エルヅのように、村で生きる方法を見つけてやれれば、オラブも何とかなるんだ。そういう思いをアシメックは捨てられなかった。だが、状況は全然別の方向に行っているような気がした。この世には、人間の力ではどうにもならないことがある。神でなければわからないことがある。それは知っていた。だが、かけらでも希望があるのなら、何かをやってやりたい。
だが、オラブは全然違うところに行こうとしている。境界の岩を超えて、神にも祖先にも村のみんなにも背を向けて、長いことひとりで生きている。何が彼を生かしているのだろう。神ではない何かに従っているのだろうか。それが魔というものだろうか。
カシワナ族の神話では、魔というものは、人間を嫌なことにする影のようなものでしかなかった。ネズミはその使いであるという話はあったが、それが確かな形をとって現れる話はなかった。
カシワナ族の人間の心には、いつも太陽のように神カシワナカがいた。正しく、美しく、雄々しい神。鷲の翼をもつ、大きな男の姿をした神。それがアルカラという天国を作り、このカシワナ族の村を作ったのだ。
そのカシワナカの威光を脅かす魔の影は、わずかなものでしかなかった。世界はほとんど光に満ちていたのだ。まじめに働き、よいことをしていけば、どんな苦労があっても、正しいものが最後には勝つのだと、カシワナカは言った。その通りだった。
時にはオラブのようなものが出て、嫌なことをすることがあったが、いつでも最後には正しいものの方が勝った。悪いことをしたものは滅びていった。