源氏物語が苦手な人にこそ読んでいただきたい1冊です。
私もこの本を高校生までに読んでいたら、古典の授業での光源氏への印象が大きく違っていただろうと思いますし、これから古典の授業を受ける若い人たちにも知らせたい気持ちでいっぱいです。とりあえず、本好きの中学生の姪っ子には要点だけでも伝えなければと思いました。
まず「英訳された源氏物語を日本語に再翻訳する」という意義が全く理解できていなかった私ですが、この本を読んでいて本当に興奮さえ感じました。
ウェイリーの「翻訳」は、ただ日本語の物語を英語にするというだけではなくて、英語版が作成された当時の文化・宗教だけでなく、彼の持つ膨大な多言語の知識と文学や詩への深い造詣を総動員した結晶といえる「発展的翻訳」であること。
そして、ウェイリーが『源氏物語』込めたものを再発見していく著者姉妹(毬矢・森山姉妹)のやり取りのワクワクとドキドキ。なんて、知的で高尚で……楽しそう!
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千年前の古典語、百年前の英語、現代日本語の三つの世界。加えて、白居易「長恨歌」や『史記』などの中国の古典も現れれば、旧約聖書の世界も、シェイクスピアやイギリスロマン派の詩も、プルーストも現れる。
(『レディ・ムラサキのティーパーティ らせん訳「源氏物語」』p.278から引用)
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病弱ゆえの膨大な読書量と家庭がバックグラウンドにある宗教知識を共有していたとしても、こんな素敵な交換日記をできる姉妹は他にはいないんじゃないかしら。(うらやましい!!)毬矢さんは俳人でもあり、森山さんは詩人でもあるとのこと。ウェイリーの『源氏物語』を日本語に訳し戻す際に、彼女たちの文化・宗教・言語・芸術の知識が総動員されて、新しい「発展的翻訳」が作り出されたことも素晴らしいですが、その経緯をこうやって本にしてくれたことが素晴らしいと思います。
私としては、とくに第3章の光源氏と第6章の末摘花についての考察は、まさに目から鱗でした。
巻末の「主な参考・引用文献」も壮観です。(p.301〜317)
全部を読むのは無理でも、一つ一つの資料を読むごとに、誰でもレディ・ムラサキのティーパーティに近づけるかもしれません。