マリア:「Yuta!」

 一方、助手席の後ろに乗っていたマリアの方は左に逸れ、歩道との間にある植栽に車体を擦りつけながらようやく止まった。

 マリア:「勇太!ちくしょう!」

 マリアは締めていたシートベルトを外して外に出ようとした。
 幸い、マリアの方はケガはしていない。
 と、そこへマリアの前に立ちはだかる者がいた。
 それは大魔道師が着るローブに近いデザインのそれを着た魔女だった。
 フードを目深に被っているので、それが誰かは分からない。
 しかし、イリーナでないことは確かだった。

 ???:「やっと見つけたわ。マリー……」
 マリア:「ま、マリーだって?」

 それはマリアが普通の人間だった頃に呼ばれたことのあるニックネーム。
 日本では短縮形で呼ばれる為、イリーナもそれに合わせて「マリア」と呼ばれているが、英語圏ではマリアンナをニックネームで呼ぼうとするとマリーになる。
 だからマリアンナを愛称で呼ぶ場合、本来は「マリー」が正しい。

 マリア:「あ、あなたは一体……?」
 ???:「こんな所にいないで、早く帰りましょ」

 フードの中にあった顔を見たマリアは息を呑んだ。

 マリア:「ま……ママ……!?」

 次の瞬間、目撃者達はパニックを起こすことになる。
 エキゾチックな占い師のような姿をした者と、それよりは控えめなデザインのローブを着た金髪の少女が同時に消えたのだから……。

[同日15:30.天候:雪 同地区内上空]

 エレーナ:「先生!こちら稲生氏の家の上空です!イリーナ先生、ものの見事にやられてます!」

 エレーナはホウキに跨って稲生家の上空を旋回した。

 ポーリン:「すぐにイリーナとイノウ・ユウタの状況を確認せい!」
 エレーナ:「かしこまりました」

 稲生家の前に降下して着陸する。

 エレーナ:「イリーナ先生、大丈夫ですか!?」
 イリーナ:「痛ってぇ……!頭殴られたー……よ。クラクラする……」
 ポーリン:「この愚か者!自分より強い敵とは戦うなと言われただろうが!」

 空間に魔法陣が浮かび上がったかと思うと、そこからポーリンが現れた。
 普段は魔力の節約の為に80代ほどの老婆の姿をしているが、今回はイリーナと同じ30代くらいまで若返っている。

 イリーナ:「ね、姉さん……さ、サーセン……。ガチ……頭痛いです……」

 イリーナの頭からは血が出ていた。

 ポーリン:「エレーナ!周辺を捜索しろ!イリーナは私が面倒看ておくから、イノウ・ユウタとマリアンナ・スカーレットを捜すのだ!」
 エレーナ:「は、はい」

 エレーナはホウキを持ったまま与野中央通りに出た。
 幸いマリアが一斉送信した救援要請信号が発せられた場所を、手持ちの水晶玉で特定できる。
 それによるとこの近くである。

 ルーシー:「こちらベイカー組のルーシー!現在地、ロンドン市郊外!マリアンナ、どうしたの!?何かあった!?」
 ナディア:「ウラジオストクからナディアです。イリーナ先生、マリアンナから緊急信号が出ましたが、状況を!」
 アンナ:「サンクトペテルブルクに展開中のアナスタシア組アンナ!マリアンナ、状況報告を!」
 魔女A:「サンフランシスコからレベッカ!緊急信号受信!状況を教えてください!」
 魔女B:「ブダペストからエンドレ組!受信に失敗!再送信願います!」
 エレーナ:「……都合よく日本にいる奴いねーのかよ」

 エレーナは舌打ちをしながら現場に向かった。

 エレーナ:「な、何たるちゃあ……!」

 そして真っ二つにされたタクシーが起こした事故現場に辿り着き、今度はエレーナが一斉送信することとなった。

 エレーナ:「ポーリン組エレーナより現場の状況をお知らせします。現在地は日本国埼玉県さいたま市中央区……」

 エレーナの状況報告を聞いたダンテ一門の魔道士達は、いくら1期生の中でも弱小とはいえ大魔道師クラスのイリーナが簡単にやられたことに浮足立つこととなった。
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“大魔道師の弟子” 「イリーナの誤算」

2020-02-15 15:52:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月30日13:30.天候:雪 東京都台東区上野 御徒町駅前通り]

 エレーナ:「あー、美味かった。御馳走さまだぜ」

 エレーナはたらふく満腹といった感じで店を出た。

 マリア:「1番高い物食いやがって……!」

 最後に会計して出てくる稲生。

 エレーナ:「稲生氏、ゴチだぜ!」
 稲生:「あー、ハイハイ」
 マリア:「やっぱここでボコそうかな……」
 稲生:「まあまあ、マリアさん。『仲良きことは美しき哉』と言いますし……」
 エレーナ:「そうだぜそうだぜ」
 マリア:「エレーナが言うな!」
 稲生:「エレーナから賠償金は徴収しましたから……」

 稲生はローブの中に入れた金貨をジャラジャラと揺らした。
 1枚日本円にして10万円くらいの相場だそうで、20~30枚はある。
 元々探偵がエレーナの前でカジノの勝負師並みに積み上げた金貨の一部であることから、まだまだエレーナの手元に残った金貨は多いものと思われる。

 マリア:「もう少し徴収したらどうだ?」
 エレーナ:「これで手を打つという契約だぜ?それ以上は契約違反で、私がオマエをボコしてもオマエが悪いことになるぜ?」
 マリア:「誰がボコされるか!」
 稲生:「まあまあまあ!とにかく、これで解散ということで。気を付けて帰るんだよ。それじゃ」

 稲生はマリアの背中を押すようにして、商店街の奥へ進んだ。
 ここから上野駅へは歩いても行ける。

 マリア:「何だよ、アイツ……!」
 稲生:「まあまあまあ。ケンカはやめてください。早く行きましょう」

[同日14:30.天候:雪 同地区内 JR上野駅]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。14番線に停車中の列車は、14時30分発、普通、高崎行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 上野駅に移動した稲生達は、エキナカを少し散策することにした。
 そして当駅始発の電車を狙って、低いホームに向かった。

〔この電車は高崎線、普通電車、高崎行きです。前5両は、途中の籠原止まりです。……〕

 イリーナと一緒の時はグリーン車だが、さすがにイリーナの使いでそれは乗れず、普通車に乗る。
 ボックスシートに向かい合って座るのではなく、その横の2人席に並んで座る。

〔「お待たせ致しました。高崎線の普通列車、高崎行き、まもなく発車致します」〕

 発車の時刻になり、ホームに発車ベルが響き渡る。

〔14番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の列車をご利用ください〕

 上野駅中距離電車のホームにはホームドアが無い。
 代わりに立番の駅員がいて、客扱い終了合図を車掌に送る。
 ジリリリという古めかしいベルが鳴ると同時に、ドアが閉まった。
 そして、ゆっくりと走り出す。
 途中にあるポイントを渡る為、ガクンと大きく車体を揺らしながら。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は高崎線、普通電車、高崎行きです。前5両は、途中の籠原止まりです。グリーン車は4号車と5号車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、尾久です〕

 稲生:「先生から何か連絡はありましたか?」
 マリア:「いや、特に無い。ランチ前に『ミッション終了』の報告を送ったけど、『ご苦労様』だけ」
 稲生:「なるほど……。やっぱりエレーナの言う通り、大した内容ではなかったのかもしれませんね」
 マリア:「まあ、タダで外を歩けたからいいけど……」
 稲生:「やっぱり先生に、このお使いの意味を聞いてみますか?」
 マリア:「『後で分かる』とか、『そんなことより……』とか言われそうだけどね」
 稲生:「怒られはしないわけですね」
 マリア:「怒りはしないだろう、そりゃあ……」

[同日14:56.天候:雪 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

〔まもなく大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、宇都宮線、埼京線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです〕

 降りしきる雪の中、電車は埼玉県のターミナル駅に進入した。
 歴史上、本線となる8番線に入る。
 その為、ポイントによる大きな揺れは無い。
 駅では多くの乗客が電車を待っていた。
 時間帯からして学生が多い。
 ローブを着ていなければ、マリアもその中にいたっておかしくはない。
 きっと留学生扱いされることだろう。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。8番線に到着の電車は高崎線、普通列車の高崎行きです。……」〕

 途中の籠原で切り離される付属編成からホームに降りる稲生達。

 稲生:「あれ?雪、強くなったなぁ……。ヘタしたら積もるかもしれませんねぇ……」
 マリア:「私の予知、外れたかなぁ……?もうそろそろ止んでるはずなんだけど……」
 稲生:「雪の予報って、案外当たらないものなんですよね」

 そんなことを言いながらエスカレーターでコンコースへ。

 稲生:「少し待てばバスに乗れますけど、寒いからタクシーで帰りますか」
 マリア:「そうだな。どうせエレーナからせしめた金貨もあるし」
 稲生:「いや、もちろん僕が立て替えますけど……」

 金貨でタクシー料金は払えまい。
 改札口を出ると、多くの人が行き交う東西自由通路を東口へ。
 何かあるとすぐスッカラカンになる東口のタクシープール。
 既に何人かの乗客が並んでおり、ちょうど最後の車に稲生達が乗れた。

 稲生:「僕が料金払いますから、マリアさんは助手席の後ろで」
 マリア:「分かった」

 クラウンコンフォートのリアシートに乗り込むと、稲生は行き先を告げた。

 稲生:「やっと家に帰れますね」
 マリア:「掛かった費用は全部師匠に請求していいから」
 稲生:「分かりました」

 Suicaで払った交通費については、駅の券売機で履歴印字をしておいた。
 飲食代とこのタクシー料金については、領収書を提出でってところか。
 ますます雪が強くなる中、2人は稲生家に向かった。
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