報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「冒険の始まりは突然に」

2016-01-16 21:25:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月7日12:00.天候:晴 長野県白馬村郊外・マリアの屋敷 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 積もった雪が除雪されて、土が剥き出しになった中庭。
 そこに魔法陣が描かれていた。
 除雪されていない柔らかい雪の上に仰向けに倒れて、大きく息の上がっている稲生の姿があった。
 そんな稲生の姿を、普段は目を細めているイリーナが目を開いていた。
 感情が昂った時の現象だが、別に憤怒の感情を出しているわけではない。
 むしろ、その逆だ。
「スゴい!スゴーい!」
 と、驚喜の声を上げている。
「午前中で1つか2つの魔法を覚えられれば御の字だと思っていたけど、5つも覚えられるなんてスゴいわ!」
「はぁ……はぁ……」
 師匠の褒め言葉は聞こえたが、稲生はそれに反応できなかった。
 魔法を使うということは、その強さに応じた精神力を使うことになる。
 即ち、使う魔法が強ければ強いほど、必要になる精神力も強いものでなければならないというわけだ。
 だから稲生は、肉体的に疲れているわけではなかった。
「どう?立てないでしょ?別に激しい運動をしたわけでもないのに、まるでそうしたかのような疲れ。でも、そう言われてみても、それとはやっぱり違う疲れ。これがあなたの言うMP(マジックポイントまたはマジックパワー)がゼロになった状態よ」
 イリーナはローブの中から、液体の入った小瓶を取り出した。
「はい、これ飲んでー」
 稲生はイリーナに小瓶の液体を飲ませてもらった。
 少し、体が楽になるような感覚になる。
 MPを回復させる薬のようだ。
「先生……」
「素質があるどころか、凄い才能だわ。最終的には、アタシを超えるかもしれないね」
「本当ですか?」
「うん!この調子で頑張ってね」
「はい!」
「……で、マリアはどうなのかしら?」
「……何とか覚えました。ムェ・ルァ・ゾゥ・マ」
「メラゾーマ?確か、火系の魔法の中で強力なものですね。あ、それで、その辺の雪が融けてたんですね」
「他には?」
「……それだけです」
「マリアも素質はあるんだけどねぇ……」
「どうせ私はユウタほどの才能は無いですよ」
「まあまあ、マリアさん。僕はCクラスの魔法だけですから。Aクラスって、物凄く大変なんでしょう?」
「それはそうだが」
「イリーナ先生は更にその上のSクラスの魔法が使えるんだから、改めて凄いと思います」
「そのSクラスを惜し気も無く連続使用できるダンテ先生は、もはや神の領域だね」
「おいおい、褒めたところで何も出さないよ、ボクは」
「はっはっはー!それもそうかぁ!」
「せ、先生!?」
「師匠!後ろ!」
 弟子達が青い顔をした。
「んー?」
 イリーナが振り向くと、
「はぁうっ!?」
「ハロー。元気にしてたかい?」
 大師匠ダンテ・アリギエーリがいた。
 黒いローブに身を包み、フードを深く被っている。
 そこから見える顔の下半分は、やはりどう見ても浅黒い肌をしていることから、稲生はダンテが黒人ではないかと見ている。
 浅黒いことからアフリカ系ではなく、中東系とかその辺。
「ダンテ先生!」
 イリーナはびっくりして飛び上がり、弟子達は慌てて片膝をついて畏まった。
「熱心に修行をしているようで、感心だな。いやね、キミの弟子の指導法について、他の魔道師達から不安視する声が聞こえたものだからさ。インドに視察に来たついでに寄ってみたんだ」
(インドに行ったついでに来る所なんだ、ここは……)
 稲生は大魔道師達のスケールのデカさに驚いた。
「この分なら、そんなに心配は無いみたいだね」
「特に、稲生君は類まれな才能を持っているようです。将来有望ですわ」
「そうかい。それは楽しみだな。それより、準備はできたかい?」
「準備……って、何かありましたっけ?」
「ほほお……。キミ、これから中国で落ち合って、魔界の穴の調査をする約束をしていたじゃないか?」
「あっ?……ああーっ!!」
「師匠。まさか、大師匠様とのお約束を忘れていたと……」
 マリアは呆れた顔をした。
「まあ、いい。そんなことだろうとは思っていた。今からでいいから仕度しなさい。……ああ、キミ達は来なくて結構だ。ちょっと厄介事でね。見習君とマスターに成り立てでは手に負えそうにない」
 ダンテは暗に稲生とマリアのことを言った。
 マスターに成り立てとは言えど、一人前になったマリアでさえ、手に負えない事案とは一体何なのだろう。
「しょうがないから、後は自習ね。そうね。アタシが戻って来るまで、宿題を出しておくわ。稲生君はCクラスの魔法をあと5つ覚えなさい。マリアはAクラスの魔法を3つ覚えること」
「は、はい」
「み、3つもですか!?」
「そうよ」
「何気にユウタよりキツくないですか、私?」
「あのねぇ、あなたは仮にもマスターになった魔道師よ?それに比べて、ユウタ君は私に弟子入りしてからまだ1年も経ってない。修行法が同じなワケないじゃないの」
「ううっ……!」
「じゃあ、準備ができたらアタシは行くからね。1つ屋根の下で仲良くするのは大いに結構だけど、修行の妨げにならない程度にね」
「え……?」
「なっ……?!」
 イリーナが帰って来るのは1週間後の予定だというから、それまでに課題をこなさなければならない。

[1月14日?時刻不明(夜間?)場所不明 天候:晴 稲生勇太]

「う……」
 稲生は目を覚ました。
「気がついた?」
「えっ?」
 稲生が起き上がると、目の前に火があった。
 どうやら焚き火らしい。
 その向こう側に、1人の女性がいた。
「この辺で倒れていたんだよ。放っておくわけにもいかないからね。見たところ、大したケガは無さそうだけど……」
「え……と……?」
 稲生は直近の記憶を思い出した。
(確か、僕は……)

[1月14日02:00.マリアの屋敷 稲生勇太]

 稲生は何とかイリーナに与えられた課題をこなすことに成功した。
 Cクラスといっても、それぞれの魔法に特色があり、覚え方にそれぞれコツがある。
 それを掴まないと、なかなか覚えられないというのはあった。
 それでも何とか覚えることができ、就寝しようとした時、稲生は意変に気づいた。
 2階の自室の窓の外に、何か光のようなものが見えたのだ。
 窓を覗くと、中庭の魔法陣が鈍い光を放っているようだった。
 稲生の部屋からだと、魔法陣の全景が見えない。
 まだマリアがAクラスの魔法を2つ覚えただけで止まってしまったので、魔法陣は消さずにしておいたのだ。
(マリアさんがまだ使ってるのかな?)
 マリアは3つ目の魔法が覚えられないことに苛立ちを抑え切れず、ほとんど不貞腐れた感じで自室に引きこもってしまった。
 さすがに頭を冷やして、もう1度チャレンジしようとしたのかもしれない。
 稲生は寝間着から私服に着替え、ローブを羽織って、自分用の杖を持って魔法陣に向かった。

 魔法陣は青と緑の間の色の光を放っていたが、そこにマリアはいなかった。
「あれ、マリアさん?」
 稲生はキョロキョロと辺りを見渡したが、マリアの姿は無かった。
(んん?マリアさん、どこ行った?あれ?マリアさんじゃないのかな???)
 魔法陣が勝手に光るとは考えられない。
 異常発生中であると困るので、取りあえず屋敷に戻ろうと思った。
 踵を返すと、魔法陣の光は更に強くなり……。
「えっ!?」
 まるで巨大な掃除機に吸い込まれるかのように稲生の体が吸い寄せられ、そのまま魔法陣の中に引き込まれてしまった。

[1月14日?時刻不明(夜間?)場所不明 稲生勇太&謎の女性]

「……おーい?聞こえるかー?」
「……はっ!?」
 目の前に、稲生に話し掛けてきた女性がいた。
「あ、あの!ここはどこですか!?」
「魔界アルカディア王国の外れだよ。何だい?あなたは他国の人間なのかい?」
「魔界!?また魔界に来ちゃったのか……。僕は人間界から来たんです」
「へえ、そうなんだ!話には聞いたことあるけどね。その恰好、魔道師なんでしょ?私はワケあって旅をしている、ちょっと剣が使えるだけの者なんだけど、ちょうどあなたのような魔道師を探していたんだ。話を聞いてくれる?」
「えっ?えーと……」
「その後で、あなたの話も聞こうじゃない」
「はあ……」
 よく見ると女性は右側に剣を置き、左手に簡素な兜を置いていた。
(何だろう?また“魔の者”が暴れ出したんだろうか?)

 ここから稲生の冒険が始まる……のかもしれない。
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“大魔道師の弟子” 「帰省の終わり」

2016-01-15 21:12:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月6日10:00.天候:晴 JR新宿駅中央本線ホーム 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。10番線に停車中の列車は、10時4分発、特急“あずさ”55号、白馬行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 未だ朝ラッシュの余波の残る埼京線電車に揺られ、降りた新宿駅も多くの人が行き交っていた。
 そんな中、ようやく帰りの特急が入線しているホームに辿り着く。
「イリーナ先生、グリーン車でいいよなんて仰るからお言葉に甘えてしまいましたけど、本当に良かったんですかね?」
「師匠がいいって言うならいいんだろう。それに、そこしか席は空いてなかったんじゃないの?」
「まあ、そうなんですけどね」
 稲生達は8号車に乗り込んだ。
 “あずさ”用のE257系車両のグリーン車は、半室構造になっている。
 即ち、乗降ドアが真ん中辺りにあって、そこから新宿寄りが普通席、松本・白馬寄りがグリーン席という塩梅だ。
 どうしてこうなった?と首を捻る鉄ヲタが多数いたそうな。
 車掌室も車両のど真ん中にある。
 稲生達の座席は、その車掌室寄りにあった。
 小柄な2人が座ると、大きな座席に埋もれてしまいそうだ。

〔「ご案内致します。この電車は10時4分発、中央本線特急“あずさ”55号、大糸線直通の白馬行きです。本日、大糸線の白馬駅まで参ります。停車駅は立川、八王子、大月、石和温泉、甲府、小淵沢、富士見、茅野、上諏訪、下諏訪、岡谷、塩尻、松本、豊科、穂高、信濃大町、終点白馬の順に止まります。発車までご乗車になり、お待ちください。……」〕

「実家の帰省はどうだった?」
 窓側席に座るマリアが聞いて来た。
「あ、はい。おかげさまで、ゆっくりできました」
「そう、か……」
 マリアは窓の外を見て、何か考え込んだ。
「私は魔道師になる時、師匠から余計な記憶を消されたり、操作されたりしたらしい」
「あ、はい。そのようです、ね……」
 その1つが、おぞましい堕胎の記憶だ。
「多分、私の実家に関しても、魔道師になるに当たって、余計な記憶だったんだろう」
「えっ!?ぼ、僕も何かされたのかな……?」
「そんなことは聞いてないし、私も儀式には参加していたが、特にそんなことをしたようには見えなかった。多分、ユウタは消去したり改竄すべき余計な記憶は無かったんだと思う。かなり珍しいことだけどね」
「そうなんですか……」
「親が魔道師のプロパーはそんなことする必要が無い場合が多いが、私達のような“中途採用”組は、余計な記憶を持っている場合が多い。その中には捨てるのは勿体ない記憶もある。だから大師匠は、『汝、一切の望みを捨てよ』と仰ってるんだと思う」
「なるほど……。その『望み』とは、記憶のことでしたか。人間時代の」
「私はそう思ってる」
「でも、そんな気がしますね」
 稲生は大きく頷いた。
 今日のマリアは比較的調子が良いらしい。
 調子が悪いと顔色が悪く、不機嫌な顔をしてあまり喋らない。
 それが今は、稲生に積極的に話し掛けてきている。

 いつの間にか列車は走り出し、中央線の快速電車とすれ違いながら、黄色い各駅停車を追い抜いたりしていた。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は中央本線、特急“あずさ”55号、白馬行きです。……〕

「実家に帰るってどんな気分なんだ?私にはもう無いから分からないんだ」
 と、マリアは聞いて来た。
「もしかしたらまだあるのかもしれないけど、魔道師としては余計なものらしく、無いことになってる」
「僕はちゃんとその記憶が残されて、イリーナ先生からも帰省するように言われてます。この違いは何なんですか?」
「……ユウタの御両親は、特段ユウタが魔道師になることに反対はしなかった」
「ええ。僕のやりたいようにやれと言ってくれました。といっても、両親は占い師程度にしか思ってないみたいです」
 実はイリーナは、魔道師にしては比較的表舞台に出ている方である。
 占い専門の本に度々、世界的な占い師として紹介されることがあるくらいである。
 稲生を勧誘した時、両親への話の際には資料としてそれを用いたことがあったくらいだ。
 だから両親は、息子が世界的に有名な占い師と知り合って、弟子入りしたくらいにしか思っていないだろう。
 大学は卒業しているので、もし“占い師”がダメになっても、一応ツブシは利くと思っているようだ。
「まあ、魔道師の何たるかを説明するだけで、物凄い労力が掛かるからな。それでいいと思うよ」
「ええ」
「多分、私の実家は最悪な家庭環境だったんだと思う。おぼろげな記憶なんだけど、私がハイスクールでヒドい目に遭わされていても、何の心配もしてくれなかったみたいだ。だから、魔道師になるに当たって、余計な記憶とされたんだと思うね」
「そうなんですか」
「ま、今となっては、どうでもいいことだ。もう私は魔道師のこと以外、イギリスに帰ることはないだろうし。ましてや、生まれ故郷のハンガリーの記憶なんて全く無いし」
「はあ……」
「日本もいい所だから、ここにしばらく住んでみるのもといいと思うしね」
「そうですね」
 稲生は笑み浮かべて頷いた。

[同日18:00.天候:雪 長野県白馬村郊外 マリアの屋敷1Fダイニング 稲生、マリア、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 師弟3人で夕食を囲む。
「あ、ユウタ君、お土産ありがとね」
「いえ」
「日本のサケ(酒)も美味しいからね。後で頂くわ。日本のサケは海鮮に合うからね」
 今日の夕食は肉料理がメインだったので、赤ワインにしたイリーナだった。
「実家ではゆっくりできたかしら?」
「おかげさまで」
「まだ実感無いと思うけど、魔道師になれば、自分は歳を取らない姿のまま両親の老いる姿を見て、見送らなければならなくなる。幸い稲生君の御両親からは御理解を頂けたから何もせずに済んだけど、それなら何も捨てる必要は無いわ。私のような師範格の者にとっては、良い才能を持った弟子を出してくれた生みの親には感謝してもしきれないくらい。元気なうちに姿を見せてあげるのは、当然のことだと思ってる。私はね。あいにくマリアはちょっと特殊な事情があるし、師範格によっては、そもそも生家自体を捨てよなんて考えている者もいるけどね」
「へえ……。何だか難しいですね」
「師範格は師範格で、色々大変なのよ。ま、とにかく、明日からは本格的に修行を再開するからね」
「はい。よろしくお願いします」
「精神力を使う修行が嫌というほど続くことになると思うから、今日のところはゆっくり休みなさい。精神力を付けないと、強い魔法を使うことができないからね」
「精神力。MP……マジックパワーですね」
 RPGによってはマジックポイントと呼ぶこともある。
「ま、そんなところかな。まずは、わざと疲れてもらう」
「えっ?」
「具体的には、まだ強い精神力を得ていないのに、無理して強い魔法を使うとどうなるかというのを体験してもらうわ。実際に魔法陣を描いてもらって、それを体験してもらうからね」
「は、はあ……。な、何か怖いですね」
「確かに、ちょっと大変だぞ。私も体験したが、本当に体が動かなくなる」
「そ、そんなに!?」
「まあ、心配しないで。すぐにアタシが回復魔法を掛けて、救護してあげるから。弟子の中には少し力を付けただけで、すぐ調子に乗って、強い魔法を使いたがるコもいるからね。本番で痛い目見るよりは、まだ練習段階で体験してもらった方がケガも少なく済むというわけ」
「そ、そうでしたか」
「師匠も意外とスパルタだから」
「マリア。マリアには、そろそろAクラスの魔法を覚えてもらうから」
「えっ、もうですか!?」
「当たり前じゃない。再登用(再・免許皆伝)されてマスター(一人前)になったんだから、Aクラスの魔法が使えなくてどうするのよ?」
「ま、それはそうですが……」
「“魔の者”が、いつ戻って来るか分からないのよ?稲生君にはCクラスの魔法から覚えてもらうけど、初心者でも結構キツいものがあるからね。今から言っておくわ」
「は、はい」
「というわけで、明日に備えて今日は早く休むことね」
「わ、分かりました」
「了解です……」

 稲生は不安そうな顔になり、マリアは面倒臭そうな顔をした。
(魔法陣にも色々なパターンがあるんだよなぁ……)
 稲生は、それまで読んできた魔道書の内容を思い出していた。
 よもや、新たな修行が新たな展開を呼ぶものになろうとは、この時はまだ知る由も無かった。
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“大魔道師の弟子” 「見習魔道師の見た夢」

2016-01-14 22:47:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月6日07:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区・稲生家 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 マリアは稲生の家に宿泊し、普通に起床した。
 朝の身支度を整えてダイニングに行くと、稲生の母親が朝食を用意していた。
 そこに稲生勇太はいなかった。
「……?」
 マリアが稲生がどこにいるのか見渡したが、やはり気配が無い。
「あら、マリアンナちゃん、おはよう」
「あ……オハヨウゴザイマス……」
 マリアは思わず、素の日本語で挨拶した。
 いつもは英語のまま魔法に乗せて喋ることで、滑らかな日本語になるのだが、素だと、どうしても片言の日本語になる。
「あの……ユウタ……君は?」
 今度はちゃんと魔法に乗せて喋る。
「まだ起きてきてないのよ。珍しいわねぇ……」
「起こしてきます」
 マリアはそう言って、稲生勇太が寝ている2階の部屋に向かった。
(勤行でもやってるのかな?それとも、具合でも悪いか……)
 そう思いながら、稲生の部屋の前までやってくる。
 ドアに耳を当ててみるが、特に不審な音とかは聞こえてこない。
 そのドアには何かを貼って剥がした跡があるが、これは御札の跡。
 まだ稲生が顕正会に入る前、妖狐の威吹を警戒していた時、魍魎退散の御札を神社で購入して貼り付けた跡なのだという。
 特に神道に傾倒していたわけではなく、“まんが日本昔ばなし”で、たまたま神主が魍魎を退治している話を見て思いついたのだそうだ。
 もっとも、そんなものは威吹に効くはずもなく、程なくして顕正会に入信したことで、謗法払いと称して剥がして処分することになった。
 その後は藤谷の折伏で顕正会を脱会し、日蓮正宗正証寺にて御受誡したものの、その後はイリーナへの弟子入りで退転状態となっている。

 マリアは稲生の部屋のドアをノックした。
 しかし、中から声は聞こえてこない。
「ユウタ?入るぞ?」
 それだけ言うと、マリアはドア開けた。
 特に、鍵は掛かっていない。
 その鍵も後付で取り付けられていた跡があるが、威吹をまだ信用していなかった頃に取り付けたものだという。
 但し、当然ながら高等妖怪である妖狐にそんなものは無意味だと分かり、程なくして取り外したという。
 中に入ると、稲生が着替え中……なワケなかった。
 もっとも、マリアにとって、今さら男の着替えとかどうでもいいのだが。
(まだ寝てる……)
 マリアは不審そうな顔をして、稲生の枕元に近づいて行った。
「ユウタ……?」
 マリアが声を掛けると、
「う……ああ……」
 稲生が目を開けた。
「あ……あれ……?」
「もう朝だぞ。朝食もできてる」
「ま、マリアさん!?」
 稲生は慌ててガバッと起きた。
「ど、どうしてここに!?」
「起きて来ないから起こしに来た。具合でも悪いのか?そうは見えないが」
「い、いえっ……!別に……。あ、あれ?スマホのアラームが……」
「とにかく、2度寝はしないで下に降りてきて」
「は、はい。すいません」

[同日08:00.天候:晴 同場所・稲生の部屋 稲生]

 稲生は出発前に、ノートPCのキーボードを叩いていた。
『ここでキカイと心中する気か、バカ!』
「!?」
 稲生の頭の中に、女性の声で叱咤されるシーンがフラッシュバックのように訪れる。
 もちろん、稲生の記憶には無いものだ。
 強いて言うなら、夢の中の出来事。
 訳の分からない夢を見ていて、その後でマリアに起こされた。
(これは一体……)
 その時、部屋のドアがノックされた。
「はい?」
「ユウタ。今いいか?」
「あ、マリアさん。どうぞどうぞ」
「お母様がタクシーを予約してくれた。それで大宮駅に向かえと……」
「分かりました」
「……さっきは変な夢を見て目が覚めた。そうだな?」
「ええ、まあ……」
「それは、未来を予知したものではなかったか?」
「未来予知……予知夢ですか?」
「そう」
「どうなんですかねぇ……。たまに、変な夢を見て目が覚めることはありますよ?」
「ユウタは魔道師の資質がある。それまでも予知夢を見ていたかもしれない」
「そうですかねぇ……」
「どんな夢だった?」
「どんな夢って……。えーと……僕が何かパソコンをやってて……そしたら、何だか爆発みたいなのが起きて……。で、後ろにいた女性に早く避難するように言われて……で、そんなところです」
「その女は誰だった?」
「それが分かりません。夢の中の僕は振り返ろうともせず、パソコンに向かってたみたいで……。ただ、気の強そうな女性という印象でした。……ので、マリアさんではないです。声も違ったし」
「そうかな。魔道師には往々にして、気の強いヤツは結構いるぞ?」
「えっ!?」
 稲生が驚いてみると、それまで無表情だったマリアは少し微笑を浮かべた。
「まあ、分かった。パソコンが登場している時点で、人間界で起きた可能性が高いな……。爆発って、どこで?」
「さあ……?ただ、かなり近い所だったと思いますが」
(ユウタの予知夢、当たるのか?)
 マリアは眉を潜めた。
 この段階では、まだ何とも判断はつかなかった。

[同日09:00.天候:晴 JR大宮駅埼京線ホーム 稲生&マリア]

〔この電車は埼京線、各駅停車、新木場行きです〕

 タクシーで大宮駅に乗り付けた2人は、その足で埼京線ホームに下りた。
 朝ラッシュのピークは過ぎているとはいえ、その余波が残る駅構内はごった返していた。
 その中を稲生がマリアをエスコートして、何とか埼京線ホームまで下りた。
 女性専用車は、稲生達が乗った電車から終了である。
 なので、先頭車に一緒に乗ることはできるのだが……。
「ユウタが見た変な夢なんだけどね……」
 マリアが話し掛けた。
「はい」
「ユウタが少し危険な目に遭う夢かもしれない」
「そうなんですか?」
「一応戻ったら、師匠に相談してみよう」
「分かりました」

 埼京線各駅停車は信号の開通が遅かったせいか、2分遅れで大宮駅を発車した。
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3日ぶり 帰った埼玉 ちょっと寒い アロハシャツでは やはり風邪かも

2016-01-13 21:55:32 | リアル旅行記
 先ほど帰宅したところである。
 さいたま市も寒いことは寒いのだが、北海道から帰って来たばかりの身となれば、さほどでも無いように思えた。

 3日目も私は温泉で過ごすことに決めていた。
 朝は少し遅めの8時に起きて、ホテルのレストランでバイキング形式のモーニングを取る。
 外国人には、朝からバイキングの日本のホテルの習慣もまたカルチャーショックなのだそうだ。
 では早速、小説で使わせて頂きましょう。
 ……って、多分もうイリーナやマリアンナは知ってるか。

 チェックアウト時に外線電話代をフロントから請求された。
 ノートPCについては前払いなのでもういいのだが、電話代に関しては、あれだ。
 私がスマホを紛失した時、バス会社などに掛けた際のものだ。
 NTTドコモはフリーダイヤルなのでいいが、新千歳空港や北海道中央バスにあってはフリーダイヤルではないので、そこに問い合わせた際に発生した料金だろう。
 何しろケータイが無いので、部屋の電話から掛けるしか無かったのだ。

 90円。

 それでも領収証を出してもらう。
 いや、別に会社に請求するとかそういうことじゃなくて、自分への戒めの為。
 ホテルからすすきの駅に向かい、またメチャ混みの地下鉄南北線に乗り込んで札幌駅に向かう。
 南北線の朝ラッシュの混み具合に関しては、首都圏並みと言えよう。
 南北線だけなら黒字経営というのも頷ける。
 他の路線も健闘しているようで、札幌市地下鉄の売り上げはまあまあらしい。

 JRの駅に移動して、早速ホームに上がる。
 北海道イチのターミナル駅であるが、東京駅よりもやかましいのは、ディーゼル列車もまた発着しているからだろう。
 現に、私が電車を待っている間、キハ183系が帯広に向かって発車していった。
 私が乗った快速“エアポート”は721系。
 そこの4号車、指定席uシート車に乗る。
 座席の色合いが旧式のブルーとレッドだったので、私が乗った車両は初期車だったようだ。
 座席は首都圏の普通列車グリーン車よりも広い。
 乗車時間は40分も無いが、快適に過ごすならお勧めである。
 普通車自由席の方は、立ち席になるほどの賑わいだったようだ。
 JR北海道の中で、千歳線や快速“エアポート”号は稼ぎ頭なのである。
 千歳線は本来、南千歳駅から苫小牧へ向かう方が本線なのだが、新千歳空港へ向かう支線の方が賑わっているという皮肉。

 新千歳空港には2分遅れで到着。
 これは札幌発がそもそも2分遅れた為。
 回復運転はしなかったもようだ。
 ディーゼルカーが全焼した事故をやらかしたことでトラウマになったのか、最高速度を130キロから120キロに引き下げたが、回復運転すらもしなくなったのはちょっと……と思うが。
 役員が入水自殺するような鉄道会社だからねぇ……。
 その新千歳空港駅なのだが、電車が到着するとエスカレーター付近はカオスな状態になる。
 その先も人混みになることが多く、それを嫌ってバスでアクセスする利用者もいるという。
 バスなら1台辺りの客数もたかが知れているし、バスターミナルも広いからだ。
 それで、今でもバスは人気があるのか。
 仙台空港では、鉄道が全て公共交通機関の利用客を独占してしまったため、リムジンバスは全滅してしまったのだが。

 そんなことを考えながら、まずは流行る気持ちを押さえ、上司や職場の同僚、そして実家への土産を物色する。
 酒好きの隊長と支隊長……もとい、副隊長には空港限定の日本酒の瓶でも買って行こう。
 何か、酒造メーカーから派遣されてきたと思われるスタッフが、自分の所の酒をやけにPRしてきたので、それに負けて……いや、従って購入した。
 居合道に凝っていて、尚且つ愛国精神により、靖国神社参拝を欠かさず行う副隊長には『国士無双』でいいだろう。
 名前で土産を送る相手を選ぶw
 デカい美女とゴリマッチョが好きなバイセクシャルの隊長には、『男山』でいいかな。
 男山と書いて、『ゴリマッチョ』と呼ぶ。……な、ワケないか。
 本人が身長180センチ近くもあるもんだから、男もそれくらいガタイの良いマッチョか、女ならやはり身長170センチ以上キボンだそうだ。
 私の小説に出てくるマルチタイプのエミリーとシンディなら、175センチくらいあるんだがな。
 あと、イリーナも。
 どちらも人造人間と魔導師と、生粋の人間ではありませんがw
 作者より12センチも高い女性キャラが登場する私の作品でした。

 実家用の土産は佐川急便で送る。
 あとは私の帰りのバッグに無理やり詰め込んだ。
 その足で、今度は空港4Fへ。
 初音ミクの展示ブースとグッズ売り場が、どうも常設化されたらしい。
 私は早速足を運んだが、意外と腐女子……じゃなかった。女性ファンもいて、ボカロの人気は男女不問であることを伺わせた。
 実際、ボカロのコスプレだって女性が多いわけだし。
 ボカロのプロデュースなんて、それこそ男女不問なわけだからね。
 “アイドルマスター”とか“薄桜鬼”とかだと、どうしても性別が偏るけれども、ボカロはそうではないというのはいいことだと思う。
 そこで私は扇子とCDを購入した。
 これはもちろん、私自身への土産。
 これならかさばらない。
 ボーカロイドと言えば、初音ミク達を生み出したクリプトン。
 そしてそれの本社があるのが札幌市であるため、今では知らぬ者はいないとのこと。
 何しろ、札幌市電でもやってるくらいだからね。
 今回は乗れなかったけど。
 私の小説では普通に登場しているけど、クリプトンの公式発表で、商用目的でなければ、自由に二次創作に使って良いとのことだ。

 初音ミクの常設展示も堪能したことだし、あとは同じフロアにある温泉施設で過ごすことにする。
 北海道の温泉施設は小樽と札幌市内の2ヶ所行ってみたけど、今のところ、まだ新千歳空港のものを超えてはいない。
 今度また北海道に来たら、札幌市内の別のスパに行ってみようかと思っているけど、私の作品の中で2回も登場させてしまうくらい、本当に私のお気に入りだ。
 飛行機の時間までと言わず、本当に半日以上は過ごせるくらいの勢いだ。
 私の乾燥肌や、それによって頻発している皸の症状も温泉巡りをしたおかげで、割と良くなっているような気がする。
 北海道は冬でも、そんなに乾燥しないからというのもあるだろうが。
 飛行機の離発着の音を聞きながら、浸かる露天風呂も、まあいいもんだよ。

 私の作品においては、マリアンナがケンショーピンクによって脱糞させられたトイレは清掃中だった。
 ここで飛行機の時間まで過ごした後、メンバーと合流して出発ロビーに向かう。
 帰りもANAだが、行きと比べれば機内は空いていた。
 シートが少し新しいタイプだったせいなのか、行きと比べれば心なしか広かったように見える。
 昨年と比べれば往復ともに飛行機は快適だった。
 何しろダイヤ通りにフライトできて、揺れもそんなに無かったのだから。

 空港から自宅までのルートはリムジンバスだが、帰りの場合、私は少々特殊なルートを通る。
 私と同じ寮の人が同行を申し出て来たので、私は快諾した。
 国際線ターミナルに向かって、そこから乗るというルートには戸惑ってくれましたがw
 リムジンバスは国際線ターミナルが始発である。
 で、ターミナル間無料連絡バスに乗れば、タダで移動でき、しかもどのターミナルから乗っても運賃は同じである。
 途中の首都高では少々渋滞にハマったりもしたが、それでもダイヤ通りに着けた。
 バスルートで楽に帰れた同行者は、
「ユタさんと一緒に帰って良かった」
 と、喜んでくれた。
 なに、大したことではない。
 ほとんど私の趣味だから。

 それにしても、あっという間の旅行だった。
 あっという間ということは、それだけ充実した過ごし方をしたということなのだが、贅沢を言えばもう一泊したかったというのはある。
 今回はホテルが1人につき一人部屋ということもあったので、気を使わずに済んだというのもあるだろう。
 勤行についても、1人部屋のおかげで私は何の気兼ねもせず、遥拝できたというのも大きいな。
 スマホを紛失したというのは罰かと思ったが、無事に見つかったことで、罪障消滅であったことが分かって良かったしね。
 終わり良ければ全て良しとも言うし、正にそれで終われたことも良かったのではないかと思う。

 来年もまた飛行機で旅行する機会があれば、是非とも参加したい。
 年に1度はパーッと旅行に行きたいというのは、けして不良信心ではないはずだ。
 顕正会的には不良信心だけどね。
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“大魔道師の弟子” 「マリアンナの見た夢」

2016-01-12 22:37:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月5日21:15.天候:晴 東名高速上り線(用賀パーキング) 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、藤谷春人]

 用賀パーキングの休憩棟は4階建てになっている。
 ここには降車専用のバス停があり、ここで降りた乗客も休憩棟の中に入ることになる。
 入ってすぐにエレベーターと階段があるので、どちらでも降りて良い。
 大きな荷物を持った高速バスの乗客は、エレベーターを使うことが多いようだ。
 エレベーターは2階には止まらず、すぐ下の3階か、1階まで降りる。
 稲生達のような車の休憩者は、1階に下りることはないだろう。
 尚、エレベーターの横には多目的トイレもある。
 本当の休憩スペースは3階。

  

 有人対応の店舗は存在しないが、自販機コーナーはある。
「マリア先生、大丈夫か?飯は食っていたのに、あんまり気分が良くなさそうだな?」
「さっきまでは良かったんですが、どうしたんでしょうねぇ……」
「まあ、いいや。俺は上にいるからさ、稲生君はマリア先生を見ててな」
「ええ」
 藤谷がタバコを吸うのに、また階段を上がっていった。

「…………」
 女子トイレの個室に入ったマリア。
 別に用を足すとか、そういうことじゃなくて……。
(どうしよう……。私、死んじゃう……)
 マリアは予知夢を見ていた。
 それは自分が死ぬ夢だった。
 今さら死ぬこと自体は怖くない。
 復讐劇で多くのスクールメイトを悪魔の手を使って手に掛けてきたわけだから、人間としての人生は終了させた。
 それでも罪が許されないというのなら、それも仕方が無い。
 だが、今は心残りがあった。
 今度こそ本当に一人前になって、魔道師としての人生を再スタートさせたことに対する期待、そして何より、稲生のこと……。
「師匠……」
 マリアはローブから水晶球を出して、イリーナに相談した。
 するとイリーナの回答は、
「一人前になったあなたが見た夢だから、それまでとは格段に的中率が高くなっているはずよ」
 とのこと。
 だが、
「大事なことだから、もっと落ち着ける所で話しましょう。大丈夫。いくら的中するかもといったって、普通は今日、明日に起きることではないから」
 と。
「今夜はユウタ君ちに泊まるんでしょう?その時、もう1度アタシに連絡ちょうだい」
 で、ここでの話は終わった。
 さすがに今日中の帰宅は大変だということをイリーナも理解してくれて、修行の再開は明日からにしてくれるそうだ。

「あ、どうでした、マリアさん?」
 トイレの前で稲生が待っていた。
「ああ。まあ、大丈夫」
「本当ですか?」
「完璧ではないが、まあ少しは良くなった。ユウタの家に泊まらせてもらうということで、少し緊張していたかも」
「別に、大丈夫ですよ。マリアさんのことを家に話したら、特に変なことは言ってませんでしたから」
「そうか」

[同日22:00.天候:晴 首都高速3号線 稲生、マリア、藤谷]

 事故の後の復旧に1時間は掛かった。
 ようやく通行止めは解除になったが、しばらくの間、稲生達は渋滞の中を進まなければならなかった。
「班長、すいません。用賀駅から近かったんですから、僕達、そこから電車に乗り継いでも良かったですね」
 稲生は申し訳無さそうに言った。
「なに言ってるんだい。水臭いこと言うなよ。これまでの付き合いじゃないか」
 藤谷はハンドルを握りながら笑った。
 ようやく渋滞ポイントを抜けて、アクセルを踏み込む。
「マリア先生も、お元気になって良かったっス」
「まあな」
 マリアはまだ顔色が悪い状態ながらも、大きく頷いた。
 尚、マリアが固い言葉遣いをしているのは、何も魔道師だからではない。
 これもまた、人間時代に受けた性暴力の後遺症によるものだ。
 だからイリーナの前では敬語ではあるものの、もう少し女言葉に近いし、気心知れたエレーナなどの若い魔女達とはもっと柔らかい言葉を使っている。
 どうしても、男性の前ではそうなるということだ。
 その中で1番信用している稲生の前であっても。
「藤谷氏」
「何ですか?」
「遅れを取り戻すのは結構だが、くれぐれも安全は軽視するなよ?私の魔法でも面倒見切れないぞ?」
「分かってますよ。ちゃんと自分の運転技量と、相談してますよ」
「一人前のマリアさんはどんな大事故でも大丈夫ですが、僕はまだロクに魔法も使えないんですよ。多分、今現在のマリアさんは自分自身の身を守るのに精一杯だと思うので、とても僕までは守りきれない。でも僕は、まだ自分の身も守れない。だからですよ、班長?」
「分かってるって。俺も、命あっての物種だと思ってる。ちゃんと安全運転するさ。マリア先生、この車にいる限りにおいては、アッシが稲生君を守りますんで、安心してください」
「あ、ああ……」
 マリアは俯き加減に頷いた。
(そうじゃない……。そうじゃないんだ……)
 マリアは両膝に置いた拳をギュッと握った。

 稲生達は夜の首都高を一路、埼玉へと飛ばして行く。
コメント (2)
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