Fish On The Boat

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『職業としての小説家』

2020-01-12 14:30:09 | 読書。
読書。
『職業としての小説家』 村上春樹
を読んだ。

長きにわたって第一線で活躍しておられる、
小説家・村会春樹さんによる、
まるで継承のための本のようにも読めてしまう本です。
(本人はあくまで自分のために書いているようではあるのですが)

継承しに来る者は拒まず、
でも、バトンを取りに来たからには全力が前提条件、みたいな感じです。
賞の選考委員をこれまでやらずにきたことに
後ろめたさを感じることもあるという村上春樹さんの、
選考委員をやることではないかたちでの社会的責任としての態度かもしれません。

自分にとって大切なことを書けば重くなる。
自分にとって大切じゃない事をかけば軽くなる。
というような方法論には考えさせられました。
試す価値がすごくあります。
ただ、大切じゃない事を、どれだけ自分がわかっているか。
ちゃんとわかっていないと書けないようなところってあります。
だからといって、出まかせで書いてしまうこともなかなか難しいのです。
明らかに浮いてしまったり説得力が無くなってしまったり。
そうならない範囲での大切じゃない事をしぼって書くだとか、
範囲より外に出過ぎないことだとかが大事になりそうだなあと感じました。

そこらへんとも関連してなのですが、
村上春樹さんは作家スタイルを
「結婚詐欺」と揶揄されたことがあるそうですが、
ご自身、小説家は手品師みたいなところがある、というようにおっしゃっています。
なるほど、ですよね。
言い方ひとつで角度を変えて物事を捉えられます。
詐欺はいやだけど手品をするのならいいか、という気持ちは役立ちます。
今度試してみようという気になる。
それで、さきほどの、大切じゃない事を書く際にも、
範囲を過ぎてしまう場合だったなら、
詐欺ではなくて手品として「すかす」ことなく芸としてやってみればいいかもしれない。

すかす、といえば、
村上春樹さんは、デビューした頃から慣れてくるまで、
すかすように作品を書いていたようなところがあるそうです。
でも、正面突破する作品のほうに価値を感じて、
そちらへ転じた、と。力量もついてきたし。
最近でも、すかすことが文芸の作法みたいな感じの審査員っていますけれども、
まあ、それもその人のクセであるということですね。
僕は力量はまだまだだけれど、気持ちは正面突破の方を向いています。
そっちの方向で力をつけていきたいです。

とまあ、村上春樹さんご自身をお手本としたり、
彼の考える小説家像について、いろいろと
「小説家」について見ていく本です。
村上春樹さんはかなりの読書家でもあるので、
その小説家像には言外にですら含蓄を感じるくらいです。
そこに僕自身を当てはめてみると、
まあ、ぴったりな部分と真逆な部分が半々かもしれないです。
小説家の素養だとか資質だとかを問われると、
大したことが無い。
でも、型にはまろうとは思わないので、なるようになってゆきます。

そんなわけでしたが、
エッセイであっても、村上春樹さんの文章って、
なんだかしっくり気持ちが良いのです。
そんななか、長編に掛ける時間と熱の量のすごさには脱帽するくらいでしたし、
さまざまなトピックに、好奇心が刺激され続ける読書になりました。
僕はハードカバー版のを読みましたが(ずっと積読でした)、
今は文庫版でも発売されているので、
手頃なのがよろしいかたは、そちらでこの本に触れてみてください。

著者 : 村上春樹
スイッチパブリッシング
発売日 : 2015-09-10

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