Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『人とミルクの1万年』

2017-10-13 22:16:30 | 読書。
読書。
『人とミルクの1万年』 平田昌弘
を読んだ。

ハズレの無い岩波ジュニア新書からです。

ひとはいつ人間以外の動物のミルクを
飲食に利用するようになったのでしょう。
考古学的な証拠から推測すると、
1万年近く前から、になるそうです。

そして、搾乳(乳しぼり)はどこで始まったのか。
それは、西アジアのシリアあたりが有力だそうです。

と、まあ、
そういった起源を明らかにしつつ、
乳文化について、その種類や系統を説明して、
ヨーロッパや北アジア、南アジアなど各地域での
乳利用や加工のいろいろについて紹介・説明してくれます。

やっぱり、「気候」がミルクの利用方法に大きく影響している。
乾燥地帯なのか冷涼湿潤なのか、などなど、
ミルクの発酵の仕方、保存の仕方、
もっといえば、搾乳時期なども関わってくるようです。

それで驚いたのは、
ミルクというものが血液からつくられるものだ
ということは知っていたのですが、
1リットルのミルクのために、
たとえばウシならばどのくらいの血液から作られているか、
というところ。
なんと、500リットルの血液から作られているそうです。
著者はだからこそ、大事に頂かねば、
という気持ちにさせられると述べています。

また、大人が牛乳をたくさん飲んだがために、
おなかがごろごろしてしまう原因についても書かれていました。
その犯人は乳糖なる成分。
乳糖を分解する酵素が、子どもにはあるのですが、
大人にはないんですって。
一部の地域では大人も乳糖を分解できるそうです。
しかし、日本人にはそれはないようですね。
そんな乳糖が多い馬のミルクを利用して、
モンゴルのひとたちは乳酒を作るのだそうです。

というように、
さまざまな乳文化にこの本を通してふれるだけで、
世界の広さを知るかのようです。
ミルクは完全食ともいえるもので、
多くの人間は、生き延びていくために大事に利用してきたんですねえ。
日本でも、貴族は室町時代くらいかその前くらいまで、
濃縮乳なるものを食していたそうです。

ミルクは、ぼくたちの身近な製品でありながら、
その化学的な部分も、歴史的な部分も、
実はよく知られていません。
ミルクにかかっている無知のベールを、
ぼくたち自らがはがして知ってみる機会を、
与えてくれる本になっています。


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