Fish On The Boat

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『もっと知りたい ガウディ』

2020-01-27 22:54:54 | 読書。
読書。
『もっと知りたい ガウディ』 入江正之
を読んだ。

株式会社東京美術から刊行されている
『もっと知りたい 生涯と作品』シリーズの建築家・ガウディの巻です。
彼が手がけた建築物のなかでは、
スペインにてまだ建設中の大作であるサグラダ・ファミリアが一番有名ですよね。
たまにテレビ番組で取り上げられるので、ご存知の方も多いはず。
サグラダ・ファミリアは集大成だろう、と考えていましたが、
彼の死後、サグラダ・ファミリアに関する数々のスケッチや模型が、
スペイン内戦により失われてしまったことによって、
そうではないという見方もあるようです。
弟子たちなどによってサグラダ・ファミリアの模型が復元されたり、
完成予想図を作ったりしたそうなんですが、
手法や精神が失われたままで「ガウディの建築」と言えるのか、
と疑問視する声があることが、本書の最後のほうに述べられています。

有名な、代表作とまで言われるようなサグラダ・ファミリアに、
そんな内情があるなんて知ってしまうと、
残念な気持ちになりますが、
本書では、初期から晩年にいたるまでの
彼の建築を写真と解説文で紹介し、
ガウディの建築家としての生涯を駆け足でたどれる作りになっています。
ところどころ、難しい用語と、幾何学的想像力を使う場面がでてきますが、
構えることはありません。
わかりにくいところを飛ばしても、
ガウディ作品の写真から、響いてくるものがあります。

初期の頃から、ガウディは細部にこだわり、
みっちりとひとつの建築物のミクロからマクロまで
意識しないところはないような作り方をしていたようです。
それは、作風が変わった後期にしてもそうで、
後期のあのうねったような生々しさのある建築でさえ、
イメージ性だけで作られたものではないのか、と
創造というものの認識を新たにするような印象を受けます。

小さなところから大きなまとまりまで、
これはこういう意味合いだっていう意識がはっきりしていて、
その総体としてひとつの建築物ができあがっているような感じを受けるんです。

後期の建築なんて、「すごいところに行ったなぁ」と素人目にも映ります。
でも、それがいろいろ歩き回りすぎて袋小路に迷い込んでしまったのではなく、
新たな、誰も知らない地平を見つけた感覚があるんです。
誰も知らないものが「発現した」と言いたいくらいですが、
たぶん、ガウディからすると、発現ではなくて「発見」になるんだと思います。

こういうガウディの言葉が載っています。

「創造は人間を通して絶え間なく働きかける。
しかし、人間は創造しない。発見する。
新しい作品のための支えとして自然の諸法則を
探究する人々は創造主と共に制作する。
模倣する人々は創造主と共には制作しない。
それゆえ、独創とは起源に帰ることである。」

意訳すると、
枝葉末節よりも幹を見よ、
その幹からあふれ出ているものこそが創造だ、
それでいて、全体にアンテナを張りなさい。
みたいになります。
僕のイメージだとそういう感覚ですね。

本書は、楽しいし、おもしろいし、
感嘆しちゃうし、わくわくするし、でした。
ただ、読んでいて、脱線気味に次のようなことも考えたのです。

先日読了した『砂糖の世界史』では、
1000万人の奴隷狩りと奴隷たちによる、
主に砂糖などのプランテーションで得られた富が
イギリスをはじめとするヨーロッパの強国を潤わせ、
産業革命にも繋がっていったものと説明されていました。
ガウディのパトロンも、製糖業や奴隷狩りで得た潤沢な富を基盤としています。

これだけ、後世の人たちまでわくわくさせるものを創ってきた
ガウディなり芸術家なり音楽家なりも、
パトロンの存在なしでは語れないとすると、
そこには黒人奴隷の人生を容赦なく搾取してきた上で成り立っていた、
という業が浮かび上がってくる。
そういう裏側を見据えようと思えてくるのが、
人生折り返しの時期ならではなのかなあ、と自分を鑑みると思えてきます。

また、乱暴な類推かなとも思うんですが、
すばらしい仕事を残しても私生活ではどうしようもない、みたいなのも、
他者のLifeを搾取してやってる仕事であって、
依存的なものだと言えなくないかな、と。

すごい作品を残したから手放しでたたえよう、とされる人のその裏側で、
いろいろと踏み台にされたものがある。
競争社会でしょ、と言われればそれまでかもしれないですが、
それは都合よく言われただけのものじゃないのかなあ、
と大いに腑に落ちない部分があります。

そういうところも踏まえつつ、
今後の読書や思索に活かしていきたいです。


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