結局降られなかった。
降られなかったとなると、今度はそれはそれでもうちょっと走っていたい気もする。いつものことだが我乍ら身勝手だ。
でも、夕暮れも近づいてきたから渋々家に帰る。
家の前に着いた。あとはガレージに入れるだけだ。
道の前方を見ると、先日SRを手に入れた人のベンリイがある。
最近、SRのエンジンを掛ける音を聞かないなと思いながら、クルマをガレージに入れシャッターを下ろそうとしたら持ち主の姿が見えたので会釈をした。
もう一度、改めてシャッターを下ろそうとしたら、こちらに向かって歩いて来る様子。
いつもの通り「最近はSRはどうですか」と声を掛けたら
「この頃エンジンがなかなか掛からなくて。ケッチンも酷いから脚を傷めそうで。右足ばかりだから足が痛くて散歩もしにくくなって」
買った店に持って行って引き取ってもらおうか、と思ったりする、と。
で、「一度見てもらえないか」と言われる。
裏が生ゴムのデザートブーツだったので、ちょっと足元が、とも思ったのだが付いて行った。
相変わらずというか当然のことながら、新車のSRはピカピカだ。
ガレージから出し、いつもの癖でタンク下を探る。ん?チョークノブがない。場所が違うのかと覗き込む。FIはチョークノブがないことに気付く。
キャブレター車じゃないから、チョークは要らないんだった。
始動時の混合気の加減は電子制御で完璧に行われる。コツさえつかめばシリンダーヘッドのインジケーターも見ないデコンプレバーも引かない、で簡単に掛かる。動画を見ると、手で掛けることも可能らしい。
何もしないで、エンジンキーを捻りキックさえすればエンジンは掛かる・・・筈だ。
やってみた。呆気なく掛かった。すぐ切ってまた踏んだけど同じだ。
結局、インジケーターを見るのがクセになるのは善し悪しがあるんだなと思う。足に体重を載せて、圧のかかる処を探し出せばいいだけなんだが。
インジケーターを見ていると、上死点が分かってからデコンプレバーを引くことになる。引いたらすぐ離せばいいのだが、無意識のうちに改めてレバーを踏みつけるまで指を離さないでいるのかもしれない。
一度乗ってみて、と言われたので渡りに船、少し乗らせてもらう。
図々しいけど、一旦家に帰り、靴を履き替え、ライディングジャケットに着換え、でもヘルメットは玄関に置いていたカブ用の、で乗らせてもらった。
クラッチの切れが良すぎて、けど、雑につなぐとエンストを起こしそうで戸惑ったが、走り始めてみるとキャブ車に比べて馬力が低下しているということだが、全く無駄のない出力で、自然にスピードが出る。高速道路で百二十キロ巡行くらいなら余裕で出来そうだ。
あまりに違うので今度は自分のに乗ってみることにした。
スロットルを開ければ排気音は大きくなるけど、FI車ほどスルスルっとスピードが出る感じがない。電車と蒸気機関車くらいスピード感が違う。
「ガソリンスタンドに行って、給油してもエンジンを掛けられなかったら、と思うとなかなか行けない」と言われていたけど、今頃になって気が付いた。
一緒に行って、もしもの場合のエンジン始動係を買って出れば良かったんじゃないか?