世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

偶数の羽④

2018-02-24 04:12:59 | 風紋


楽師の音楽に背中を押されながら、アシメックは船に乗った。ヤルスベ族の村に行くのは久しぶりだ。こんな風に、自分を小さくしていくのは、初めてのことだ。

船がヤルスベ側の岸につくと、そこに集まっていたヤルスベ族の人間たちの、刺すような視線が自分に集中した。アシメックは恐れず、大きな声で、ヤハ、と言った。それがヤルスベの挨拶であることを知っていたからだ。

そうすると、ゴリンゴが村人の中から出て来て、ヤハ、と返した。

アシメックとゴリンゴはそのまましばらく見つめあった。何も言わなかった。アシメックが目を細めると、ゴリンゴもかすかに目を細めた。何を考えているのかわからない。それが不気味だった。

ゴリンゴは、家に案内する、と言って、背を向けて歩き出した。アシメックはそれについていった。

カシワナの村では見ることのない、木に頭上を覆われた小道を歩いてしばらくいくと、ヤルスベの村が見えてきた。ゴリンゴはぼそりと言った。あの女、一生びっこをひくかもしれない。

アシメックは苦いものを噛まされたように、渋い顔をした。

その女は家の中で横になっていた。右足に添え木をあてられ、茅布でぐるぐるにまかれていた。アシメックの顔を見るなり、憎悪のこもった目を見開き、顔をそむけた。

「このたびはとてもすまないことをした。これはお詫びの品だ」
アシメックが言うと、後ろからついてきていたダヴィルが、お詫びの品を出し、女が寝ている床のそばにおいた。女は振り向きもしなかった。代わりに、男が一人出て来て、その品物を吟味した。アシメックは肝に針がささるような思いがした。その男の顔に、明らかに軽蔑の色が見えていたからだ。

オラブめ、とアシメックは思った。これは、痛いことになるかもしれない。ヤルスベの人間が、カシワナを憎み始めている。




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