アシメックはどんよりと曇った不安を不意にちぎるように、踵を返して、山を下りて行った。そのアシメックがイタカの野を歩いていた時、向こうから誰かが走って来るのが見えた。ダヴィルだった。真っ青な顔をして、アシメックを目指して走って来る。
「アシメック! 大変だ!!」ダヴィルが叫んだ。
「どうした!!」と言いつつアシメックも走った。野の中ほどで二人は出会い、話し合った。
「オラブが出た。なんと、ヤルスベに出た!」ダヴィルは息を切らせながら言った。
「なんだ、それは!」
アシメックは目を丸くした。
「川辺で洗濯をしてたヤルスベの女に、襲い掛かったそうなんだ。ヤルスベの男が、かんかんに怒って言いに来たんだよ。女の話では、刺青をしていなかったからカシワナの男だと。どんな風体かって聞いてみたら、オラブだとしか考えられない」
「ほんとうか、それは!」アシメックは言いながら、足早に村へ向かって歩きだした。歩きながら、ダヴィルと話した。
「相手の女はオラブに追いかけられて大けがをしたらしいんだ。オラブはすぐに逃げたらしい」
「捕まってないのか」
「あいつ、魔にでも取りつかれてるのか! いつでも煙のように消えやがる!!」