吉増剛三さんの本に、詩人の伊東静雄さんのことが
書いてありました。
伊東静雄さんは詩人でありましたが、ずっと学校の
先生をしていた方です。
庄野潤三さんが伊東先生に教わった時のことが記されて
ありました。
『新しい漢字を生徒に
覚えさせるのに、「書いて覚えようとするな。
ただいつまででも、じーっとその字を見ておれ」と言われた。
どんな字画の多い、難しい字でもそうであった。
「字というものは、そうして居ればひとりでに覚えてしまう
ものだ」というのが伊東先生の持論であった。
いつまでも一つの字を見続けるということは、
愛するということなのだろう。
機械的に反覆して書き写すより、「愛」によって字を
知ることを先生に教えれたのだと思う…』
私は子供に、兎に角漢字は書いて覚えろと言って
来たので、この文章を読んだ時に、ドキッとしました。
そして、自分でもやってみたのです。
すると、一つの漢字から色々な事が想像され
その漢字が愛おしくなって来るのです。
そして、忘れられない字となるのです。
こんなふうに、じーっと字を見て覚えるなんて、
考えたこともありません。
私たちは、じーっと何かをするということが苦手に
なってきているのかもしれません。
佐藤初女さんは、じーっと話しを聴いてくれました。
何も言わず、唯じーっと…
早く早くと言われて生きて来たけれど、じーっと
何かをすることが、深い意味があったのですね。
じーっと…