[イギリス時間1月30日18:00.天候:晴 イギリス・イングランド西部某所]
マリア:「う……」
マリアは目が覚めた。
目が覚めると、そこはベッドの上だった。
それまで着ていたローブや服は脱がされ、代わりに白いワンピース型の寝巻を着せられていた。
マリア:「ここは……?」
部屋を見渡すと、どこか見覚えのある風景であった。
稲生の家でなければ、長野の屋敷でもない。
思い出そうとすると、ズキンと頭が痛む。
マリア:「確か私は……」
マリアは眠る前のことを思い出そうとした。
最初に思い出せたのは大宮駅から稲生とタクシーに乗った時。
そこから稲生家に向かおうとしたら、家の前は危険だからと……。
マリア:「ママ……!」
事故に遭ったタクシーから出ようとしたら、突然目の前にローブを着た女が現れ、フードを深く被ったその顔は、マリアの母親だった。
そこまで思い出した時、部屋の中あった鳩時計が6回鳴った。
そして、思い出した。
ここがどこなのかを。
マリア:「ここは……私の家!」
そこまで思い出した時、ドアがノックされた。
マリア:「!」
咄嗟に魔法の杖を取ろうとしたが、それがどこにも無い。
そして、ドアが開けられた。
そこへ入って来たのは、金髪をツインテールにしたメイドだった。
メイド:「失礼します。新しいお召し物でございます」
メイドは静かに言った。
そして、マリアはそのメイドの正体をすぐに見破った。
マリア:「あなた……人形だね。でも、私が作った人形じゃない。誰に作られたの?」
メイド:「アレクサ・スカーレット様です」
マリア:「ママが……!」
その時、マリアの頭にフラッシュバックが襲った。
小さい頃、よく母親が人形を作っていたことを……。
メイド:「着替えましたら、ダイニングまでお越しください。御主人様がお待ちです」
マリア:「ま、待て……!」
マリアはメイドを呼び止めたが、メイドは部屋を出て行ってしまった。
マリア:「いや、これ絶対行っちゃいけないパターンだって……」
マリアは部屋を見渡した。
魔道士としての連絡手段たる水晶玉はどこにも無いし、そもそも日本で装備していた物全てが無い。
身に付けているのは下着だけ。
メイドが持ってきた服は、日本で着ていた服ではなかった。
完全に私服。
窓から外に出ようと思っても、鍵が掛かっている。
それは本来、内側から開けられるはずだが、何故か開かなかった。
しかも、そこから魔力を感じた。
マリア:「私が逃げないようにしているのか……」
今は完全に不利な状況だ。
ここは1つ大人しく言う事を聞いて、隙を見て助けを呼んだ方がいいのかもしれない。
マリアは渡された服を着た。
セーターやジーンズなど、ごくごく普通の私服。
これだけなら、とても魔道士とは思えない。
もっとも、これが普段の姿なのだが。
寝巻から私服に着替えると、マリアはそっと部屋を出た。
さすがにドアは素直に開いた。
部屋の外の廊下もまた見覚えのあるもの。
ここはマリアが普通の人間だった頃まで住んでいた家だ。
マリア:(そういえば私が魔道士になってからこの家がどうなったのか、全く気にも留めなかった……)
自分はイギリスでは死んだことになっているということから、もう2度とこの国の地を踏むことは無いと思っていたのだ。
自分の部屋は2階だ。
そして1階に下りて、そっとダイニングへのドアを開けた。
そこにいたのは……。
アレクサ:「おはよう。よく寝てたわねぇ。でも、ちょうど良かった。ちょうど今、シチューができたところよ」
マリア:「……ママ!」
マリアの心の底から懐かしい思いがこみ上げてくる。
だが、その思いをマリアは無理やり押し込めた。
アレクサ:「ん、どうしたの?早くそこに座って」
この家に住んでいた時、よく座っていた席をアレクサは指さした。
マリア:「どういうつもりなの?」
アレクサ:「何がかしら?」
マリア:「私は日本で暮らしていた。それを無理やり連れ戻して、何事も無かったかのようにディナーだって?」
アレクサ:「……取りあえず座って。まずは夕食の時間だからね」
マリア:「夕食などもらう気は……」
アレクサ:「マリー、あなたがいなくなってからのことを話してあげましょうか?」
マリア:「私がいなくなってからのこと?清々したんじゃないの?私が人間として生きていた頃、散々な目に遭ってることも知らずにダディの顔色ばっかり気にして!私が乱暴されて帰って来た時だって、何もしてくれなかったじゃない!」
アレクサ:「あれは本当に申し訳無かったわ。まさか、あなたが“魔の者”に狙われていたなんて、誰も思いもしなかったもの……」
マリア:「“魔の者”を知ってるの?」
アレクサ:「ええ……」
[日本時間1月31日03:00.天候:雪 東京都江東区森下 ワンスターホテル会議室]
ベイカー:「アレクサ・スカーレットは独学者だ。独学で魔法を学んだ者だ」
イギリスにいてすぐに調査ができたベイカーが結果を水晶玉で報告してきた。
ポーリン:「我流者か。我見と我欲に満ち、魔法の道を知らずに魔術だけ覚えた者だな」
イリーナ:「親としてマリアを連れ戻したつもりでいるみたいだけど、こちらからすれば『誘拐』ですからね。だって、こちらは『人間としての生を終える儀式』は済ませたんですもの」
ベイカー:「その掟の隙を突いたようだな。マリアンナが魔道士になれば、本来は人間としての親子関係は切れることになっている」
だから、『人間としての生を終える儀式』を行うのだ。
マリアの場合、高所から飛び降り自殺を図り、地面に激突する直前にイリーナが魔法で救助した。
つまり、イリーナがそこで魔法を使わなければマリアは潰れたスイカになっていたわけで、それでもってマリアは『人間としての生を終えた』ということになるという。
では、ベイカーの言う『掟の隙を突かれた』とはどういうことか?
魔道士が結婚して子供を産んでも、もちろんそれは親子関係として有効だ。
マリアの母親もまた魔道士になったことで、一度切れたはずの親子関係が再び復活してしまうということなのである。
ベイカー:「例外中の例外だ。私もこんなパターン初めてだ」
イリーナ:「どうなるんですか?」
ベイカー:「アレクサ・スカーレットとしては、『魔道士となった自分が、魔道士となった娘を連れ戻しただけのこと』と言い張るだろう。そしてそれを咎める掟は、こちらには無い」
ポーリン:「そしてイリーナとしては、『弟子の脱走を阻止できなかった廉』で処分されるわけだ。とても理不尽よのう……」
イリーナ:「だ、ダンテ先生の見解は?」
ベイカー:「まだ出ていない。そもそもダンテ先生と連絡が取れんのだ」
イリーナ:「ううっ……!」
ベイカー:「とにかく、マリアンナの家を突き止めよう。どうもルーシーが、『イングランド西部の田舎にある祖父母宅の家の近所に、スカーレットという移民の家があったような気がした』と言っておる。今、調査に向かわせたところだ」
イリーナ:「世間は狭いですねぇ……」
ポーリン:「マリアンナは移民だったか」
イリーナ:「ルーマニアの生まれですよ」
ベイカー:「ルーマニアも随分と魔女狩りが行われた国だと聞いたが、移民の理由ってそれか?」
イリーナ:「……あ、そうかも」
ポーリン:「そうかもじゃない!だからそういうのはちゃんと調べてからスカウトしろとダンテ先生に言われただろ!」
ベイカー:「だいたいオマエという奴は……」
先輩2人から責められるイリーナだった。
マリア:「う……」
マリアは目が覚めた。
目が覚めると、そこはベッドの上だった。
それまで着ていたローブや服は脱がされ、代わりに白いワンピース型の寝巻を着せられていた。
マリア:「ここは……?」
部屋を見渡すと、どこか見覚えのある風景であった。
稲生の家でなければ、長野の屋敷でもない。
思い出そうとすると、ズキンと頭が痛む。
マリア:「確か私は……」
マリアは眠る前のことを思い出そうとした。
最初に思い出せたのは大宮駅から稲生とタクシーに乗った時。
そこから稲生家に向かおうとしたら、家の前は危険だからと……。
マリア:「ママ……!」
事故に遭ったタクシーから出ようとしたら、突然目の前にローブを着た女が現れ、フードを深く被ったその顔は、マリアの母親だった。
そこまで思い出した時、部屋の中あった鳩時計が6回鳴った。
そして、思い出した。
ここがどこなのかを。
マリア:「ここは……私の家!」
そこまで思い出した時、ドアがノックされた。
マリア:「!」
咄嗟に魔法の杖を取ろうとしたが、それがどこにも無い。
そして、ドアが開けられた。
そこへ入って来たのは、金髪をツインテールにしたメイドだった。
メイド:「失礼します。新しいお召し物でございます」
メイドは静かに言った。
そして、マリアはそのメイドの正体をすぐに見破った。
マリア:「あなた……人形だね。でも、私が作った人形じゃない。誰に作られたの?」
メイド:「アレクサ・スカーレット様です」
マリア:「ママが……!」
その時、マリアの頭にフラッシュバックが襲った。
小さい頃、よく母親が人形を作っていたことを……。
メイド:「着替えましたら、ダイニングまでお越しください。御主人様がお待ちです」
マリア:「ま、待て……!」
マリアはメイドを呼び止めたが、メイドは部屋を出て行ってしまった。
マリア:「いや、これ絶対行っちゃいけないパターンだって……」
マリアは部屋を見渡した。
魔道士としての連絡手段たる水晶玉はどこにも無いし、そもそも日本で装備していた物全てが無い。
身に付けているのは下着だけ。
メイドが持ってきた服は、日本で着ていた服ではなかった。
完全に私服。
窓から外に出ようと思っても、鍵が掛かっている。
それは本来、内側から開けられるはずだが、何故か開かなかった。
しかも、そこから魔力を感じた。
マリア:「私が逃げないようにしているのか……」
今は完全に不利な状況だ。
ここは1つ大人しく言う事を聞いて、隙を見て助けを呼んだ方がいいのかもしれない。
マリアは渡された服を着た。
セーターやジーンズなど、ごくごく普通の私服。
これだけなら、とても魔道士とは思えない。
もっとも、これが普段の姿なのだが。
寝巻から私服に着替えると、マリアはそっと部屋を出た。
さすがにドアは素直に開いた。
部屋の外の廊下もまた見覚えのあるもの。
ここはマリアが普通の人間だった頃まで住んでいた家だ。
マリア:(そういえば私が魔道士になってからこの家がどうなったのか、全く気にも留めなかった……)
自分はイギリスでは死んだことになっているということから、もう2度とこの国の地を踏むことは無いと思っていたのだ。
自分の部屋は2階だ。
そして1階に下りて、そっとダイニングへのドアを開けた。
そこにいたのは……。
アレクサ:「おはよう。よく寝てたわねぇ。でも、ちょうど良かった。ちょうど今、シチューができたところよ」
マリア:「……ママ!」
マリアの心の底から懐かしい思いがこみ上げてくる。
だが、その思いをマリアは無理やり押し込めた。
アレクサ:「ん、どうしたの?早くそこに座って」
この家に住んでいた時、よく座っていた席をアレクサは指さした。
マリア:「どういうつもりなの?」
アレクサ:「何がかしら?」
マリア:「私は日本で暮らしていた。それを無理やり連れ戻して、何事も無かったかのようにディナーだって?」
アレクサ:「……取りあえず座って。まずは夕食の時間だからね」
マリア:「夕食などもらう気は……」
アレクサ:「マリー、あなたがいなくなってからのことを話してあげましょうか?」
マリア:「私がいなくなってからのこと?清々したんじゃないの?私が人間として生きていた頃、散々な目に遭ってることも知らずにダディの顔色ばっかり気にして!私が乱暴されて帰って来た時だって、何もしてくれなかったじゃない!」
アレクサ:「あれは本当に申し訳無かったわ。まさか、あなたが“魔の者”に狙われていたなんて、誰も思いもしなかったもの……」
マリア:「“魔の者”を知ってるの?」
アレクサ:「ええ……」
[日本時間1月31日03:00.天候:雪 東京都江東区森下 ワンスターホテル会議室]
ベイカー:「アレクサ・スカーレットは独学者だ。独学で魔法を学んだ者だ」
イギリスにいてすぐに調査ができたベイカーが結果を水晶玉で報告してきた。
ポーリン:「我流者か。我見と我欲に満ち、魔法の道を知らずに魔術だけ覚えた者だな」
イリーナ:「親としてマリアを連れ戻したつもりでいるみたいだけど、こちらからすれば『誘拐』ですからね。だって、こちらは『人間としての生を終える儀式』は済ませたんですもの」
ベイカー:「その掟の隙を突いたようだな。マリアンナが魔道士になれば、本来は人間としての親子関係は切れることになっている」
だから、『人間としての生を終える儀式』を行うのだ。
マリアの場合、高所から飛び降り自殺を図り、地面に激突する直前にイリーナが魔法で救助した。
つまり、イリーナがそこで魔法を使わなければマリアは潰れたスイカになっていたわけで、それでもってマリアは『人間としての生を終えた』ということになるという。
では、ベイカーの言う『掟の隙を突かれた』とはどういうことか?
魔道士が結婚して子供を産んでも、もちろんそれは親子関係として有効だ。
マリアの母親もまた魔道士になったことで、一度切れたはずの親子関係が再び復活してしまうということなのである。
ベイカー:「例外中の例外だ。私もこんなパターン初めてだ」
イリーナ:「どうなるんですか?」
ベイカー:「アレクサ・スカーレットとしては、『魔道士となった自分が、魔道士となった娘を連れ戻しただけのこと』と言い張るだろう。そしてそれを咎める掟は、こちらには無い」
ポーリン:「そしてイリーナとしては、『弟子の脱走を阻止できなかった廉』で処分されるわけだ。とても理不尽よのう……」
イリーナ:「だ、ダンテ先生の見解は?」
ベイカー:「まだ出ていない。そもそもダンテ先生と連絡が取れんのだ」
イリーナ:「ううっ……!」
ベイカー:「とにかく、マリアンナの家を突き止めよう。どうもルーシーが、『イングランド西部の田舎にある祖父母宅の家の近所に、スカーレットという移民の家があったような気がした』と言っておる。今、調査に向かわせたところだ」
イリーナ:「世間は狭いですねぇ……」
ポーリン:「マリアンナは移民だったか」
イリーナ:「ルーマニアの生まれですよ」
ベイカー:「ルーマニアも随分と魔女狩りが行われた国だと聞いたが、移民の理由ってそれか?」
イリーナ:「……あ、そうかも」
ポーリン:「そうかもじゃない!だからそういうのはちゃんと調べてからスカウトしろとダンテ先生に言われただろ!」
ベイカー:「だいたいオマエという奴は……」
先輩2人から責められるイリーナだった。