Fish On The Boat

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『リバーズ・エッジ』

2023-07-07 16:39:17 | 映画
年に数回の、昼間に自由な時間がある日が今日だったので、2018年度の作品『リバーズ・エッジ』を観ていました。監督は行定勲さん、主演は二階堂ふみさん。原作は岡崎京子さんの漫画で、舞台は90年代。

いじめられっ子の山田(吉沢亮)とその山田を助けた若草(二階堂ふみ)の二人が回転軸となっている話です。強いストーリーはないのだけど、事件はいろいろ起こりますし、そんな日常に揺られる群像を描いたような作品と言えそうです。

ふつうに生きていたらどんどん人間喪失していく90年代。若い人たちは、あがいている自覚はないのだけどあがいていたんだと思う。それも、安易な物語に組み込まれないために極端なところまで針を振る行為で。でも、欲していたのは新しい物語だったんだろうと、同じく90年代を10代で過ごしてきた僕には感じられました。僕としてはかなりおもしろかった。

その後00年代以降を考えてみると、新たな物語の誕生や獲得というよりも、同調圧力的な秩序が誕生して、人間喪失へと転げ落ちるベクトルは回避を見たのかもしれない。ただ、その秩序の裏には強い排除の性質がくっついている。

90年代。若者は生と死の境界線上の、ひりひりした生にあったんだ、まあ全員がとは言わないけれども。社会の風潮としてあって欲しかった物語が陳腐になり、崩壊したから、範とするもの、モデルとするものがなく、手探りで生きていて、死みたいな確固とした暴力のようなものに惹かれたのかもしれない。

本作では死や死体がキーポイントになっていますが、変な話、90年代には死や死体が若い人のエネルギーになったわけです。虚無に対抗する手段だったと言えるでしょう。そしてつまりは、ある意味で、社会的な人柱を欲した時期だったのかもしれない。それは理性で欲したというより、根源的な部分で無意識的に渇望していた。これらのことを名付けるとすると「90年代的精神的危機」って言えそう。

というところですが、僕が感じ取ったようなことがよく描かれていると思いました。まあ、他の人が見たら他の感想はあるでしょう。僕と同じように90年代を10代で過ごしてきた人でもそうでしょうし。あるいは、都会でそう過ごしていた人にとっては、本作は僕が言うよりももっとわかりやすいものなのかもしれないし、また、よりクリティカルな視点で見れるのかもしれない。まあ、わかりませんが、僕個人としては、このように感じ、考えましたし、とてもよい作品だったと思えました。
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