Fish On The Boat

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『「面白い」のつくり方』

2019-11-12 19:58:04 | 読書。
読書。
『「面白い」のつくり方』 岩下智
を図書館で読んだ。

SNSでも仕事のメールでも服装でもごはんのメニューでも、
そこにはなんらかの自己表現があるはずで、
もっと言えば、何気ない会話にだってそれはある。
そしてその自己表現の中に少しだけでも「面白い」をプラスできたら、
毎日がちょっと楽しくなるはず…。
という意図がある本です。

表現は、自分本位ではなく、
相手の気持ちをとことん考えることが大切なのです。
つまるところ、表現の基本は「コミュニケーション」。

では、「面白い」とはなにか。
日頃、意識もせず、「面白いねー」などと使うその言葉、
「面白い」を大辞林第三版で引いたその結果が引用されているのですが、
それは以下の通り、
①楽しい。愉快だ。
②興味をそそる。興味深い。
③こっけいだ。おかしい。
④(多く、打ち消しの語を伴う)心にかなう。好ましい。望ましい。
⑤景色などが明るく広々とした感じで、気分がはればれとするようだ。
あかるく目が覚めるようだ。
⑥心を惹かれる。趣が深い。風流だ。
つまり、「面白い」とは、楽しさや興味、こっけいさ、趣などの
何らかの魅力が感じられる様なのでした。
さらに、つっこむと、
「面白さ」=「人を惹きつける何らかの魅力がある状態」。
それを知覚したとき「面白い」と感じるのです。
ここでは「知覚する」というところがポイントです。

すべての人に「面白い」と思われるものなど、
この世の中には存在しないと考えていいでしょう、と著者は述べていますが、
いざ表現を仕事として任された時などに、
みんなにウケないとならない、と構えてしまうことが、
面白い表現をする以前に、足かせになってしまうんです。
そこは気楽な方がいいし、
このあとに述べられるざっくりした方法論が、
きっと「ウケないと!」と構えてしまう心理から
解放してくれる助けになってくれる。
そして、ヒントとして、こう書かれています。
自分の「面白さのツボ」を明確にわかっていれば、
自分の得意とする「面白い表現」にそれを活用することができる、と。

そこで僕が思ったのはこういうことでした。
自分の「面白さのツボ」と相手の「面白さのツボ」は違うものですが、
うまく相手とコミュニケーションをとるためには、
(作為的になるけれど)相手の「面白さのツボ」をついていかないといけない。
これは本書に述べてある部分。
そのためには「作為的」という言葉へのマイナスイメージを取りはらい、
今一度、自分の中で、ゆるくであっても再定義して、
感情から離して眺めてみる必要があるのではないか。
作為的にやるということは、ウソともとれる行動を自分がする、ことに繋がりますよね。
ウソともとられるようなことをしてしまう、
そのことに対して心理的にどう呑みこむか。
そこは各々が自分の言葉で整理をつけて行うことです。
もしも心の中で舌をぺろっと出すようにウソをついて、
悪いことをしたという認識のままやってしまうと、
心に負債を抱えることになるでしょう。
だから、作為性にたいしての心の整理が必要なのではないか。

だけれど、面白さ最優先、面白さ原理主義にはならないほうがいいでしょう。
多くの人がウケる「面白さ」が正しいとは限らない。
むしろ、ミスリードとして悪い方向への進路をとらせてしまうことだって
少なくないのではないでしょうか。
また、教養の多寡によって
「面白さのツボ」は変化すると思います。
比較的無知である状態の人の「面白さのツボ」ばかりついてはいられない。

というところで、また本書の内容紹介に戻ります。

「面白さ」の要素は、
「共感」→「あるある」など。連想、時事ネタ、パロディ、お約束、内輪ネタ。
「差別(差をつけて区別すること。
偏見などから特定の人びとを不利益・不平等な扱いをする「差別」とは違う)」
→自分をおとしめて相手を上に立たせる「自虐」や「ピエロ」など。
また、サーカスの技芸などは相手を上に感じながら「すごい!」と面白がらせる。
ギャップ、誇張、比較、タブー。
という二点に縦に大別され、
一方で、面白さの質は
「笑える」「趣がある」の二点に横に大別され、
その面白いことが、その四点の間のどこにポイントされるかで、
面白さの質を分析できます。

それでもって、
そんな多様である「面白い」を作るためには、
①余裕を持つ (効率の対極。自分自身の生活そのものを面白がるために必要。
それが面白い表現につながる。)
②「よそ見」をする (好奇心。好奇心は脳を活性化させ、
何歳になっても脳を成長させる。)
③「観察」をする (客観的に見る)
④「法則化する」 (言語化する。そうすれば、整理力が上がり、
構文化できるようになる。)
⑤「表現」する (正解を求めるのではない。「関連付け」と「ずらし方」が大事。
「関連付け」は予定調和に注意で、それを解決するのは「ずらし方」。
「ずらし方」は不可解なものになることに注意で、それを解決するのは「関連付け」、
といった関係性になっています。

このなかで最も重要なのが、
「①余裕を持つ」であると、位置づけられていました。

また、「④法則化する」のところでは、
「A」を「B」すると面白くなる、というものだと示されていて、
例としては、
・「冗談みたいなこと」を「本気で具現化する」と面白くなる。
・「たまたま出会った古い情報」から「当時のストーリーが想像できる」と
面白くなる。
などがありました。
この「法則化する」では、抽象化してあてはめることがコツとのこと。

以上が、「面白い」のつくり方の流れです。

最後に、終盤に気付いたことをメモのように。

デッサンは絵を描く基礎ですが、
それはモチーフの形や質感、陰影などをよく観察し描くからです。
小説を書く際にもこれらは大事なんだけれど、
それがデッサンにとどまっていないかを意識すると、
僕なんかにはすごく良いことかもしれない。
また、小説に関連して、こういう文意のところもありました。
小説を読む美点は、
文章を頭の中にビジュアルとしてイメージする作用が良い経験になるから。
それができれば、逆の行為もできるようになる、と。
つまりは、言語化の能力があがるというんですね。
想像しながら小説を読むことで、言語化力が強化される。
小説を書きたいなら、小説をしこたま読みなさい、
と言われるのには、こういう作用があるからなんだなあ、と気付けるところでした。

といったところで、おしまいです。
著者は電通のアートディレクターの方です。
クリエイティブな世界で、クリエイティブな仕事にどっぷりつかって、
ときに苦しみ、ときに笑いながら、面白いことが大切だとはっきりつかんだ方の書く、
面白さと面白さをつくることをを考える本が本書です。
IT革命後の現代では、ふつうの個人でも表現がごく通常の行為になったというか、
日常生活においての行為が表現であると認識されるようになりましたから、
よりよく生きていくためのヒントとして読んでも、
ストライクだろうなあと思いました。

著者 : 岩下智
CCCメディアハウス
発売日 : 2019-06-27

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