報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「東北本線2530M列車」

2021-08-13 19:58:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月23日08:37.天候:晴 宮城県遠田郡美里町 JR小牛田駅→東北本線2530M列車1号車内]

 公一伯父さんの家をあとにした私達はタクシーに乗り、それで小牛田駅に向かった。
 往路と同じように、手持ちのICカードで自動改札機を通る。
 東北本線下り本線ホームで列車を待っていると、往路と同じ編成・両数の電車がやってきた。
 それもそのはず。
 私がこれから乗る電車は仙台駅到着後、折り返し、私達が往路に乗った電車になるからだ。
 なので編成と両数は701系の6両編成。
 確かに平日の朝ラッシュとしては、適正な運用と言える(ガチのラッシュなら、もう2両欲しいところか)。
 だが休日のそれとしては、ちょっと物足りなさを感じる運用なのだった。
 ただ、もしかすると、オリンピック関連で運用が変わっている恐れがある。
 昨日も今日も、本来なら平日である。
 それをオリンピック絡みで無理やり祝日にしたものだから、車両運用だけは平日のままなのかもしれない(東北本線の仙台支社管内では、平日ダイヤ・休日ダイヤの区別が無い)。

 愛原:「よっと」

 平日ならもう少し乗客が多いと思える駅も、今日は少なかった。
 うん、平日ならもっと多い……はずだ。
 先頭車両に乗り込み、ドア横のロングシートに3人並んで座る。

〔「ご案内致します。この電車は8時49分発、東北本線上り、普通列車の仙台行きです。終点、仙台まで各駅に止まります。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 高橋:「ところで先生、レンタカーはもう予約したんですか?」
 愛原:「ああ。駅レンタカーを予約した。まあ、いつも通りのコンパクトカーだが、運転よろしく頼むな」
 高橋:「任せてください。普通免許で運転できる車なら、何でも回しますよ」
 愛原:「それは頼もしい」
 リサ:「お兄ちゃん、免停期間過ぎたの?」
 高橋:「とっくに過ぎとるわ~!」
 愛原:「さすがにそれは困る」

[同日08:49.天候:晴 JR東北本線2530M列車1号車内]

〔「お待たせ致しました。8時49分発、東北本線上り、普通列車の仙台行き、まもなく発車致します」〕

 2両編成ならワンマン運転に使用される車両だが、6両ともなれば車掌が乗務している。
 で、ツーマン運転の時は自動放送は使用しない。
 小牛田駅では発車ベルもメロディも無い為、1番後ろにいる車両の笛の音が聞こえて来るだけだ。
 ドアチャイムが2回鳴ってからドアが閉まる。
 こういう地方の駅ではホームドアなど無い為、ドアが閉まったらすぐに電車は発車する(JR東日本の電車列車では発車合図ブザーは無い)。
 半室構造の開放的な造りの運転室からは、ハンドルをガチャガチャ操作する音が聞こえる。
 電車は定刻通りに発車した。
 尚、この時点で座席は半分ほどが埋まっていた。
 これが平日なら、もう満席となっているのだろう。
 先頭車に乗っているのは、何度も先述している通り、BSAAとの取り決めによるものである。
 リサが監視対象となっているのは、言わずもがな。
 しかし、欧米ではリサと同じような者がいるらしい。
 アメリカのシェリー・バーキン氏ではなく、エブリンの力を引き継いだ者だとか……?

〔「おはようございます。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。8時49分発、東北本線上り、普通列車の仙台行きです。これから先、松山町、鹿島台、品井沼、愛宕の順に、終点仙台まで各駅に止まります。【中略】終点、仙台には9時35分の到着です。【中略】次は松山町、松山町です」〕

 高橋:「姉ちゃんの言うルートってどんな感じなんでしょうね?」
 愛原:「特に決まったルートは無いな。恐らく、適当に山形県内を走ればいいんだろう」
 高橋:「山形県に白井が?」
 愛原:「いや、ほんと今回は詳しい話を聞いてないんだ。聞いても教えてくれないし。でも、県と地域だけは指定してくるということは、そうなんだろうなぁ」
 高橋:「遭遇したらブッ殺していいんですか?」
 愛原:「俺達、探偵は通報するまでが仕事だよ。それ以上のことは、警察関係者から協力を求められた時のみすればいい。そこは警備業者と変わらんね」

 だから、アニメやドラマみたいに、警察を出し抜いて事件を解決するなど、本来は有り得ないのである。
 たまたま私が推理を利かせて、先に真犯人を突き止めたのだって、濡れ衣を着せられた高橋を助けてやる為だった。
 そういう事情でも無い限りは、な。
 だからアニメやドラマの中の探偵達も、わざとそういう状況に追い込まれた設定になっているのだろう(殺人事件に巻き込まれた、など)。

 高橋:「分かりました」
 愛原:「大まかなルートについては、主任から聞いてる。取りあえずは、そこを適当に走るだけでいいらしい。もちろん、途中休憩したり、観光したりするのはOKだそうだ」
 高橋:「まるで諜報活動ですね」
 愛原:「それが目的かもしれんな」

 しかし、厳密にはそれも違うだろう。
 諜報活動だって、何を諜報するのかの目的が大事だ。
 それを知らないのでは意味が無い。
 私は囮捜査なのではないかと思った。
 リサを連れ歩くことで、リサを狙うヴェルトロとか、何かそういう組織が襲って来る。
 それを一網打尽にする為、常に私達をどこかで監視していて……と、そんな気がするのだ。

 愛原:「ま、とにかく俺達は言われた通りにすればいい」
 高橋:「分かりました」
 リサ:「先生、サイトーへの連絡もダメ?」
 愛原:「ダメとは言われてないからいいんじゃないか」
 リサ:「良かった。サイトー、朝から大量のLINE」
 高橋:「ヒマなビアンガキだな」
 リサ:「夏休みの学生あるある」
 愛原:「夏休み明け、テストとかあるんだろ?あんまり遊び過ぎないように」
 リサ:「もちろん」

 電車は田園地帯の中、朝日を浴びて走行する。
 今は天気は良くても、山沿いの方とかはゲリラ豪雨注意とのことだ。
 ゲリラ豪雨、なるべくなら遭遇したくはないな。
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“愛原リサの日常” 「解けなかった謎」

2021-08-13 14:56:29 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月23日07:00.天候:晴 宮城県遠田郡美里町 愛原公一の家]

 今度はエロい夢を見ることはなく、7時にセットしたアラームで目を覚ましたリサ。
 南向きの窓からは、夏の日差しが既に差し込んでいる。

 リサ:「ううーん……」

 大きく伸びをし、布団から這い出る。
 白いTシャツに黒い短パンを穿いていた。
 だいたいこれがリサの夏の寝巻。
 起きて洗面所に行くと、既に愛原と高橋が髭を剃ったり、歯を磨いたりしていた。
 先にリサはトイレに行く。
 夜中に入った個室に入ったが、今度は壁の中から機械の音がすることはなかった。
 戻りがてら、仏間の中を覗いて見る。
 既に仏壇にはお供え物がされており、中には誰もいなかった。
 そして、仏壇の下の地袋には南京錠がされていた。
 観音開きの地袋なので、南京錠は2つの取っ手を跨ぐようにして取り付けられている。

 愛原:「こら、リサ。悪戯はダメだぞ」
 リサ:「悪戯じゃないよ」

 リサは心外とばかりに頬を膨らませた。

 愛原:「洗面所が空いたから、行ってこい」
 リサ:「はいはい」

 リサは手持ちのタオルと、携帯用の歯磨きセットを持って洗面所に向かった。

〔「おはようございます。朝のNHKニュースです」〕

 洗面所に行ってからリサはまた自分の寝ていた部屋に戻り、着替えを始めた。
 昨日着ていた服とは別の服を着る。
 夏なので上はTシャツだが、下は赤いプリーツのミニスカートにした。
 尚、TシャツにはBSAAのロゴマークがプリントされている。
 研究所時代には、こういう私服を着ることは許されなかった。
 着替えが終わってから茶の間に行くと、テレビが点いていた。

〔「昨日午後、NHkの契約請負人は埼玉県川口市内の雲羽百三氏の家を訪れ、視聴契約を求めましたが、雲羽氏はこれを拒否。議論の場は法廷へ持ち越されることとなりました。これについて雲羽氏は、『私は折伏をしただけだ。契約しないとは言っていない。これは単なる言い掛かりであり、NHKには大聖人様の鉄槌が下されることになるだろう』と、意味不明な発言をしているということです。これについて、厳虎独白の名無し氏は『パチンカス、中二病全開のバカ基地外サイコパスが何を言っても無駄だ』とコメントしており、NHKの契約に関するトラブルはまだまだ続きそうです」〕

 公一:「待たせたの。ほれ、朝食じゃ。アジの開きでいいかの?」
 愛原:「ちょっと焦げ臭い臭いがすると思ったら、魚焼いてたんだ」
 高橋:「素晴らしい焼き加減ですね」
 愛原:「ほら、リサ。オマエ、一番大きいの食え」
 リサ:「ありがとう。いただきます」

 朝食は典型的な和食であった。

 高橋:「名誉教授が全部作ってらっしゃるんスか?」
 公一:「そうじゃよ。気ままな1人暮らしぢゃ」
 愛原:「それでも寂しい時はある。こうして俺達が時々遊びに行ってあげることが大事なんだ」
 公一:「悔しいがそれはその通り。ジョンの散歩だけでは、なかなか暇が潰せんでの」
 愛原:「大学は?」
 公一:「引退した今となっては、時折遊びに行くだけじゃの」
 愛原:「そうなんだ」
 公一:「ああ、そうそう。最近、日本の製薬会社がワシの相手をしてくれるようになったぞ」
 愛原:「え?」
 公一:「ワシの発明品をコロナのワクチンに転用できんかということで、サンプルが欲しいと来た」
 愛原:「それって、例の科学肥料?枯れた苗を元に戻す薬だったっけ?」
 公一:「そう、それ」

 リサを人間に戻す薬にもなるような話があったが、どこまで研究が進んでいるのやら。

 愛原:「どこの製薬会社?」
 公一:「ダイニチじゃよ。大日本製薬」
 リサ:「サイトーんとこだ!」
 愛原:「ここで繋がってたんかーい!」
 高橋:「枯れた苗を元に戻す薬で、コロナ退治ができるんスか?」
 公一:「ワシにも想像がつかん。あくまでワシは農学を勉強していただけで、肥料や農薬もその一環で発明してみただけで、細菌学とか、更にそっちの薬学についてはとんと専門外なもんでのう……」
 愛原:「“グスコーブドリの伝記”にも、主人公が新しい肥料や農薬を開発して、村人を驚かせるシーンがあったね」
 公一:「ブドリが作った薬を、ウィルスのワクチン開発の素にしようとは、正に『事実は小説より奇なり』じゃの」
 高橋:「どうやって作るんスかね?」
 愛原:「説明されたところで、きっと俺達、難しくて理解できないと思うぞ?」
 公一:「うむ。ワシも途中で寝ると思う」
 愛原:「元大学教授が言っていいセリフじゃないよね?」
 リサ:「あの……」

 リサはここで切り出してみた。
 昨夜、トイレの個室の壁の向こうから機械の音がしたことについてだ。

 リサ:「壁の向こう側って、仏間ですよね?そこに機械なんてあるんですか?」
 公一:「勘のいいガキは嫌いじゃよ」

 そう言って公一は、いきなりリサに拳銃を……出すことはなかった。

 公一:「……と、これが映画だったら有り得る展開じゃが、あいにくとこの雲羽作品ではそんなベタ過ぎる展開はせん。あれはただの空調機械の音じゃよ」
 リサ:「空調機械?」
 公一:「うむ。この建物が、元は公民館じゃったことは知っておるじゃろう?その名残で、空調も集中式なのじゃよ。で、その大元となる空調機械が設置されておるのじゃが、それがあのトイレの壁の中なんじゃ。学校やビルなんかでも、機械室はあるじゃろう?あれをコンパクトにしたものがあるんじゃな」
 リサ:「機械室。確かにあるけど……」

 しかし、空調機械が唸り声を上げるほどの空調が昨夜は入っていたのだろうか。
 愛原と高橋、そしてリサは空調を切っていた。
 昨夜の気温は23度くらいで涼しかったので、扇風機だけで事足りたからだ。
 今でもそうだ。
 茶の間も窓を開けて、扇風機を回しているが、それでもクソ暑いとは思わない。
 もう少し時間が経てば、仙台市内の予想最高気温は30度なので、その北部にある美里町もそれなりに暑くなるだろうが。

 愛原:「そんなに気になったか?」
 リサ:「うん、まあ……」
 公一:「枕が変わると神経が高ぶって寝付きが悪くなることは、よくあることじゃ。そんな時、いつもは些事であっても、一度気になってしまうと、とことん気になってしまうというのは何も珍しいことではない。これがホラー映画なら、そのような者に後で恐怖体験が振り掛かるという展開が待っているのじゃろうし、サスペンス映画なら、気を紛らす為に出歩いたところ、偶然にも何らかの事件を目撃してしまい、後でその関係者に狙われるという展開が待っているのじゃろう。悪い事言わんから、今後は気にせんことじゃ」
 リサ:「はあ……」

 リサはこれ以上、何も言えなかった。
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