報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「冬のペンション殺人事件」 大団円

2017-12-21 19:36:33 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月10日14:00.天候:曇 ペンション“ドッグ・アイ”]

 安沢:「主犯は愛原、共犯は高橋だ!」
 桂山:「ほ、ホンマかいな!?」
 男子大学生A:「すっげー!リアルコナンじゃん!?寝てねーけど」
 高橋:「てめぇ、いい加減なこと言うな!!」

 高橋は立ち上がって、安沢氏の胸倉を掴んだ。

 高橋:「ぶっ殺す!!」
 愛原:「皆さん、聞きましたか!?助手とはいえ探偵ともあろう者が、このように軽々しく『ぶっ殺す』なんて言うんですよ?犯人以外の何者でもないでしょう!」
 愛原:「は、犯人はヤス!」
 高野:「は?」
 大沢:「あ、あの……ちょっとよろしいでしょうか?」

 大沢氏が手を挙げた。

 大沢:「この図面、私は見たことが無いんですが……?」

 と、意外なことを言った。

 桂山:「お、おいおい、大沢君?キミはこのペンションのオーナーやろ?ダクトの図面くらい見とらんのかい?」
 大沢:「いえ、見ていますよ。でもこれは、私の見覚えのある図面ではありません」
 安沢:「な、何言ってるんですか、オーナー?さっき私にこの図面を渡したじゃありませんか?」
 大沢:「確かにお渡ししましたが、この図面ではありませんよ?」
 高橋:「おい、安沢!キサマ、どういうことだ!?」
 安沢:「オーナー、それはひどい!どういうことですか!?」
 大沢:「どういうことも何も、私はそんな図面をお渡ししてませんって」

 これは一体、どういうことなんだ?

 愛原:「あ、あの……」
 安沢:「殺人犯は黙ってろ!!」
 高橋:「キサマが黙れ!」
 桂山:「ええからええから。容疑者にも弁明があるやろ。言わせてやりぃや」
 愛原:「オーナーがお渡しした図面と、今ここで安沢氏が開いた図面は違うんですか?」
 大沢:「そうなんです」
 愛原:「どこが違うと?」
 大沢:「先ほどご説明した通り、乾燥室のダクトは今現在、205号室のの中を抜けています。そして、201号室と205号室は繋がっていません」
 安沢:「じゃあ、この図面は何なんだ!?」
 大沢:「それはこれから行う改築の図面ではないでしょうか?205号室にあのダクトが通っていると見栄えが悪く、騒音の苦情の元になるので、業者に対応してもらうことにしたんですよ。このスキーシーズンが終わったらね」
 安沢:「でも201号室と205号室が……」
 高野:「ねぇ、これってエアコンのダクトのヤツでしょ?何も201号室だけでなく、全部の部屋と繋がってるよ?」
 安沢:「それは……その……」
 高橋:「けっ、お粗末な探偵め」
 安沢:「だが実際、ハンドガンの射撃の腕前からして、あんた達が疑い深いんだ」
 桂山:「外から誰か進入しよったっちゅう可能性は無いんか?」
 愛原:「皆さん、部屋の窓は開けなかったでしょう?鍵も掛けてましたよね?」
 桂山:「そらもう、外は極寒の世界やさかい」
 女子大生A:「あ、でも、ウチら、暖房効き過ぎて、ちょっと開けたかも」
 愛原:「なにっ!?」
 安沢:「何でそんな肝心なこと言わなかったんだ!?」
 男子大生B:「でも、すぐに寒くなったんで閉めましたよ。もちろん、誰か入って来たことはないッス」
 女子大生B:「自分達いるのに、そこで誰か飛び込んで来たら大騒ぎだもんねぇ」
 愛原:「それもそうだな。私の推理では、犯人は安沢さんなんですよ」
 桂山:「なにっ!?」
 安沢:「こらぁ!罪をなすり付ける気か!?」
 愛原:「さっきの銃の腕前の件についてですが、安沢さんはどうなのか聞いてませんよ?」
 安沢:「……わ、私は銃は玩具以外持ったことは無い」
 愛原:「そのオモチャの銃はベレッタでしたか?」
 安沢:「そんなの覚えてないよ」
 愛原:「スーツの男性……田中一郎さんが持っていた銃は何でしたか?」
 安沢:「ベレッタだろ?」
 愛原:「どうして、ベレッタだって分かるんですか?」
 安沢:「それは……。!」

 その時、安沢氏は自分が重大なミスを犯したことに気付いたようだ。

 安沢:「さっき部屋を調べさせてもらって、その時に確認したんだ」
 愛原:「警察の捜査に支障が無い程度ですから、そんなにマジマジとは見れませんよね?それで分かった?」
 安沢:「わ、分かったよ」
 愛原:「銃は玩具しか持ったことがなく、それもどんな銃を持ったのかも分からないようなあなたが?」
 安沢:「な、何が言いたい!?」
 愛原:「あのベレッタ、奇妙な持ち方をしてるんですよ」
 安沢:「奇妙な持ち方?」
 愛原:「左手に持っていたんです」
 安沢:「だから何だ?私は昨日の夕食の時に見ていたが、田中氏は左利きだった」
 大沢:「私もチェックインの手続きに立ち会わせて頂きましたが、確かに田中様は左手でボールペンを持っていました」
 愛原:「それだとおかしいんですよ。もし田中氏が自分で銃を調達できるような立場にある人間だとしたら、利き手がどちらであれ、銃は必ず右手で構えることを知ってるはずなんです」
 桂山:「! そ、そうか!確かに、洋画のアクションなんかでも、左利きの人物やのに、必ず銃は右手で引き金引いとるな!?」
 安沢:「自殺する人間が、そんなこといちいち考えるものか!だいいち、あの銃が田中氏のものかも怪しいぞ!」
 愛原:「と、言いますと?」
 安沢:「爺さんのヤツかもしれないじゃないか。それで田中氏が銃を奪い、咄嗟に利き手の左手で撃ったということも考えられる!」
 愛原:「ええ。河童さんを射殺する際は、それでいいかもしれません。ですが、自分で死ぬ時は?」
 安沢:「どうせ死ぬんだ。いちいち右手に持ち替えることもあるまい」
 愛原:「そうですね。それもあるかもしれません。でも田中氏の場合、そもそも拳銃自殺ができないんですよ」
 大沢:「どういうことですか?」

 私はソファの下に隠していたショットガンを取り出した。
 一応念の為、弾は全部出しておく。

 桂山:「手際いいな〜」
 愛原:「これでも霧生市のバイオハザードを生還したもので。高橋君、これで自殺のフリをしてくれないか?」
 高橋:「は、はい」
 愛原:「大丈夫。弾は全部抜いたから」

 高橋は最初、自分のこめかみに銃口を当てた。
 だが、その後で首に向けたりする。

 高橋:「先生!ショットガンじゃ、筒が長くて無理です!」
 愛原:「だろうね」
 安沢:「何をやってるんだ?」
 愛原:「まだ分からないのかい?サイレンサーが付いたままじゃ、長過ぎて引き金を引けないんだよ!」
 安沢:「!!!」
 愛原:「因みに今、高橋にやってもらったのは、あのベレッタにサイレンサーを付けると、このショットガン並みの長さになるんですよ。もし田中氏が河童氏を射殺した後、自分も自殺しようとしたならば、サイレンサーを外さないとダメなんだ。しかも、あの死体、普通にこめかみを撃ってたし」
 大沢:「こめかみを撃てば、死ぬだろ?」
 愛原:「いいえ。あのベレッタでは死にません」
 大沢:「はあ!?」
 桂山:「何やて!?」
 愛原:「霧生市のバイオハザードに巻き込まれた時、私達はゾンビの頭を狙いました。だけど、当たっているのに何故か奴らは倒れてくれなかったんです。ゾンビだからと言ってしまえばそれまでですが、途中まで同行してくれた刑事さんが教えてくれましたよ。『脳幹を攻撃しなければ、頭だけ攻撃しても奴らは死なない。それは生きてる人間と同じだ』ってね」
 高野:「そうよ!だから私達、最後の方は首とか心臓とかを攻撃したんだった!頭を吹き飛ばすより、大量出血させた方が倒すの楽だったもんね!」
 愛原:「こめかみを撃っても脳幹は傷つかないんです。それでも死ぬことがあるのは、それによる大量出血だったり、そもそも銃の威力が強くて頭自体が吹き飛ぶからなんです。ハンドガンだったら、マグナム辺りね。もし本当に死にたいんだったら、銃口を口に入れて、口の中に向かって撃つんです。だけどあの状態だと、銃身が長くて撃てないんですよ。1人じゃ」
 桂山:「それでどうして、安沢君が犯人やと思うんや?」
 愛原:「私達ですらよく調べなかったら分からなかった田中氏の銃がベレッタだと1番先に分かったのは、安沢さん、あなただった」
 安沢:「あ、あれは……」
 愛原:「ジョージが吠えまくったのに部屋から出てこなかったのも、ジョージには犯行後部屋から出てくる所を見られて、『犯人はヤス!』とでも吠えられるのが嫌だったからでしょう?」
 安沢:「い、言い掛かりだ」
 愛原:「オーナー、ジョージをここへ連れて来てもらえませんか?もしかしたら、返り血の臭いや火薬の匂いが染み付いたのをジョージが教えてくれるかもしれない」
 安沢:「そ、そんなことはない!あの時、血の付いた服は……。!!!」

 安沢氏は、どうやら探偵にも犯罪者にも向いていないようだ。
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“私立探偵 愛原学” 真犯人は……?

2017-12-21 10:19:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月10日12:00.天候:雪 ペンション“ドッグ・アイ”]

 大沢敏子:「あの、お客様方、もしよろしかったら、昼食を用意したのでどうぞ」
 高野芽衣子:「えっ?いいんですか?」
 敏子:「はい。雪で御出発できないのは仕方が無いですし……」
 高野:「ありがとうございます。……さて、センセー達を呼んでこよう」

 食堂からは魚の匂いが漂って来る。
 それで私は、昼食の時間がやってきたと気付いた。

 高橋正義:「先生、乾燥室にスキー用具を置いているのは、あの大学生の連中だけです」
 愛原学:「ありがとう。……社長達はスキーしに来たわけじゃないんですね」
 桂山社長:「大阪へ帰ったら、年末の追い込みや。その前に英気を養いに、大沢君のペンションで過ごす。これがここ数年のワシらの習慣でな」
 愛原:「もし今日、天気が良かったら、どうなさるおつもりだったんですか?」
 桂山夫人:「温泉巡りをする予定でした。このペンションを拠点にして、白馬の温泉を楽しむのが今回のプランでした」

 このペンションにも大浴場はあるが、お世辞にも広いわけではないし、しかも人工のものだ。
 天然温泉は、この近くにも湧いているらしい。
 但し、この猛吹雪では……おや?少し外が明るくなったような……?
 なるほど、天気予報通りだな。
 昼過ぎには雪が止んで、やっと太陽が顔を出すとのことだ。
 この時に通行止めになっている村道の除雪が行われ、やっと警察がここに来てくれるという寸法だ。

 愛原:「そうでしたか」
 桂山:「それより、何ぞええ匂いしよるなぁ……」
 高野:「先生!お昼ご飯ですって」
 愛原:「そうか。昼食代は別途かな」
 高野:「別にいいじゃない、それくらい」
 愛原:「それもそうだな」

 食堂に行くと、ペンションにしては珍しい和定食がテーブルの上に置かれていた。

 桂山:「大沢君、こないなとこで和食とはええ趣向やな?」
 大沢:「申し訳ありません。本当は賄い食の流用なんです。まさか、村道が通行止めになって、お客様方が出発できないということまでは滅多に無いものですから……」

 当の除雪車がスリップして事故るほどの猛吹雪だったらしい。
 中にいては、凄い吹雪だったとくらいにしか分からないものだが……。
 それで大事を取って、吹雪が止み次第、除雪作業を再開するとのこと。
 それが午後か。

 高野:「でも美味しそう。事務所の近所の居酒屋さんを思い出すね」
 愛原:「ああ、そうだな」

 私の事務所は小さな雑居ビルの中にある。
 その1階は居酒屋で、ランチもやっている。
 近所にはもう一軒居酒屋があり、そこのランチの定食も人気が高い。
 私は定食に箸をつけた。

 愛原:「ん?」

 何故か安沢氏がこっちを見ていた。
 何か用なのだろうか?

 高野:「最近は箸を左手に持っていても、何も言われなくなったよね」
 愛原:「大昔の話だろ、それ?俺が子供の頃に聞いた話だぞ?」
 高橋:「あ?」

 私達のテーブルで箸を左手に持っているのは高橋だけ。
 つまり、高橋は左利きだ。
 安沢氏は右利きかな?
 桂山夫妻は2人とも右利きのようだ。
 大学生グループは、半々といったところ。
 やっぱり全体的に、日本人は右利きが多いってことだな。

 愛原:「ん!?」
 高野:「なに?どうしたの?」
 高橋:「先生?」

 私はこの時、何かが浮かんだ。
 田中氏の死体の状況。
 そして、生前の田中氏の状況……。

 敏子:「お茶のお代わり、いかがですか?」
 愛原:「ああ、すいません。ほら、高橋君も」
 高橋:「俺は水がいい」
 高野:「もー!これはサービスなんだから、自分で取って来なさいよ」
 高橋:「なにっ!?」
 桂山:「ええよええよ。大沢君達、好きでやっとることや。な?」
 大沢:「そうです。気になさらないでください」
 愛原:「すいません」

 敏子さんは高橋にお冷やの入ったグラスを持って来た。
 で、代わりに空になった湯呑み茶碗を返す。
 ……うん、やっぱりだ。
 とはいえ、あの死体はおかしい。
 何故なら……。
 私は霧生市のバイオハザード事件での一幕を思い出した。
 高橋君が初めて銃を手にした時、警察官の高木氏は何と言っていたか……。
 私は立ち上がった。

 愛原:「あの、皆さん……。もし良かったら、昼食後、ここに残って頂けませんか?もしくはロビーの方に……」
 高橋:「先生、犯人が誰か分かったんですか!?」
 高野:「マジで!?」
 安沢:「それなら、私も犯人が分かった。私もそれを公表しよう」

 何だって!?
 あれ?もしかしたら私、推理間違えた???
 いや、だって、私の推理する犯人は……。

[同日13:00.天候:雪 ペンション“ドッグ・アイ”ロビー]

 外は吹雪が止み、小雪が舞う程度にまで天候が回復してきた。
 雲も薄くなり、外も更に明るくなっている。
 大沢氏の情報によると、ようやく除雪が再開されたそうだ。

 安沢:「まず205号室で死んでいるお2人は、心中ではなかったということです。れっきとした、第三者による殺人……」

 安沢氏が先に喋ると、ロビー内がざわついた。

 安沢:「愛原さん達が色々と調べていたようですが、私も改めて部屋の様子を伺いにいきました。もちろん、警察の捜査に支障を来さない程度にね」

 私はまずは黙って彼の話を聞いた。

 安沢:「死体は弾が2〜3発ほど撃ち込まれていたようでした。しかも、外した痕がありません。全て死体に命中しているんです。愛原さん、霧生市のバイオハザードを生き抜いたあなたなら分かりますね?それが何を意味しているのか」
 愛原:「銃を撃った犯人は、相当射撃の腕前がある人間ということだ。俺も高橋も、最初は全くゾンビに弾が当たらなかったからな」

 撃っていくうちに、何とかコツを掴んだといった感じだ。

 安沢:「皆さんの中で、射撃に自身のある方はいらっしゃいますか?」

 すると、大沢氏も手を挙げた。

 大沢:「シーズオフの時、地元の猟友会に参加して活動することはありますが……」

 それでこのペンションには、大沢氏所有の猟銃が置いてあるのだ。

 安沢:「撃ったことあるのは、ショットガンとライフルだけですか?」
 愛原:「そうです」
 安沢:「すると、ハンドガンは撃ったことがない?」
 大沢:「ええ」
 安沢:「ゲームとかだと、初期装備がハンドガンで、その次がショットガン、後半でライフルを手に入れるのがベタな法則ですね。確かに威力的にはそうなんですが、実はハンドガンの方が扱いにくいんですよ。愛原さん、それは分かりますね?」
 愛原:「ええ、まあ……」

 ハンドガンに慣れた後ということもあるだろう。
 その次に手に入れたショットガンは、意外にも扱いやすかった記憶がある。

 安沢:「なのに205号室の人達は、その扱いにくいハンドガンで一発も外さず撃ち殺されたのですよ。そして、室内は密室トリックだった……ように見せかけて、実は密室ではなかったんです。205号室には、乾燥室からのエアーダクトが構造上通っています。しかしその金網は、何故かネジが全部外され、ダクト内から接着剤で固定されていたのですよ」
 桂山:「つまり、犯人はダクトの中を通って、あのスーツの男と爺さんを殺したっちゅうことか?」
 安沢:「そうです。その入口はどこにあるのか?」
 愛原:「乾燥室だろ?乾燥室からのエアーダクトだって言ってるんだから。俺も乾燥室から、そのダクトへの侵入は可能だということを確認した」
 安沢:「ふっふっふ……!愛原、敗れたり!!」
 愛原:「なに!?」
 安沢:「あの乾燥室のダクトは、205号室の中なんて通っていなかったんだよ!」
 愛原:「な、何だってー!?」
 安沢:「この図面を見たまえ!」

 安沢氏はテーブルの上に図面を置いた。
 それは、このペンションのダクトがどう通っているかの図面だった。

 安沢:「これが乾燥室からのダクト。だが、見てみろ。実際は205号室と203号室の間を通り抜けて、外に排気されるようになっている」
 桂山:「と、ということは?」
 安沢:「では、205号室にあったあのダクトは何なのか?どこに通じているのか?それを私は発見しました」
 愛原:「何なんだ?」
 安沢:「何なんだとはトボけてるな?あんたの部屋、暖房入れたままか?」
 愛原:「ああ」
 安沢:「205号室の暖房を切ったのに、何故かあのダクトからはまだ風の音がしたんだよな?」
 愛原:「そうだ」
 安沢:「違うよ。あれはあんたの部屋の暖房の風だよ。この図面を見ろ。もう1つ、ダクトが書いてあるだろ?それはどこに繋がってると思う?……201号室だ。201号室は誰が泊まってる?」

 私達だ……。

 安沢:「あの霧生市のバイオハザードで拳銃の扱いに長け、かつ密室状態を人工的に作り出せる者はただ2人。つまり、ここにいる愛原学と高橋正義が犯人だ!!」

 た、大変だ!このままでは私達が犯人にされてしまう!

 1:「そ、そうです。私達が犯人です」
 2:「あれは高橋君のやったことで!」
 3:急いで外へ逃亡する。
 4:「犯人はヤス!」
 5:ソファの下の猟銃を乱射する。
 6:大沢さん、助けてーっ!
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“私立探偵 愛原学” 「冬のペンション殺人事件」 真犯人に迫る

2017-12-19 10:18:01 | 私立探偵 愛原学シリーズ
 ※前回の記事で、タイトルに「冬のペンション殺人事件」が抜けていたので修正しました。

[12月10日11:00.天候:雪 ペンション“ドッグ・アイ”]

 私と大沢氏、そして高橋君が再び205号室にやってきた。
 部屋の構造は他の部屋とほぼ同じだが、205号室は何故か他の部屋と構造が少し違うらしい。
 そう言えば先ほど突入した時、何か違和感があったんだよなぁ。

 大沢:「この部屋の下には、乾燥室からのエアダクトが通っているんです。それで申し訳無いのですが、少し部屋の形が歪んでおりまして……」
 愛原:「なるほど……」

 部屋の中に入ると、再び血のむせ返る臭いが私達を襲った。

 大沢:「暖房のスイッチはそこを左に曲がった所です」
 愛原:「分かりました」

 私と高橋は長靴をはいて、血の海の中に入っていった。
 もう既に血は固まっているように見えた。
 そして、どうしても死体に目が行ってしまう。
 部屋の中は照明が消されており、また、カーテンも閉まっていた。
 なので部屋は薄暗い。
 高橋が持っているマグライトで、部屋の中を照らして行く。

 愛原:「これだな」

 私はエアコンのスイッチを見つけた。
 集中式である為、部屋の中には風の強さだけを調節するダイヤルしか無い。
 今は『M』になっていた。
 つまり、Middleで中だな。
 私は指紋を付けないよう、手袋をはめてダイヤルを『OFF』にした。
 すると室内の排気音が消えた。
 それでも微かにそれが聞こえるのは、エアーダクトからの音だろう。
 スキー客目当てのペンションということもあり、通常の玄関とは別にスキー用具を乾燥させる乾燥室がある。
 スキー客はそこで濡れたスキー用具を置いて、それから中に入るのである。
 そうすれば、中が濡れることはない。
 若者グループなど、スキーやスノボに来た客達がいるので、今も乾燥室の乾燥機は稼働しているのだろう。

 愛原:「これでよしっと」
 高橋:「霧生市の時は、こういう死体隠しのアイテムなんかを取ったものですね、先生?」

 高橋は死体を覗き込んでいた。
 霧生市では歩く死体が生きている人間を襲う地獄絵図であり、通常の死体がホッとするような所だった。

 愛原:「ああ、そうだな。だけど、今はダメだ。何でも特例が認められた霧生市の時と違って、これは通常の殺人事件だ。警察の捜査の支障に来すようなことをしたらマズい。触るんじゃないぞ」
 高橋:「分かってますよ」

 本来、私達が霧生市で行ってきたことは刑法に抵触した部分も数々ある。
 銃刀法違反に死体損壊罪、住居または建造物侵入……霧生電鉄のあれは鉄道営業法にも違反してたかな?
 でも全部、霧生市のバイオハザードを生き残った人達に対しては、政府官房長官が全て『正当防衛』または『緊急避難』と見なすという声明を発表したっけ。
 ゾンビを撃ち殺したことに関しては、殺人罪になるのか、死体損壊罪になるのかの論争をワイドショーで取り上げていたな。
 『もう既に死んでいるのだから、死体損壊罪である。医学的にもゾンビは死体と見なされている』『いやいや、本来死体が歩くわけが無いんだから生きているものと見なし、殺人罪を適用するべきだ』
 なんて。

 高橋:「ベレッタかぁ……。懐かしいですね」
 愛原:「ああ、そうだな」

 高橋は田中氏の死体が持っている拳銃をライトで照らしていた。

 高橋:「いずれまた、俺がハンドガン二丁撃ちする機会がやってくるんですかね?」
 愛原:「そうなっては欲しくないな。ま、アンブレラも潰れたことだし、もう無いんじゃないか」

 私は肩を竦めた。
 そして、部屋を出ようとした。

 愛原:「ん?」
 高橋:「どうしました、先生?」
 愛原:「それ、ベレッタなのか?」
 高橋:「多分そうですよ。詳しくは実際に持ってみないと分かりませんが、俺が霧生市で使っていたものとよく似ています」
 愛原:「持ってみないと分からない?」
 高橋:「ええ。何しろ、こう薄暗くちゃ……。カーテン開けて、電気点けてもいいですか?」
 愛原:「あ、いや、それはダメだ」

 あれ?おかしいな。
 何であの人は、すぐにベレッタって分かったんだ?
 私達以上に銃器に詳しい人間なのか?
 もちろん私達だって、霧生市のバイオハザードに巻き込まれなければ、ベレッタがどうのマグナムがどうのなんて知らなかった。

 愛原:「とにかく戻ろう」
 高橋:「はい」

 私達は部屋の外に出ると、長靴からスリッパに履き替えた。

 愛原:「ミッション終了です」
 大沢:「ありがとうございます」
 愛原:「もしかしたら、乾燥室の乾燥機も止めた方がいいかもしれませんね。この部屋、乾燥機のダクトから風が漏れてるみたいなんで……」
 大沢:「あ、なるほど。かしこまり……」

 ガタン!

 愛原:「!?」
 大沢:「ひっ!?」
 高橋:「何だ!?」

 205号室の中で何か大きな音がした。
 何か、金属のようなものが落ちる音?あるいは、倒れる音?

 高橋:「まさかゾンビ化!?」
 愛原:「なわけ無いだろ!」

 私は再びドアを開けた。
 すると、中にあったのは……。

 愛原:「ダクトの金網か……」

 乾燥室のエアーダクトの金網だった。
 それがたまたま外れて落ちたのである。

 高橋:「おい、メンテが悪いぞ。この真下に人がいたらどうすんだ?」
 大沢:「も、申し訳ありません」

 そうだよな!
 確かに高橋の言う通り。
 い、いや、待てよ……。
 私はこの金網を調べてみた。
 普通はネジで止めているはずだ。
 だがそのネジが何故か無い上、内側には接着剤が塗ってあった。
 私がこれを大沢氏に聞いてみると、大沢氏は驚いていた。

 大沢:「ええっ!?そんなはずは……。ダクトの点検は、業者に行ってもらっているんです。先月に点検したばかりの時は、どこも異常無しでしたよ?」
 高橋:「先生、これはどういう……?」
 愛原:「この部屋、密室じゃなかったってことだよな?」

 これは単なる心中事件ではない。
 心中に見せかけた殺人事件なのだと私は確信した。
 そして……。

 愛原:「オーナー。ちょっと申し訳無いんですが、ここ1ヶ月……このダクトを点検してからの宿泊者名簿を見せてもらえませんか?高橋君は乾燥室に行って、誰があそこにスキー用具を置いているのか調べてくれ」
 高橋:「分かりました!」

 私の予想が正しければ、犯人はあの人だ。
 もちろん、本人が白状してくれれば、だけど。

 1:桂山社長(字は違うが、某有名サウンドノベルゲームでも犯人扱いされる描写あり)
 2:桂山夫人(上に同じ)
 3:大沢オーナー(経営者の立場を悪用して……?)
 4:大沢敏子(上に同じ)
 5:若者グループ(動機不明だが、河童に人生食い荒らされたか?)
 6:安沢(某有名推理ゲームより、「犯人はヤス!」)
 7:それ以外(アンブレラの生き残りか?)
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“私立探偵 愛原学” 「冬のペンション殺人事件」 殺人事件発生!

2017-12-17 21:14:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月10日10:00.天候:吹雪 ペンション“ドッグ・アイ”]

 チェックアウトの10時になったが、結局205号室に宿泊している2人の男性客は出てこなかった。
 そこでオーナーの大沢氏がスペアキーを持って、その部屋に向かうことにした。
 私と高橋君、そして安沢氏も付いてくる。

 高橋:「何でキサマが付いてくるんだ?」
 安沢:「付いて来てはいけないとでも?」
 愛原:「まあまあ、高橋君」

 他に付いて来たのは、このペンションで飼われているハスキー犬のジョージ。

 ジョージ:「ハッ、ハッ、ハッ!ウ、ワン!ワン!ワンッ!」
 安沢:「うん、やっぱりだ」

 ジョージは205号室の前でしきりに吠えた。

 愛原:「何かあったってことだな?」
 安沢:「素人の桂山さん達はしょうがないとして、一応はプロの探偵の端くれのあなたはいち早くこの事実に気がつかないといけなかったんだよ?」
 高橋:「あぁっ!?」
 安沢:「ジョージが何に対して吠えていたのかを。そして愛原さん、それはあなたも同じだ」
 愛原:「ううっ……」
 高橋:「そういうオマエはどうなんだ!?」
 安沢:「私が気づいて起きた時には、既にジョージはオーナーに連行されてたじゃないか」
 高橋:「けっ、グースカ寝てやがって!」
 安沢:「それはしょうがないだろう?人によって寝付きや寝起きの良し悪しは違うんだ。私は寝付きは良いが、寝起きは悪い人間でね。それは認めるよ。だが、どうしようもない」
 大沢:「あのー、そろそろよろしいでしょうか?」
 愛原:「あっ、そうですね。お願いします」

 大沢氏は205号室のドアをノックした。

 大沢:「すいません、田中様、河童(かわらべ)様。オーナーの大沢です。よろしいでしょうか?」

 だが、中からは何の応答も無い。

 大沢:「田中様!河童様!」

 今度は大きな声でノックも強めにしたが、やっぱり応答が無い。

 大沢:「しょうがない。では、開けてみます」
 高橋:「先生。下手すりゃ中でゾンビ化しているかもしれないのに、どうして銃を持っちゃいけないんですか?」
 大沢:「ゾンビ化してたら、むしろ向こうからドアをブチ破って出てくるだろうが」

 私は呆れて高橋に返した。

 大沢:「おや?あれ?」
 安沢:「どうしました?」
 大沢:「ドアが開かないんです。鍵は開いたのに……」

 大沢氏はドアノブを回してグッと押し込んだが、確かに開かない。
 このペンションの客室ドアは、部屋側に開く構造だ。
 だから、廊下側からだと押して開ける形になる。

 安沢:「何かに引っ掛かってるのかな?」
 高橋:「ちょっとどけ!」

 高橋は大沢氏を退かすと、代わりにドアを押した。
 高橋のような力自慢が押し込むと、確かにドアが少し動いた。
 だが、それだけだ。

 高橋:「うらァーッ!!」

 ついに高橋、ドアを蹴破った。
 バァンと大きな音と共に。
 そして、何かが倒れ込む音。

 大沢:「こ、これは……!?」
 愛原:「くっ……!」
 安沢:「ちっ、ヒドい臭いだ!」
 高橋:「死んでやがる……」

 ドアが開かなかったのは、あの河童の爺さんがドアの前に倒れていたからだった。
 高橋に蹴破られたことにより、血まみれの死体は更に血の海の中を転がることになった。

 ジョージ:「ワン!ワン!ウー、ワンワンッ!」
 安沢:「犬の嗅覚で、この血の臭いを感じ取ったんですね」
 大沢:「と、敏子!警察に電話しろ!お客様2人が……死んでると!」
 高橋:「先生!このグラサンオヤジ、拳銃持ってます」
 愛原:「高橋君、警察を呼ぶから現場保存だ。取りあえず、俺達は外に出よう」

 私も見た限りでは、河童の爺さんは田中という男に拳銃で撃たれ、そして田中もその後で自殺したように見えた。

 愛原:「銃声の音なんてしなかったぞ……?」
 高橋:「先生。あの拳銃、ただの拳銃じゃありません。サイレンサー(消音器)付きです」
 愛原:「サイレンサーだって?」

 正式名称はサウンド・サプレッサーと言い、現実には完全に銃の発射音を消すそれはまだ開発されていない。
 だが、外の猛吹雪による風の音やエアコンの排気音などで誤魔化せるかもしれない。
 だた、もしかしたら犬の耳には誤魔化せず、これもまたジョージがいの1番に駆け付けた理由かもしれない。

 敏子:「あなた、大変よ!」
 大沢:「何だ?」
 敏子:「この猛吹雪で道路が通行止めで、すぐには駆け付けられないって……」
 大沢:「ううっ……!」
 愛原:「そう来たか」
 高野:「やっぱり何かあったの?」
 愛原:「ああ。あの……皆さん、聞いて欲しいことが……」

 私は決断した。

 愛原:「私は東京で探偵事務所を経営している愛原学と申します。それで実は、先ほどオーナーと一緒に2階に行ったのは、皆さんも夕食の時にお見かけしたと思われる、スーツにサングラスの方と70代くらいの御老人が今朝になっても下りてこないので、様子を見に行ったのです」
 桂山:「それで、その2人はどないしたん?」
 愛原:「聞いて驚かないでください。……死んでました。それも、明らかに病死とか事故死などではなく、他殺です」
 男子大生A:「うわ、マジで!?」
 男子大生B:「金田一の出番じゃん!」
 男子大生A:「コナンはどうした?」
 女子大生A:「それ、本当ですか?」
 愛原:「ええ。実は早朝、そこにいるジョージが廊下で大騒ぎしていたのは、既にその時からあの2人は死んでいたと予想されます」
 女子大生B:「あ、あれ、外の狼が吠えてたんじゃないんだぁ……」
 桂山:「お嬢ちゃん、長野に狼おったっちゅうことが証明できれば、動物学会で発表できるで?」
 女子大生B:「そっかぁ……」
 桂山夫人:「それで、私達はどうしよったらええと仰いますの?」
 愛原:「オーナーの奥様が警察に通報してくれました。……ので、警察が到着するまで待つことになると思います。ただ……」

 私はオーナーを見た。
 大沢氏は頷いて、私の後に続いた。

 大沢:「確かに警察には通報できました。ただ、この猛吹雪でパトカーが動けず、最低でも天候が回復するまでは駆け付けられないということです」
 男子大生A:「吹雪、いつ止むんスか!?」
 安沢:「天気予報では、昼過ぎには落ち着くようです。ただ、その後で除雪しないとダメでしょうからね。実質的に警察が来れるのは……私の見立てでも夕方くらいではないかと……」
 女子大生A:「いやーだ!だって、この中に殺人犯がいるんでしょ!?」
 安沢:「それは多分、大丈夫かと。さっき見た感じでは、どうもあの2人、トラブルがあって殺し合った感じなんです。事実、スーツの男の方は手にベレッタを持っていました。それで老人を射殺した後、自分も自殺したようなんです」

 さすが安沢氏。
 私と同じ探偵なだけある。
 だが、私にはどうしても引っ掛かることがあった。
 確かにパッと見、安沢氏が説明した通りではある。
 銃声の音に気付かなかったのも、高橋君の言う通り、サイレンサーを使っていたからだと思われる。

 桂山:「確かにスーツのヤツ、どこぞのヤクザに見えたがな。おおかた、闇金の差し金とちゃうか?そんで金を返す返さへんの争いで、あないなことになりよったと」
 愛原:「でも大ゲンカになったのなら、その口論が聞こえても良さそうですけどね。どなたか、そんなのを聞いた方はいますか?」

 誰も手を挙げなかった。
 もちろん、私も高橋も高野君も聞いていない。
 むしろ、まるで205号室が無人の空き部屋かと思うくらいに静かだった。

 高野:「そもそもあの2人、どういう関係だったのかな?見た感じ、先生と同じ30代のスーツの男と70代の爺さんでしょう?」
 愛原:「親子か?いや……」

 仲の悪い親子がこういう所に来るとは思えないし、仮にそうだったとしても、何かしらの言葉くらいは交わすのではないか。
 そうでなくても、親子かどうかは雰囲気で分かるものだ。
 だが、あの2人からは親子という雰囲気すら無かった。
 赤の他人だ。
 それがどういうわけだか、このペンションに一緒に宿泊することになった。
 それの意味するところは?

 桂山:「あ、そうだ。大沢君」
 大沢:「何ですか?」
 桂山:「その……死体のある部屋なんやけど」
 大沢:「はい?」
 桂山:「あそこだけ暖房止めな」
 大沢:「えっ?……えっ?」
 桂山:「アホやな。こんな暖房ガンガンに効かせよったら、肉の塊やで?警察が来る前に腐りよるやがな」

 死体が腐る。
 私達は、正に腐った死体が我が物顔で歩き回っていた霧生市の惨事を思い出した。
 桂山社長の生々しい訴えは、若者グループを震え上がらせるのに十分だったようだ。
 女子大生達は顔を真っ青にし、AとBが抱き合うほどだった。

 大沢:「わ、分かりました。取りあえず、暖房をき……切って……」

 だがスイッチは、部屋の中にある。
 死体など生で見たことの無い大沢氏にとって、それはオーナーの義務とはいえ、とても過酷なものだった。
 だから、ここは私が引き受けたのである。
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“私立探偵 愛原学” 「冬のペンション殺人事件」 クローズド・サークル

2017-12-16 19:58:45 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月10日08:00.天候:冬 ペンション“ドッグ・アイ”1F食堂]

 敏子:「おはようございます。早朝は申し訳ありませんでした」
 愛原:「いえいえ……」

 私達は朝風呂を浴びると、それから食堂へ向かった。
 高野君がロビーにいたので、彼女を呼ぶ。

 高野:「ねぇ。外、大変なことになってるよ」
 愛原:「え?」

 外は一面銀世界だった。
 これのどこが大変なのだろう?

 男子大生A:「うわっ、雪ヤベェじゃん!」
 男子大生B:「ちょw 車埋まってんよwww」
 女子大生A:「雪かきからしないと出れねんじゃね?」

 若者グループはお気楽なものだったが、私も暢気だったか。

 高野:「いや、何て言うかさ……。このペンションに通じる一本道、ちゃんと除雪されてるかなぁ……って」
 愛原:「ああ、なるほど。村道とはいえ、公道だろ?ちゃんとしてくれるよ」
 高野:「……だといいんだけど……」

 だいたい皆、夕食と同じ席に座った。
 今度は名札は無い。
 席に座ると、朝食が運ばれて来た。

 愛原:「おっ、いいねぇ」

 ふわとろのオムレツにベーコンが目を引く。

 高野:「! ねぇ、先生。ケチャップいい?」
 愛原:「はいよ」
 高野:「ありがとう」
 高橋:「ケチャップくらい自分で取れよ」
 高野:「うるさいな」

 高野君はケチャップの蓋を開けると、それをオムレツに掛けた。
 ……自分のではなく、私のにだ。

 高野:「はい、完成
 愛原:「うおっ!?」
 高橋:「!」

 愛原君はケチャップで器用に、『愛原先生へ』と書いた。
 まるでメイドカフェのオムライスだな。

 愛原:「はは……ありがとう。そう言えば前に映画で、女版ターミネーターが主人のメイド役をやるヤツで、似たようなことをしていたな……」
 高橋:「ケチャップ、俺にも貸せ!」

 高橋は高野君からケチャップを引っ手繰った。
 そして……。

 高橋:「先生!俺のも食べてください!」

 高橋は器用に、『愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生【以下、無間ループ】』と細かく書いた。
 何て器用過ぎるヤツだ!……って!

 愛原:(怖っ!)
 高野:(ヤンデレ!?)
 高橋:「さあ、先生。食べてください。さあ!さあ!」
 愛原:「あ、うん。頂くよ……」

 食べないと、後で私が推理される側になってしまう。
 せっかくの美味しいオムレツが、何だか喉を通りにくかった。

 安沢:「おはようさん。おやおや?何だかメイドカフェみたいなことになってるじゃないの」
 愛原:「何とでも言ってくれ」
 安沢:「助手の方、もしかしてLGBTのGの方?今は差別がどうのこうのとかうるさいから気をつけた方がいいよ」
 高橋:「あ!?誰がGだ!」

 高橋は安沢氏にくって掛かった。
 だがまあ、こんなヤンデレ書法見られたら、疑われるのも無理は無い。

 高野:「気をつけないと、この小説のジャンルがBLにされちゃうからね」
 愛原:「それは困る!」
 安沢:「ほーらほら。大好きな先生様が困ってるよ?」
 高橋:「キサマ……!雪の下に埋めてやろうか?あ?」
 安沢:「そしたらこの事件の犯人はキミで決定だ。おめでとう!」
 高橋:「表へ出ろ!」
 愛原:「高橋君、やめないか!」
 高橋:「ですが先生!」
 愛原:「いいから!」

 そして私は安沢氏の前に出た。

 愛原:「高橋君が、からかいがいのある人間だということは認めるよ。だが、分を弁えてくれないか?」
 安沢:「……オーケー、オーケー!取りあえず今は、朝食を頂くとしよう」

 安沢氏は両手を振った。
 だが席に戻る時、こう言い放った。

 安沢:「バカなヤツだ。この状況を把握し切れていないとは……」
 愛原:「何だと?」

 そこへオーナーの大沢氏が自ら、コーヒーのお代わりを持って来てくれた。

 大沢:「愛原先生、おはようございます。先ほどはジョージが失礼しました。今、ゲージの中に入れて反省させてますので、どうか穏便に……」
 愛原:「私は構いませんよ」
 高野:「ゲージに閉じ込めちゃってるんですか?何か、かわいそう……」
 大沢:「お客様の安眠を妨害してしまう。宿泊業者として恥ずべきことですからね。ジョージはただの飼い犬ではありません。当ペンションのサイトでも、看板犬として紹介している以上、それを汚すようなことはあってはなりません」
 高橋:「チワワにでもしときゃいいんじゃないのか?」
 愛原:「高橋君」
 高野:「チワワでも吠える時は吠えるから……」
 高橋:「その時は俺のショットガンで軽〜く、あの世に送ってやるぜ」
 愛原:「全く……」

 チワワのような超小型犬で、動きも素早いヤツに弾が当たるかねぇ?
 尚、バイオハザードたけなわのあの町で、チワワやトイプードルのゾンビがいなかったのは、人間のゾンビに食い殺されたり、ドーベルマンやシェパードなどの大型犬ゾンビに食い殺されたり、或いはカラスに食い殺されたりしたからだとされている。
 尚、カラスがゾンビ化しなかったのは、カラスに限らず、鳥類はTウィルスに感染してもゾンビ化することは無く、その身体能力はそのままに凶暴性だけが増すという効果があるのだそうだ。

 安沢:「全く。お気楽な人達だな」
 愛原:「安沢さん……」
 高橋:「キサマ、先生にインネン付けんのか?」
 安沢:「あなたは黙っててくれ。愛原さん、この食堂からして何かおかしいことに気がつかないのか?」
 愛原:「え……?」

 私は周囲を見回した。
 特に何か構造が変わっている様子は無い。
 私達の他にいるのは、この安沢氏と、桂山夫妻、そして若者グループだ。
 オーナーの大沢夫妻は厨房とかにいるだろう。
 アルバイトのコ達は帰ったのかな。

 高橋:「先生。あの田中一郎ってヤツと、河童勝治って爺さんがいません」
 愛原:「あ、そうだ!」

 あまりにも影が薄かったので忘れていた。
 いや、存在感だけなら強かったかな。
 ただ、桂山氏とは風呂場で話す機会があったし、若者グループは常に賑やかなので目立つ。

 愛原:「まだ寝てるんじゃないのか?」
 安沢:「もう8時半だぜ?このペンションのチェックアウトは10時。そろそろ食べないと、時間無くなるぞ?」
 愛原:「うーむ……」

 と、そこへロビーから大沢氏が首を傾げながら入ってきた。

 愛原:「大沢さん、どうかしたんですか?」
 大沢:「ああ、いえ……。205号室の田中様方のお部屋に内線を入れてたんですが、全くお出にならないんですよ。朝食の時間ですので、モーニングコールってわけでもないんですが……」
 愛原:「直接起こしに行っては?」
 大沢:「そうですねぇ……。実は正直、チェックアウトの時間を無料で延長させて頂こうかと思っているんです」
 愛原:「どういうことですか?」
 安沢:「全く。お気楽な先生様だ。村道の一本道が今、雪で通行止めなんだよ。昨夜からの猛吹雪で、除雪が追い付かないんだと」
 大沢:「そうなんです。ですので……」
 安沢:「ゆっくり寝てて良かったってことさ」

 安沢氏は肩を竦めた。

 愛原:「でも一応、朝食が無駄になっちゃうから直接起こしに行くのはいいんじゃないですかね?後で文句言われるよりは……」
 大沢:「それもそうですね」
 愛原:「何でしたら、食べ終わったら一緒に行きますよ」
 大沢:「ああ、すいません。お手数お掛けします」

 私は焼きたてだったが、すっかり冷めてしまったパンにバターを塗った。
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