たかたかのトレッキング

駆け足登山は卒業、これからは一日で登れる山を二日かけ自然と語らいながら自由気ままに登りたい。

思い出に残る山(29)秋山郷・鳥甲山

2018年09月11日 | 心に残る思い出の山
H7年10月13日

登山口(6:15) 鳥甲山(10:25~11:25) 登山口(15:05)


雄川閣を6時に出発して大きな案内板が建つ登山口に車を置く。

6名の京都から見えた男女が出発の準備をしていた

今朝も素晴らしい秋晴れだ、しかしさすが山の朝 身が引き締まる空気の冷たさだ

その冷んやりした空気を胸いっぱい吸い込んで出発


(略)

ちょうど正面に残月がかかっていた、それは登山道を埋める木々の間にすっぽり収まり

まさしく日本画の世界を目の前に歩いている気分だった

暫く、その月を追う様に登って行くとやがてムジナ平と言う平坦な場所に出る

此処から苦しい登りに転じるがリズムに乗り始めた足で一気に登り上げ

登山口から40分で漸く稜線に辿り着いた


目の前に奥志賀の山々が朝もやの中に、やゝ色を落して浮かび上がって見える

梯子下の岩場で谷を挟んだ赤嵓ノ頭や深田久弥氏が「巨大な鯨」と形容した

苗場山を眺め心地よい風と朝日をイッパイ浴びながら朝食をとった




登りあげたばかりで直ぐに食べられないと言う雄さんをせかせ食休みもそこそこに

8m程の不安定な梯子に取りつく  更にワイヤーで10m程登りあげると展望は増々開け

赤茶色のガレが凄まじい赤嵓ノ頭が一層近づく

足元の和山の集落は箱庭の様だった

空には白雲が所々に浮かび、その白さが空の青さを一層、際立たせ目に痛い程

この辺りまで来ると秋たけなわと呼ぶには少々早いが淡い紅葉を背景にして

真っ赤に熟れた鈴なりのナナカマドの実や草紅葉が小さな秋を提供してくれた


(略)

ピークを過ぎると次のピーク 白嵓ノ頭が「未だまだこれからさ」と言わんばかりに

頭をもたげ目指す山頂を隠している 

私達は深呼吸をし再び長い長い尾根道を一歩一歩登った

空が見え今度こそピークだろうと思って行けば登山道は左に廻り込んでいるだけで

一向にピークに辿り着けない  何時の間にか苗場山頂が目線に並んだ


息が切れる、喉はカラカラ、腿は鉛の様に重い  喘ぎ喘ぎ登って漸く着いた白嵓ノ頭

針葉樹林に囲まれ視界も無く休むスペースも無い

(略)


折角稼いだ高度を捨てる様に樹林帯をどんどん下ると今度はカミソリ刃の登りだ

視界が開け、ここで漸く山頂が姿を現した


鎖で登り返し、いよいよ本日のハイライトとも言えるカミソリ刃のトラバースに入る


すぐ後ろの足音に声を掛けた、だか返事がない 振り向くと別の登山者だった

雄さん何処よと振り向けば、ここのところ、神経を削る仕事が続いた為か

木にもたれ腰を屈めている

赤嵓ノ頭の分岐に出た事を告げると息を切らして登って来たので3分ほど休憩を取った

頂上直下の胸突きは僅か10分ほどで有ったが、その10分が長かった事


「お疲れ様」の声に無理矢理、笑ってそれに応えた 山頂に着いたのだ

とりもなおさずへたへたと座り込み足を投げ出した

お疲れ様と声を掛けた6人は明日、苗場山へ登り松本空港から帰るとの事

見れば私達より年上な感じ、凄いパワーに、ただただ驚かされた




単独の男性が下り、間もなく6名が下り静かになった山頂は眺望も木立の中からで決して

良いとは言えないが俗世界から離れた秘境の山の趣を存分に味わう事が出来た

すると先ほど下って行った単独の男性が戻って来た  赤岩の分岐で時間を見ると3時の

バスには未だ間が有るので写真を撮って貰おうと戻って来たのだと言う

そりゃぁそうよね、登頂記念の写真は撮らなくては・・・特にこの山は

登頂して1時間、疲れは未だ残っていたが代わりに孤高の山の物静かな雰囲気を

幾分、軽くなったリュックに詰め下山の途についた


カミソリの刃

「危険に付き進入禁止」の看板の先に7m程の梯子が垂直に掛かっているのが見える

好奇心と言う虫が頭をもたげウズウズしている




下部の藪を潜って慎重に慎重によじ登る  登りあげて驚いた

ここは戸隠山の蟻の戸渡りよりも条件の悪い痩せた岩稜で幅は30㎝ほど

左右はいずれも薙ぎ落ちている 平ならばイザって進む事も出来るが1m程のコブが

数ヶ所あったりで、もし踏み外せば100m下の谷底に叩きつけられる

記念写真のみで退散した


(略)


稜線を外れるとまたしても、めくるめく急下降  登りは夢中だったせいか

こんな急な道を登って来たのかしらと驚くばかりの急坂だった


と、その時 ドスンと言う音と共に大きな黒い物体が草叢から飛び出してきた

一瞬、熊かと身構えたが良く見ればそれはカモシカだった

私達の方をジッと見つめたまま動かない カメラ・カメラと私の方が完全に興奮している

カモシカはフラッシュに一瞬、身構えたが山道に沿って5m程進み、そこでまた立ち止まった

カメラを構えながらジリジリ近づくとまた5m進み立ち止まってこちらを凝視する

「子供が近くに居るのかもしれない、侵入者を子供から遠ざける為の陽動作戦に

でたのだろう」と雄さん   やがて下の方から道路工事のモーター音が聞こえてきた

長く厳しく辛い道程を振り返り又一つ登り終えたと言う充実感がヒシヒシと

湧いてきた  苦しさも有るが楽しさも有る 泣きたい事も有るが喜びも有る

まさしく人生の縮図がこの山には有った


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