報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「横移動」 2

2020-02-02 15:34:48 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月28日11:50.天候:雨 埼玉県蕨市 JR蕨駅西口→蕨駅構内→蕨駅東口]

〔♪♪♪♪。蕨駅西口、蕨駅西口。終点でございます。お忘れ物の無いよう、ご注意願います。ご乗車、ありがとうございました〕

 降りしきる雨の中、バスは蕨駅西口に到着した。
 稲生の計画では、京浜東北線を使って大宮に戻るはずであった。

 稲生:「京浜東北線なら……」

 バスを降りて駅構内へと入る。
 だが、そこは明らかに違和感があった。

〔「お客様にお知らせ致します。京浜東北線は11時45分頃、当駅で起きました人身事故の影響により、上下線で運転を見合わせております。……」〕

 マリア:「な、何だって?」
 稲生:「け、京浜東北線も止まりました」
 マリア:「な、何……だと?」
 稲生:「えーと……。こ、こうなったら……さ、埼玉高速鉄道の駅まで……!」
 マリア:「だ、大丈夫なのか?」
 稲生:「埼玉高速鉄道はホームドアが付いていますから、もう飛び込みはさせませんよ」

 稲生はマリアの手を取って、自由通路を東口に向かった。

 稲生:(そうか。この時点で、まだ蕨駅にはホームドアが付いていないんだった……!)

 東口に出ると、そこもロータリーが狭い為にバスプールは無い。
 タクシー乗り場があるだけだ。
 東口のバス乗り場はそのまま駅前通りを進んで、五差路の交差点を左折した所にある。

 稲生:「新井宿駅行きは行ったばっかか……。鳩ケ谷駅経由の新井宿駅行きはあるな……。鳩ケ谷駅で降りて、そこから埼玉高速鉄道で帰ればいいか……」
 マリア:「ずっと東に移動してる」
 稲生:「ええ。さすがに地下鉄には無事に乗れるといいですねぇ……」

[同日12:12.天候:雨 蕨駅東口バス停→国際興業バス蕨03系統車内]

 今度のバスは大型車だった。
 稲生達は迂回路として埼玉高速鉄道の駅に行こうとしているが、実際はあまり迂回路としては認識されていないようである。
 再び後ろの席に座った2人だったが、ほぼ満席状態で発車したバス。
 この状態は通常なのか、或いは電車が止まったからなのか、或いは雨だからなのか、それは分からない。

〔♪♪♪♪。毎度、国際興業バスをご利用くださいまして、ありがとうございます。このバスはイオンモール川口前川、上青木交番、鳩ケ谷駅(JA前)経由、新井宿駅行きです。途中お降りの方は、お近くのボタンを押してお知らせ願います。次は猫橋、猫橋でございます〕

 尚、川口市内に唯一存在する日蓮正宗寺院、得法寺へは稲生達が逃した蕨06系統の新井宿駅行きに乗ると良い。

 マリア:「その地下鉄は動いてる?」
 稲生:「今のところ、何の情報も出ていません」
 マリア:「それは良かった。だけど……」
 稲生:「何ですか?」
 マリア:「本当はすぐにでも乗り換えるべきなんだろうけど、お腹空いたね」
 稲生:「あ、そうか、もうお昼の時間だ。バスを降りたら、何か食べますか。駅前だから、何かしらあるでしょう」

[同日12:29.天候:雨 埼玉県川口市大字里(おおあざさと) 鳩ケ谷駅(JA前)バス停→マクドナルド]

〔「鳩ケ谷駅(JA前)です」〕

 バスが下車バス停に到着する。
 位置的には鳩ケ谷駅東口になるのだが、この路線は駅前ロータリーには入らないので、そういう名前なのである。
 逆方向の蕨駅東口行きは鳩ケ谷駅西口のロータリーに入る。

 稲生:「えーと……。駅のすぐ近くにマック……マクドナルドがありますけど……」
 マリア:「ああ、そこにしよう」
 稲生:「行きましょう」

 取りあえず、駅前のマックで腹ごしらえ。

 稲生:「先生から応答は?」
 マリア:「さっきあった。このまま地下鉄に乗っていいらしいよ」
 稲生:「そうですか」
 マリア:「地下鉄でどこまで行く?」
 稲生:「終点ですね。終点の浦和美園駅から大宮駅東口行きのバスが出ているので、それで帰れるはずです」
 マリア:「そう」
 稲生:「でも、1つ問題が……」
 マリア:「なに?」
 稲生:「そのバス、本数が少なくて、1時間に1本しか無いんです」
 マリア:「ええっ?」
 稲生:「だから、タイミングを合わせて行かないと、駅前で待ちぼうけです」
 マリア:「そうか。じゃあ、そこは勇太に任せる」
 稲生:「しばらくここで時間を潰した方が良さそうです」
 マリア:「分かった」

 マリアは頷くとマックフライポテトを口に運んだ。
 指についた塩分などを舐めとる仕草が、向かい合って座る稲生には刺激的だった。

 稲生:「でもあんまりのんびりしていると、不審者がまた家に戻って来てしまうかも……」
 マリア:「エレーナは後で半殺しにしておくとして、師匠が家にいるから大丈夫だろう。ああ見えても、あの師匠は『出る杭はもちろん、出そうな杭も打つ』がモットーだから。つまり、『敵はもちろん、敵になりそうなヤツも叩く』ってことだ。もしそいつが私達の敵になるような奴だったら、師匠が手を下してくれる」
 稲生:「なるほど。いや、しかし、でも、相手はマリアさんに用があるらしいですが……」
 マリア:「だから、本当に心当たりが無いんだって」
 稲生:「鈴木君の話では、イギリス人の探偵さんらしいです。マリアさん、イギリスにいた時に何かあったんじゃ?」
 マリア:「私が普通の人間だった頃の話か?思い出したくも無いね」
 稲生:「マリアさんが悪魔と契約して、『復讐劇』を繰り広げたのは聞いています。だけど、先生が全てを闇に消し去ってくれたはずですが……」
 マリア:「消し去り切れなかった所があったかもしれないけど、向こうでは私はもう死んだことになっているはずだし、こんな遠くの国にいるなんて誰も知らないはずだ」
 稲生:「イギリスにはイギリスを拠点にしている組があるわけでしょう?ベイカー組とか……」
 マリア:「一介の探偵が調査できるような所に、ベイカー組はいないよ」
 稲生:「そうなんですか」
 マリア:「例えて言えば、私達が誰も知らない山奥の屋敷に住んでいるようなものだよ」
 稲生:「あ、なるほど……」

 しばらく時間を潰した後、2人は鳩ケ谷駅に向かった。
 さすがに埼玉高速鉄道は定時運行していることを願いながら……。
コメント (1)
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