いつも忘れがちな重要な要項がある。それは、文明が進めば進む
ほど天然の暴威による災害がその激烈の度を増すという事実である。
ほど天然の暴威による災害がその激烈の度を増すという事実である。
人類がまだ草昧(そうまい)の時代を脱しなかったころ、がんじ
ょうな岩山の洞窟の中に住まっていたとすれば、たいていの地震や
暴風でも平気であったろうし、これらの天変によって破壊さるべき
なんらの造営物をも持ち合わせなかったのである。
ょうな岩山の洞窟の中に住まっていたとすれば、たいていの地震や
暴風でも平気であったろうし、これらの天変によって破壊さるべき
なんらの造営物をも持ち合わせなかったのである。
もう少し文化が進んで小屋を作るようになっても、テントか掘っ
立て小屋のようなものであって見れば、地震にはかえって絶対安全
であり、またたとえ風に吹き飛ばされてしまっても復旧ははなはだ
容易である。とにかくこういう時代には、人間は極端に自然に従順
であって、自然に逆らうような大それた企ては何もしなかったから
よかったのである。
立て小屋のようなものであって見れば、地震にはかえって絶対安全
であり、またたとえ風に吹き飛ばされてしまっても復旧ははなはだ
容易である。とにかくこういう時代には、人間は極端に自然に従順
であって、自然に逆らうような大それた企ては何もしなかったから
よかったのである。
文明が進むに従って人間は次第に自然を征服しょうとする野心を
生じた。そして、重力に逆らい、風圧水力に抗するようないろいろ
の造営物を作った。そうしてあっぱれ自然の暴威を封じ込めたつも
りになっていると、どうかした拍子に檻を破った猛獣の大群のよう
に、自然があばれ出して高楼を倒壊せしめ堤防を崩壊させて人命を
危うくし財産を滅ぼす。
生じた。そして、重力に逆らい、風圧水力に抗するようないろいろ
の造営物を作った。そうしてあっぱれ自然の暴威を封じ込めたつも
りになっていると、どうかした拍子に檻を破った猛獣の大群のよう
に、自然があばれ出して高楼を倒壊せしめ堤防を崩壊させて人命を
危うくし財産を滅ぼす。
その災禍を起こさせたもとの起こりは天然に反抗する人間の細工
であるといっても不当ではないはずである。災害の運動エネルギー
となるべき位置エネルギーを蓄積させ、いやが上にも災害を大きく
するように努力しているのはたれあろう文明人そのものなのである。
(寺田寅彦随筆集 第五巻 天災と国防 昭和九年十一月、経済往来)
であるといっても不当ではないはずである。災害の運動エネルギー
となるべき位置エネルギーを蓄積させ、いやが上にも災害を大きく
するように努力しているのはたれあろう文明人そのものなのである。
(寺田寅彦随筆集 第五巻 天災と国防 昭和九年十一月、経済往来)
最近、災害の報道を耳にする機会がはるかに多くなった様に思う。
地震や台風に対して、はなはだ脆弱になっている。50年以前と比較
して、土木技術も発達したにも係わらず。
地震や台風に対して、はなはだ脆弱になっている。50年以前と比較
して、土木技術も発達したにも係わらず。
寺田寅彦の指摘に、納得される方も多いのではなかろうか?慢心
した現代人への警告でもある、
画像は、南足柄市美術展より 本山氏作「晩秋」です。
した現代人への警告でもある、
画像は、南足柄市美術展より 本山氏作「晩秋」です。