
H5年8月
富士山は眺める山 そう思っている私達にとっての最高峰は北岳です


この日は雨が降ったり止んだりと目まぐるしく変わる天候でした
登山口から3時間大樺沢二俣に到着です
晴れていれば、ここから北岳バットレスが見えるはずですが
残念ながらガスが濃くキタダケの「キ」さえ望む事が出来ませんでした
長い雪渓は何処までも続きます


苦しい登りですが一歩一歩
「急登に次ぐ急登は自分との闘いでしかない
相手を気遣う余裕すらなく一歩一歩、歩を進めなければ目的地に辿り着けないと
ただひたすら足を前に出していた
直ぐ前を登る女性二人が二歩進んでは立ち止まる行動にイライラして
「立ち止まらないで下さい」とつい口に出してしまったのも
心に余裕が失われてきたせいかもしれない」

大樺沢二俣で昼食をとり
そこから3時間、難所の八本歯のコルまでやって参りました
「ボーゴン沢の頭を抜け露岩帯、ハシゴを慎重に進むと斜面全体に
ハクサンイチゲ、キンロバイ、シナノキンバイ、トリカブト、オダマキ等々
色取り取りに高山植物が辺りを埋め尽くしていた
ここで少しばかり親しくなった若い男女3名が図鑑と照らし合わせながら
一つ一つチェックしていたので幾つか教えて頂いた
教えて下さったのは東京から来た恵美子ちゃんと言う子だった

広河原から8時間
こんな天気だから今日は登山者も少ないだろうと北岳山荘に着くと
どこから集まって来たのかと思う程ごった返していた
布団も2人で上下一枚づつ、単独で来た人は他人と?私は嫌だな!「
雨なので外にも出られず5時半の夕食までビールを飲んで横になっているしかない
食堂には浩宮様が宿泊された日の記念写真が掛けられていた
トイレは水洗に造り変えられ布団は羽毛布団を下からワザワザ運び上げた
と言うのだから何と言おうか・・・
お蔭で私達はその恩恵に授かれたのだから有り難い事だが


翌朝、目を覚ますと窓の真正面に富士山が有った
手を伸ばせば届きそうである
きっと浩宮様も、この山荘の窓辺に立って胸躍らせて眺めた事だろう
朝食前、外に出て御来光を待つ
正面に富士山を望みながらの荘厳な一瞬である
御来光は何度観ても素晴らしい!



山荘にリュックを預け間ノ岳まで足を延ばす事にした
赤い屋根の北岳山荘から中白峰(3055)迄はハイマツのプロムナード
悪化するのではないかと心配した天候も予想に反して爽やかに晴れ渡り
朝露に輝く高山植物を見ながらの稜線漫歩が楽しめた
振り返ると南アルプスの盟主に相応しくドッシリとした姿の北岳が




中白峰から間ノ岳迄は3000mのスカイラインを気持ちよく歩けるものとばかり
思っていたら、差に非ず岩稜帯のキツイ登りが待っていた
高山植物に励まされながら漸く間ノ岳山頂(3189・3m)に着いた時は
中白峰から約1時間半の時間が過ぎていた
苦しい登りが連続した後だけに農鳥岳や塩見岳が視界に飛び込んだ時の
喜びは大きかった (以下略)


稜線には既に横から雲が動き始め北岳のピラミダルな姿もガスの中に
消えてしまった 「もしかすると雷鳥が見られるかもしれない」
そう、雄さんが言った通り中白峰で小休止をとっていると
ハイマツ帯の中に6~7匹の子供を連れた雷鳥を見る事ができた
(略)
北岳山荘からいよいよ北岳への登りだが、此処がメチャクチャきつい
道半ばで私はヘロヘロに


体力の限界を超えたかなと思われた時、山頂表示が目の前に
展望なんてもう、どうでも良い (略)



本来は北岳の肩にもう一泊する予定だったがパス
無理してでも降りて桃の木温泉の湯に浸かりたい
小太郎尾根を駆け下り御池小屋で記念の写真だけを撮り




という事で登山口の吊り橋までの急坂を休む事なく駆け下って来たのでありました
19時になってしまっておりましたが温かく迎えてくれた桃の木温泉の女将さん
気持ちの良い湯量豊富な温泉に一気に疲れがとれた思いでした
皇太子さまのエピソード
ロビーで休んでいた私達の所にやって来た女将さんが言うに
「あの時は大変だったんですよ、登山の前日までに70灯の外灯を付ける事
登山道の石は一つも無いように片付けるべし、お付きの人達(70名)の羽毛布団を小屋に運び上げよ
そんな御沙汰がおりたのだとか
ただ、浩宮様が「昭和天皇が行った場所に私も行ってみたい」とのお言葉には
其処までの整備はとても出来ないと諦めて貰いましたけどね」
女将さんは昨日の事の様に語ってくれたのでした
