読書。
『カモフラージュ』 松井玲奈
を読んだ。
女優で、元アイドルグループSKE48の中心メンバーだった
松井玲奈さんによる短篇集。デビュー作です。
6篇の短篇、それぞれがすべて方向性の違うもので、
「どんな枠にも柔軟に対応してみせる」かのように、
自分なりの作品を作り上げています。
意欲的で、野心的です。
そして、文章力や構成力、発想力には確かなものがありますが、
たぶん、6作品を書いていくうちにも、
それらのレベルが上がっていっている印象です。
では、いくつか、感想を。
まず、オープニングを飾る「ハンドメイド」を。
僕もちょっと書く人だから気付くようなところはあるんだけれど、
たとえば細かく語りすぎて野暮ったくならないように、
文章に抑制を効かせることってありますが、
それによって行間が広くなりすぎるというか、
伝達不足になるというかはある。
序盤にそう感じたところはあった。
でも、彼女ならではの視点はあるし、
文章もうまく書けていた。
引いて見たときの文章感、
たとえばつまり比喩の比率やタイミングなどがわかりやすいところだけれど、
そういうところだとか、
長いのと短いのとの文章の組み合わせ方だとか、素人ではなく思えた。
芸能人作家だと思って読むと、かなり感心させられます。
そしてなにより、話に血が通って感じられた。
さらに結末部分での統合感がすばらしかった。
伏線は、伏線というより並行するテーマという感覚がしたし、
それらがうまく結合して相乗効果を生んだ上にドッキングの仕方が自然で柔らかい。
知性とかフィーリングとかを併せてうまく使ってる感じです。
読み終えて、題名の「ハンドメイド」がどんな意味合いなのかと考えたのだけれど、
つまりはちらと出てくる「即席」なる言葉の対義語としてなのかなと、
自分なりのオチをつけてみた。
松井玲奈さん、書き続けていくのは大変かもですが、
がりがりやっていくともっと巧みな書き手になりそうだと思いました。
続いて、「ジャム」を。
こういうホラーのトーンのものも書くのかー、とびっくりした。
最初から乱調的な文章があったから、さては内容もと思ったけど、
思ったよりずっとすごかったですねえ。
力が抜けている感じで気持ちよく執筆できている印象なのが恐ろしいです。
松井さんはいろいろなものを読まれているようだし、
映画もスプラッタなのをよく観ているのだろう。
なんか、昔観た『ファーゴ』を思い出しました。
あれのあのシーンが、
けっこうこれのこのシーンと似ていますからね。
しかし、なにしてくれるねんと。
なに読ませるんだよ、って笑ってしまった。
そして、「いとうちゃん」を。
軽快なテンポで語られるお話。
読んでいるほうも、つい前のめりになってしまう。
しっかりした文章力だと思いました。
それまでの二作に比べて饒舌感があり行間が狭い感じがして、それが効果的。
いろいろ試してるってことですよね。
内容もメイド喫茶の中身をわかって書いていて、
そういうのって僕はテレビで特集をみたくらいなものでほとんど知らないですから、
「はー」とか「ほー」とかと頷きながら楽しみました。
松井さん、こりゃ書き手として光るものを持ってますよ。
ちょっと、「やるな」と思って構えちゃいますから。
話を最後にたたむのも上手。
で、残りの三作品については書きませんが、
著者は、いろいろな枠の中に憶せず飛び込んでいって、
だいぶ暴れましたね。
暴れただけじゃなくて、理性でまとめています。
そういうのこそ、巧みさなんだと思います。
帯に、
「誰もが化けの皮をかぶって生きている」
とあるんですが、
本書はこの一言につきますね。
言い得ています。
さまざまなカテゴリーを横断しつつ、
『カモフラージュ』という一冊の本を貫通しているテーマがそれです。
そういうことだってしてしまっているんだから、
間違ってもあなどってはいけません。
煌びやかな世界から、
ネームバリューで文学の世界に飛び込んできたと見たとしたら、
それは見損なってしまっています。
普通に、ひとりの女流作家さんがデビューしたのだ、
と捉えるべきなのでした。
『カモフラージュ』 松井玲奈
を読んだ。
女優で、元アイドルグループSKE48の中心メンバーだった
松井玲奈さんによる短篇集。デビュー作です。
6篇の短篇、それぞれがすべて方向性の違うもので、
「どんな枠にも柔軟に対応してみせる」かのように、
自分なりの作品を作り上げています。
意欲的で、野心的です。
そして、文章力や構成力、発想力には確かなものがありますが、
たぶん、6作品を書いていくうちにも、
それらのレベルが上がっていっている印象です。
では、いくつか、感想を。
まず、オープニングを飾る「ハンドメイド」を。
僕もちょっと書く人だから気付くようなところはあるんだけれど、
たとえば細かく語りすぎて野暮ったくならないように、
文章に抑制を効かせることってありますが、
それによって行間が広くなりすぎるというか、
伝達不足になるというかはある。
序盤にそう感じたところはあった。
でも、彼女ならではの視点はあるし、
文章もうまく書けていた。
引いて見たときの文章感、
たとえばつまり比喩の比率やタイミングなどがわかりやすいところだけれど、
そういうところだとか、
長いのと短いのとの文章の組み合わせ方だとか、素人ではなく思えた。
芸能人作家だと思って読むと、かなり感心させられます。
そしてなにより、話に血が通って感じられた。
さらに結末部分での統合感がすばらしかった。
伏線は、伏線というより並行するテーマという感覚がしたし、
それらがうまく結合して相乗効果を生んだ上にドッキングの仕方が自然で柔らかい。
知性とかフィーリングとかを併せてうまく使ってる感じです。
読み終えて、題名の「ハンドメイド」がどんな意味合いなのかと考えたのだけれど、
つまりはちらと出てくる「即席」なる言葉の対義語としてなのかなと、
自分なりのオチをつけてみた。
松井玲奈さん、書き続けていくのは大変かもですが、
がりがりやっていくともっと巧みな書き手になりそうだと思いました。
続いて、「ジャム」を。
こういうホラーのトーンのものも書くのかー、とびっくりした。
最初から乱調的な文章があったから、さては内容もと思ったけど、
思ったよりずっとすごかったですねえ。
力が抜けている感じで気持ちよく執筆できている印象なのが恐ろしいです。
松井さんはいろいろなものを読まれているようだし、
映画もスプラッタなのをよく観ているのだろう。
なんか、昔観た『ファーゴ』を思い出しました。
あれのあのシーンが、
けっこうこれのこのシーンと似ていますからね。
しかし、なにしてくれるねんと。
なに読ませるんだよ、って笑ってしまった。
そして、「いとうちゃん」を。
軽快なテンポで語られるお話。
読んでいるほうも、つい前のめりになってしまう。
しっかりした文章力だと思いました。
それまでの二作に比べて饒舌感があり行間が狭い感じがして、それが効果的。
いろいろ試してるってことですよね。
内容もメイド喫茶の中身をわかって書いていて、
そういうのって僕はテレビで特集をみたくらいなものでほとんど知らないですから、
「はー」とか「ほー」とかと頷きながら楽しみました。
松井さん、こりゃ書き手として光るものを持ってますよ。
ちょっと、「やるな」と思って構えちゃいますから。
話を最後にたたむのも上手。
で、残りの三作品については書きませんが、
著者は、いろいろな枠の中に憶せず飛び込んでいって、
だいぶ暴れましたね。
暴れただけじゃなくて、理性でまとめています。
そういうのこそ、巧みさなんだと思います。
帯に、
「誰もが化けの皮をかぶって生きている」
とあるんですが、
本書はこの一言につきますね。
言い得ています。
さまざまなカテゴリーを横断しつつ、
『カモフラージュ』という一冊の本を貫通しているテーマがそれです。
そういうことだってしてしまっているんだから、
間違ってもあなどってはいけません。
煌びやかな世界から、
ネームバリューで文学の世界に飛び込んできたと見たとしたら、
それは見損なってしまっています。
普通に、ひとりの女流作家さんがデビューしたのだ、
と捉えるべきなのでした。