「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和2年(2020)8月11日(火曜日)弐 通巻第6614号
からです。
書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW
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ドルペッグ体制にどっぷり浸かったから中国は成長できた
香港の金融機能がなくなれば中国経済は自滅するが、習近平はそれを理解できない
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田村秀男 v 石平『習近平敗北前夜 脱中国で繁栄する世界経済』(ビジネス社)
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じつに面白い。中国経済の先行きに興味の向きは必読である。期待を裏切らない内容で、有益かつ深刻な状況を了解できるのに、結論は朗らかでもある。
二人の取り合わせも妙である。
田村氏は早稲田大学で経済学を講じる学者タイプの経済記者だが、日本経済新聞時代には香港支局長の経験があると同時に米国特派員を閲し、ウォール街に通暁し、FEDウォッチャーとしても知られる。
かたや石平氏は、辛辣な中国批判で有名だが、本来は哲学を講じる学者であり、中国の思想史に明るく、孔子孟子老子を語り出せば一晩中、しかも大声でお喋りしているほど歴史に造詣が深い。
そして元中国人であるがゆえに、中国共産党トップの性格、打ち出す手口の心理、その中国人の特性がわかるから、中国の政治権力闘争の舞台裏の状況説明には迫力があり、説得力がこもる。
たとえば、江沢民は習近平の恩人であるがゆえに、冷遇し、つぶしにかかるのだと石平氏は分析するが、その背景説明は、恩人を大切にする日本人には思いつかない発想だ。
前置きはこのくらいにして本書でふたりは何を言っているのか。
結論を先に書けば「暴走する習近平に諫言できる側近が不在、この独裁者の壮絶な賭けは哀れな失敗しかない」のであり、なぜ愚かかといえば、コロナと香港安全法で、世界中を敵に廻しているのに、その自覚がまるっきりないという錯綜、夢想、だからまだまだ暴走する。
いまや中国のお友達は二階某と、フンセンとテドロスだけ。中国と友好関係だった筈のプーチンもジブチもパキスタンもスリランカも、横を向いてしまった。そろそろメルケルも中国への態度を変えそうだ。
田村「人民元にはドルの裏付けがある」
石 「中国経済はじつはドル本位制だった」
田村 「(リーマンショック以後)中国は100%米ドルの裏付けのある人民元をずっと刷り続けてきたからこそ、胡錦涛から今の習近平に到るまで、国家としてたいへんな膨張が出来た」
その状態がコロナ、米中激突、対米貿易黒字激減で、激変した。
ドルが払底したのだ。
田村氏は、ドルとの比率が100%から60%になっている現実をグラフを駆使して明示する。そして、50%から30%台になると、中国経済がどうなるかを理論的に説明している。
高級幹部の資産逃避、海外への隠匿があり、また海外債権が不良債権となったこともあるが、手元資金不如意となったため、せっかく買った海外不動産、企業、映画スタジオを売却し、さらにファンビンビンを「犠牲の山羊」にして、海外に隠したドル資産を強制的に中国に戻させた。さらに年間五万ドルの個人の海外旅行もパスポートを取り上げて、外貨節約に移行するだろうと、石平氏が大胆な予測をする。
このことは評者(宮崎)も一貫して主張してきた。爆買いが唐突になくなったように、中国人の蝗の大群のごとき日本旅行はいずれ「突然死」する。コロナ災禍が明けても、もう戻ってくることはない。
ドルが、それでも足りないとなると、次に何をするか。
財閥から資産を剥奪し、国内の資金を徹底して集めるだろう、と石平は予測する。
「共産党は本能を剥き出しにして、ありとあらゆる方法で金持ちから富を奪う(中略)。これは中国の歴史と伝統であり、国家財政が苦しくなると、金持ちを冤罪で捕まえて殺して、財産を没収する」。
田村「中国は、自爆装置のスイッチに手を掛けてしまっています。それが暴発しかけたときにアメリカとの全面的な対立に発展して、台湾問題が爆発する。日本はそのときに『当事国』になります」
最悪のシナリオへ、あの愚昧の独裁者は舵を切ったようだ。
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