MOONIE'S TEA ROOM

大好きな読書や言葉、料理のコトなど。

『ワイフ・プロジェクト』 「The Rosie Project」

2014年05月04日 | BOOKS
ワイフ・プロジェクト
著者: グラム・シムシオン
翻訳者: 小川敏子
講談社


 主人公ドン・ティルマンは39歳、いわゆる「三高(高学歴・高収入・高身長)」の大学准教授。社会的地位も高くて、武道で鍛えている体は健康そのもの。料理も掃除も得意。初対面の女性から誘われるほどハンサムだけど……2度目のデートにこぎつけたことはない。
 それでも理想的な結婚相手を見つけるために、「ワイフ・プロジェクト」に取り組むことに!
「お酒を飲まない」「タバコを吸わない」「BMIが計算できる」「ベジタリアンではない」、きっちりと管理されている彼のライフスタイルに合う女性ははたして見つかるのか?

 舞台はオーストラリア・ヴィクトリア州の州都メルボルン。
 南半球ですから、1月が真夏。あちらの8月末が日本の2月末なので、沈丁花(ダフネ)が咲くのですね。

 それにしても、「理系・オタク・空気が読めない・恋愛経験ゼロ」という主人公のキャラクター。
 「私の知り合いにもいるなぁ」と思う方、多いんじゃないでしょうか?
 本の中でもほのめかされているように、主人公は「人の感情(情緒)を読むことが苦手・規則正しい生活を好む・正直すぎる・特定の分野には素晴らしい能力を持っている」というアスペルガー症候群(自閉症スペクトラム)の疑いがあるキャラクターとして描かれています。(本人は全く気が付いていないようですが……)
 アスペルガーの当事者でない人にとっては、ただの「ラブ・コメディ」かもしれないですけれど、関係者にとっては考えさせられることの多い物語だと思います。あちこちに身につまされるような失敗エピソードもありますが、幸せに生きていくためのヒントも散りばめられているように思います。

<主人公ドンの良いところ・恵まれているところ>
(1)親から経済的にも精神的にも自立できている(家事もできるし、稼ぐこともできる!)
(2)親ではない年上の理解者がいる(それも複数で、男女両方!)
(3)結婚へのプラスの意識がある(結婚生活の素晴らしさを伝えてくれた老齢の友人の存在)
(4)他人のアドバイスを聞くことができる
(5)失敗から学ぶことができる
(6)あきらめられない動機がある(「運命の出逢い」であり「恋」ですね

 スリリングで人を驚かせるような活躍のシーンよりも、主人公が自分を改革すべき対象として見つめ直していくシーンが強く印象に残ります。少しずつ人の気持ちを想像できるようになっていく様子には、我が子のことのように嬉しくなります。
 ドンがなんでも他人のせいにしたり、親が過干渉になって子離れ&親離れできていなかったり、周りの人間が結婚生活の愚痴ばっかり言っていたり、大学が「変わっている」と研究者として採用していなかったら、きっとこの物語は成立しなかったでしょうね。
 友人たちも個性的。それぞれ悩みや問題を抱えている彼らの変化も、この物語の大きな魅力です。



 ニュージーランド生まれでオーストラリアに住むコンピューター技術者、グラム・シムシオン氏の作家デビュー作ですが、発想を温め、練りに練ったうえに磨きをかけたストーリーはスリリングな展開はもちろん、主人公の成長物語としても非常に魅力的で、デビュー作だとは思えない出来栄え。最後の結末まで、本当に良い仕事です。
 翻訳は『フォレスト・ガンプ』の翻訳者でもある 小川敏子さん。とてもキャラクターを生かしている翻訳で、読み返してあらためて感動してます。
 もともと脚本のために作られたというこの物語。ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントが映画化権を獲得しているそうです。映画のタイトルは邦題も「The Rosie Project(ロージー・プロジェクト)」になるのかしら?
 「フォレスト・ガンプ」「摩天楼はバラ色に」のような痛快さもありますが、「レインマン」や「アイ・アム・サム」のように大切な人と通じ合えないことのせつなさも描いているこの作品、どんな映画になるか楽しみですね。


 ドイツ語版の「ロージー・プロジェクト」のトレーラー(Trailer・宣伝映像)。
 この、自転車に花束の表紙も好きだなぁ。

<参考サイト>
 アスペルガー症候群については、下記の2つのページが詳しいです。
アスペルガー症候群を知っていますか? - NPO法人 東京都自閉症協会
アスペルガー症候群について - 厚生労働省e-ヘルスネット

<関連記事>
持続可能(サステナブル)なシーフード(sustainable seafood) - MOONIE'S TEA ROOM
 作中に出てくる「持続可能なシーフード」についての記事。
ドンの作る「 ロブスターとマンゴーとアボカドのサラダ」のレシピのサイトについても書いてます。

<関連サイト>
Graeme Simsion
 作者の公式サイト。(英語)
「The Rosie Project」 - Text Publishing
 原書を出版しているオーストラリアの出版社のページ。(英語)
 「Are you compatible with Don? 」
 ドンが作ったアンケートを抜粋した10問。「あなたはドンとうまくやっていける?」(英語)
 Which character are you?
 クイズに答えてどの登場人物に似ているかチェックするクイズ。「あなたはどのキャラクター?」(英語)
Author Interview: Graeme Simsion, The Rosie Project - Cathy Lamb
 著者インタビュー。(英語)
Q&A with Graeme Simsion, Author of The Rosie Project - Penguin Books
 著者インタビュー。(英語)動画もあります。
ケーリー・グラント- Wikipedia
 巻末の「謝辞」で著者は、「ケーリー・グラントはドンの完璧なイメージだ。」と書いてます。
 日本語版の表紙の草食系の優男とは違うタイプのハンサムで、スクリューボール・コメディの名優です。
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