[日本時間1月31日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 自治医大さいたま医療センター]
稲生佳子:「良かったねぇ、大したケガが無くて……」
稲生勇太:「うん……」
稲生は1日で退院した。
これは偏にイリーナの魔法が関わっている。
恐らく医学的にも『驚異的な』回復力ということになったはずだ。
佳子:「帰りましょうか」
勇太:「マリアさんは……いないんだね」
佳子:「先生が色々捜してるみたいなんだけどねぇ……」
病院前からタクシーに乗る。
それから家に向かって走り出した。
佳子:「多分、家で先生が待ってるわよ」
勇太:「そうなの?」
佳子:「昨日はいなかったんだけどね。今朝来たのよ」
勇太:「なるほど……」
[同日10:20.天候:晴 さいたま市中央区 稲生家]
タクシーは無事に家の前に着いた。
通行止めは解除され、事故があった形跡は微塵も感じられない。
イリーナ:「やあ、無事に退院できて良かったね」
勇太:「先生、マリアさんは……」
イリーナ:「一応、見つかったよ」
勇太:「本当ですか!?」
イリーナ:「奥で話したいんだけど……」
勇太:「どうぞどうぞ」
勇太はイリーナを奥の部屋に案内した。
勇太:「マリアさんは……生きてますよね?」
イリーナ:「もちろん。マリアはね……敵の魔道士に連れ去られたよ。母親を名乗る魔道士にね」
勇太:「マリアさんのお母さん!?」
イリーナ:「油断したね。まさか、マリアンナの家系が魔女だったなんて。いや、だからこそ納得できる才能ではあったんだけど……」
勇太:「知らなかったんですか、先生!?」
イリーナ:「私もまさかとは思ったんだけどねぇ……。後で怒られたわよ」
勇太:「それでマリアさんは今どこに?」
イリーナ:「イギリス」
勇太:「イギリス!?」
イリーナ:「簡単に言えば、育ちの故郷に連れ戻されたのね」
勇太:「僕、マリアさんを連れ戻しに行きます!」
イリーナ:「待ちなさい待ちなさい。もしすぐにできるなら、とっくに私達がやっているわよ。勇太君が寝ている間にね」
勇太:「えっ、では……?」
イリーナ:「マリアが捕らわれている家は、強力な結界が張られている。明らかに、ただの悪魔の力で張られたものじゃないの」
勇太:「と、言いますと?」
イリーナ:「それに際してダンテ先生が動く程よ」
勇太:「大師匠様が!?」
[魔界時間1月31日10:30.天候:晴 魔界某所]
かつては魔界を統べ、大魔王と呼ばれた男。
それが今は引退して、アルカディア王国とは別の場所に居城を構えて暮らしている。
バァル:「む……?」
バァルの手元にあるスマホらしき物が鳴る。
画面には『ダンテ・アリギエーリ』と、英語で書かれている。
バァル:「ふむ……。魔道士の長が何の用だ?」
ダンテ:「これはこれは……。先般のゴルフコンペ以来ですなぁ……」
バァル:「キミの用件は大体想像が付いている」
ダンテ:「理解が早くて助かります。ですが、この電話は人間界におけるゴルフコンペのお誘いではありません」
バァル:「それは残念だ。せっかく『世を忍ぶ仮の姿』をどんなものにするか模索していたというのに……」
ダンテ:「それについては、またの機会に。それより、1つ聞きたいことがあるのですよ」
バァル:「何故、キミの孫弟子を失わせるようなことに加担したのか、聞きたいのだろ?」
ダンテ:「元とはいえ、かつては大帝と恐れられたあなたが、幼稚な遊びに目覚めたとは思えませんが……」
バァル:「ふん……。例えどのような立場であれ、契約してしまったものは解約するまで持ち掛けた方が有利なのだよ。NHKの受信契約とかな」
ダンテ:「元・魔界大帝が契約悪魔に成り下がるとは……落ちぶれたものですな」
バァル:「やはり、居留守を使っておけば良かったよ」
ダンテ:「! わざわざあなたの城を訪れたのか?しかし、強力な結界が張ってあるはすだが……」
バァル:「セキュリティがシステムメンテ中にやられた。さすがは狡猾な魔道士だ」
ダンテ:「確かにあなたのような方が、悪魔の召喚術式に応じるとは思えないが……」
バァル:「とにかく、契約してしまったものは仕方がない。長い付き合いのキミには申し訳ないが、目を瞑ってもらうよ」
ダンテ:「それができないから、こうして連絡しているんですがねぇ?では、契約者を滅すればその契約は自動的に無効になるわけだ」
バァル:「それができるかね?仮にも、キミの直弟子を倒した女だぞ?」
ダンテ:「直弟子がやられたのなら、この私が老体に鞭を打ってでも出るしかあるまい。もしキミが私に対し、『申し訳ない』と思うのなら、手出しは無用にしてもらいたいね」
バァル:「契約の力がどんなものか、分からぬわけではあるまい?」
ダンテ:「ならば、契約の『抜け道』を探せば良い。悪魔なら、それを突いて人間に法外な報酬を請求しているではないか」
バァル:「私を下級悪魔扱いしおって……」
ダンテ:「NHKの契約請負人を撃退できなかったキミは、正しくそのレベルだということだよ」
バァル:「むむむ……」
ダンテ:「なぁに、『テレビを処分した』ことにすれば契約は解除できる。それと同じ方法が、悪魔の契約にも使えると思うがね」
バァル:「ちょっと何言ってるか分からぬが……」
ダンテ:「私に任せてくれ。キミは取りあえず、傍観していてくれればいい。悪いようにはせんよ」
バァル:「しかし、契約が……」
ダンテ:「ではどのような抜け道があるのか、私と直弟子全員を連れてそちらに説明に伺わせて頂くので……」
バァル:「そ、それは困る……!」
バァル、冷や汗ダラダラ……。
[日本時間11:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
イリーナ:「犯人はあのバァルの爺さんですって!?」
ダンテ:「消去法で行ったらね、もう数が僅かしか無くなるんだよ。バァルと私は長年の付き合いだし、試しに聞いてみたらあっさりゲロったよ」
イリーナとダンテは水晶玉で会話している。
ダンテ:「私から圧力……もとい、上手く話しておいたから、行って来たまえ。行って、話をしてくるんだ」
イリーナ:「分かりました」
勇太:「先生……!」
イリーナは水晶玉の通信を切った。
イリーナ:「ええ、分かってるわよ。勇太君にも一緒に来てもらうからね」
勇太:「急いで航空チケットを……!」
イリーナ:「いや、あの、今回だけは緊急だからルゥ・ラで行くからね。魔法陣を描くから、また裏庭を借りるわね」
勇太:「はい!」
稲生佳子:「良かったねぇ、大したケガが無くて……」
稲生勇太:「うん……」
稲生は1日で退院した。
これは偏にイリーナの魔法が関わっている。
恐らく医学的にも『驚異的な』回復力ということになったはずだ。
佳子:「帰りましょうか」
勇太:「マリアさんは……いないんだね」
佳子:「先生が色々捜してるみたいなんだけどねぇ……」
病院前からタクシーに乗る。
それから家に向かって走り出した。
佳子:「多分、家で先生が待ってるわよ」
勇太:「そうなの?」
佳子:「昨日はいなかったんだけどね。今朝来たのよ」
勇太:「なるほど……」
[同日10:20.天候:晴 さいたま市中央区 稲生家]
タクシーは無事に家の前に着いた。
通行止めは解除され、事故があった形跡は微塵も感じられない。
イリーナ:「やあ、無事に退院できて良かったね」
勇太:「先生、マリアさんは……」
イリーナ:「一応、見つかったよ」
勇太:「本当ですか!?」
イリーナ:「奥で話したいんだけど……」
勇太:「どうぞどうぞ」
勇太はイリーナを奥の部屋に案内した。
勇太:「マリアさんは……生きてますよね?」
イリーナ:「もちろん。マリアはね……敵の魔道士に連れ去られたよ。母親を名乗る魔道士にね」
勇太:「マリアさんのお母さん!?」
イリーナ:「油断したね。まさか、マリアンナの家系が魔女だったなんて。いや、だからこそ納得できる才能ではあったんだけど……」
勇太:「知らなかったんですか、先生!?」
イリーナ:「私もまさかとは思ったんだけどねぇ……。後で怒られたわよ」
勇太:「それでマリアさんは今どこに?」
イリーナ:「イギリス」
勇太:「イギリス!?」
イリーナ:「簡単に言えば、育ちの故郷に連れ戻されたのね」
勇太:「僕、マリアさんを連れ戻しに行きます!」
イリーナ:「待ちなさい待ちなさい。もしすぐにできるなら、とっくに私達がやっているわよ。勇太君が寝ている間にね」
勇太:「えっ、では……?」
イリーナ:「マリアが捕らわれている家は、強力な結界が張られている。明らかに、ただの悪魔の力で張られたものじゃないの」
勇太:「と、言いますと?」
イリーナ:「それに際してダンテ先生が動く程よ」
勇太:「大師匠様が!?」
[魔界時間1月31日10:30.天候:晴 魔界某所]
かつては魔界を統べ、大魔王と呼ばれた男。
それが今は引退して、アルカディア王国とは別の場所に居城を構えて暮らしている。
バァル:「む……?」
バァルの手元にあるスマホらしき物が鳴る。
画面には『ダンテ・アリギエーリ』と、英語で書かれている。
バァル:「ふむ……。魔道士の長が何の用だ?」
ダンテ:「これはこれは……。先般のゴルフコンペ以来ですなぁ……」
バァル:「キミの用件は大体想像が付いている」
ダンテ:「理解が早くて助かります。ですが、この電話は人間界におけるゴルフコンペのお誘いではありません」
バァル:「それは残念だ。せっかく『世を忍ぶ仮の姿』をどんなものにするか模索していたというのに……」
ダンテ:「それについては、またの機会に。それより、1つ聞きたいことがあるのですよ」
バァル:「何故、キミの孫弟子を失わせるようなことに加担したのか、聞きたいのだろ?」
ダンテ:「元とはいえ、かつては大帝と恐れられたあなたが、幼稚な遊びに目覚めたとは思えませんが……」
バァル:「ふん……。例えどのような立場であれ、契約してしまったものは解約するまで持ち掛けた方が有利なのだよ。NHKの受信契約とかな」
ダンテ:「元・魔界大帝が契約悪魔に成り下がるとは……落ちぶれたものですな」
バァル:「やはり、居留守を使っておけば良かったよ」
ダンテ:「! わざわざあなたの城を訪れたのか?しかし、強力な結界が張ってあるはすだが……」
バァル:「セキュリティがシステムメンテ中にやられた。さすがは狡猾な魔道士だ」
ダンテ:「確かにあなたのような方が、悪魔の召喚術式に応じるとは思えないが……」
バァル:「とにかく、契約してしまったものは仕方がない。長い付き合いのキミには申し訳ないが、目を瞑ってもらうよ」
ダンテ:「それができないから、こうして連絡しているんですがねぇ?では、契約者を滅すればその契約は自動的に無効になるわけだ」
バァル:「それができるかね?仮にも、キミの直弟子を倒した女だぞ?」
ダンテ:「直弟子がやられたのなら、この私が老体に鞭を打ってでも出るしかあるまい。もしキミが私に対し、『申し訳ない』と思うのなら、手出しは無用にしてもらいたいね」
バァル:「契約の力がどんなものか、分からぬわけではあるまい?」
ダンテ:「ならば、契約の『抜け道』を探せば良い。悪魔なら、それを突いて人間に法外な報酬を請求しているではないか」
バァル:「私を下級悪魔扱いしおって……」
ダンテ:「NHKの契約請負人を撃退できなかったキミは、正しくそのレベルだということだよ」
バァル:「むむむ……」
ダンテ:「なぁに、『テレビを処分した』ことにすれば契約は解除できる。それと同じ方法が、悪魔の契約にも使えると思うがね」
バァル:「ちょっと何言ってるか分からぬが……」
ダンテ:「私に任せてくれ。キミは取りあえず、傍観していてくれればいい。悪いようにはせんよ」
バァル:「しかし、契約が……」
ダンテ:「ではどのような抜け道があるのか、私と直弟子全員を連れてそちらに説明に伺わせて頂くので……」
バァル:「そ、それは困る……!」
バァル、冷や汗ダラダラ……。
[日本時間11:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
イリーナ:「犯人はあのバァルの爺さんですって!?」
ダンテ:「消去法で行ったらね、もう数が僅かしか無くなるんだよ。バァルと私は長年の付き合いだし、試しに聞いてみたらあっさりゲロったよ」
イリーナとダンテは水晶玉で会話している。
ダンテ:「私から圧力……もとい、上手く話しておいたから、行って来たまえ。行って、話をしてくるんだ」
イリーナ:「分かりました」
勇太:「先生……!」
イリーナは水晶玉の通信を切った。
イリーナ:「ええ、分かってるわよ。勇太君にも一緒に来てもらうからね」
勇太:「急いで航空チケットを……!」
イリーナ:「いや、あの、今回だけは緊急だからルゥ・ラで行くからね。魔法陣を描くから、また裏庭を借りるわね」
勇太:「はい!」