Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『もしも、詩があったら』

2019-11-13 21:59:54 | 読書。
読書。
『もしも、詩があったら』 アーサー・ビナード
を読んだ。

詩人・アーサー・ビナード氏による、
「もしも(if)」という視点から、
古今東西の様々な詩をたのしむアンソロジー・エッセイ。

アメリカ人ですが、90年に来日していて、
日本語の文章が巧みです。
これだけ操れると、日本語を使うのがかなり楽しいでしょう。
その高みがまばゆくうらやましく見える読者もたくさんいると思う。
努力と言語的素養のたまものだなあ、
と尊敬の念とライバル心を持ってしまいました。

さてさて、
「もしも(if)」があってこそ創造物が生まれるといって過言ではない。
著者は、「もしも(if)」を、想像力を呼び覚ます装置、と分析している。
「もしも(if)」を用いることによって、
思考停止状態の泉に石を投げ入れ、波紋を生じさせることができる。
そして詩とは、役に立つものとは言えないけれど、
そういう作用を持っていたりもするよね、
というように、あとがきでは締めくくられていました。
もっとも、そういう一石によって発生する波紋は、
琴線を揺さぶる波紋になります。
楽しい、哀しい、面白い、切ない。
そしてもっと複雑な音色を心中に響かせもする。

ものによっては言語レベルが高すぎて、
その詩を理解できるまでいかない場合もありますが、
そういった悔しかったり残念だったりする経験が、
「わかりたい」という意欲に転化して、
一歩も二歩も、いや、五十歩も百歩も、
言語的山道をのぼっていくようなことになり、
見たことのない景色を知ったりもするでしょう。

本書は、紹介される詩句がまずおもしろいのですが、
なにより著者のエッセイそのものに気持ちよさをとても感じました。
読むことの幸せをつよくつくれる文章って、すごいよねえ、と思います。

アーサー・ビナード氏は、本書を購入した段階で存じ上げませんでしたが、
このあいだ、何かのテレビ番組で、何かについてコメントしているところを見ました。
では読もうか、と本書を手にとって著者名を眺めて、あれ?と思った次第です。

なんていうかですね、
この間、谷川俊太郎氏の詩集を読んだばかりですけど、
こういう本をよむと、生活に、清冽だったり激しかったりする小川が流れるような、
自分の中のどこかの渇きが癒えるような体験になりますね。
そういうのって、とっても好いよなあと感じます。


Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする