Fish On The Boat

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『砂糖の世界史』

2020-01-24 20:47:33 | 読書。
読書。
『砂糖の世界史』 川北稔
を読んだ。

いまやありふれた、なんのことはない食べものであり調味料である砂糖。
貴重品だった時代までさかのぼり、
どのように普及していったかを、
イギリスを中心にその歴史をなぞっていきます。

もともとはイスラム世界がその製造方法を知っていたのだそうです。
製糖方法はヨーロッパへは門外不出の技術だったのですが、
ヨーロッパを凌駕していたイスラム世界の勢いが弱まってくると、
占領されていたヨーロッパの土地をヨーロッパ人たちは奪い返し始め、
そのときに製糖方法も奪取したのだそうです。
その当時は、地中海の島々やスペインなどのヨーロッパ南部で砂糖きびが栽培され、
それらが砂糖に変えられていた。
重労働でしたが、もはやこういった初期の頃から奴隷をつかって生産されていたと。

このあと、大航海時代からカリブ海での
砂糖プランテーションでの大生産時代を見ていくことになるのですが、
砂糖と奴隷はあわせてひとつといったくらいに密着したものだったようです。
砂糖を栽培しようと思わなければ、アフリカで奴隷狩りもなかった。
そのあと、綿花や茶、コーヒーにタバコなどの
プランテーションにも黒人の奴隷が使われていきますが、
1000万人以上が奴隷狩りによって、故郷のアフリカから連れ去られ、
人権などない生活をさせられていた。
ぎゅうぎゅう詰めの船内では、脱水症状や伝染病で命を落とすばかりか、
連れ去られた恐怖と不安で、海に飛び込んで自殺する人もいたそうです。

そこまでして手に入れたい砂糖。
それは薬とされもしましたが、
やはりその甘味を渇望していたのと、
砂糖を所持していること、味わっていることが、
貴族のステイタスとされたことなどから、
特にイギリスでかなり欲しがられたそうです。

生産するだけ売れて消費されていく。
労働費用は奴隷を使っているからそれほどでもない。
そうやってプランテーションの農場主や商船を持つひとたちは
どんどん潤っていったそうです。
どこまでも儲けたいという強大な金銭欲が、
アフリカの黒人たちや、カリブや南北アメリカの先住民の命を
まるで考えの外にほうった状態でヨーロッパ人たちを突き動かしていった。

そういった罪深い事実の上に、
産業革命があり、
今日の南北問題がある。

本書は、そういったことを、
地に足をつけながら、一歩一歩あるいていくようなペースで、
ざっと知っていくことができる本です。
これぞ岩波ジュニア新書!と言いたいくらいにわかりやすく、
そして内容が薄くありません。

砂糖の歴史を追っていくうちに見えてくる、
ダイナミックな、人間の深い業が、
読者に自問をさせもすると思います。
いいのか、これで、と。
欲望に狂った長い時代の上に、今がある。
その今も、おかしくはないかな?
と考えてみるのも、おもしろいと思います。

良書ですので、おすすめです。


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