報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生勇太の復活」

2020-02-18 20:13:55 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[日本時間1月31日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 自治医大さいたま医療センター]

 稲生佳子:「良かったねぇ、大したケガが無くて……」
 稲生勇太:「うん……」

 稲生は1日で退院した。
 これは偏にイリーナの魔法が関わっている。
 恐らく医学的にも『驚異的な』回復力ということになったはずだ。

 佳子:「帰りましょうか」
 勇太:「マリアさんは……いないんだね」
 佳子:「先生が色々捜してるみたいなんだけどねぇ……」

 病院前からタクシーに乗る。
 それから家に向かって走り出した。

 佳子:「多分、家で先生が待ってるわよ」
 勇太:「そうなの?」
 佳子:「昨日はいなかったんだけどね。今朝来たのよ」
 勇太:「なるほど……」

[同日10:20.天候:晴 さいたま市中央区 稲生家]

 タクシーは無事に家の前に着いた。
 通行止めは解除され、事故があった形跡は微塵も感じられない。

 イリーナ:「やあ、無事に退院できて良かったね」
 勇太:「先生、マリアさんは……」
 イリーナ:「一応、見つかったよ」
 勇太:「本当ですか!?」
 イリーナ:「奥で話したいんだけど……」
 勇太:「どうぞどうぞ」

 勇太はイリーナを奥の部屋に案内した。

 勇太:「マリアさんは……生きてますよね?」
 イリーナ:「もちろん。マリアはね……敵の魔道士に連れ去られたよ。母親を名乗る魔道士にね」
 勇太:「マリアさんのお母さん!?」
 イリーナ:「油断したね。まさか、マリアンナの家系が魔女だったなんて。いや、だからこそ納得できる才能ではあったんだけど……」
 勇太:「知らなかったんですか、先生!?」
 イリーナ:「私もまさかとは思ったんだけどねぇ……。後で怒られたわよ」
 勇太:「それでマリアさんは今どこに?」
 イリーナ:「イギリス」
 勇太:「イギリス!?」
 イリーナ:「簡単に言えば、育ちの故郷に連れ戻されたのね」
 勇太:「僕、マリアさんを連れ戻しに行きます!」
 イリーナ:「待ちなさい待ちなさい。もしすぐにできるなら、とっくに私達がやっているわよ。勇太君が寝ている間にね」
 勇太:「えっ、では……?」
 イリーナ:「マリアが捕らわれている家は、強力な結界が張られている。明らかに、ただの悪魔の力で張られたものじゃないの」
 勇太:「と、言いますと?」
 イリーナ:「それに際してダンテ先生が動く程よ」
 勇太:「大師匠様が!?」

[魔界時間1月31日10:30.天候:晴 魔界某所]

 かつては魔界を統べ、大魔王と呼ばれた男。
 それが今は引退して、アルカディア王国とは別の場所に居城を構えて暮らしている。

 バァル:「む……?」

 バァルの手元にあるスマホらしき物が鳴る。
 画面には『ダンテ・アリギエーリ』と、英語で書かれている。

 バァル:「ふむ……。魔道士の長が何の用だ?」
 ダンテ:「これはこれは……。先般のゴルフコンペ以来ですなぁ……」
 バァル:「キミの用件は大体想像が付いている」
 ダンテ:「理解が早くて助かります。ですが、この電話は人間界におけるゴルフコンペのお誘いではありません」
 バァル:「それは残念だ。せっかく『世を忍ぶ仮の姿』をどんなものにするか模索していたというのに……」
 ダンテ:「それについては、またの機会に。それより、1つ聞きたいことがあるのですよ」
 バァル:「何故、キミの孫弟子を失わせるようなことに加担したのか、聞きたいのだろ?」
 ダンテ:「元とはいえ、かつては大帝と恐れられたあなたが、幼稚な遊びに目覚めたとは思えませんが……」
 バァル:「ふん……。例えどのような立場であれ、契約してしまったものは解約するまで持ち掛けた方が有利なのだよ。NHKの受信契約とかな」
 ダンテ:「元・魔界大帝が契約悪魔に成り下がるとは……落ちぶれたものですな」
 バァル:「やはり、居留守を使っておけば良かったよ」
 ダンテ:「! わざわざあなたの城を訪れたのか?しかし、強力な結界が張ってあるはすだが……」
 バァル:「セキュリティがシステムメンテ中にやられた。さすがは狡猾な魔道士だ」
 ダンテ:「確かにあなたのような方が、悪魔の召喚術式に応じるとは思えないが……」
 バァル:「とにかく、契約してしまったものは仕方がない。長い付き合いのキミには申し訳ないが、目を瞑ってもらうよ」
 ダンテ:「それができないから、こうして連絡しているんですがねぇ?では、契約者を滅すればその契約は自動的に無効になるわけだ」
 バァル:「それができるかね?仮にも、キミの直弟子を倒した女だぞ?」
 ダンテ:「直弟子がやられたのなら、この私が老体に鞭を打ってでも出るしかあるまい。もしキミが私に対し、『申し訳ない』と思うのなら、手出しは無用にしてもらいたいね」
 バァル:「契約の力がどんなものか、分からぬわけではあるまい?」
 ダンテ:「ならば、契約の『抜け道』を探せば良い。悪魔なら、それを突いて人間に法外な報酬を請求しているではないか」
 バァル:「私を下級悪魔扱いしおって……」
 ダンテ:「NHKの契約請負人を撃退できなかったキミは、正しくそのレベルだということだよ」
 バァル:「むむむ……」
 ダンテ:「なぁに、『テレビを処分した』ことにすれば契約は解除できる。それと同じ方法が、悪魔の契約にも使えると思うがね」
 バァル:「ちょっと何言ってるか分からぬが……」
 ダンテ:「私に任せてくれ。キミは取りあえず、傍観していてくれればいい。悪いようにはせんよ」
 バァル:「しかし、契約が……」
 ダンテ:「ではどのような抜け道があるのか、私と直弟子全員を連れてそちらに説明に伺わせて頂くので……」
 バァル:「そ、それは困る……!」

 バァル、冷や汗ダラダラ……。

[日本時間11:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 イリーナ:「犯人はあのバァルの爺さんですって!?」
 ダンテ:「消去法で行ったらね、もう数が僅かしか無くなるんだよ。バァルと私は長年の付き合いだし、試しに聞いてみたらあっさりゲロったよ」

 イリーナとダンテは水晶玉で会話している。

 ダンテ:「私から圧力……もとい、上手く話しておいたから、行って来たまえ。行って、話をしてくるんだ」
 イリーナ:「分かりました」
 勇太:「先生……!」

 イリーナは水晶玉の通信を切った。

 イリーナ:「ええ、分かってるわよ。勇太君にも一緒に来てもらうからね」
 勇太:「急いで航空チケットを……!」
 イリーナ:「いや、あの、今回だけは緊急だからルゥ・ラで行くからね。魔法陣を描くから、また裏庭を借りるわね」
 勇太:「はい!」
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“大魔道師の弟子” 「コマンド入力→悪魔にめいれいする」

2020-02-18 15:01:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[イギリス時間1月30日23:00.天候:晴 イギリス・イングランド西部 マリアの実家]

 マリアは母親のアレクサから自分の素性について聞いた。
 母親の家系が代々魔女の家系だったこと。
 ルーマニアからイギリスへ移住したのは、魔女狩りという名の迫害から逃れる為だったこと。
 しかし皮肉にも、そこで“魔の者”に目を付けられたこと……。

 アレクサ:「あなただけが“魔の者”に狙われたかのように見えたけど、実は家族全員だったのね。もちろん、あなたも魔道士になった以上は悪魔のことは知っているわね?お父さんが始めた事業が成功したのはいいものの、お父さんは目先のお金に捉われて、家族を顧みなくなってしまった。逆に魔女である私達を疎み始めたくらいよ。あなたも覚えがあるでしょう?」
 マリア:「それは……」

 母親の言う事には説得力を感じた。
 そして、目の前にいるのはやはり母親だと思い始めた。
 家族のことしか知り得ないことを知っていたからだ。

 アレクサ:「今日はもう遅いから寝なさい。話の続きは、また明日。……ああ、それと日本での生活は忘れることね。今度は私が魔法を教えてあげるから」

 マリア:「……それはもっと遅い。もう遅いの……」

 風呂に入りながらマリアはそう呟いた。
 もちろん1人だ。
 バスルーム内にある鏡に、自分の裸体を映す。
 もう、人間だった頃に受けた暴行の傷跡は微塵も見受けられない。
 もう何十年でも何百年でも消えないとされていた『魔女の呪縛』が、たった数年で消えたことに、門内には衝撃が走ったという。
 それが日本での生活、そして人間の男性としては冴えない部類に入る稲生勇太が大きく関わっていたことは、更なる衝撃であったという。

 メイド人形:「御嬢様、新しいお召し物、こちらに置いておきます」
 マリア:「ああ、うん。ありがとう」

 アレクサが作ったメイド人形が、マリアの新しい寝巻を脱衣所に置いた。
 マリアが人形を駆使した魔法が使えるのは、偏にアレクサの血筋であったのだ。
 子供の頃から母親が人形を作って売っていたことは知っている。
 しかしそれがまさか自力で歩行して、ロボットのように動くとは誰も思いもしなかった。
 それが今や、最新のAIでも古臭く感じるほどの自我を持って行動している。

 マリア:(多分私はここから逃げられない。師匠や勇太がここを見つけて、助けに来てくれるのを待とう……)

 そう思った時だった。

 マリア:「! そういえば……」

 今のマリアには魔法の杖も無ければ水晶玉も無い。
 その他の魔法具も全て没収されていた。
 つまり、魔法使いとしての見えるステータスは無いわけである。
 しかし、見えないステータスはどうだ?

 マリアは風呂から上がり、メイド人形が用意してくれたバスローブを羽織ると、洗面台の鏡に向かって言った。

 マリア:「ベルフェゴール、聞こえるか?いたらここに来い」

 マリアの契約悪魔、ベルフェゴールを呼んだ。
 ダンテ一門の魔道士は一人前になると、一柱の悪魔と契約する。
 そうすることで、悪魔から安定した魔力を供給してもらうのが目的だ。
 人間が何かの目的を果たす為に魂を売って契約するのとは違う。
 魔道士が持ち前の魔力を使い続けるには自ずと限界がある。
 これを稲生勇太は『パケット容量』に例えた。
 そして魔道士が魔力を使い切って一定期間魔法が使えなくなることを『パケット容量オーバーによる通信制限』に例え、悪魔からの魔力供給を『Wi-Fi通信』に例えた。
 そして、使い魔を『Wi-Fiルーター』と。
 『光通信』に例えなかったのは、悪魔によって『Wi-Fi』にも程度の差がある為、『光よりはWi-Fiだろう。途中、何かの拍子で切れることがあるし』ということで。

 マリア:「ベルフェゴール!」

 マリアはつい口に出して呼んでしまった。

 アレクサ:「何をしているの?風邪を引かないうちに早く寝なさい。……ああ、そうそう。私の方が強い悪魔と契約しているから、多分怖くて来れないと思うわ。残念だったわね」
 マリア:「ベルフェゴールより強い悪魔!?」

 マリアは運良く魔力の強い者が揃うキリスト教系“七つの大罪”の悪魔の1つと契約できた。
 サタンやベルゼブブなど、ファンタジー系RPGでは名うてのボスキャラとして登場することも多々ある悪魔の仲間だ。

 マリア:「それは何!?」
 アレクサ:「後で話してあげるから、今日はもう寝なさい」
 マリア:(“七つの大罪”のリーダー、サタンか?確かにサタンと契約している魔道士は、まだいなかったはず……)

[日本時間1月31日07:00.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 オーナー:「エレーナ、緊急事態なんだろ?それが終わるまで休んでいなさい。キミには有休がたっぷり残ってる」
 エレーナ:「申し訳ありません……。貸会議室の費用は、うちの先生達が払いますから」
 オーナー:「そういうのもあるからね。とにかく、寝不足の顔で仕事されても困るし……」
 エレーナ:「どうも、すいません」

 ワンスターホテルの貸会議室は、対策本部と化していた。
 大魔道師達は徹夜も何のその、情報収集に当たっていた。

 イリーナ:「何ですって!?私が墜とした飛行機の中に、マリアの母親はいなかったですって!?だって、乗客名簿の中にあったじゃない!……え?偽装!?」
 ポーリン:「こんなことだろうと思った。……おっ、こちらポーリン!……おお、ベイカー殿。場所は見つかったか?……なに、とっくにマリアンナの家は取り壊されてる!?どういうことですか?」
 エレーナ:(この大魔道師達を振り回すなんて、マリアンナのママ、パねぇぜ……。本当に我流なのか?)

 エレーナは対策本部と化している貸会議室にお茶を持って行った。

 イリーナ:「レヴィアタン、至急ベルフェゴールに連絡を!」
 ポーリン:「ルシファー!お前もベルフェゴールに連絡せい!」
 レヴィアタン:「アラホラサッサー!」
 ルシファー:「ホラサッサ!」
 エレーナ:「そうですよね!あいつの契約悪魔、何やってるんですかね?契約者がピンチだというのに……」
 ポーリン:「エレーナ、オマエもマモンに命じてベルフェゴールに連絡させい!」
 エレーナ:「りょ、了解しました!」

 ここにいる魔女達の全てがキリスト教系“七つの大罪”の悪魔と契約している。
 イリーナは“嫉妬の悪魔”レヴィアタン、ポーリンは“傲慢の悪魔”ルシファー、そしてエレーナは“強欲の悪魔”マモンである。
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