報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「最初のダンジョンは……」

2016-01-19 17:04:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月15日07:00.天候:晴 アルカディア西部辺境オークタウンの宿屋 稲生勇太&アレクサンドラ(サーシャ)]

 稲生は外を飛ぶ鳥の鳴き声に目が覚めた。
「足が筋肉痛だよ……」
 稲生は足を引きずりながらベッドを出た。
 顔を洗う為に部屋から出ると、サーシャが夜着のワンピースから鎧の下に着る白いスポーツブラと黒いビキニショーツ姿でいた。
 ギョッとした稲生を、サーシャはあっけらかんとして、
「よお。よく眠れたかい?」
「は、はあ……。あ、あの、その恰好……いいんですか?」
「ん?何が?」
「あ、いえ。別に……」
「確かに汗臭かったからね、昨日風呂に入った時についでに洗ったんだけど、まだ臭う?」
「いえ、それは大丈夫ですけど……」
「あなたも早く顔洗って着替えな。早いとこ、朝食べに行こう」
「は、はい……」
 人間界では1月であるが、常春の国で、年間を通して気温が20度台のアルカディア王国では全く寒くない。
 魔界というと極寒の地か灼熱地獄、或いは常に暗闇に閉ざされた場所というイメージだが、そんなイメージを払拭した所に王国はある。
 魔界共和党では『この魔界を幻想郷に』というのがスローガンである。
 なので、まるで陸上競技の選手のような恰好になっているサーシャも、全く寒くはないのだ。
「ん?何か、足引きずってるけど……」
「ちょ、ちょっと筋肉痛で……」
「はあ!?1日歩いただけで?」
「そ、そうなんです……」
「何だい、魔道師さんってそんなに体力無いのかい?」
「はあ、すいません……」
「ていうか、魔法で治せないの?」
「……あ」
 稲生は魔道書の中に、小さな傷はたちどころに治せる魔法があったことを思い出した。
「ちょっとやってみます」
「私は先に下で朝食食べてるからね、早く来なよ」
「はい」

 稲生が魔道書を読みながら唱えたCクラスの回復魔法は、筋肉痛を治すには十分であった。
 何とか普通に歩けるようになった稲生は、すぐ酒場となっている食堂へ向かった。
 夕方から夜に掛けては酒場だが、朝から夕方に掛けては食堂になっているらしい。
「朝からチキンですか」
「この辺りはオークがいっぱいいるからね、豚肉と猪肉は御法度だって」
「な、なるほど……」
「ま、人間がサルを食べないのと同じだな」
「そ、そうですね。(いや、確か中国にはサルの脳味噌を食べる習慣があるぞ。……とは、とても言えない)」
 尚、オークといっても、町中に住む部類はちゃんと王国の法律を守っているため、稲生達に襲って来ることはない。
 襲って来るのは町を出た所の、要は盗賊や山賊みたいな稼業をしている、ならず者達だ。
 この辺りはローラム鳥という名の魔界に生息する鳥が多く存在しており、豚肉系を食べれない住民達はこの鳥を捕まえて肉食しているらしい。
 白いタイプは概しておとなしく、人を襲うこともない割には繁殖力が強いため、普通に食べる分を捕まえても数が減ることはないとのこと。
 で、これがまたアホウドリの如く、簡単に捕まえられるらしい。
「ま、イノーもこういうのを食べて体力つけなよ。人間界じゃ、ロクなものを食べてなかったのかい?」
「いえ、そんなこともないですけど……。日本人は元々小柄な人種なんです」
「そうか。そういえば安倍首相も、レナフィール大佐やルーシー陛下と並ぶと低いな」
「そうですね。で、今日は何をするんですか?」
「情報集めだ。見習のあなたに解ける結界かどうか分からないだろ?」
「そうですね」
「もし既に一人前の魔道師がいたら、その人に頼むという手もある」
「おー!」
 ついでにイリーナ達と連絡が取れるよう、依頼もできる。
「そういうわけだ。早いとこ食べよう」
「はい!」

[同日10:00.天候:晴 オークタウン中心部 稲生&サーシャ]

「ふむふむ……。それでは夜に行くといいわけですか」
 稲生はメモを取りながら、聞き込みをしていた。
「あー、なるほど。夜には結界が弱くなるかもしれないと……。それは有り得ますねぇ……。ところで、何かお悩みでもあります?もし良かったら僕のお寺に……あ、いや、何でもないです!」
 時々、ここが魔界であることを忘れる稲生であった。
(危ない危ない。街頭折伏する所だった……!)
「大丈夫か、イノー?」
「あ、サーシャさん」
「サーシャでいいよ。どうやら私とあなた、歳同じみたいだし」
 23歳か。
「魔法使うのはいいけど、暴走はさせてないでくれよ」
「だ、大丈夫です」
 サーシャはいつもの鎧を着込んでいた。
「で、何か情報あった?」
「例の魔法の結界が張られたダンジョンってのは、洋館……大きな屋敷だそうです」
「それで?」
「昔、バァル大帝だった頃の貴族が住んでいたそうなんですが、没落して今は無人の屋敷のはずだと……」
 そこまで言った時、サーシャの眉毛とこめかみがピクッと動いた。
「サーシャさん?」
「いいよ。続けて」
「昼は誰が見ても分かる結界が張られてるそうなんですが、夜は張ってあるんだか無いんだか分からないくらいに薄くなってると」
「そういうことってあるの?」
「実はよほどの熟練した魔道師でなければ、24時間結界を張り続けることは難しいです」
「そうなんだ」
「僕も練習したことがありますが、5分がせいぜいで……」
「それに対して、屋敷の前の結界は夜でも張られてるんだ。凄いね」
「でも、力は常に一定とは限りません。魔道師だって寝る時は寝ますので、寝ながら魔法を掛けられるのは僕の先生くらいで……」
「なるほど。じゃ、夜に行くといいんだね?」
「そういうことになります。でも一応、どんな種類の結界が張ってあるか見てみたいのですが……」
「そうだな。先に下見でもしておくか。外から見るだけならタダだろ」
「はい」

[同日11:00.オークタウン郊外・謎の洋館前 稲生&サーシャ]

「これは……」
 外から見るに、明らかに廃屋にしか見えない洋館がそこに建っていた。
 雰囲気はマリアの屋敷と似ているが、ちゃんと住んでいて管理もされているそれとは明らかに空気が大きく異なっている。
 マリアの屋敷も確かに慣れていないと不気味な所はあるが、住んで都にできる余地はある。
 で、いま目の前にある洋館にあっては、その余地が全く見受けられない。
 明らかに化け物しか住んでいないという感じだ。
 それから正門前には、地面に描く魔法陣がこちら側に向けて、青白い光を放って浮かんでいた。
 もちろん、迂闊に触ろうものなら、命の保証はない。
「これ、周りの柵を乗り越えるっていう手は使えないのかい?」
「多分、無理だと思います」
 稲生は宿屋から持ち出したマグカップをポイっと屋敷の敷地内に向けて投げた。
 すると、魔法陣型の結界がそれを感知し、青白いレーザービームを放って、マグカップを焼き払った。
「旧ソ連軍並みの厳戒態勢ですねぇ……」
「なるほど。今、無闇に入ろうとするのは危険だというのは分かった。で、あなたにはこの結界が解けそうかい?」
「いや、ちょっとムリっぽいですね。その、夜にどれだけ弱くなるかにもよります」
「分かった。じゃ、夜にまた来よう」
「都合良くこの結界を張った魔道師さんに会えれば、モア・ベターなんですけどね」
「私1人じゃ、警告無しに攻撃されそうだ。でも、同じ魔道師のあなたがいれば、少しは話を聞いてくれそうかい?」
「だといいんですけどねぇ……」

 2人は踵を返して、取りあえずまた先ほどの宿屋に入ることにした。
 一応、門の前には何やら貼り紙がしてあったのだが、稲生達は大きく表示された『危険!立ち入り禁止!』『関係者以外の立ち入りを固く禁ず!』『無断で立ち入る者、死あるのみ!』しか目に入っていなかった。
 しかし、小さく表示された所には、何故だか『工事のお知らせ』とか書いてあったのだが。
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“大魔道師の弟子” 魔界RPG編 登場人物紹介

2016-01-19 11:14:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 アレクサンドラ:

 ロシア語での愛称はサーシャ。
 本人は本名で呼ばれるのを嫌い、愛称で呼ぶことを人に要求している。
 稲生勇太が魔法陣に吸い込まれ、落ちた魔界の外れで出会った女戦士。
 行方不明になった婚約者の手掛かりを捜す為、アルカディアシティに向かっていたところ、倒れていた稲生を発見、救助する。
 旅にあたって、魔道師を仲間にしたかった彼女は見習とはいえ、魔道師の稲生を仲間にする。
 名字もあるようなのだが、本名と同様、名乗りたがらない。
 元はバァル帝政だった辺境貴族の人間に仕えし傭兵であったという(貴族に仕えていたのだから、彼女もまた傭兵ではなく騎士という見方もできるが、そもそも帝政時代の王国の序列が不明なので)。
 現在のルーシー王政になってから(厳密には一時期政権を取っていた魔界民主党の手による)、旧貴族は全て没落させられたため、本当の傭兵として働いていたらしい。
 人間界でも大人気のビキニアーマーを着用しているが、ベタな法則なほどの過激で露骨な露出は無い。
 腰まである黒い髪を束ねて、その上からヘッドギア型の簡易的な造りの兜を被る。
 身長165センチの稲生が見上げて話すので、身長は高い。
 辺境とはいえ貴族に仕えていたことがあったせいか、傭兵や女戦士のイメージにあるような、露骨な豪放さやガサツな所はそんなに見受けられない。
 年齢は稲生と大して変わらないらしい。
 酒を飲むことから、20歳は間違い無く過ぎている(アルカディア王国の新法律では、成人年齢は日本国に合わせて20歳となったため)。
「剣がちょっと使えるだけ」
 と謙遜しているが、RPGでもザコとはいえ、本当の最下級のモンスターよりは明らかに強いオークを5、6匹くらいは簡単に倒せる実力を持つ。
 後半で彼女の本当の出自に際し、意外なことが明らかになる。

 エリック:

 アレクサンドラ(サーシャ)の婚約者。
 仕える貴族が没落して本当の傭兵稼業をしていたサーシャと意気投合し、他の仲間も加えて、冒険の旅をしていた。
 リーダーシップがあったので、そのパーティーのリーダー的な役割を果たしていたという。
 そうしているうちにサーシャと恋仲になり、婚約を結ぶ。
 結婚資金を稼ぐという目的で1人、アルカディアシティ近郊に生息するという賞金首の、凶悪で強力な魔族を倒しに行ったまま行方知らずとなる。
 彼の所在は終盤で明らかになる。

 藤谷春人:

 今回は出番が物凄く少ないが、ちゃっかり鍵を握っていた人物。

 横田高明:

 え?顕正会に同姓同名の影の薄い幹部がいるって?
 さあ……?気のせいじゃないかな?

 魔界共和党理事という名の何でも屋
 「歩くムッツリスケベ」「歩くポルノ小説」などの異名を持つ。
 『グリーンの花園妄想記』という自作のポルノ小説をこっそり党機関紙に掲載しては、後で安倍にぶっ飛ばされるという劇が繰り広げられている。
 気に入った女性の下着を見通す異能を持ち合わせている。
 さすがに安倍からは、ルーシーにやったら不敬罪で死刑だと言われ、さすがにやっていないようだ。
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バス・フリークスが絶対に乗らないバス

2016-01-19 09:12:32 | 日記
血流し立ち尽くす人=バス転落、直後の現場―救助関係者が証言・長野

  “バス・フリークス”は私が短大生の頃に結成したチーム名である。
 学生の頃や卒業してからしばらく、20代の頃まではバスと鉄道を駆使した旅行をよく行っていたものである。
 30代にもなると、さすがにチームでの行動が難しくなり、今ではほとんどソロ活動に転じているが、正式に解散したわけではない。
 顕正会のせいで解散の危機に晒されたこともあったが、何とか乗り切れたよ。
 広宣流布に関係無いからといって、何でもかんでも切り捨てて良いというわけでもないと思うがね。

 そんなバス・フリークスが絶対に乗らないと決めたのが、ツアーバスとスキーバスだ。
 短大時代に、チームで1度だけそのツアーに参加したことがある。
 バス会社は主にトラック会社が片手間でバスを走らせているような所で、運転席周りが、まるで長距離トラックのような装飾になっていたのを覚えている。
 帰って来てからの結論が、
「スキーバス、ツアーバスには絶対に乗らない」
 であった。
 バス会社のことについて問い合わせをしようと、主催会社に連絡を入れたら、
「それは直接、バス会社にお問い合わせください」
 と、素っ気無い返事をされたし、
 それならばとバス会社に電話を入れたら、
「ツアー会社に言われたことなので、ツアー会社に言ってください」
 とのことだった。

 つまり、責任の押し付け合いである。
「こんなんで事故が起きたら大変だぞ!誰も責任を取らなくなる!」
 と、チームのメンバー全員で、あのような最終的な結論に至った。

 今から15年近く前のことである。
 恐らく、もっと前から責任の押し付け合いはあったのだろう。
 それが近年になって如実化しだけのことである。

 バス・フリークスが絶対に乗らないバス。

 キモくて近づき難いかもしれないが、1度、鉄オタやバスオタに話を聞いてみてはいかが?
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“大魔道師の弟子” 「ベタなRPG宿屋の法則。1階が酒場で2階が宿屋」

2016-01-18 21:51:36 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月14日?17:00.天候:晴 魔界アルカディア王国西部辺境の町 稲生勇太&サーシャ]

「うぃー!夕方に着けて良かったなー!」
「つか、れた……」
 女戦士サーシャは予定通り夕方に町に着けたことを喜び、稲生は膝の笑いを堪えるのに精一杯だった。
(明日は筋肉痛かも……)
「何だい、人間界の魔道師様は足腰が弱いなぁ……」
「まあ、向こうには便利な乗り物がありますから……」
 稲生はパンパンになった足を摩った。
「ま、早く宿に入ろうよ。私も疲れたしなぁ」
「そうですね」
 江戸時代、日本の宿場町では、旅籠の従業員達がよく旅人を客引きしていたらしいが、西洋(といっても魔界だが)の町ではそんなこともないらしい。
 稲生達は手近な宿屋を探した。

「いらっしゃい!この宿屋はベッドも食事も最高だよ」
 手頃な宿屋を見つけて中に入ると、フロントに50代くらいの恰幅の良い女将が笑顔で迎えた。
「そりゃちょうど良かった。私も仲間も長旅で疲れててね、一泊いくら?」
「それならちょうど、いい部屋が空いてるよ。お2人さんで100ゴッズでどう?」
「ひゃ、ひゃくご……」
 サーシャはいかにも高いといった顔をしたが、稲生は、
「100ゴッズですね」
 普通に財布の中から100ゴッズ札を出した。
「イノー!いいの?ちょっと高いよ?」
「え?そうなんですか?」
 稲生にとっては1000円くらいの感覚だ。
「毎度ー!じゃ、2階の201号室と202号室ね!」
「はい、お世話になります」
 稲生は普通に鍵を受け取った。
「階段登るのもキツいなぁ……」
「私が担いであげようか?」
「いや、別に。ゆっくり上がればいいです」
 宿屋はベタなRPGの宿屋の法則で、1階が酒場、2階が宿屋になっていた。
 酒場としての営業は夕方からで、昼は食堂として営業しているらしい。

 サーシャにとっては1泊1万円くらいの感覚だったのだろうが、稲生は1000円くらいの感覚。
 これは魔界の物価と人間界(日本国)の物価に格差がある結果である。
 レート的には1ゴッズが日本円で10円くらい。
 それで100ゴッズが1000円くらいの感覚なのである。
 中国の元よりも安い。
 これはアルカディア王国が、まだまだ発展途上国であることを意味している。

 稲生はこんなこともあろうかと、魔道師のローブの中に魔界のお金を入れていた。
 当面の資金は中に入っているので、しばらく金に困ることはなさそうだった。
「イノー、金持ってるんだね?」
 部屋に入る時、サーシャは目を丸くして言った。
「そうなんですかね?人間界の……僕の国の物価が高過ぎるだけかもしれませんよ?」
「ふーん……。凄い所から来たんだね」
 稲生は普通に自分の小遣いを魔界の通貨に変えたのだが、普通に札束が出て来たことに驚いたが。
 魔界を総べる王は魔族の女王ルーシーであるが、その宰相(首相)は人間代表の安倍春明である。
 日本人があるが故、アルカディア王国の人間では日本人の地位が高い。
 その為か、日本円は高値で取り引きされているようである。
「まあいいや。今日はゆっくり休んで、明日に備えよう。明日は情報収集をするよ」
「分かりました」

[同日18:00.魔界西部オークタウンの宿屋 稲生&サーシャ]

「もしもし?こちら稲生です。もしもし?もしもーし!……やっぱダメだ」
 稲生は手持ちのスマホでイリーナかマリアに連絡を取ろうしたが、圏外で全く繋がらなかった。
 アルカディアシティまで行かないと、アンテナが無いのだろうか。
 いや、そんなはずはないのだが……。
 バッテリーについてはソーラー充電器を持っているから、それで充電できる。
 電化されているのはアルカディアシティだけらしく、こういった辺境の町においては、未だに電化されていないようだった。
「はぁ〜……」
 稲生は深い溜め息をついた。
 その時、稲生の部屋がノックされた。
「はい?」
 稲生がドアを開けると、
「そろそろ夕食にしない?せっかく2人で旅してるんだからさ、一緒に食べよう」
「あ、はい」
 稲生が部屋を出ると、サーシャは鎧を脱いで、ノースリーブのワンピースに着替えていた。
 髪も下ろしているが、これだと普通の女性のようである。
 靴もブーツの上から脛当てなどの武具を着けていたのだが、今では一転してサンダル履きである。
「イノーがいい部屋を取ってくれたおかげでサッパリしたわー」
 この宿屋ではある程度の料金を支払うと、入浴ができるらしい。
 電化されていないということは水道も無いということだから、水を汲んできたり、それを湧かす労力が必要になるので、そうなるのだろう。
「それは良かったですね」
「イノーも後で入りなよ。その権利があるんだからさ」
「ええ、そうします」
 階段を下りると、既に夕方オープンの酒場ではあちこちのテーブルで盛り上がっていた。
「せっかくだから、お互い身の上話でもしよう。アルカディアシティまでの付き合いとはいえ、そこまでは遠い道のりなんだからさ」
「そうですね」

[同日21:00.同宿屋202号室 稲生勇太]

 稲生はベッドに潜り込んで、色々なことを思い出していた。
 寝るにはまだ早いような時間であるが、さすがに1日中歩いての移動は疲れていた。
 これがいつまで続くのか分からないが、当分続くということを考えると気が滅入る。
 交通網が発達する前の時代、歩いて移動するのが当たり前の感覚には恐れ入った稲生だった。
 サーシャは“ベタな女戦士の法則”通り、夕食時に酒をよく飲んだ。
 それで気を良くしたのか、ある身の上話をした。
 今でこそアルカディア王国は立憲君主制であり、日本の天皇よりもまだ女王には権力が残されているが、それでも国民には人権が憲法で保障されており、奴隷は禁止されている。
 その前はバァル大帝による絶対王制の政治であり、魔界に迷い込んだ人間達は漏れなく自動的に奴隷階級に落とされるのがベタであった。
 しかし、その中にも例外は存在した。
 一部の人間の中には特権が与えられ、貴族として同じ人間の奴隷を支配する権利が認められた者もいるという。
 それは現在ルーシー女王が即位し、魔界共和党が議会を形成するようになってから、強制的に没落させられた。
 サーシャはそんな貴族に仕えていた傭兵だったという。
 奴隷階級ではあったが、貴族の間近で仕えている者にはそれにりの役得もあったような話もしてくれた。
 今の政治体制になってから仕える貴族もいなくなり、手持無沙汰になった戦士の中には、拡充された新体制の魔王軍に入隊した者もいる。
 その中で出世して大佐の地位にいるレナフィール・ハリシャルマンは、女戦士達のあこがれの的だという。
(人間界にいては体験できないことばかりだ。意外と、こういうのもいいかもしれない。どうせ、アルカディアシティに着くまでの間だしな……)

 枕元に置いたスマホにはアラームを仕掛けているが、相変わらず圏外のままだった。
 明日は魔法の結界が張られているというダンジョンを探索する。
 もし魔道師が掛けたものであるならば、その魔道師に頼んでイリーナやマリアと連絡が付くように依頼することも可能であるはずだ。
 ただ……そのサーシャについて気になることがある。
 確かに女戦士らしく、豪放な性格で口調も姉御肌といった感じだが、完全にそうとも言えない部分があるような気がした。
 食事を共にした時も、その性格の割には意外と上品な食べ方をするなど、根っからの傭兵気質のようには見えなかった。
(まあ、貴族に仕えていたんだから、ある程度上品には振る舞わないとダメ的なところもあっただろうからな……)
 
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“大魔道師の弟子” 「あまり露出の高いビキニアーマーは現実的ではない」

2016-01-17 22:37:58 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[稲生のスマホでは1月14日06:00.天候:曇 魔界アルカディア王国・西部辺境 稲生勇太&サーシャ]

「……おい、起きな。もう朝だよ」
「う……」
 稲生は初めて野宿をするハメになった。
「この辺もモンスターがうろついている所だからね、いつまでも寝てらんないよ」
 女戦士が簡単な寝具を片付けながら言う。
「あ……はい。おはようございます」
「律儀なヤツだな。おはよう。まあいい。早いとこ朝食べて出発だ」
「は、はい」
 稲生は指示された通り動きながら、昨夜のことを思い出していた。
 魔法陣が謎の暴走を起こし、魔界に呼び込まれて倒れていたところを助けてくれたという女戦士。
 年は稲生と大して変わらないように見える。
 ただ、身長は稲生よりも高く、鎧で覆われていない所は人間界のアスリート以上に引き締まっているのが分かった。
 名前はサーシャと名乗った。
 名字もあるようなのだが、それはどういうわけだか名乗りたがらなかった。
 それに、サーシャというロシア系の名前だが、これは愛称で、正式にはアレクサンドラとなるはずだ。
 稲生がそれを指摘すると不快そうな顔をして、一応は肯定した。
 だが、サーシャはアレクサンドラという本名を呼ばれるのが嫌いらしく、愛称のサーシャで呼ぶように強く言った。

「じゃ、準備はできたか?」
「はい」
「目指す場所は、あっちだ。夕方までに着くといいんだけどな」
「夕方!……歩きで?」
「他に何がある?」
「魔界にはバスは……無いし、タクシーも……無いし」
 そもそも魔界には自動車交通自体が無い。
「魔界高速電鉄とか走ってませんか?」
「何言ってるんだ?分かりやすく説明して……あ、いや。魔道師に説明させると、余計こんがらがるからいい。とにかく、歩きだ。行こう」
「はい……」
「なぁに。魔道師様の体力の無さは知ってるよ。ちゃんとあなたに合わせて歩くさ」
「はあ、どうも」
 稲生は女戦士サーシャについて歩いた。
 彼女は軽装の鎧を着けている。
 恐らく、これがビキニアーマー(和製英語。本当の英語ではメタル・ビキニまたはビキニ・メイル)と呼ばれるものだろう。
 ただ、人間界でのイラストなどと比べれば、まだ現実的な恰好をしているように見える。
 具体的には人間界におけるそれと違って、比較的露出は少ないし、肌の上から直接鎧を着けているわけではないようだ。
 スポーツブラの上から胸当てと肩当てを着け、ビキニショーツ(というか、陸上競技におけるレーシング・ショーツに似ている)の上から腰当てと股当てを着装している。
 彼女は元々別のパーティーを組んで旅をしていたが、その仲間の重戦士の男と恋仲になり、婚約までしたところで、その重戦士が行方不明になってしまったという。
 その手かがりを求めて、このアルカディア王国までやってきたとのこと。
「魔道師さんは顔が広いって言うからね。何か知らないかと思った」
「……師匠のイリーナ先生なら知ってるかもしれませんが、僕はまだ見習の身で……」
「私が聞いた話では、ここ最近、魔界と人間界との均衡が不安定だってことだ。あなたが想定外で魔界に来たってことは、あいつももしかしたら、人間界に飛ばされたかもしれない」
「いくら人間でも、生まれも育ちも魔界の人が、人間界に行ったら大変ですよ」
「だろうね。人間界には、こんな恰好したヤツなんていないんだろう?」
「ええ、まあ。(コスプレ会場なら、あるいは……)」
「で、イノーの御師匠様とやらはどこにいる?」
「それが、連絡が取れないんです」
 稲生は手持ちのスマホを取り出した。
 魔界なんだから人間界のスマホが使えないのは当然だろうと思うところだが、実はイリーナが魔法で、魔界からでもイリーナやマリアの水晶球や屋敷の電話に通じるようにしてくれたのだ。
 だが、それが何故か圏外のままである。
「僕がここにいると知って、捜しに来てくれないかなぁ……」
「その御師匠さん達は、ここで待っていたら来てくれるのかい?」
「分かりません」
「だったら、行動しよう。あの人も、『迷ったらとにかく行動してみよう』って言ってたしね」
 恋仲の重戦士のことである。
 パーティーではリーダー的な役割を果たしていたようだ。
「アルカディアシティに行けば、何とかなるかもしれません。あそこは連絡網も発達してますし、最悪、安倍総理を知っているので、何とかしてもらいます」
「おおっ、アベ首相か。確かイノーと同じ、人間界から来た『元・勇者』だったね。さすがは魔道師さん、顔が広い」
「いや、そんなことは……。アルカディアシティまで、どのくらいありますかね?」
「あー、そうだねぇ……」
 サーシャは荷物の中から地図を取り出した。
 それはアルカディア王国の地図。
 国土はとても広いが、王都は殆ど東部に偏っている。
 まるで、東京都のようだ。
「そもそもアルカディア王国の国土って……?東京都くらいですか?」
「トーキョート?それがイノーの故郷か?」
「あ、いえ、まあ……。それとアルカディア王国の形って似てるなあって……」
「まあ、いいや。ここが『魔界富士』だろ?」
 三鷹市に当たる部分に『魔界富士』が鎮座している。
「今、ここにいる」
「……奥多摩郡……ですか」
「オーク・タ・マーグ山地だね。名前の通り、オークが多く生息している場所だそうだよ」
「オークと言うと、2足歩行の人型の豚モンスターでしたっけ?」
「その通りさ」
 サーシャは立ち上がると、同時に左腰の剣を抜いた。
「!?」
 稲生がびっくりしてその剣の切っ先を見ると、わらわらと5〜6匹のオークがいた。
 手にはコンボウや槍を持っていて、全体的に青っぽい肌をしている。
 確かに2足歩行だが、頭は豚や猪の姿をしていた。
 稲生達を見て下卑た笑みを浮かべたり、涎を垂らしたり、牙を剥いたりしているので、
「こんにちはー」
「はい、どうもー」
 ってな感じで、すれ違いはさせてもらえなさそうである。
「サーシャさん!」
「あんなザコ達、私1人で十分だ。後ろに下がってて」
「は、はい!」

 サーシャは簡単にオーク達を屠ってしまった。
「少し歩いただけでこのザマだ。こりゃ夕方までに町か村まで着けるかどうかだね」
「ええーっ!?」
「さすがに連続で野宿はキツいね。せめて宿屋に泊まりたいよ」
「そうですよね」
 稲生もあまり眠れなかった。
 ここでふと稲生は気づいた。
 稲生を引き込んだあの魔法陣。
 周囲にマリアがいなかったのは、マリア自身もまた魔法陣に引き込まれてしまったのではいないかと。
「どうした?」
「い、いや。もしかしたら、マリアさん……僕の先輩魔道師が、既にこの魔界に来ているかもしれないと思いまして……」
「そりゃいい。やっぱり王都に行く必要があるな。急ごう」
「はい」
 サーシャはオークの血糊のついた剣から汚れを拭き取ると、それを鞘にしまった。
 兜は頭全体を覆うものではなく、ヘッドギアに装飾を施したものになっている。
 そのヘッドギア型の兜を取って、汗を拭う。
 黒髪をポニーテールにしている。
「ん?」
 明るい所でサーシャの顔をはっきり見た稲生は、彼女をどこかで見たよう気がした。
 黒い髪に緑の瞳。
 典型的なロシア系の女性の顔立ちだが、ダンテ一門は往々にして7割方くらいロシア系なので、それで見たことがあるような気がするのかもしれない。
 日本人にとって、白人や黒人は同じような顔に見えるのと同じか。
(気のせいか……)
「ああ、そうそう。もう1つ気になる場所があるんだ」
「何ですか?」
「とあるダンジョンの話を聞いたことがあって、ただ、それが入口を魔法の結界で塞がれているらしいんだ。もしかしたら、魔道師さんなら何か分かるかと思ってね」
「そのダンジョン、何かあるんですか?」
「いわゆる、トレジャーハンターってヤツから聞いた話だから、お宝でも隠されてるんじゃないの?別に私はそんなのに興味があるわけじゃないけど、せっかく魔道師さんが一緒なんだから行ってみようかと思って」
「はあ……。(こんなことしてる場合じゃないのに……。早いとこアルカディアシティに行って、善後策を考えないと……)」
 稲生ははっきり言って乗り気ではなかったが、
(魔法の結界を張っているってことは、魔道師の誰かが管理しているってことなのかもしれない。もし上手く魔道師と会えたら、何とかなるかも……)
「どうだい?興味無いかい?」
「分かりました。一応、行ってみることにしましょう」
「そうこなくちゃ!……って言っても、まずはこの地域の中で大きな町に行かないと。ダンジョンはその町の郊外にあるからね」
「ああ、それが夕方までに着ければって話なんですね」
「そういうこと」

 2人は先に進んだ。
 町に着くまでに、オークやそれの亜種と思われるモンスターの歓迎を受けながら……。
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