Fish On The Boat

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『声優魂』

2016-10-19 20:46:03 | 読書。
読書。
『声優魂』 大塚明夫
を読んだ。

帯に大きく、
「声優だけはやめておけ」
と書いてあります。
恋人や伴侶にするのはやめておけ、
という意味ではなく、
声優になるなんて勘違いをするな、
と言っている。

裏表紙を折った返しのところには、
____

「大塚明夫がやめとけって言うのならやめておこう」
とすぐに思ってもらえないのは、
私がまだまだ未熟な人間である証でしょうか。
せめて本書を読んで、
声優という夢をさっぱり諦めていただければ幸いです。
____

とあります。

ハイリスク・ローリターンの最たるものである、
声優という仕事。
そのハイリスク・ローリターンぶりを、
現実感を持って頭に描いていないひとばかりが声優を目指し、
専門学校に入ることを、著者はちょっと立ち止まって考え直せ
と終始一貫して言っています。

ほんとうに自分のやりたいことと声優業が一致していて、
さらに努力を惜しまず、才能を持っている。
そういうひとで、さらに、安定をもとめずに
声優の仕事を好きでいられるのならば、
声優を目指し、そしてやっていくことに文句は言わない、
というように、逆説的に本書から読み取れもします。

しかし、やはり、
「声優を志すお前等若者よ、その勘違いに気づけば、
声優なんて目指すことのバカさ加減がわかるだろう?」
という調子なんですよ。
それはある種の不器用な思いやりなのかもしれない。

ぼくはもちろん、声優を志すことも、志そうと思ったこともありませんが、
著者の大塚明夫さんが、昔、従兄と一緒にやった
「メタリギア・ソリッド」という有名なゲームの主人公の声を担当していたこと、
新スタートレックの副長の声を担当いていたこと、など、
彼に対してうまくて印象に残る声優だなあというイメージがあたまにあったことから
本書を読んでみたのでした。

本書の論調のひとつの骨にもなっている、
「なによりも好きであること」については、
でも、嫌いでも得意ならやっていけるんだろうなあ、と、
最近の糸井重里さんのツイートから考えてもみました。
好きよりも得意な方が、何かをやるには向いている。
それは幸福か否かとは別次元の話なんでしょうね。
やっているうちに好きになる得意なこともあれば、
まったく嫌なままの得意なこともあるでしょう。

はたして、好きなことを得意していくことはできるのか?
本書では、まず勘違いから逃れることで、
ほんとうにそれが好きかどうかを洗い直すことが大事だとしている風です。
そこから、自分の進む道をどうするか、
それは楽しいほうを選びなさい、
そして、楽しい方とは大部分のひとにとっては、
声優というハイリスク・ローリターンな世界ではないでしょ?
という結論になっていきました。

これは、物書きの世界だって同じようなことが言えますよね。
個人業の夢を持つ人なんかには、
ちょっと類推しながら、ところどころをメタファーとして読むと
いろいろと考える種が見つかる本でしょう。

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