読書。
『第1感』 マルコム・グラッドウェル 沢田博・阿部尚美 訳
を読んだ。
副題は、<「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい>です。
はじめての人と出合ったり、本物なのか贋作なのかわからない美術品とでくわしたり、そういったとき人は、無意識のうちに瞬時に正しい判断を下せるものなのだ、というのが、本書の大きなテーマです。逆に、情報過多になるくらいの情報をふまえて判断していくほうがよっぽど間違えるものだ、ということも明らかにしていました。様々な事例や研究から論立てしていく構成になっています。
誰しも第一印象が正しかったケースを経験していると思います。同様に、第一印象で間違ってしまった経験もあるでしょう。それは偶然の産物ではない、と著者は論じていくわけです。最初の2秒での判断を、本書では「輪切り」と呼びます。その瞬間の輪切りから情報を取り出して、人の無意識は一瞬のうちにただしい判断をするのだと。でも、そこには個人差があります。経験や知識、訓練といったものが積み重なっていてこそ、輪切りによる判断はうまくいくようです。また、輪切りから引き出されるさまざまな情報のうち、どれがその場合においてもっとも重要なポイントなのかも判断するカギになる。たとえば、輪切りから10の情報を手に入れたとして、判断に使うのはそのうちでも重要な3つだとかになるわけです。そういった判断、選択、決定の精度が経験や知識、訓練によって上がっていくもので、そうやって精度の上がった「第一感」はより正しく瞬時に判断を下すものだし、「第一感」を信頼できるようにもなっていきます。
また、アメリカでは警察による誤認発砲などで命を落としてしまう黒人のひとたちが多数いるのですが、そういう場合になぜ「第一感」が作動しないか、というところも本書の後半部で明らかにしています。そこには、自閉症の人とおなじように、人の心が読めなくなる心理が働くためだという理由がある。人の心が読めなくなるのは、興奮しすぎている状態がそうだといいます。また、同様に、心拍数が175を超えるなど過剰に血流がよすぎるようになると、これも興奮状態であって、人であってもモノとして捉えるような集中の仕方(これも自閉症的なのです)になってしまう。つまり、落ち着いていないと第一感を捉えられないのです。瞬時に判断する第一感といえど、自らが落ちつくための時間が必要であるのでした。あまりに短い時間での判断を強いられても、第一感以前の最低限の直観的反応しかできなくなるそうです。たとえば、とりあえず怪しい人物へと銃を構えるというような。
本書で特におもしろかったのは、表情からピタリとその人の感情や嘘をついているかなどを当ててしまう教授の話です。目は口ほどにモノを言う、といいますが、顔全体は目よりもモノを言っているみたいです。表情筋の動きや、できた皺から、その人が寛容な人物なのか凶暴な人物なのかさえ判断できるとのことです。そんな人の顔から、僕たちは日常的に第一印象で無意識に判断していて、好感をもったり嫌悪感を抱いたりします。まあ、判断する側の価値観も関係するわけですから、そのあたりも鑑みる必要がありそうだと、僕は考えましたが、人の顔にはそれだけありありとその人の人間性が表出されているのだなあと知ると、ちょっと怖さも感じました。
それと、この表情から人となりなどを当ててしまう教授が学生の頃に競馬の予想屋をやってかなり儲けたそうで、その予想の切り口がどうやら競走馬の心理を考えるものなのでした。あるレースである牝馬に負けた牡馬が、別のレースでその牝馬と一緒になり、となりのゲートに入ったならその牡馬は決して勝てない、だとか理論があるそうで。もうちょっと詳しく知りたくなりましたが、数行程度でその記述は終わっていて、惜しかったです……。
というところですが、読み応えのある良書でした。翻訳もよみやすいです。2006年発刊ですが、内容はまだまだ古くなっていません。言語化することで第一感が鈍ってしまう、という章もありそこもなかなか肯けるのですが、言語化でアジャストしていくことが良いのだ、とする現在の認知科学の方法論と照らして読んでみると、自分なりの咀嚼ができるのではないかなと思います。
『第1感』 マルコム・グラッドウェル 沢田博・阿部尚美 訳
を読んだ。
副題は、<「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい>です。
はじめての人と出合ったり、本物なのか贋作なのかわからない美術品とでくわしたり、そういったとき人は、無意識のうちに瞬時に正しい判断を下せるものなのだ、というのが、本書の大きなテーマです。逆に、情報過多になるくらいの情報をふまえて判断していくほうがよっぽど間違えるものだ、ということも明らかにしていました。様々な事例や研究から論立てしていく構成になっています。
誰しも第一印象が正しかったケースを経験していると思います。同様に、第一印象で間違ってしまった経験もあるでしょう。それは偶然の産物ではない、と著者は論じていくわけです。最初の2秒での判断を、本書では「輪切り」と呼びます。その瞬間の輪切りから情報を取り出して、人の無意識は一瞬のうちにただしい判断をするのだと。でも、そこには個人差があります。経験や知識、訓練といったものが積み重なっていてこそ、輪切りによる判断はうまくいくようです。また、輪切りから引き出されるさまざまな情報のうち、どれがその場合においてもっとも重要なポイントなのかも判断するカギになる。たとえば、輪切りから10の情報を手に入れたとして、判断に使うのはそのうちでも重要な3つだとかになるわけです。そういった判断、選択、決定の精度が経験や知識、訓練によって上がっていくもので、そうやって精度の上がった「第一感」はより正しく瞬時に判断を下すものだし、「第一感」を信頼できるようにもなっていきます。
また、アメリカでは警察による誤認発砲などで命を落としてしまう黒人のひとたちが多数いるのですが、そういう場合になぜ「第一感」が作動しないか、というところも本書の後半部で明らかにしています。そこには、自閉症の人とおなじように、人の心が読めなくなる心理が働くためだという理由がある。人の心が読めなくなるのは、興奮しすぎている状態がそうだといいます。また、同様に、心拍数が175を超えるなど過剰に血流がよすぎるようになると、これも興奮状態であって、人であってもモノとして捉えるような集中の仕方(これも自閉症的なのです)になってしまう。つまり、落ち着いていないと第一感を捉えられないのです。瞬時に判断する第一感といえど、自らが落ちつくための時間が必要であるのでした。あまりに短い時間での判断を強いられても、第一感以前の最低限の直観的反応しかできなくなるそうです。たとえば、とりあえず怪しい人物へと銃を構えるというような。
本書で特におもしろかったのは、表情からピタリとその人の感情や嘘をついているかなどを当ててしまう教授の話です。目は口ほどにモノを言う、といいますが、顔全体は目よりもモノを言っているみたいです。表情筋の動きや、できた皺から、その人が寛容な人物なのか凶暴な人物なのかさえ判断できるとのことです。そんな人の顔から、僕たちは日常的に第一印象で無意識に判断していて、好感をもったり嫌悪感を抱いたりします。まあ、判断する側の価値観も関係するわけですから、そのあたりも鑑みる必要がありそうだと、僕は考えましたが、人の顔にはそれだけありありとその人の人間性が表出されているのだなあと知ると、ちょっと怖さも感じました。
それと、この表情から人となりなどを当ててしまう教授が学生の頃に競馬の予想屋をやってかなり儲けたそうで、その予想の切り口がどうやら競走馬の心理を考えるものなのでした。あるレースである牝馬に負けた牡馬が、別のレースでその牝馬と一緒になり、となりのゲートに入ったならその牡馬は決して勝てない、だとか理論があるそうで。もうちょっと詳しく知りたくなりましたが、数行程度でその記述は終わっていて、惜しかったです……。
というところですが、読み応えのある良書でした。翻訳もよみやすいです。2006年発刊ですが、内容はまだまだ古くなっていません。言語化することで第一感が鈍ってしまう、という章もありそこもなかなか肯けるのですが、言語化でアジャストしていくことが良いのだ、とする現在の認知科学の方法論と照らして読んでみると、自分なりの咀嚼ができるのではないかなと思います。