訪ねると、ミコルは家の中で魚骨ビーズの首飾りをいじりながら、しきりに神謡をうなっていた。神謡とはカシワナカの神話を語る歌のことだ。ミコルが時々皆のために歌ってくれる。その様子が少し近寄りがたかったので、アシメックはしばし声をかけることができず、入り口で立ち尽くしていた。そのアシメックに、ミコルのほうが気付いて、声をかけた。
「やあ、アシメック、どうしたんだ」
「いや、ちょっと気になることがあるんで、占いをしてもらおうと思ってきたんだ」
「気になること?」
アシメックはオラブのことに不安を感じるということを話した。何か嫌な予感がしてならないという。
「確かにな。いつまでも放っておくことはできない」
ミコルは言いながら、家の奥から茅布と砂を持って来た。そしてそれを家の前に出し、風紋占いをした。
砂を茅布の上にまき、息を三度吹きかけて、その模様を見る。ミコルにはその意味がわかるのだ。
「どうだ?」アシメックが聞いたが、ミコルはしばし答えなかった。そして難しい顔をしてあごをなでながら、言った。
「神が何も言ってくれない」
「なに?」
「占いをしていると、いつもなにかが聞こえるのさ。心の中にね。それが何もない」
「どういうことだ」
「わからない」
沈黙が流れた。アシメックは自分でも砂の模様を見て、何かを探ろうとした。だが、何もわからない。一体どういうことだろう。
しばらくして、ミコルが言った。
「前の巫医から、教わったことがあるよ。一度神が何も言ってくれなかったことがあると」
「ほう、それはどんなときだ」
「あとで、村で死人が出た。すごくたくさん」
「ああ、それか!」
アシメックもそれは知っていた。一度、村に妙な病気が流行り、死人がたくさん出たことがあったのだ。