報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「急展開」 4

2024-09-30 20:23:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月13日16時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家]

 私とリサを乗せたタクシーが事務所の前に到着する。
 しかし、建物の前にはパトカー1台いなかった。
 どうやら、既に立ち去った後らしい。
 私達は事務所の前でタクシーを降りた。
 ガレージのシャッターは閉まっており、玄関扉には鍵が掛かっている。
 どうやら、パールも一緒に連行されたらしい。

 ???「愛原学さんですか?」

 そこへ、黒いスーツの男が話し掛けて来た。
 黒いスーツを着てはいるが、スーツに着けているバッジには見覚えがあった。
 閉じた傘の上に描かれている太陽。
 『陽(デイライト)が差せば、雨傘(アンブレラ)は要らない』という痛烈な皮肉を込めたNPO法人デイライトのバッジである。

 ???「私はNPO法人デイライト東京事務所の白峰と申します。善場の部下の者です」

 そう言って、白峰と名乗る男は身分証を私に見せて来た。
 まるで警察手帳のような、2つ折りの身分証である。
 但し、警察官の身分証が全体的に水色掛かっているのに対し、デイライトの場合は白である。
 たかだかNPO法人で、こんな警察手帳紛いの身分証を用意する辺り、やはりそこの職員達は中央省庁からの出向者達で占められているのだと分かる。

 愛原「は、はあ……。それで、善場係長は……?」
 白峰「現在、機上です。那覇空港から羽田空港に向かっている最中です」

 やはり善場係長は今、飛行機の中なのだ。

 白峰「事務所で留守を預かっている私が言伝を預かりまして、愛原さんにそれをお持ちした次第です」
 愛原「そ、そうですか。それはお疲れ様です。取りあえず、一旦事務所に……」
 白峰「失礼します」

 私は白峰と名乗る善場係長の部下の男を事務所に招き入れた。
 やはり建物の中は、人の気配はしない。

 愛原「リサ、お茶を入れて差し上げて」
 リサ「うん」
 白峰「いえ、お構いなく。まずはこれを御覧ください」

 白峰は手持ちのアタッシュケースから、ポータブルタイプのモニタを取り出した。
 そして、何か端末と接続している。

 白峰「これは高橋容疑者と霧崎よ……失礼、重要参考人の映像です」
 愛原「ええっ!?」
 白峰「善場が同行できないので、私が代理として立ち会いました」

 映像には警察が事務所に突入するところ。
 そして、直前まで私と電話していたのであろう、スマホを持ったパールが映っていた。
 警察官達は令状を持っていなかったものの、『緊急逮捕』という文言を何回も発していた。
 やはり、高橋は緊急逮捕されていったのだ。
 パールにはその共犯者という疑いが掛かっているようだが、パールに関しては何の証拠も無いようで、一応、事情聴取の為に警察署まで同行して欲しいという私服刑事の声が聞こえた。

 愛原「高橋はコロナ陽性ですよ?まだ熱も下がっていないのに連行だなんて……」
 白峰「もちろん高橋容疑者に関しては、そのまま警察署に連行するわけではありません」
 愛原「んん?」

 高熱で抵抗できない高橋の四肢を警察官達が抱え、高橋はストレッチャーに乗せられた。
 そして、その先には救急車が止まっている。

 愛原「救急車で病院へ?」
 白峰「はい。中野にある警察病院へ運ぶとのことです」
 愛原「あそこかぁ……」

 もちろん私は行ったことは無いが、警察病院の存在は知っていた。
 名前の通り、ケガや病気をした容疑者が治療を受けることも多々ある。
 入院することもあって、その警備体制には慣れているからであろう。
 パールはパールで、パトカーに乗せられて行った。

 愛原「パールはどこの警察署ですか?」
 白峰「麴町警察署です。警視庁で最もお膝元とされている警察署ですね」
 愛原「身元引受人とかはいるんでしょう?」
 白峰「霧崎さんに関しては、今のところ任意での事情聴取ですから。裏が取れないとなった場合はそのまま釈放となりますので、特に身元引受人は要らないと思います。万が一必要な場合は、私共がそれを務める予定です」
 愛原「高橋は一体、何の容疑なんですか?」
 白峰「今のところは、愛原さんに無断で脳外科手術をした医師法違反ですね」
 愛原「あいつにそんな知識はありませんよ!?」
 白峰「本当にそう言えるのですか?」
 愛原「い、いや、あいつに、そんな医療知識があるなんて……」
 白峰「それと、緊急逮捕まで至った理由は、彼の背後関係ですね。今は私の口からは言えませんが、彼の背後にはBSAAが銃口を向ける組織があるとの疑いもあります。緊急逮捕となったのは、それが理由ですね」
 愛原「だからって、パールは関係無いと思いますよ?」
 白峰「ええ。ただ、夫婦であることから、一応その有無について、警察はハッキリさせたいのでしょう。迎えが必要なら、私共でさせて頂きますから」
 愛原「しかし……」

 白峰氏は更に鞄の中から、A4サイズの白い封筒を取り出した。

 白峰「こちらが今後、愛原さんにお願いしたいことが書かれた資料です。御確認ください」

 私は封筒の中を開けた。
 クリップに留められた資料が何枚も入っている他に、これから宿泊するホテルのクーポン券やらタクシーチケット等も入っていた。

 白峰「これから愛原さんには八王子を経由して藤野に向かって頂きますが、それに関する費用は全てこちらで持ちます。それまで立替払いとなりますが、それは御容赦ください」
 愛原「ええっ!?どうしてそこまでして下さるんですか?」
 白峰「端的に言えば、愛原さんはバイオテロの被害者だからです。デイライトは何もバイオテロの鎮圧、根絶に尽力するだけでなく、その被害者に対する救済も活動内容となっています。愛原さんの脳に埋め込まれたという金属片については、大きな証拠になり得ます。くれぐれも、慎重な行動をお願い致します」
 愛原「分かりました……」

 何だか大事になっている。
 それだけは、何とか理解できた。
 そして白峰氏が退出すると、私達は藤野に行く準備を始めた。
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“私立探偵 愛原学” 「急展開」 3

2024-09-30 12:05:01 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月13日15時09分 天候:曇 埼玉県蕨市中央 JR蕨駅→京浜東北線1527A電車10号車内]

〔本日も、JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の、1番線の、電車は、15時9分発、快速、大船行きです〕

 

 イオンモールの敷地内からは、蕨駅方面へのバスが出ている。
 それに乗って蕨駅に行き、これから京浜東北線に乗って帰京するところである。
 その間、善場係長からはメールが何通か来た。
 八王子市のホテルを取ったので、そこで月曜日の朝まで滞在して欲しいこと。
 護衛として、リサとレイチェルを同行させて良いこと。
 係長は今日中には帰京すること。
 そして……高橋には、しばらく会えなくなるとのことだ。

〔まもなく、1番線に、快速、大船行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまで、お下がりください。次は、西川口に、停車します〕

 電車を待っていると、ホームの無い線路を中距離電車が轟音を立てて通過していく。
 そしてようやく、この駅に止まる電車がやってきた。
 隣の南浦和駅始発の電車だが、階段やエスカレーターが前の方にある為、そちらの車両は既に満席状態だ。
 後ろに行けば行くほど空いている。
 そして、最後尾はガラガラだった。

〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます。次は、西川口に、停車します〕

 ドアが開いて、電車に乗り込む。
 横並びに3人座った。
 すぐに発車メロディが流れる。
 ホルストの“ジュピター”である。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車のドアとホームドアが閉まる。
 駆け込み乗車があったせいか、何回か再開閉する。
 それから、ようやく発車した。

〔次は、西川口です〕

 高橋のこと以外は、リサ達に話している。
 レイチェルは片耳にインカムを着けていて、そこから既にBSAAの本部から連絡があったようだ。
 訓練生たるレイチェルの任務は、あくまでリサの監視。
 リサが私に同行するのだから、レイチェルも更に同行せよとのことだ。
 月曜日は彼女らも学校があるからな……。
 あ、そうだ。
 私は入院、高橋も警察の御厄介になるということは、しばらくPTA会長は不在となるということだ。
 学校にもその旨、連絡しておかないと……。
 色々と急展開があって、何だか気が滅入るな……。
 私が座席に深く腰掛けると、リサは私の心境を察してか、腕を組んで寄り掛かって来た。
 高野君は別組織の工作員、公一伯父さんもそちら側、栗原蓮華は鬼化、我那覇絵恋はBOW化、そして高橋は何がしかの容疑と……。
 別ればかりが相次ぐなぁ……。
 せめて、ここにいるリサだけは何事も無いでいて欲しいのだが……。

[同日15時38分 天候:晴 東京都千代田区外神田 JR秋葉原駅]

 電車に乗っている間、レイチェルは空気を読んだか、私にしがみついているリサには話し掛けず、持っている本を読んでいた。
 そして電車は無事、秋葉原駅に到着。

〔あきはばら~、秋葉原~。ご乗車、ありがとうございます。次は、神田に、停車します〕

 

 ここで電車を降りる。
 レイチェルとは、ここで別れることになる。
 待ち合わせ場所について確認した後、レイチェルは地下鉄の秋葉原駅へ、私とリサは岩本町駅に向かって歩き出した。
 と、ここへ電話が……。

 愛原「もしもし……?」
 パール「先生……」

 電話の向こうからは、息を押し殺したように喋るパールの声があった。

 愛原「どうした?」
 パール「事務所の前に、何台ものパトカーが……。先生、何かしました?」
 愛原「俺じゃねーよ。警察が用があるのは、高橋だ。……さっきから、電話の向こうでインターホンがピンポンピンポンうるせーな。しかも、ドアをドンドン叩いているな?もしかして、居留守使ってるのか?」
 パール「この場合、まともに応対しても、警察は捕まえてくるだけなので」
 愛原「いや、まともに応対していいよ!」
 パール「マサのヤツ……何かしたんですか?私は何も聞いてませんよ?」
 愛原「俺の頭をいじくった容疑だ。いいから、さっさとドアを開けてやれ!オマエも公務執行妨害で捕まるぞ!」
 パール「いいですねぇ……。マサと一緒に警察デート……!」
 愛原「何を楽しみにしてるんだ!余計なことはするなよ!?さっさとドアを開けろ!」

 私はそう言って電話を切った。

 リサ「どうしたの?何があったの?」
 愛原「ちょっと、急ぎだ。地下鉄じゃなくて、タクシーで帰るぞ」

 私はそう言うと通りの方に向かい、空車のタクシーに向かって大きく手を挙げた。

 

 愛原「はい、乗って乗って!」
 リサ「う、うん……」

 私はリサを先に乗せ、その後、すぐに乗り込んだ。

 愛原「菊川2丁目までお願いします。あの、新大橋通りから行ってください」
 運転手「あ、はい。分かりましたー」

 タクシーが走り出してから、私はもう1度パールに電話した。
 だが、電話には出なかった。
 警察が前もって令状を用意していたのか、それは分からない。
 無くても、令状は後から請求の緊急逮捕という形で逮捕することはできる。
 それかもしれない。
 特に今日は土曜日、明日は日曜日で、裁判所の窓口が空いているかどうか不明だ。
 それまで犯人を泳がせておくのは危険と判断される場合、この手法が取られることがある。
 顕正号のことについては、善場係長らも調べを進めていただろうから、その過程が高橋の怪しさに気づいたのかもしれない。
 そして、ある程度の証拠は集まっていたのだろう。
 最後の一押しが、私の頭だったのかもしれない。
 尚、善場係長にも電話を掛けてみたが、繋がらなかった。
 もしかすると、今は飛行機の中なのかもしれない。
 係長も休み返上で、本当大変だ。
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