「ほう、狩人組を狙ったのか」
報告に来たモカドの話を聞きながら、アシメックは呆れた。
「鹿肉が欲しかったんだろうさ。用心深く隠しておいたのに、どうして見つけられたんだか。簡単にはわからないと思ったのに」
「女たちが言っているよ。オラブは人が用心して隠していると、余計にそこを目ざとく見つけるとね」
「泥棒は泥棒なりに、腕があがるってか」
モカドはため息をついた。盗まれた鹿肉のことはあきらめてもいいが、鹿皮のことは悔しくてならないようだ。自分が初めてしとめた鹿からとったものだからだ。
アシメックは家の裏に回り、宝蔵にモカドを連れていった。そしてエルヅに言って、村の財産の中から鹿皮を一枚出させた。それを渡して、モカドに機嫌を直せと言った。
「とにかく、オラブをなんとかしないといけないな。本当に人を繰り出して山狩りをせねばならない」
「でももうすぐ稲刈りだ。みんなも忙しくなる」
「うむ。時期を選んでなんとかしよう」
新しい鹿皮をもらって幾分表情が明るんだモカドを送り出しながら、アシメックは言った。
後ろでエルヅは、しきりに何かを数えている。エルヅは数えるのが好きなのだ。広場や家の中の大きさを数えることを考え出してから、また新しいことをやり始めているようだ。オラブにも、そういうところを見出してやりたい。なんとかしてやれないものか。
宝蔵を出て、空を見ると、高い空をまた鷲が飛んでいた。それが、今のアシメックの不安を掻き立てるような気がした。
何かが起こるような気がする。この肝に砂をもみこむような苦しさはなんだろう。アシメックは急にミコルに会いたくなった。占いをしてもらおう。