報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“戦う社長の物語” 「劇団ロイド再び」 2

2017-12-26 19:30:44 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月24日17:30.天候:晴 東京都豊島区某所 敷島エンター劇場]

 ナレーター:「突如として始まった悪魔と妖精のガチバトル!果たしてどうなるのでしょうか!?」
 魔法の妖精:「ここはボクに任せて先に行って!」
 マッチ売りの少女:「あなたを置いて先になんて行けない!」
 笠売りのお爺さん:「んだんだ!」
 妖精:「ありがとう。キミ達と一緒にいた時間……忘れないよ……」

 敷島俊介:「たった数秒だろ!」

 そして暗転。
 その際、悪魔役のKAITOと妖精役のMEIKOは速やかに舞台下手へと捌ける。

 お爺さん:「き、消えてしもた!?」
 少女:「そんな……!引き分け……?!」
 お爺さん:「こ、これからどうしたらいいんじゃ?」
 少女:「魔女っ娘の役目は、この汚れ切った世界を清めること。私に任せて」

 少女役の鏡音レン、悪魔が落として行った魔法のステッキを拾う。

 少女:「腐ったヤツ、どーこだ?」
 ナレーター:「何ということでしょう。少女の放った魔法が、近くの御屋敷へ痛烈ヒットしました。屋敷に点いた火は燃え上がり、瞬く間にクリスマスの夜空を焦がしていきます」
 少女:「あそこ!あそこに汚れの元凶が!」
 お爺さん:「相分かった!それでは向かうとしよう!」
 少女&お爺さん:「エッホエッホエッホエッホ!」

 少女とお爺さん、とある武家屋敷へと辿り着く。
 武家屋敷は既に火の手が上がっていた。

 大石内蔵助(巡音ルカ):「もしや、ここに火を放ったのはお主達か?」
 お爺さん:「だ、誰がこんなことを!?」

 敷島峰雄&俊介:「キミ達だよ」

 少女:「ごめんなさい。まさかこんなことになるとは思ってもみなかったの」
 大石:「そちが謝ることはない。おかげでこの火事に乗じ、吉良邸へと踏み込むことができた。協力、感謝する」
 少女:「何をしているの?」
 大石:「我が主君の仇、吉良上野介の首を討ち取りに来たのだ!」

 スラッと日本刀を抜く大石内蔵助役の巡音ルカ。

 俊介:「今度は忠臣蔵ネタかね!?」
 峰雄:「何でも詰め込めばいいというものではないぞ」
 孝夫:「はあ……。おかしいな。クリスマスならではのネタということなんで、私はつい“ダイ・ハード”ネタでも突っ込んでくるかなと思ったんですが……」
 俊介:「はあ!?」
 峰雄:「どこにブルース・ウィリスみたいな事のできるヤツが……」

 峰雄と俊介、ともに孝夫を見る。

 孝夫:「何ですか?私は車の屋根に乗ったまま爆発に巻き込まれるようなシーンは無理ですよ」
 峰雄:「ここにコイツがいるという時点で、“ダイ・ハード”ネタは無いよ」
 俊介:「そ、そうですな。でなかったら、今頃こいつは舞台に出てるはずです」
 孝夫:「だから、さっきから何をワケの分からないことを……」

 テロ用兵器ロボットの群れにバスで特攻し、ドクター・ウィリーの本拠地に突っ込んで行った男、敷島孝夫がここに。

 吉良上野介(初音ミク):「はーっはっはっはっはっは!」
 大石:「むっ、出たな!吉良!」
 吉良:「主君の仇討ちとは面白い!このまま返り討ちにしてくれようぞ!」
 大石:「我が殿の仇!覚悟!!」
 吉良:「食らえ!」

 吉良上野介役の初音ミク、右手をマシンガンに変形する。
 そして!

 峰雄:「うわっ、“ダイ・ハード”!?」
 俊介:「何で忠臣蔵でマシンガンが出てくるのかね!?」
 孝夫:「アリスのヤツ、『舞台協力の為、ちょっと改造するから』なんて言ってやがったが……これか!」
 峰雄:「孝夫、ボーカロイドは武力を持たないのではないのかね!?」
 孝夫:「あー……えー……舞台演出です」
 俊介:「何がだ!」

 大石:「くっ……!お前達、大丈夫か!?」
 少女:「私は大丈夫。それよりあの姿……!あれこそが汚れの元凶!私達、魔女っ娘の敵!」
 お爺さん:「ひ、ひえー!」
 大石:「仕方が無い!それがしも本気を出すしかないようだ!」
 吉良:「何ぃ!?」
 少女:「私達も加勢する!お爺さんも手伝って!」
 お爺さん:「し、心臓に悪いわ!」

 俊介:「無茶苦茶だ!こんな忠臣蔵があるか!社長権限でこの劇は中止させる!孝夫の秘書君、内線電話をここに!」
 エミリー:「は、はい」
 峰雄:「……待て!」
 俊介:「えっ?何ですか、会長?」
 峰雄:「中止するのを止めるんだ」
 俊介:「何故ですか!孝夫達は演劇をバカにしている!やはり、ロボットだけで演劇をさせるというのには無理があるんですよ!」
 峰雄:「観客席をよく見たまえ!」
 俊介:「ええっ!?」

 VIPルームからだと、一般観客席は後ろから見下ろす形となる。
 それでも……。

 孝夫:「今宵はチャリティーイベントです。養護学校や児童養護施設の子供達、そして老人ホームのお年寄り達を招待しています」

 老若男女が集まっているわけだが、そのほぼ全員が盛り上がっていた。

 吉良:「こ、こんなバカな……!こ、この私が……こんな奴らに……!」

 体中から火花を吹き散らし、煙を立たせる。
 ロイドならでの演出だが、もちろんこれは舞台演出。
 本当に初音ミクを壊しているわけではない。
 そして、初音ミク演じる吉良上野介が倒れ、そこが爆発を起こす。
 もちろん、同時にせりが開いてミクはそこに引っ込んだのである。

 俊介:「私はあまり感心できませんなぁ……」
 峰雄:「私もヒヤヒヤさせられたけど、まあまあ良かったと思うよ。アイドル稼業にそろそろ行き詰まりを感じて来た孝夫が、その売り出す方向性の転換を考えた。何も悪いことではないと思うがね」
 孝夫:「アイドル稼業の行き詰まり?そんなことないですよ。これは単なるあらゆる方向性を考える為の一環です。あれが正解だとは思っていませんよ」
 峰雄:「では、何故このようなことを?」
 孝夫:「今年もNHK紅白の選考に、うちのボカロ達が落ちたんで、仕事が少し空いたんです」
 俊介:「その穴埋めかい!」
 峰雄:「NHKは……ボカロの存在そのものには好意的なんだが、いざ紅白で歌わせようとなると、難色を示すんだな」
 俊介:「うちの事務所の人間のアイドルは、当選しましたけどね」
 峰雄:「うむ。よくやった」

 カーテンコールの後で、最後にエンディング。
 舞台衣装のまま、“千本桜”を披露する。
 『きっと終わりは大団円』の歌詞の通りの終わり方だった為。
 本来は初音ミクの持ち歌だが、今ではボカロ全員がカバーしており、全員で歌うバージョンもリリースされている。

[同日19:00.天候:晴 劇場バックヤード]

 最後に退場する観客達の見送りも行う。
 その後で、やっと帰る準備を行うのである。

 井辺翔太:「社長、お疲れ様でした」
 孝夫:「お、井辺君。お迎えありがとさん。皆、帰る準備できたら、車に乗り込めよ!」
 初音ミク:「はい!」
 巡音ルカ:「あの……会長達は?」
 孝夫:「さっき帰って行ったよ。まあ、俊介社長は微妙だったみたいだけど、峰雄会長は好評だったみたいだ」
 井辺:「新しいことを始めようとすると、色々と戸惑いもあるものですからね」
 孝夫:「せっかくだ。帰ったら、このまま打ち上げでもするか」
 鏡音リン:「おー、さすが社長!太っ腹〜!」
 井辺:「今のうちに、ケータリングでも頼んでおきますか。まだ事務所には、ボカロの皆さんのマネージャー達も残っていますし……」
 孝夫:「ああ、頼むよ。エミリー、経費で落としてくれ」
 エミリー:「そういうのは第二秘書のシンディに頼んでください」
 シンディ:「何でアタシが!?」

 ボカロ達に笑いが起こる。
 敷島達、エンターテイメント業は年末こそが多忙の時期であるようだ。
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“戦う社長の物語” 「劇団ロイド再び」 1

2017-12-26 10:23:33 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月24日16:55.天候:晴 東京都豊島区内某所 敷島エンター劇場VIPルーム]

 敷島峰雄:「キミのタレント君達による演劇が大好評でね、クリスマスイベントでもやってもらうことにしたよ」

 四季グループの会長であり、敷島の伯父に当たる峰雄会長がソファに座りながら言った。

 敷島孝夫:「うちのロイド達をお褒め頂き、ありがとうございます。是非、ご期待ください」
 敷島俊介:「しかし、大丈夫なのかね?この前の“シンデレラ”。確かに斬新な立ち回りが評判を呼んだが、今度はオリジナルストーリーだと言うじゃないか」

 敷島の叔父で四季グループの屋台骨、四季エンタープライズ社長の敷島俊介が懸念を示した。
 どちらかというと、容姿は俊介の方が孝夫に似ている。
 孝夫をもっと老けさせると、俊介になるか。

 孝夫:「はい。今回は実験も兼ねてまして、ロイド達に脚本と演出もやらせてみました」
 峰雄:「ほほっ!そりゃ面白い」
 俊介:「まあ、お手並み拝見と行こう。……キミの秘書達は今回出ないのだな?」

 俊介は孝夫の傍らに立つエミリーを見て言った。

 孝夫:「はい。あとシンディは舞台袖にいます」
 峰雄:「おっ、そろそろ始まる時間だ」

 一ベルが鳴り響く。

 峰雄:「えーと、今回の話の内容は……『マッチ売りの少女の戦い』か。マッチ売りの少女自体は、クリスマスならではだが、戦いとは?」
 俊介:「まーた孝夫が何かフザけたのでしょう。全く。興行を何だと思ってるんだ」
 孝夫:「まあまあ、観てのお楽しみですよ。エミリー、会長と社長にコーヒーをお出しして」
 エミリー:「かしこまりました」
 俊介:「待て。コーヒーじゃなく、紅茶がいいな」
 エミリー:「紅茶でございますか?」
 俊介:「……あ、いや。そういえば昼間、紅茶を飲んだな……」
 孝夫:「ちゃんと決めてくださいよ。親会社の社長なんだから。だったらエミリー、“メイドロイド七海の特製紅ヒー”を入れてあげてくれ」
 エミリー:「か、かしこまりました」
 俊介:「おい、何だそれ!」
 峰雄:「飲んだ途端、年末一杯は厄年に転落する飲み物らしいな」

 『劇団ロイドによる“マッチ売りの少女の戦い”配役紹介』

 マッチ売りの少女:鏡音リン 笠売りのお爺さん:鏡音レン 悪魔:KAITO 魔法の妖精:MEIKO 大石内蔵助:巡音ルカ 吉良上野介:初音ミク ナレーター:マルチタイプ8号機のアルエット

[同日17:00.天候:晴 同劇場]

 そして二ベルが鳴り響き、劇が始まる。

 ナレーター:「それはそれはクリスマスの寒い夜のこと、1人の少女がマッチを売っておりました」
 少女:「マッチ、マッチはいりませんか?マッチはいりませんか?」
 ナレーター:「しかし、年末年越しの追い込みと忘年会で忙しい大手町のサラリーマン達は誰も買ってはくれません」

 峰雄:「何だね、このナレーションは?」
 俊介:「そりゃ売れるわけないわ、大手町で!」

 少女:「どうしよう……誰も買ってくれない……」
 ナレーター:「少女が暗く沈んでいると、そこに笠売りのお爺さんが現れました」
 お爺さん:「お嬢ちゃん、笠はいらんかえ?」

 峰雄:「は?」
 俊介:「何これ?」

 お爺さん:「これはうちの婆さんが作った丈夫な笠じゃ。い、いらんかえ?」
 少女:「お金が無いの……」
 お爺さん:「大丈夫かい?」
 少女:「寒い……」
 お爺さん:「機械も冷やし過ぎると却って危険じゃ。よし。これを燃やして温まろう」
 ナレーター:「お爺さんは売り物の笠を1つ取り出しました。そして、少女は売り物のマッチを1つ取りました」

 峰雄:「燃やすのかい!」
 俊介:「お婆さんがせっかく作ったのに!?」

 シュボッ!
 ジジジ……!

 峰雄:「しかもホントに火を点けてるぅ!?」
 俊介:「おぉい!劇場内は火気厳禁だぞ!」
 孝夫:「まあまあ、そうカタいこと言わないで。あれも舞台演出ですから」
 峰雄:「何がだ!」

 ナレーター:「すると、ボワッと紫色の煙が立ち上ったではありませんか。そして、その中から1人の怪しい男が現れました」
 悪魔:「哀れな人間よ。キサマは選ばれた。業を背負いし、魔女っ娘に!」

 峰雄:「マッチ売りの少女はどこ行った!?」
 俊介:「プリキュアでもやらせる気かね!?」
 孝夫:「何で社長、ニチアサ知ってるんですか?」

 悪魔:「……戦え!この汚れ切った世の中を正すために!立ち上がるのだ!さあ!」
 少女:「うん、分かった!」

 峰雄:「即答かい!」
 俊介:「うちのスカウトも、あれくらい素直に進むといいんだがな……」

 悪魔:「その心意気、実に素晴らしい。それでは……」
 お爺さん:「ま、待ってくだせぇ!わ、ワシも魔女っ娘にしてくだせぇ!」
 悪魔:「ほお?何ゆえ魔女っ娘に?」
 お爺さん:「病気の婆さんに美味い物食わせる為に、魔法の力で悪どいことをしてお金を稼ぐんじゃ!」

 峰雄&俊介:「魔法で治そうと思わないんかい!」

 悪魔:「自らの欲望を臆面も無く曝け出すとは……!いいだろう。それでこそ人間だ」
 ナレーター:「悪魔は大きく頷くと、パチンと指を鳴らしました。するとどうでしょう。少女とお爺さんは煙に包まれ、次の瞬間……」

 峰雄:「おおっ、ちゃんと魔女っ娘の姿になっているではないか」
 孝夫:「早着替えです。ちゃんと舞台の基本は押さえてますよ」

 悪魔:「しかし残念だ。魔法を行使する為のステッキは1つしかない」
 少女:「ど、どうしたらいいの?」

 ギラリと悪魔の目が光る。
 もちろん、これはロイドならでの機能を駆使したものだ。

 悪魔:「こうなれば致し方無い。2人とも戦え!勝った方が手にしろ!さあ!流血の惨を見る事、必至であれ!」
 魔法の妖精:「争い事はやめて!!」
 悪魔:「ん?」
 ナレーター:「光の中から現れたのは、大きな妖精でした」
 妖精:「ボクは魔法の妖精!みんな!こんな怪しい男の言葉に騙されてはダメだよ!」
 悪魔:「キサマ、邪魔をするか……!」
 妖精:「人々の心を惑わすなんて許せない!でやぁーっ!」
 悪魔:「小癪な!!」
 ナレーター:「何と、ここでいきなりの悪魔と妖精のバトルです。この戦い、果たしてどちらが勝つのか?次回へ続きます。以上!」

 峰雄:「何だね、この展開は!?」
 俊介:「しかも二部構成って!」
 孝夫:「あの……サーセン、ページの都合で……」
 エミリー:「演出はシンディなので、後でボコしておきます」
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“大魔道師の弟子” 「魔道師達のクリスマス 再び」 

2017-12-24 20:01:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月24日16:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 稲生:「毎年、この屋敷が賑わうのはクリスマス・イブなんですね」
 マリア:「そういうこと。元々この屋敷は、ダンテ一門の日本支部みたいな所だから」

 たまに訪れる魔道師もいるのだが、普段から海外を活動拠点にしている組はなかなか来ない。
 普段から来ない組も来日するのが、このクリスマスの時期なのである。
 何故か?

 稲生:「受付開始だよ。準備はOK?」

 昨年は受付係だった稲生だが、今はそれもマリアのメイド人形が行っている。
 稲生は案内係を務めることになった。
 とはいえ……。

 稲生:「開始時間すぐに来る魔道師って、実はあまりいない」

 稲生はスーツに『案内係』の腕章を着けているのだが、エントランスから入って来る者はいなかった。
 それでもやってくる者はいて……。

 エレーナ:「おっ?ウチら1番乗り?」
 リリアンヌ:「フヒヒ……そのようです」

 ホウキに跨ってやって来たのはエレーナとリリアンヌ。

 エレーナ:「いやあ、凄い雪だね。アタシの故郷には無いわ」
 稲生:「ウクライナって雪降らないの?」
 エレーナ:「うん。少なくとも、キエフ(ウクライナの首都)辺りは」
 リリアンヌ:「フフ……フランスもです」
 稲生:「またまだ、“世界ふしぎ発見”みたいなことがあるんだなぁ。僕はつい、雪に閉ざされた場所だと思っていたのに」
 エレーナ:「違う違う。それより、今年は受付やらないの?」
 稲生:「人形が増えたから、今年は人形にやらせるってさ」
 エレーナ:「マリアンナの人形作りは、ライフワークだからね。切り無く増えて行くよ」
 稲生:「だよなぁ……」
 リリアンヌ:「フヒ……。エレーナ先輩、受付終了しました」
 エレーナ:「ありがとう」

 稲生が覗き込むと、やはりリリアンヌはフランス語で書いたようだ。

 エレーナ:「今年もフランスじゃ、『クリスマス魔女狩り期間』が始まっているからね。ここに避難しておくんだよ?」
 リリアンヌ:「フフフ……分かりました」
 稲生:「『冬の交通安全運動』みたいなノリで魔女狩りやってるのかい、フランスじゃ
 エレーナ:「いやあ、稲生氏が仏教徒で良かった」
 稲生:「何だそりゃ……」

 どうやら大規模な魔女狩りが水面下で今でも行われているらしく、それが行われていない日本へ避難してくるらしい。

 稲生:「日本でそんなことやったら……日蓮正宗や顕正会の街頭折伏が盛んになるだけだよ。F屋さんもそんなに文句あるんなら、キリスト教会へ突撃アポ無し折伏隊でも結成して行けばいいんだよ」
 エレーナ:「稲生氏、後半変なメタ発言になってる」
 稲生:「ん?」
 エレーナ:「それよりマリアンナは?」
 稲生:「大食堂に行ってる」
 エレーナ:「ちょっと顔出してこよう」
 リリアンヌ:「フヒっ!行きます……」
 稲生:「リリィ、今年はアレは勘弁だよ」
 リリアンヌ:「フヒーッ!?ご、ごめんなさい……」
 エレーナ:「あー、大丈夫!今度は私が首に縄付けておくから」

 酔っ払ったリリアンヌ。
 稲生の部屋に真夜中忍び込み、アポ無し心中を図ろうとした事件。
 しばらくの間、リリアンヌには禁酒令が下った。

 エレーナ:「あれ?大食堂にいないぞ?」
 リリアンヌ:「マリアンナ先輩……」

 そこへテーブルのセッティングなどを行っているメイド人形が現れた。

 エレーナ:「あ、ちょっと。マリアンナがどこに行ったか知らない?」
 メイド人形:「御主人様は……」

 居場所を聞いたエレーナは、何だか嫌な予感がした。

 リリアンヌ:「ちゅ……厨房ですって……フフフ……」
 エレーナ:「あいつ、まさか……」

 エレーナ達は厨房に行ってみた。
 すると……。

 マリア:「私もせめて料理の1つでもできるようにしないとな。年末年始は、ユウタの実家にお邪魔するんだ。そこで私が1つ何か披露できたら、ユウタの御両親からの評価も鰻上り……」
 エレーナ:( ゚д゚)
 リリアンヌ:(`艸´;)

 エレーナ達は急いでエントラスに戻った。

 稲生:「あれ?どうしたの?マリアさんとは会えた?」
 エレーナ:「稲生氏!やっぱりリリィのこと、恨んでるだな!?え?そうだな!?」
 稲生:「えっ?な、何が!?」
 リリアンヌ:「ゴメンナサイ……。やっぱり私、肉便器になります」
 エレーナ:「それだけじゃ甘い!」
 稲生:「あ、あの……何があったの?」
 エレーナ:「マリアンナが自分で料理作ろうとしてる!」
 稲生:「それがどうしたの?」
 エレーナ:「それがどうしたって……!稲生氏は知らないのか!前に、魔女同士で料理の腕前を披露する会みたいなのがあったんだ」
 稲生:「へえ、面白そうだね。マリアさんはどんなの作ったの?イギリス料理かな?ハンガリー料理かな?」
 エレーナ:「どっちでもいい。私は幸い試食会には参加しなかったんだけど、試食会に参加したうちの先生や他の魔女達がマリアンナの料理を食べた途端、【お察しください】」
 稲生:「ええーっ!?」
 エレーナ:「今日はその……うちの先生も来るし、他の師匠クラスもほぼ全員参加する。そんな時に、マリアンナの料理が出されたらもう……ちょっとした門内テロだ」
 稲生:「門内テロ!?早いとこ止めなきゃ!」
 エレーナ:「だけどマリアンナも根に持つタイプだから、上手く廉が立たない止め方をしないとダメだぞ」
 稲生:「何だか難しそうだな……」

 稲生達は再び厨房に行くことにした。
 すると……。

 イリーナ:「……マリア。前にも言ったでしょう?いくら実質的なオーナーは私とはいえ、この屋敷の名義はあなたになってるんだから、あなたがこれから来られる賓客をお出迎えしないでどうするの。こういう料理作りはメイド人形達に任せて、あなたはあなたの任務を行いなさい」
 マリア:「はーい……」(´・ω・`)

 ショボーンとなったマリア。

 稲生:「さすがはイリーナ先生だ」
 エレーナ:「ベテランは分かってるねぇ……」
 リリアンヌ:「フフフ……」

 稲生達は大食堂のドアの陰に隠れて、イリーナとマリアのやり取りを見ていた。

 マリア:「分かりました。私の手料理の腕前は、ユウタの家に行った時にやります!」

 ズコーッ!!

 イリーナ:「あ、あのね、マリア……」
 稲生:「エレーナ!年末年始、キミのホテルに泊まらせて!」
 エレーナ:「ゴメーン。もう満室だし」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。私も年末年始は、魔王城で研修です……」

 マリアが自分の部屋に戻って行く。

 稲生:「先生!いっそのこと、僕も冬休みは返上して強化合宿に参加させてください!」
 イリーナ:「でも、今度の合宿の主催者はナスターシャだから、恐らく『ロシアンマフィアの抗争を終結させる』という課題だと思うよ?」
 稲生:「それも嫌だーっ!」

 尚、今年のクリスマスパーティー自体は何のトラブルも無く終了したとのことである。
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“私立探偵 愛原学” 「冬のペンション殺人事件」 帰りの旅

2017-12-24 13:16:04 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月10日20:00.天候:曇 JR長野駅東口]

 バスが長野駅に到着した。
 白馬村ほどではないが、この町も雪が積もっている。
 こっちは今、雪は降っていないようだ。

 愛原:「夕食の前に、帰りの新幹線の確認をするか」

 あまりゆっくりし過ぎて、最終を乗り過ごすなんてことはしたくないからな。
 私達がバスを降りて駅構内に入った時、私のスマホが震えた。

 愛原:「おっ……?あ、多分ボスからだ!」

 バスの中で寝ていて、すっかり忘れていた。
 確か、私がバスを降りてから電話するようなメッセージが届いていたのだった。
 それにしても、何てタイムリーな……。
 どこかで見張ってたりするのだろうか?
 多分と言うのは、ボスは必ず『非通知』か『公衆電話』で掛けて来るからである。
 恐らく、どこか事務所的な所にいる場合は『非通知』、出先の時は『公衆電話』なんだろうと思うが……。
 今回は『非通知』だった。

 愛原:「はい、もしもし。愛原です」
 ボス:「私だ」
 愛原:「やっぱりボス!」
 ボス:「今回の事件解決、おめでとう」
 愛原:「いえ。本来なら、事件が起こる前に抑止したかったものですが……」
 ボス:「そういうのは、作者の本業に任せておきなさい。今回の犯人は、哀しくも同業者だった。明日の朝刊では、大きく叩かれることになるだろう。だがしかし、その事件を解決したのもまたキミ達探偵だ」
 愛原:「はい」
 ボス:「それで、だ。警察に逮捕される前、安沢は何か言ってなかったかね?」
 愛原:「えーと……。『霧生市だけじゃないからな』と……」
 ボス:「それだけか?……分かった」
 愛原:「ボス?」
 ボス:「詳しい話は後日また電話する。それと……長野駅構内の【とある】男子トイレ、1番奥の個室を調べてみたまえ。今日の帰りの新幹線は、指定席に乗っていい」
 愛原:「本当ですか、ありがとうございます!」
 ボス:「今日のところは、気をつけて帰りたまえ」
 愛原:「はい、ありがとうございます。……はい、失礼します」

 私は電話を切った。

 愛原:「高橋君、大至急……のトイレを調べるんだ。そこに俺達の帰りの新幹線のキップがある!」
 高橋:「分かりました!」

 高橋はダッシュした。

 高野:「キップならあるじゃない?」
 愛原:「改めてボスが、指定席特急券を用意してくれたみたいなんだ。トイレに隠してあるってさ」
 高野:「変なの。……ってか、ボスって何者?」
 愛原:「分からん。俺が探偵事務所を始めた時に、電話で現れたのが始まりさ。『私の指示に従っておけば、当面は食うに困らないようにしてやる』ってね」
 高野:「それで乗ったの?」
 愛原:「仕事の依頼が無かったんだ。しょうがない。ボスは『私だ』としか名乗らないし……。俺は個人的に、全世界探偵協会日本支部の人なんじゃないかって思ってるけど……」
 高野:「うーん……」

 しばらくして、高橋が戻って来た。

 高橋:「先生、ありました!これです!」

 茶封筒を手に持っている。

 高橋:「便器の裏に張り付けてありましたよ」
 愛原:「ボスもベタなことをするなぁ……」

 私は高橋から茶封筒を受け取り、中を確認した。
 確かに、中には3人分の新幹線チケットが入っていた。

 愛原:「21時15分発、“あさま”630号、東京行きか。まあまあだな」
 高野:「ゆっくり食べようと思ったら、手近な所しか無いですね」
 高橋:「向こうの駅ビルに、食う所がありましたが……」
 愛原:「よし、そこに行こう」
 高橋:「こっちです!」

 高橋は勇んで私達を案内した。

[同日21:00.天候:曇 JR長野駅ビル“ミドリ”→長野駅新幹線ホーム]

 店員:「ありがとうございましたー」
 愛原:「どうも、ごっそさんー」

 私達は事件解決の軽い祝杯を挙げた。
 高野君がそろそろ新幹線の時間だと教えてくれなければ、私は酔い潰れていたことだろう。

 高橋:「先生、しっかりしてください」
 高野:「飲み過ぎですよ」
 愛原:「しょうがないだろう。ペンションでは事件に備えて、禁酒だったんだぞー!」
 高野:「仕事だからしょうがないでしょ」

 私は高橋に肩を担がれている。

 愛原:「ほらほら、新幹線に乗り遅れるぞー!前進ぜんしーん!」
 高橋:「はいっ!」

 それでも高橋は文句1つ言わず、私を担いで新幹線乗り場に向かう。

 高野:「全く……」

 高野君だけが呆れ顔だった。
 だがさすがに、改札口だけは自力で通ったがな。

 高橋:「先生、大丈夫ですか?」
 愛原:「少しは酔いが醒めたよ」
 高野:「完全に酔いを醒ましてくださいな」
 愛原:「なにお!もう一杯だ!高橋、ビール買って来い!」
 高橋:「はい!」
 高野:「ダメですよ、もう……」
 愛原:「ケチ」
 高野:「明日は月曜日なんです。また、事務所を開けないといけないんですからね。ボスも、また電話すると仰ってたでしょう?」
 愛原:「ちぇーっ」

 私は残念な思いと共に、新幹線ホームへのエスカレーターに乗った。

 高野:「ん?」

 その時、高野君が辺りをキョロキョロと見回す。

 愛原:「どうしたい?」
 高野:「何か、子供の声が聞こえませんでしたか?」
 愛原:「子供?」
 高野:「女の子の声です。かといって、あんまり小さい子ってわけでも……」
 愛原:「ハハハハっ!気のせいだろう?俺には聞こえなかったぞ」
 高橋:「俺もです」
 愛原:「まあ、高野君もそれなりには飲んだからな。そのせいだよ」
 高野:「ですかね……」

 日曜日の夜だ。
 確かに、これから新幹線に乗ると思われる家族連れの姿は散見される。
 子供の声が聞こえるのは、至極当然だ。

 高野:「何か、頭の中に響くような声だったんですよ」
 高橋:「だから、オマエも酔っ払ってるってことだろ。先生に変なことするなよ?」
 高野:「先生が変なことしてきたらとうするの?」
 愛原:「ブッ!」
 高橋:「俺が全力で阻止する……!」
 愛原:「う、うむ。アルハラ、セクハラが大問題になってるからな。ま、まあ、その時は頼むよ」
 高橋:「お任せください!」

 ホームに着くと、既に列車はホームに到着していた。

 愛原:「どうやら間に合ったみたいだな」
 高橋:「そうですね」

 私は指定席特急券を手に、指定された座席のある10号車へと向かった。

〔14番線に停車中の電車は、21時15分発、“あさま”630号、東京行きです。グランクラスは12号車、グリーン車は11号車、自由席は1号車から6号車です。この電車は途中、高崎までの各駅と大宮、上野に止まります〕

 私達は10号車に乗り込むと、指定された座席を探した。
 A席からC席ということは、3人席であることは確かだ。

 愛原:「ん?」

 その時、向こう側の車両へと続くドアが開いた。
 その向こうからやってくるのは、黒っぽいブレザーにプリーツスカートをはいた白い仮面の……。

 愛原:「!!!」
 高橋:「どうしました、先生?」
 愛原:「えっ?」

 高橋に後ろから声を掛けられると、その仮面の少女は消えていた。

 愛原:「あ、いや……。俺もどうやら飲み過ぎたらしい」
 高野:「今頃お気づきですか」
 愛原:「いや、ハハ……」

 私が苦笑いしていると、高橋が座席を見つけた。

 高橋:「先生、ここですよ」
 愛原:「そうか」
 高橋:「窓側へどうぞ」
 愛原:「……っと、その前にトイレだ」
 高橋:「お供します!」
 愛原:「あ、うん……」

 いつもなら来なくていいと返すところだが、トイレがさっきの幻……仮面の少女が現れた先にあるんだよな。
 とはいえ、デッキにも男子用トイレにも誰もいないようだった。

 高橋:「お供します!」

 私が男子用個室に入ろうとすると、高橋も続こうとしたので、

 愛原:「せんでいい!」

 と、これは返した。
 やっぱり高橋はLGBTのG……いや、Bか?……と思った。
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“私立探偵 愛原学” 「冬のペンション殺人事件」 真相

2017-12-23 20:39:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月10日00:00.天候:吹雪 ペンション“ドッグ・アイ”205号室]
(ここでは三人称です)

 田中:「まもなく約束の時間だ。金はここに来る前に半分振り込んで来た。残りの半分は、“ワックス”を確認してからだ。……クククク。これでお前も、一生遊んで暮らせるなぁ……ハハハッ!」
 河童:「“怨嫉謗法”してないで、早く金を寄越しなさい。これが、その“ワックス”だ」
 田中:「どれどれ……、確かに。これだけの量で、霧生市くらいの町1つはひっくり返せるわけだ」
 河童:「話は終わった。失礼するよ」
 田中:「おいおい、耄碌してるのか?この猛吹雪で、どうやって“ジム”へ帰るよ?いいから、ここで俺と一晩明かそうぜ?」
 河童:「フン……」
 田中:「誰も想像も付かないだろうな?まさかこの爺さんの家……ジムの地下に、“ワックス”の秘密製造所があるとは……」
 河童:「純利益3000万円……」
 田中:「ん?」
 河童:「これが私の目標だ」
 田中:「心配するな。耄碌爺さんのFacebookと、あのブログを確認している。これからも“ワックス”を売り続けてくれるというのなら、年商10億円も夢ではないぜ?フフフフフ……。『ワックスの売り上げ順調!これからもどんどん功徳を出すぞ!!』ってか」

 すると田中は頭上から視線を感じた。

 田中:「!?」

 上を向くと同時に、ブシュッという音が聞こえた。

 河童:「な、なん……!?」

 ブシュッ!ブシュッ!(河童の頭と胸に銃弾が直撃する)

 安沢:「ふう……」

 安沢はダクトの金網を開けて、そこから出て来た。

 安沢:「よし。2人とも死んだな」

 安沢は2人の死亡を確認すると、田中の左手に自分の拳銃を握らせた。

 安沢:「こいつが犯人となる」

 安沢は手袋をしているので、自分の指紋が付くことはない。

 安沢:「あとは……」

 安沢は“ワックス”の入ったアタッシュケースと、現金の入ったビジネスバッグを窓の外へ放り投げた。

 安沢:「これでいい。あとは組織が回収してくれる。……さすがに返り血が付いてしまったな。早いとこ部屋に戻って、着替えてくるか」

 安沢は、そっと部屋の外を覗いた。
 廊下には誰もいない。
 常夜灯と非常口誘導灯、それと火災報知器の赤ランプが煌々と点いているだけだ。
 それを確認して廊下に出、自分の部屋である203号室に戻ろうした。

 安沢:「!!!」
 ジョージ:「フンフンフンフン……!フンフンフン……!」

 部屋に入ろうとした瞬間、ペンションで飼われているハスキー犬のジョージが背後にいた。
 安沢の服に付いた血の臭いにしっかり反応し、フンフンと鼻をヒク付かせている。

 安沢:「ば、バカ、やめろ!」

 安沢は急いで自分の部屋に入った。
 ジョージが入ってこないよう、すぐにドアを閉める。

 安沢:(まさかあいつ……?いや、深く考えるのはよそう。確かハスキー犬は、番犬としては役に立たないバカ犬だと聞いたからな……)

 安沢は血の付いた服を着替え、それもまたビニール袋に入れて窓の外に投げ捨てた。
 そして部屋備え付けのシャワールームに入り、そこで体を流したのだった。

[12月10日18:40.天候:雪 白馬八方バスターミナル]
(愛原の一人称に戻ります)

 安沢が警察に連行され、その後で色々と事情聴取を受けた後、私達は村のバスターミナルへ移動した。
 何とか、長野駅へ行く最終便に乗れた。
 事件の内容が内容だけに、またマスコミが飛び付くことだろう。
 ペンションに、大勢集まることは目に見えている。
 天候が良ければ、上空をヘリが飛ぶかもしれない。
 そうなる前に、私達は東京へおさらばだ。

〔「お待たせ致しました。18時40分発、特急、長野駅東口行き、発車致します」〕

 バスは半分ほどの乗客を乗せて発車した。
 私達は往路と同じように、1番後ろの5人席に並んで座っている。
 長距離バスではないせいか、車内にトイレは無い。

〔「お待たせ致しました。本日もアルピコ交通の特急バス、長野〜白馬線をご利用頂き、ありがとうございます。このバスは途中、白馬駅、白馬五竜、サンサンパーク白馬、美麻ぽかぽからんど、千見、終点長野駅東口の順に止まります。【中略】終点、長野駅東口には19時55分の到着予定です。……」〕

 もう外はすっかり暗い。
 バスは当然ながら車内の照明を灯し、ヘッドライトを点灯させて進んでいる。
 昼間には晴れた空も、日が暮れてからまた曇り出し、再び雪が降り出してきた。
 本当に雪国だ。
 ただ、風は出ていないので、吹雪になることはないだろう。

 高野:「はい、センセ」

 高野君が高橋越しに、私にクッキーの入った箱を出して来た。

 愛原:「あ、ありがとう」
 高野:「警察の捜査協力とかで、随分と緊張なさってたもんね。すっかりお腹空いたのも、忘れてるでしょう?」
 愛原:「どういうことだ?」
 高橋:「夕食時だってことですよ」
 愛原:「あっ、ああ、そうか。ごめんごめん。すっかり忘れてた」
 高野:「いいんですよ。バスターミナルの売店で、お菓子買ってきましたから。ほら、マサ君も食べて」
 高橋:「チッ……」

 本当にまるで高野君は、思春期でひねくれた弟をあやす姉のような振る舞いだ。

 愛原:「長野駅に着いたら、夕食にしよう。どうせ、帰りの新幹線のチケットは自由席回数券だし……」
 高野:「さんせー!」
 高橋:「お供します!」

 と、そこへ私のスマホにメッセージが入った。
 それはボスからだった。
 今はバスで移動中だろうから電話は控えるが、バスを降りたら電話するので、そのまま新幹線に乗り換えるのは待って欲しいというものだった。
 何だろう?
 このまま、またどこか事件解決に向かえとでも言うのだろうか。
 もちろん、今はまだ貧乏事務所。
 仕事を選んでいる場合ではない。
 ボスが仕事を持って来てくれる限りは、何でもこなさなきゃいけない。
 ……とはいうものの、さすがに今日は疲れたな。
 私は高野君から市販のクッキーを3枚もらって食べると、座席をリクライニングし、長野駅に着くまで一休みすることにした。
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